金沢大学がんセンターブログ

金沢大学がん高度先進治療センター医局における
日々の出来事を適宜更新していきます。

「夏休みの宿題した?」その1

2010-08-25 20:43:19 | 日記
 今日は8月25日。もう夏休みも終わろうとしているのに、いつまでこの暑さが続くのでしょうか。こんにちは。Tシャツ半ズボン姿で医局をウロウロしては、お姉さん方に「今日は虫捕まえに行くの?」と笑われるオヤジのハウルです。さて今回は私が小学生の頃、つまりハウル少年の夏休みの宿題話です。

 夏休みの宿題と言えば自由研究。不思議に思うことを調べれば良いと先生は言うけれども、小学生が疑問に思うことというのは本質的な問題が多く、簡単には答えられません。亡き父によるとハウル少年は子供の頃尋ねたそうです。「川から海に水がいっぱい流れてくるがにい、どうして海は溢れんが?」もちろん今の私なら彼に答えを教えてあげられますが、夏休みの自由研究のテーマとしては問題が大きすぎます。かといって小さな問題はちょっと調べれば本に書いてあります。夏休みの自由研究のテーマの要件としては、小学生が不思議に思うこと、小学生が使える技術で実験や観察ができること、その結果が小学生の読む本には書いてないこと、の3つを考えます。しかしこの条件を満たすのは普通の小学生には不可能です。学校の先生に訊いた訳ではないので推測ですが、今も昔もおそらく3つ目の条件は重要視していないのでしょう。でも本に書いてあることをしても面白くないと感じていた、こわくな(生意気な)彼は悩んでしまい、自由研究にいつまでたってもとりかかれませんでした。そんな夏のある日の夕方。家の裏山の沼で石を投げてハウル少年は遊んでいました。夏休みの宿題は気にはなるけど、良い考えも浮かばずただ石を投げ込んでいました。その石が作る水面の波紋を眺めているうちに思いつきます。「そうだ、波や。」無謀にも彼は自由研究のテーマに「波」を選んでしまいました。
 ハウル少年の疑問は単純でした。軽いものと重いもの、どちらの作る波が速いのか?早速家に帰って実験してみました。彼の父が大工だったので木の切れ端は文字通り捨てるほどありました。家の風呂に水を10cmぐらい張って、小さな木片と大きな木片を浴槽の端で落とします。すると波が起きるので、対側の端に到達するまでの時間を時計で計ります。2,3回実験して藁半紙かなにかに結果を書きなぐって提出しました。
 夏休みが終わり、しばらくして。なんとなんと彼の「波の研究」は県の科学展に出品されることになりました。藁半紙は大きなガンピ(模造紙)に昇格し、学校の先生があれやこれやとたくさん、たくさん手直ししてくれました。元々は実験もレイアウトも問題だらけだったことは想像に難くありません。今ちょっと考えただけでも、木片が大きくなれば重くはなるけれども、形も大きくなっているので境界条件の設定からして既に問題があります。重さよりも大きさに関係がある可能性もこの実験系では排除できません。また当時の家にあったアナログの時計で、狭い浴槽で波の到着を目視で計時していたのでは誤差が大きすぎです。ハウル少年浅はかでした。そして手直しのうちに、あまりに手が入るので「なんかそれ違わんけ?」といった感じで、だんだんと片付かない気持ちで一杯になりました。おそらくはその過程でおきたのでしょう、残念ながらハウル少年は実験結果を忘れてしまいました。「波の研究」はもう彼のものではありませんでした。 

 医局の学会予行(学会発表の予行練習)の際に、「そうしろというわけではないけれども、そこの○○は××にした方がいいと思うけど。」と回りくどく私が改善点を述べるのは、このことと関係があるのかも知れません。 

 ところで、ハウル少年の実験結果を忘れてしまった以上、私の夏休みの宿題はある意味終わっていません。どなたか答えを教えて下さい。オヤジハウルは次のように予想します。「木片の大きさ重さに関わらず、波の伝播速度は不変。」   

                                がんセンターのハウル

思いがけない知らせ

2010-08-19 11:33:29 | 日記
 今日も外来、検査、病棟業務と、いつもと変らず淡々とがんセンターは動いています。でも一つ違うことがあります。昨日、全く予想していなかった知らせが届いたからです。旧金沢大学がん研究所附属病院で同僚だった先生が、急逝されたとの訃報でした。私よりもまだ若く、ただただ驚くばかりです。
 今日のがんセンター、テンション低いです。

 故人の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

                      がんセンターのハウル    


タコはワールドカップの夢を見るか?

2010-08-12 22:07:47 | 日記
 タコ話で思い出しました。2010年南アフリカワールドカップで話題になったパウル君のことです。Wikipediaによるとドイツの水族館で飼育されていて、2008年のサッカー欧州選手権で、ドイツの試合6試合中4試合の結果を的中させたそうです。以下、私の空想です。

 パウル君の飼育員は思った。「もしかするとパウルには予知能力があるかもしれない。よし、ワールドカップでのドイツの勝敗も予想させよう。」果たしてパウル君はドイツ予選リーグの3試合と決勝トーナメント1回戦の勝敗を当ててしまう。この頃にはパウル君の話は全世界に広がり、人々はパウル君の予知能力に期待し始める。その後パウル君はドイツの準々決勝、準決勝、3位決定戦、オランダ対スペインの決勝戦の勝敗も全て的中。予言ダコとして名を馳せる。そこでパウル君の飼育員は考えた。「もしもパウルに予知能力がないとすると、勝敗を当てる確率は1/2。8試合全て当てる確率は1/256。こんな稀なことが偶然起こったとは考えにくい。パウルにはサッカーの予知能力があるに違いない。」

 本当に飼育員がこんな風に考えたかどうかはもちろんわかりません。統計学用語で言うと、1/256はP値に相当し、おおよそ0.004で0.05より小さく有意水準0.05以下で有意差ありです。ちなみに報道でパウル君のことを知った世界の人々は、後半4試合の勝敗を当てたと認識するので、その確率(P値)は1/16=0.0625で0.05より大きく有意差はありません。この程度のことは偶然に起こりうると考えて妥当と統計学では教えます。臨床腫瘍学も含め今の医療はEBM時代です。とりわけ臨床試験のP値が有意水準0.05より小さいかどうかは決定的な問題です。小さければ臨床試験は成功、小さくなければ失敗です。パウル君の話はこの点でとても示唆的だと感じます。
 さて、パウル君に予知能力はあるのでしょうか?それとも(空想上の)飼育員がおかしいのでしょうか?

