光学時計と相対性理論
C. W. Chou,* D. B. Hume, T. Rosenband, D. J. Wineland
24 SEPTEMBER 2010 VOL 329 SCIENCE (原典は: https://zenodo.org/records/1230910 :からDL可)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは「Al+イオンの単振動による時間遅れ測定の報告」になっています。
『2つのAl+光学時計は別々の研究室に配置され、75 mの位相安定化された光ファイバーを介して安定したクロック信号を送信して比較されました。
運動による時間の遅れを観測するために、Al+イオンをAl-Mgクロックで微小な静電場を適用して動かし、イオンを収束RF場のヌル(ゼロ点)からわずかに離れた位置にシフトさせました(16)。イオンはそれによってfRF = 59MHzのRF電場にさらされ、調和運動を経験します。イオンの速度は、適用される静電場を変化させることで調整されます。双子のパラドックスの言葉で言えば、移動するAl+イオンは旅行する双子であり、その調和運動は多くの往復に相当します。
この動きからの時間の遅れは、動く時計の分数周波数シフトを導きます(17)。
δf/f0=1/⟨γ(1−ν||/c)⟩−1 ・・・式(1)
ここで、ν|| はAl+イオンの速度であり、プローブレーザービームの波ベクトルに沿った方向の速度です。
γ=1/sqrt(1-v^2/c^2)、cは光速、v はイオンの実験室基準フレームに対する速度、f0はイオンの適切な共鳴周波数です。角括弧は時間平均を示します。誘導されたAl+イオンの動きが調和的であるため、その寄与は⟨ν||⟩がゼロになるように平均されます。したがって、イオンの遷移周波数の観測される変化は、γ の変化に起因し、相対論的な時間の遅れに対応しています(18)。
v/c<<1 の場合、式(1)は δf/f0 ≈−⟨ν^2⟩/2c^2と近似できます(17)。我々はイオンの動きの速度を変化させながら、2つの時計の周波数差(δf/f0)を測定しました。式(1)の予測を確認する実験結果は、図2にプロットされています。』
『図2. 馴染みのある速さ(10 m/s = 36 km/h ≈ 22.4 miles/h)における相対論的な時間の遅れ。
(左下の拡大図) 双子の時計の1つの中のAl+イオンが拘束RF四重極電場(白い力線で示されている)のヌル(ゼロ点)から移動すると、調和運動を経験し、相対論的な時間の遅れを経験します。
実験では、動きはプローブレーザービームに対してほぼ垂直です(プローブレーザービームが青いシェーディングで示されています)。
動くAl+イオン時計(の時間)は、静止時よりも遅い速度で進みます。
図では、動く時計と静止時計の間の分数周波数差が速度(Vrms=sqrt⟨V^2⟩) (rms、root mean square)に対してプロットされています。
実線は理論的な予測を表しています。 点線のボックス内(右上の拡大図)の表示はVrms<10m/sの結果のクローズアップを示す。
垂直のエラーバーは統計的な不確実性を示し、水平のものは適用された電場での測定された速度のばらつきをカバーしています。』
翻訳はチャットGPT3.5+修正は当方
図2については原典を参照されたい。
まずはAl+イオンはレーザー冷却されポールトラップで拘束されます。
ポールトラップの現物は
「世界的「光原子時計」の研究者が日本に初集結」: https://archive.md/gz4wU :で
単一イオンを閉じ込めるポールトラップの現物写真が確認できます。
「ポールトラップ」についての説明は: https://www.toray-sf.or.jp/aboutus/pdf/62-h24_2.pdf :の28P、図9にあります。
この「ポールトラップ」には図にある様に交流電源がつながっています。
その周波数は上記より「59MHzのRF電場」=59MHzである事が分かります。
そうして本来は光時計はこの「ポールトラップの真ん中」に安定的にトラップされて静止しているAl+イオンの遷移周波数を測定してそれを時計の基準周波数として使うのでした。
しかしながらここではそうではなくてわざとAl+イオンをトラップできている中心から斜め方向に(=3つある電極の隙間方向に=拘束RF四重極が作る電場によって単振動を始める方向に)ずらすのです。
そうするとAl+イオンは「59MHzのRF電場」に対応してその周波数で単振動を始めます。
ちなみにレポートの図2では「上下方向に単振動している」かの様に描かれていますが、そこに描かれている電場曲線から分かります様に、「電極が実際の設定とちがって45度回転して」描かれています。
そうであれば実際は「Al+イオンは上下に振動している」のではなく「ななめ45度方向に振動している」のです。
