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片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

トヨタ、快進撃の理由とは? <中>

2013-11-12 21:31:17 | トヨタ

トヨタの快進撃の背景には、原価低減力があります。
より具体的にいえば、〝改善力といっていいでしょう。
そのトヨタが改善の最大の課題として取り組んだのが、
〝トータルリードタイムの短縮です。

リードタイムとは、
「行動を起こしてから成果が出るまでの時間」のことです。
例えば、生産リードタイムといえば、
生産に着手し、生産ラインにのせて
車ができるまでの時間を指します。

では、トヨタが取り組んだ〝トータルリードタイムの短縮とは、何か。
開発、生産にはじまって、部品の調達、そして物流、販売に至るまで、
すなわち、クルマが完成し、販社を通して、完成車がお客さんの手元に届くまでの
トータルの時間を縮めることですね。
その間、在庫の停滞を起こさず、効率的に生産する。

これには、2000年代の急速な海外展開への猛烈な反省があります。
1年間に生産台数が50万台規模で増加するなど拡大路線を突っ走った結果、
かねてから指摘されてきたように、兵站が伸び切ってしまった。
旧日本軍と同じ過ちです。

サプライチェーンの見直しは、その猛省からの取り組みです。
東日本大震災や、タイの大洪水では、サプライチェーンが寸断され、
トヨタをはじめ、世界中の自動車メーカーは、
生産ストップを余儀なくされました。
トヨタは、この教訓を生かし、一次サプライヤーだけでなく、
二次、三次のサプライヤーまで把握して、
モノ自体の値段だけでなく、物流コストや時間まで考えた
サプライチェーンの再構築を図りました。

例えば、部品が、原料の段階から、
どういう経路を通ってトヨタに届くのかなど、サプライチェーンを把握する。
さらに、その経路を地図に重ねてみたとき、物流にムダがないか。
〝ムダどりを徹底的に追求し、シンプル化する。
安いからといって、遠くの国から部品を買っていると、
部品自体のコストは安くても、結果としてリードタイムが伸びてしまう。
さまざまな条件を考慮したうえで、調達先を考え直す。

さらに、モノの流れを徹底的にシンプルにする。
極端な話、一つの部品をつくるにも、熱処理はA社で、研磨はトヨタ内部で、
メッキはB社で……と、出したり入れたりしていると、時間がかかって仕方ない。
1
日でできるものが10日かかったりする。
かりに、安価な設備でもって、内製できる体制を整えれば、
数工程に10日ほどかかっていたものが、1日かからなくなるなど、
大きくリードタイムを短縮することができるわけですね。

シンプルな流れが求められるのは、社内についてもいえる
工程の組み方が悪いと、部品が社内を、
あっちにいったり、こっちにいったりする。
この製品はこの工程、別の製品はあっちの工程と、
分岐合流点が多く、部品の滞留が増えてしまいます。
仕掛けたものが、いつ出てくるかわからない。
したがって、在庫が増える。

そこで、社内の流れも徹底的に見直し、シンプル化する。
流れをシンプルにすれば、現場がよく見えるようになり、
異常やムダを見つけて、改善もしやすくなるという次第です。
つまり、〝3M″すなわちムダ、ムラ、ムリどりですよね。

これらはすべてリーン(筋肉質)なサプライチェーンの
構築といえます。
そして、リーンなサプライチェーンによる
〝トータルリードタイム短縮は、
トヨタの体質をどれだけ強化したかわかりません。
つまり、トヨタがかねてから目指してきた
1ドル=80円以下の円高でも
利益の出せる体質をつくり上げたのです。


トヨタ、快進撃の理由とは? <上>

2013-11-11 17:48:59 | トヨタ

一週間ほどオランダに出張にいっていました。
詳細は、おいおいこのブログでも紹介したいと思っていますが、
オランダのコンサルティング会社が主催するイベントに、
スピーカーとして招かれ、
日本のリーン生産方式について講演をしてきました。

さて、オランダ滞在中だった6日
トヨタの中間決算の発表がありました。
今日は、これについて書いてみたいと思います。

ご存じの通り、トヨタの14年3月期の
前期の決算は、営業利益が1兆2554億円と、
中間決算としては初の1兆円を超えました。
通期の見通しは、売上高が、前回予想を1兆円上回る25兆円、
営業利益は同2600億円上回る2兆2000億円と発表しました。
快進撃ですよね。トヨタは、いまや世界最大の製造業です。

通期の営業利益が2兆円を上回るのは、
リーマン・ショック前の08年3月期以来、じつに6年ぶり。
要因は、指摘されている通り、為替の円安影響に加え、
トヨタお得意の原価低減の努力があげられます。
サプライチェーンの見直しや、部品の共通化、
設計力の強化なども指摘されていますね。