                                   がんセンターのハウル

クリニカルクラークシップ打ち上げとJo-house

2010-08-10 13:52:20 | 日記

 酷暑が始まった7月末、医学部6年生、クリニカルクラークシップ終了の打ち上げとして、ビールパーティーを開きました。

会場は金沢大学附属病院前、石引通りに面したJo-house。矢野教授のねぎらいの言葉のあと、安本病棟医長の乾杯で宴会は開始。実習の話からワールドカップのタコ話まで話題は飛びに飛び、楽しいひと時でした。 

さて、このJo-house、カレーがおいしいのでカレー屋さんと思われているようですが、私が学生の頃は、もっと医学部に近い別の場所でジャズ喫茶、ジャズバーとして営業していました。オーナーはアルトサックスを吹く人です。私がジャズ研に入って最初に飲みに連れて行かれたのが当時のJo-houseでした。以後足繁く通うことになります。今はそのJo-houseの入っていたビルも取り壊しになり違う建物になっていますが、当時はそのビル1階に飲み屋が5軒もあり、夜な夜な、医学生、医師、金沢美大生、金大工学部生が出没していました。計算してみると、現学生さんたちは私が学生でJo-houseに入り浸っていた頃に生まれています。宴会の最中に気付き、当然のことなのに何故か驚いてしまいました。医学部に私が入学して、もう四半世紀経過しているのですね。その頃とは医学界も世間も大きく変ってしまいました。特にここ数年、変化は速くなる一方です。変らないのはJo-houseのカレーだけのような気がしてきます。 

クリニカルクラークシップに参加してくれた彼、彼女たちが来年の今頃、どこでそのキャリアをスタートしているのかは予想できません。でも実習中の様子を見る限り大丈夫でしょう。私は決して良い医学生ではなかったけれど、彼らには良い医者になれる資質がある。ビールパーティの時、言い落とした気がするのでここに記しておきます。今後の健闘に期待しています。


がん研究所腫瘍内科セミナー

2010-08-05 16:25:25 | 日記

8月3日にがん研究所腫瘍内科セミナーが開催されました。

最初に、北海道大学大学院医学研究科の西原広史先生が、「脳腫瘍の臨床病理学的解析と新規治療戦略の提起」のテーマで講演いただきました。
脳腫瘍に関する最新の知見をご説明いただいた後、先生の研究成果を含めた病理学的側面からの治療戦略に関するご講演をいただきました。

続いて、東京大学大学院医学系研究科の狩野光伸先生が、「難治腫瘍治療へのアプローチ:ナノ薬物送達システムと血管構築」のテーマで講演いただきました。
腫瘍血管の増生において重要な新たな標的分子についてのこれまでの先生の研究成果をご説明いただき、さらに最近の注目されているナノDDSについてもご講演いただきました。
Discussionでは予定時間を超えるまで白熱し、大いに盛り上がりました。

その後の会食は、場所を「割烹いしや」に移して、北海道大学大学院医学研究科の谷野美智枝先生にもご参加いただき、加賀の郷土料理と北陸の地酒を堪能し、セミナー同様、大いに盛り上がりました。


第1回石川県がん診療連携拠点病院研修会

2010-08-04 17:48:08 | 日記

 731 () に当院宝ホールにて1回石川県がん診療連携拠点病院研修会があり、小生は「膵癌の診断と内科的治療の現状」とのタイトルで膵癌についての講演を行いました。

 土曜日の午後ということもあり、事前参加申込者が5人前後と少なく、参加者があまり集まらないと思っていましたが、予想よりも多く集まっていただき、自分としてはうれしい限りでした。当日は膵癌に対する診断法として、当科が以前より力を入れているERCPEUSEUS-FNA、治療法として、標準療法であるゲムシタビン、S-1に加えて今年のASCOで発表されたFOLFIRINOX療法や放射線化学療法、そして最後に胆管ステント、消化管ステントについての話をさせてもらいましたが、皆さん大変熱心に聞いてくださいました。この場をお借りして感謝申し上げます。

 膵癌の治療は2001年にゲムシタビン、2005年にS-1の保険適応が通り、予後は幾分改善されましたが、いまだに最も難治性の癌腫の1つであることには変わりはありません。講演中にもお話ししましたが、膵癌と診断された8割の人が手術不能であり、手術をした人でも8割は再発してしまい、実際膵癌と診断された方のうち45%の方しか助かりません。講演の最後には、膵癌診療はロッククライミングのようなもので、まだまだ行き先は厳しいのが現状であることをお話ししましたが、これからもこの難敵に対峙し、1人でも多くの患者さんを救えるように頑張っていきたいと思っています。

 膵癌に関することで不明な点がある方、あるいは膵癌に興味を持たれた方がいらっしゃれば、遠慮なく連絡して下さい (メールアドレス:ohtsubo@kenroku.kanazawa-u.ac.jp)
特に学生さん、研修医の皆さんは大歓迎です。

 

文責 大坪公士郎