そのあたり「単一イオン光学時計」のセッティングの様子は: https://www.jstage.jst.go.jp/article/lsj/38/7/38_517/_pdf :のFig. 2を参照願います。
Fig. 2で示されている実験装置のレイアウトによれば右上の「イオン ポンプ」と書かれた真空槽のなかにポールトラップが縦方向で設置され、その電極の斜め45度方向のある隙間からレーザーがあてられたり、ホトマルで発光が観測されたりする様子が分かります。
さてこうしてAl+イオンは59MHzで単振動しているのですが、「その斜め方向の振動速度の実効値としてroot mean square=(自乗平均のルート)を使う」と上記では言っています。
そうして振動周波数は59MHzで一定ですが振動速度は振動の振幅に応じて高くなります。
それで振幅を上げる為にはAl+イオンを中心の拘束位置からずらす量を増やせばよい=移動させるための静電場の電圧を上げればよいのです。
そのイオンに静電場を与える電極も: https://archive.md/gz4wU :にある単一イオンを閉じ込めるポールトラップの現物写真で確認できます。(ポールトラップの電極のほかにあと2つ電極があるのが分かります。)
ちなみに当然ですがその時にAl+イオンを遷移させるレーザー光は振動とは直交する方向から振動しているAl+イオンに当てられます。(注1)
さてそれで、ここからが少し不明な点になるのですが、前のページの記述を信用するならば「遷移させるプローブレーザーの照射時間は300msだ」と言っています。
それでAl+イオンは59MHzで単振動しているのですから300msの照射時間の中では
59MHz*0.3秒=17.7メガ回、一回のプローブレーザーの照射時間中に振動する事になります。
つまり17700000回、一回のプローブレーザー光が当たっている間に振動を繰り返すのです。
で、Al+イオンがプローブレーザー光が当たって遷移した、そのときのAl+イオンが持っていた振動速度は不明のままです。
なんとなれば「Al+イオンは単振動している」そうであれば「振動速度は振幅が最大の時のゼロから最大値となる振動中心を通りすぎる所」までいろいろな値を取ります。
それで、Al+イオンがプローブレーザー光が当たって遷移した、そのときのAl+イオンが持っていた振動速度はいくつなのですか?
それがこのレポートでは明示されていません。
そのかわりに「振動速度の実効値=root mean squareが分かっている」としています。
さてしかしながら「どうやって振動速度の実効値=root mean squareを測定したのか」が示されてはいない様です。
あるいは「理論計算で振動速度の実効値=root mean squareを出した」というならばそのやり方を示すべきでしょう。
そのあたりが不明な点です。(注2)
さてそのように不明な点があるのですが、まあその事はさておいておいて
δf/f0=1/⟨γ(1−ν||/c)⟩−1 ・・・式(1)
あるいはその近似式
δf/f0 ≈−⟨ν^2⟩/2c^2
の検討に移りましょう。
レポートでは式(1)で「誘導されたAl+イオンの動きが調和的であるため、その寄与は⟨ν||⟩がゼロになるように平均されます。」としています。
それはつまり
δf/f0=1/⟨γ(1−ν||/c)⟩−1 ≈1/γ−1
であると主張している様です。
そうしてv/c<<1 の場合
1/γ=sqrt(1-v^2/c^2)≈1-1/2*(v^2/c^2)
何となればsqrt(1-x^2) の1次近似は 1-1/2*x^2(注3:x=0でのテーラー展開)
従って
δf/f0=1/⟨γ(1−ν||/c)⟩−1 ≈1/γ−1
≈1-1/2*(v^2/c^2)−1
=-1/2*(v^2/c^2)
こうして
δf/f0≈-1/2*(v^2/c^2)
が出てくる訳です。
ちなみに図2において近似式による理論カーブは横軸値37辺りで縦軸値が-7*10^-15を示しています。
さて毎秒37mでの時間遅れ割合は
sqrt(1-(0.037)^2/(300000)^2)=δt
で
δf=f0*δt-f0
=f0*(δt-1)
従って
δf/f0=f0*(δt-1)/f0=(δt-1)
で
sqrt(1-(0.037)^2/(300000)^2)-1=-7.60*10^-15
要するに「図2で示された近似式による理論カーブはおおむね妥当に見える」が結論となります。(注4)
注1:この状況は横ドップラーの測定とみなせます。
但し「光源=レーザー光は止まっていて、観測者=Al+イオンが動いている(=単振動している)」のです。
そうであればこの時にはアインシュタインが宣言したように「動いている観測者は横ドップラーでは青方偏移を観測する」のです。
これはつまり「観測者であるAl+イオンは照射されるレーザー光の周波数が青方偏移している」とみなすのです。