考えてみれば、リーマン・ショック以来、
危機が連続的に日本企業を襲いました。
まず、東日本大震災、タイの大洪水です。加えて、歴史的円高です。
トヨタの場合、前にあげた災害などの外的要因に加え、
大規模リコールにつながった品質問題がありました。

ビジネスは、危機との闘いといいます。
とはいえ、まさしく、この間“常在戦場”でしたよね。
その困難のなかで、構造改革を進め、原価低減の努力を惜しまず、
体質強化に努め、一つひとつ積み上げてきた結果、
今日のトヨタがあるといえるでしょうね。

トヨタは、リーマン・ショックから回復するため、
しなければならないこと、そして、してはならないこと……を、
じつに慎重に見極め、愚直に実行してきた印象があります。

そこで、まず、私は、今回の歴史的回復のポイントとして、
トヨタがこの間、取り組んだ
“トータルリードタイム”をあげたいと思います。
どういうことかといえば、震災およびタイ洪水、
そして、グローバル化のなかで、
サプライチェーンの立て直しが求められました。
そのポイントこそが、“トータルリードタイム”の短縮にありました。
次回、このことについて、書いてみたいと思います。


富士重のHV開発の不思議!?

2013-10-30 17:27:59 | トヨタ

今月はじめ、富士重工業が、トヨタ自動車と
HV(ハイブリッド車)を共同開発すると報道されました。
エッと思いました。

というのは、富士重は、12年度の世界販売台数が72万台です。
売上高は2兆円弱です。規模からいえば、
自動車メーカーとして必ずしも大企業ではありません。

では、なぜ、巨額の費用がかかるHVの共同開発に、
いま、あえて乗り出すのか。
富士重は近年、元気です。
リーマン・ショック後、08年度の約56万台から、
10年度には65万台に販売台数を伸ばしました。
12年度には、70万台の大台に乗せ、72万台です。
じつは、その半分が北米で売れているのです。
ここにポイントがあります。

どういうことか。これには、12年1月に発表された、
「カリフォルニア高度クリーンカー規則」が関係しています。

北米で最大の自動車市場であるカリフォルニア州は、
全米一厳しい排出ガス基準を適用しています。
2025年までに、EV(電気自動車)、
PHV(プラグインハイブリッド車)、燃料電池車などの
排出ガスを出さないZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)を、
全体の15.4%にまで引き上げることを目標とします。
ZEVだけでの対応は難しいため、
HVや天然ガス車などを組み入れることも許容されているといいます。

新規則は2017年から導入される計画で、
詳細なアクションプランも公開されています。
カリフォルニア州で、年間6万台以上
自動車を販売するメーカーが対象です。

現状、富士重は、この規則の対象外です。
しかし、18年以降には、中規模のメーカーも
対象となる見通しといいます。
対応できなければ、カリフォルニア州で
自動車の販売ができなくなってしまうのです。
さらにいえば、北米全体の環境規制も、
今後、厳しくなっていくことが予想されます。

何しろ、前述したように、富士重は販売台数の半分を、
北米市場に依存しています。
自動車市場の成長エンジンといわれている新興国に見向きもせず、
もっぱら北米市場“命”の戦略を突っ走っています。
それはそれで、わが道をいく大変おもしろい会社だと思いますね。

したがって、北米でさらなる販売増をねらう富士重は、
この対策の一環として、まずは、HVを、
トヨタと共同開発するというわけですよ。
そう考えると、この段階で富士重がトヨタと
HVの共同開発に乗り出した理由が解けるのではないでしょうか。


アベノミクスの正念場――問題はトヨタ

2013-10-15 17:05:21 | トヨタ

いよいよアベノミクスは正念場を迎えます。
以下は、私の見立てです。

ご存じのように、アベノミクスの3本の矢は、
「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」
「民間投資を喚起する成長戦略」です。
これらによって、三つの「好循環」を起動させるといいます。
その好循環の一つが、①企業の業績が改善し ②投資が拡大し
③雇用・所得が増加し ④消費が拡大する。
その結果、①企業の業績が改善する、という循環です。
これは、アベノミクスの描く、成功のストーリーといえます。

このストーリーは、口で説明するのは簡単ですが、
問題は、実際のモノゴトが、このストーリーに沿って
きちんと展開していくかということですよね。
正直、そんなにうまくいくのかな、という思いもあります。

いまのところ、アベノミクス効果によって、
円高は是正され、公共投資も順調に行われ、
企業の収益は改善しつつあります。
注目を集めているのは、その企業収益の改善が、投資の拡大、
さらには、賃金アップにつながるかどうか……。

折しも、今月10日に、経済産業相の茂木敏充さんと、
経団連会長の米倉弘昌さんが会談しました。
会談では、茂木さんが、企業収益の改善を「賃上げで還元してほしい」
というと、米倉さんは、「報酬引き上げにつなげたい」と語りました。
さらに、米倉さんは、「経済界としても、タイムリーに積極的に対応したい」
と発言したと、報道されています。

