1、さてそれで、前のページではドップラー効果を表す一般式を示しました。
それでここではこの一般式の示す挙動を調べてみます。
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) ・・・(1)式
ここでVrは静止系に対する観測者の相対速度(=固有速度)、Vsは静止系に対する光源の相対速度(=固有速度)を示します。
但しVr、Vsの方向はお互いが近づく方向をプラスに取ります。
f1は観測される周波数、f0は光源の周波数です。
角度についてはこれまでと同様の取り方になります。
Θ1=π、Θ2=0がお互いが近づく方向、Θ1=0、Θ2=πがお互いが離れる方向です。
但しこの時 Θ2=abs(Θ1-π) の関係が成立しています。それで
(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2)) の項が古典的なドップラー効果を表す部分で
sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) の項が相対論的な効果(=時間遅れの効果)を表します。
さてこの式をみますれば
Vr=0、Vs≠0で通説の式(=光源が相対速度Vsで動く場合の式)
ν’=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V*Cos(Θ1)) ・・・(2)式に
そうしてまた
Vr≠0、Vs=0でアインシュタインの式(=観測者が相対速度Vrで動く場合の式)
ν’=ν*(1-V*Cos(Θ2))/sqrt(1-V^2) ・・・(3)式になる
・・・という事までは確認しました。
そうしてこの2つの式((2)式と(3)式)はΘ1=π、Θ2=0では光源と観測者が近づく方向に動く場合であって、その場合はこの2つの式は縦ドップラーを表すのでした。
くわえてその時にはこの2つの式は最終的には
ν’=ν*sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
となる事は「その2-5」で確認した事でもあります。
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さてそれで今度はVr≠0、Vs≠0の場合、つまりは「光源と観測者の両方が動く場合」を確認して見ます。
ただしここで相対速度Vについては
V=(b+a)/(1+b*a)
が成立しているものとします。
くわえてここではVr=a、Vs=bと置き換えています。
さらにΘ1=π、Θ2=0の場合を考えます。
つまり「光源と観測者がお互いに近づく方向」です。
そうすると(1)式は
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2)
=f0*(1+a)/(1-b)*sqrt(1-b^2)/sqrt(1-a^2)
=f0*sqrt(1+a)/sqrt(1-b)*sqrt(1+b)/sqrt(1-a)
となります。
さてそれで
sqrt(1+a)/sqrt(1-b)*sqrt(1+b)/sqrt(1-a)
の部分に注目します。
そうしてまた相対速度Vを
V=(b+a)/(1+b*a)
としました。
従って
b=(V-a)/(1-V*a)
となっています。
それを注目している部分式のbに代入しますと
sqrt(1+a)/sqrt(1-b)*sqrt(1+b)/sqrt(1-a)
=sqrt(1+a)/sqrt(1-(V-a)/(1-V*a))*sqrt(1+(V-a)/(1-V*a))/sqrt(1-a)
ウルフラムを呼んで
答えは「別の形」になります。
2番目の形が整理しやすいでしょう。
分子のルートの中の(a-1)の符号をかえて(1-a)にします。
同時に分母のルートの中の(V-1)の符号をかえて(1-V)にします。
この変更で式そのものの値は変わりません。
それでこの操作のあとで式の分子、分母をにらんで同じ項を消しますと残るのは
sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
となります。
さてこれは光源と観測者がお互いに近づく場合の縦ドップラーの式になっています。
そうしてまたこれはVr≠0、Vs≠0の場合、つまりは「光源と観測者の両方が動く場合」ですので静止系に対する光源と観測者のそれぞれの固有速度がゼロではない値を持っている場合です。
それで通常はそのような場合は固有速度VrとVsの値は不明、つまり「静止系がどこにあるのかは不明」なのです。
しかしながらその2つの固有速度から計算される相対速度Vの値は観測可能です。
そうして驚くべき事に「固有速度を使って表された(1)式を縦ドップラーの条件で解きますと固有速度が消えて相対速度Vだけの式になる」のです。
しかもその「相対速度Vだけの式」は前もって確認されていた縦ドップラーを表す式、そのものになっています。
さてこれはつまり「固有速度を使って表された(1)式」というのは「確かに縦ドップラーを表す式になっている」という事を示しています。
しかもその「相対速度Vで表された縦ドップラーを表す式」は「客観的な静止系が存在し、それに対して光源と受信側が任意の固有速度をもって動いていても、光源と受信側の間の相対速度Vが同じであれば常に同じ縦ドップラーの値が観測される」という事を表しています。(注1)
さてそうであれば「(1)式こそがドップラー効果を表す一般式である」という事になるのです。(Q.E.D)
注1:これが「Ives と Stilwellの実験」がとてもうまくいった理由です。
加えて「静止系はどこにあっても構わないが、どこかに一つ『客観的に存在する静止系がある』」という事を「Ives と Stilwellの実験」と上記解析結果が示しています。
そうしてそれは又「確かに時間の遅れは実在している」という事も示しています。