そうしてそれは観測者視点であって、レーザー光視点=実験室系視点では「Al+イオン=観測者の時間が遅れている」となる訳です。
注2:ここの部分がこのレポートで説明が省略されている所です。
そうしてその部分についての補足説明は次ページ以降に譲ります。
それでここでは一応「単振動の振動速度の実効値=root mean squareが測定測定できていた」としておきます。
さてそうしますとこのレポートは「単振動している時計は時間が遅れる」の検証報告になっています。
それはつまり「双子のパラドックスの言葉で言えば、移動するAl+イオンは旅行する双子であり、その調和運動は多くの往復に相当します。」でその結果は「旅行に出た方の歳は地球にいた方の歳よりも若くなる」という「双子のパラドックスの内容は検証できた」と言えそうです。
ま、もっとも「非常に短い距離の宇宙旅行の繰り返し」ではありましたが、、、。
注3: https://ja.wolframalpha.com/input?i=sqrt%281-x%5E2%29%E3%80%80 :の「x=0における級数展開」に答えがあります。
注4:このあたりの近似式についての検証も次ページ以降になります。
追記:「馴染みのある速さ(10 m/s = 36 km/h )における相対論的な時間の遅れの検出」という主張について。
時速36 km/hはアルミニウムイオンの単振動の実効値ですので、ピーク速度は51 km/hぐらいにはなります。
とはいえ「自動車の通常の運行速度で発生している時間の遅れを検出できた」のですから「これはもう『単一原子の光学時計』は大したもの」と言えます。
さてそれはコトバを変えますと「地球のこちら側とあちら側に置かれた光学原子時計の時間の進み方はずれる」という事になります。
何故ならば「地球は基準慣性系=客観的に存在している静止系に対してドリフトしながら自転しているから」です。
そうであれば「赤道上に置かれた時計と地球をはさんでその時計の反対側に置かれた時計のたとえば1時間の経過時間を比較するとずれが生じている」のです。(注4)
はい、その状況はまさに「ドリフトしながら円運動する2つの時計は静止系に対する相対速度が回転による時計の位置によって異なるから」です。
そうしてそれが検出できれば「静止系は客観的な存在である」の直接的な証明になります。(それはまさに「アインシュタインを超えた実験」と言われる事になるでしょう。)
しかしながら「精度のよい時計はつくれた」のですが「その2つの時計を地球をはさんで光ファイバーで接続して時間の経過をリアルタイムで比較する事」は「現状では至難の業」の様に見えますがさて、、、。
注4:今のセシウム標準時計を超える精度の2つの時計のずれの検出に「セシウム時計と電波を使った同時というタイミング設定」は使う事ができません。
そのあたり「ニュートリノは光速を超えた」という判断ミスを犯した「GPS時計を使ったタイミング設定に依存した実験からの教訓」になります。
さてそうであればどうしてもこの実験の様に「2つの時計は光ファイバーでつなぐことが必要」となるのです。
上記に関連した情報: https://archive.md/ghvZd :2011年頃のレポートの様です。
『今回小金井-大手町間のNICTが運用する光ネットワークテストベッドJGN2plus(現JGN-X)を利用したNICT-東大間のファイバ長60kmにおいては約400THzの光周波数を積算時間1秒で標準偏差1Hz以下の伝送精度で伝送する能力があることをまず確認しました。 ただし日本ではファイバ線が空中に宙づりされたり鉄道の近傍に敷設される等雑音環境が劣悪な場合が多く、今回この精度は天候が穏やかな真夜中という好条件においてのみ得られたものです。欧州では静かな地中に敷設されたファイバによって伝送距離1,000㎞のリンクも実証されており、今後世界一の伝送能力を実証するにはファイバの敷設環境を改善することが必要不可欠になります。』
『・・・NICTの時計の周波数が3~4Hz東大側より高いことが明瞭に観測され、両地点の光格子時計が同じ周波数を生成していないことが分かります。しかし、この周波数差は主にNICT、東大の56mの標高差に起因しており較正することが可能です。NICTに比べて標高が低く重力が大きい東大では一般相対性理論が示唆するように時の流れが遅くなっていますので同一時間で比較すると周波数が小さくなります。従って2地点の標高差からこのシフト量は不確かさ0.1Hz以下で計算できます。
そして最終的にNICTと東大の時計の較正不可能な原因不明の周波数差は430THzのうちわずか0.04±0.31Hz(6,500万年に1秒)となりました。』
さてこの「原因不明の周波数差」のうち、どれくらいが「緯度経度の違いによる時間のずれに起因している」のでしょうか?
興味はありますが、「緯度経度情報が不明」ですので計算できませんね。