特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

2-28・時間遅れの測定:光学原子時計を使った実験の5

2023-12-11 02:00:41 | 日記

光学時計と相対性理論
C. W. Chou,* D. B. Hume, T. Rosenband, D. J. Wineland

24 SEPTEMBER 2010 VOL 329 SCIENCE (原典は: https://zenodo.org/records/1230910 :からDL可)

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1、Al+イオンの振動速度の測定方法

さて前のページでは

『Al+イオンがプローブレーザー光が当たって遷移した、そのときのAl+イオンが持っていた振動速度はいくつなのですか?

それがこのレポートでは明示されていません。』

あるいは

『そのかわりに「振動速度の実効値=root mean squareが分かっている」としています。

さてしかしながら「どうやって振動速度の実効値=root mean squareを測定したのか」が示されてはいない様です。』

と指摘しました。

しかしながら

『・・・『Science』誌の2010年9月24日号に発表された今回の研究は、コロラド州ボールダーにある米国立標準技術研究所(NIST)で行なわれたものだ。

NISTの物理学者James Chin-wen Chou氏ら研究チームは、2つの光学原子時計を、それぞれ近接した研究室の鋼鉄製の台の上に設置した。』

と紹介されている様に「それなりの研究所のチームの報告」であれば、「Al+イオンの振動速度を計っていない」と考える方が無理があります。

そうであれば「実は研究チームは振動速度を測定していた」と考える方が自然でしょう。

ただしその方法の説明が複雑であり、『Science』誌の記事としては不適切であると判断されて省略されたものと推測いたします。

 

というのもポールトラップの現物は: https://archive.md/gz4wU :で現物写真が確認できますが、それをみますと4重極を構成する電極のほかにあと2つ、4重極の隙間を45度方向から狙う事ができる電極が確認できます。

つまりはこの電極のうちの一つに電圧をかける事でポールトラップ中心にあったAl+イオンを動かしたのだなと分かります。

そうしてその様にして振動し始めたAl+イオンに時間遅れを測定する為のレーザー光は振動方向とは直交する方向からあてた、ただしもう一つのレーザー光を振動する方向にそってあてたのです。

 

その様にできる装置のセッティング状況は

: https://www.jstage.jst.go.jp/article/lsj/38/7/38_517/_pdf :のFig. 2を参照願います。

図で右上の「イオン ポンプ」と書かれた真空槽のなかにポールトラップが縦方向で設置され、そのポールトラップの斜め45度方向のある隙間からレーザーがあてたり、ホトマルで発光を観測したりする事が可能である様子が分かります。

そうしてホトマルで発光を観測する位置にもう一つレーザーを配置すればそれで直交する2本のレーザービームをAl+イオンに当てる事が可能となります。

 

さて振動方向に沿って当てられたレーザーも周波数が可変であってそのレーザーで振動速度のピーク値を読み取ったものと思われます。

「その方法は」といいますと「縦ドップラーシフトを使った」と考えられます。

Al+イオンの共鳴周波数f0は約1.121 PHzでした。

この周波数を7Hzはずれるとほぼ共鳴しなくなる、と言うのが図1に示されています。

さてそうであれば振動方向に沿ってあてるレーザー光の周波数を共鳴周波数 f0-7Hz にした時に何が起きるのでしょうか?

Al+イオンの振動速度がゼロの時にはこの f0-7Hz のレーザー光にAl+イオンは共鳴しません。

しかしながらレーザー光の照射される方向(=レーザー光源方向)にAl+イオンが動きますと縦ドップラー効果によってAl+イオンは照射されるレーザー光の周波数が高くなるのを観測します。

つまりは -7Hz、周波数が低かったのでAl+イオンは光に共鳴できなかったのですが、イオンが光の方に動く事で今度は共鳴できるようになるのです。(注1)

 

さてこの方法を使いますとAl+イオンの振動の最高速度が決定できます。

照射するレーザー光の周波数をどんどん下げていった時にそれでも共鳴が起こる最低周波数を確認すれば良いのです。

その最低周波数でもAl+イオンが共鳴できるのはそこが光に対するAl+イオンの相対速度が最大であるからです。(注2)

さてそうやって振動の最大速度が求まりますと、これを基に単振動の速度の実効値=root mean squareは計算で出せます。

「第2回 振動の基礎:振動の発生と伝搬」: https://www.soumu.go.jp/main_content/000674406.pdf :の13Pに

「・実効値(root mean square, rms, RMS):瞬時値の2乗したものを時間平均し、その平方根で表される値です。式で表現すれば以下のようになります。 」

に続いて少々説明があり

「正弦振動では、実効値は最大値の1/√2 (約 0.71)倍となります。」

と求める回答がそこに示されています。

つまりは

振動速度の実効値=V(root mean square)

=V(max)/√2

となります。

 

2、「Al+イオンの振動による時間遅れに起因する周波数シフトの測定」について

「2-25・時間遅れの測定:光学原子時計を使った実験の2」で説明したようにプローブレーザーをAl+イオンにあてて周波数シフトを読み取ります。

但しこの場合は振動する方向と直交する方向からプローブレーザーを当てます。

これを決められた周波数間隔で周波数が高い方から順に低い方に向かって図1で示された手順に従って行っていきます。

そうやって得られる遷移確率の分布曲線は図1で示されたものとは随分と違って横に広がったものになるのです。

というのも振動速度がゼロの時にはAl+イオンは共鳴周波数f0=1.121 PHzで共鳴しますが振動速度がゼロ以外ではAl+イオンに時間遅れが発生している為、その周波数よりも低い周波数でないと共鳴しません。

その為に図1で示された分布曲線は横方向に広がる事になります。

しかしながらその広がった分布曲線でも左右対称である為に中心線が求まります。(注3)

つまり「時間平均した場合に共鳴周波数f0=1.121 PHzからのシフト量が分かる」のです。

そうしてそのシフト量δfからδf/f0が計算できます。

そうしてまた1、で求めた振動速度の実効値=V(root mean square)がありますので、こうしてめでたく図2を作図する事ができた、という次第です。

 

さてそうであればこの長い説明を「論文ではないサイエンスの記事に書き込むのは妥当では無い」と誰が判断したのかは分かりませんが、その判断はおおむね妥当なものであったと思われます。

ちなみに以上の様にしてまじめに周波数シフト量と振動速度を測定したと思われますので、「その結果が特殊相対論の予測と一致した」という事実はこの測定が「縦Gが作用しても時間の遅れには影響しない」という検証実験になっている事にも注意が必要です。

 

注1:この現象はレーザーを使う原子の冷却方法の原理にもなっています。

注2:周波数シフト量からAl+イオンの速度を出すのは「縦ドップラーの式」から出せます。

注3:左右が対称でないカーブが得られても時間平均した時に真ん中にくる周波数は特定できます。

それはカーブの右側と左側の面積が同じになる位置に「分割線=2分する線」を持って来れば良いのです。

 

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/yXAkY