企業の賃上げは、各企業の内部の労使交渉で決まります。
経団連などの意向が、直接的に反映されることは、ありません。
それでも、経団連のトップのこの発言は、大きいと思いますよね。

私は、あえて今後の展開を読むとすれば、
やはり、自動車業界、なかんずくトヨタ次第だと思いますね。
自動車業界は、我が国の基幹産業で、産業全体への影響力が大変強い。
トヨタが賃上げしないのに、ほかの製造業、さらに、
時期が遅れるにしろ、中小企業が賃上げするとは考えられませんよね。
はっきりいって、みんなトヨタの出方を見ていますよ。
まあ、固唾を飲んで見守っているところではないでしょうか。

そのトヨタは、米倉さんの前出の発言を受けて、
賃上げの方向に、動かざるを得なくなりつつあるようにも思われます。
いってみれば、トヨタは追い込まれつつある。
かりに、トヨタが賃上げに踏み切れば、
各企業は、追随せざるを得ないというか、するでしょうな。

アベノミクスは、描いたストーリーを実現できるのか。
企業は、今後、14年度の経営計画を立て、
さらに年明けの労使交渉に向かいます。
アベノミクスの成否は、いまが正念場なのです。


次世代のモビリティを日本から世界へ!

2013-10-09 17:43:11 | トヨタ

アキオトヨダの本音トーク⑧ 最終回

繰り返しになりますが、日本の自動車メーカーのなかで、
アキオさんほど、クルマが好きな社長はいません。
「明大生×アキオトヨダのガチトーク、ゆるトーク」のなかでは、
「いちばん喜びを感じるとき」を尋ねられ、
「運転しているとき」と答える一場面がありました。

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アキオさんは、ドライバーとしてレースにも参加します。
大企業のトップが、危険なレースに参加することに、
社内外から疑問の声があがっているのは、事実です。
それでも、アキオさんがレースをやめないことには、
彼なりの思いや、こだわりがあるのです。

Dsc04175

かつて、アキオさんが上級ドライバーの免許をとったとき、
先生役にあたるマスター・テスト・ドライバーから、
次のようなことをいわれたというんですね。
「あなたみたいな人が、運転の仕方も知らないままで
ああだこうだ、いってもらっちゃ困るんだ。
テストドライバーやメカニックは、現場で命をかけている。
それを知っておいてくれ」
ちなみに、このマスター・テスト・ドライバーは、
ドイツで事故で亡くなりました。

また、アキオさんは、次のような話をしました。
「クルマに乗るのはね、料理と同じなんです。
おいしい料理をつくりたいと思えば、いろんな料理を食べますでしょ。
舌が肥えないとダメですから。
それと同じで、やっぱり、いろんなクルマに乗るんです」

さらに、料理の話は、次のように続きました。
「それから、ブランド名という味があるべきだと思うんです。
トヨタには、トヨタの味。レクサスには、レクサスの味。
その“秘伝のタレ”みたいなものは、
ちょっとこだわりたいなと思っているんですよ」

それにしても、アキオさんがもっとも気になるのは、
「若者のクルマ離れ」です。
「ちょっと前にはカラオケボックスとか、スマートフォンとか、
クルマ以外にお金を使うものが増えたんだと思います」
としたうえで、アキオさんは、次のようにいいました。
「車が楽しくて、いい時代を過ごしてきた人たちがいます。
私もその一人です。その人たちが、正々堂々と、恥ずかしがらずに、
クルマで楽しんでいる姿を示すことだと思うんです。
クルマの必要性を訴えることだと思います」

最後に、若者たちに向けて、クルマと日本の将来を語った
アキオさんの次のような言葉を紹介して、
連載を終わりたいと思います。

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「ピンクの車に興味をもつとか、入口はどこでもいい。
でも、僕は、クルマをコモディティにはしたくない。
クルマは、『愛犬』と同じように、『愛車』といいます。
冷蔵庫は『愛機』とはいわない。
つまり、クルマっていうのは、エモーショナルで、
友達のような存在になり得る力をもっているんだと思うんです。
環境車、電動化、IT化が進んで、どんどん便利にはなっても、
コモディティ化はせず、わくわく、どきどきする楽しい存在でないと、
クルマはダメだと思います」

「2020年には、東京オリンピックが開催されます。
そのときには、『Winglet』(トヨタの立ち乗り用次世代モビリティ)など、
いまでは考えられない、新しい乗り物もたくさん出てくる可能性がある。
7年後のモビリティの社会を、
いまとは、ものすごく変わったものにすることこそが、
いまの日本に求められていることだし、それこそが、
日本が世界に発信すべきことじゃないのかなと思います」