はやしんばんぱくの、めげてめけめけ、言論の不自由ブログ

全国各地へ飛び回り、めげてめけめけめげまくり、色々書いていましたが、ブログ終わりました。過去を読めばいい!サラバじゃ~!

『らーめん放浪記』麺27 本目。

2009年05月23日 12時25分55秒 | 連載書き物シリーズ
『らーめん放浪記』

〈2-(5)・大分&佐賀&熊本&長崎〉


「母さん!早よ!」
「はいはい」
「バアバ」
「はいよ~、今行きよるよ~」

喪服の着替えは済んだのだが立ち上がるのが億劫で
ついついずるずると煎餅なんかをカジリ
ワイドショーなんかをチラリ。
最近は特に体が重くてなかなかすぐ行動に移れず
ボーっとする事もしばしば。
今日なんかも“実の姉の御通夜”へ向かわねばならないというのに
全く体が言う事をきいてくれない。
悲しみで立ち上がれない訳ではなく気分の重みで動けないのだ。
いや勿論、突然姉を亡くしてショックはショックだ。
知らせを聞かされた時は受話器をもったまま
その場から動けなかったくらい。
しかし“死”ばかりは“絶対”だもの仕方の無い事。
幸運と不運は背中合わせ。
過去は取り戻せない。

姉が亡くなる前日ニュースワイドショーを眺めていて
『佐賀唐人町商店街連続放火骨無し事件』の報道を目にし
なんだか急にモヤモヤと胸騒ぎに急かされ
「しばらく店休んだら」
と電話で仕事を引き止めてはみたものの
予想通り気の強い姉は私の言う事など聞く訳もなくその日も仕込みに出勤。
案の定…
“亡くなり”そして“無くなった”。
もっと強く引きとめていればと後悔している。
しかし後で悔やんでもしかたのない事。
全ては今の今までにおける日々の細かな流れから来るもの。
流れは一方通行で逆流は出来ない。
日々『事』の積み重ねが今回の“不運”への“貯蓄”だった訳だ。

姉が佐賀に『ロバさんベーカリー』の支店を出したいと言った時
あの時から既に姉は“死”への階段を上り始めていたのかもしれない。

私達双子姉妹はここ大分県は湯布院にてパン屋を営む両親の元に生まれた。
『老婆(ろば)』家のパンは大分湯布院の素材にこだわってつくられ
その味は絶品と地元はもちろん観光で訪れた方々にも愛され続けてきた。
両親が他界した後も私達姉妹はその味を大切に受け継ぎ
こだわりを守り『ロバさんベーカリー』を育て続けてきた。
そのうち姉も私も結婚し子供にも恵まれ2つの大家族でパン焼きつづけ
双子姉妹のパン屋さんは口コミ&ネット等で話題となり
店は大大大大大繁盛!
そりゃー人生色々あったけど順風満帆にはいかない事もあったけど
私はとても幸せだったし、きっと姉もそうであったに違いない。

早くに孫が出来、「バアバ」と呼ばれるようになった頃
義理の兄つまりは姉の夫の都合上
姉は旦那の故郷である佐賀県に行かねばならなくなった。
『ロバさんベーカリー』から姉夫婦がいなくなる。
大きな不安はあれど仕方の無い事。
暫くは今までの規模の半分くらいになっちゃうかもしれないが
ますます頑張ってゆかねばなるまいと自分で自分に気合を入れて
笑顔で姉夫婦を送り出す事にした。
そんな矢先の支店話。

佐賀の唐人町商店街に空き店舗物件が出たんだって。
この間その物件見て来たんだけど
何だか昔を思い出しちゃってね。
あたし達が子供の頃の『ロバさんベーカリ』と同じくらいの坪数だったのよ。
懐かしくって涙があふれちゃって
その時あたしひらめいちゃったの。
よし!ここで『ロバさんベーカリー』やろう!って。
始めから湯布院と同じ規模でなんて出来ないけれど
昔のようにこじんまりとね。
その時はイーストやバターなど湯布院のこの店から
分けて送ってもらいたいのね。
迷惑かけちゃうかもしれないけれど
材料はやっぱりこだわりたいからさ。
“のれん分け”って感じで。
ね!お願い!
今までもたくさんお願いして来たけどこれが“最後のお願い”!
佐賀県唐人町商店街に『ロバさんベーカリー』の支店出させて!

モヤモヤっとした何かが心につっかえてはいたものの
姉のキラキラした瞳を汚す事も出来ず
又そんな権利など私には無く
姉のお願いを聞き入れる事にした訳だが
それが本当に“最後のお願い”になってしまうなんて。
双子の勘というものは恐ろしいもので
あのモヤモヤ感はそれからずっと後の“死”の知らせだったのだ。

姉が亡くなったであろう一昨日の晩私は奇妙な夢を見た。
夢の中で姉がパンを焼く。
新商品だと姉は言う。
“タコパン”。
タコの形をした小さくコロコロしたパンが6つ
四角い紙皿に仰々しく並んでいる。
様子はたこ焼きそのものだ。
「チューチュー」
タコの様に唇を尖らせそれを私にすすめる姉。
ひとつ食べてみる。
美味しい。
姉は言う。
「あたし死んじゃうみたいだけど死んでないから」

“プルルルル…”

電話の音で目が覚めて
その直後に姉の死を知った。

“あたし死んじゃうみたいだけど死んでないから”

ふふふ。
姉らしいわ。

「何ニヤニヤしちょるん!?」
「あら」
「もう!早よ!母さん!」
「バアバ」
「はいはい」
グズグズの私に対しプンプンと怒る娘の尖った唇が
姉のそれにそっくりだった。


娘の運転で山越え谷越え長い道のりを車はひた走り
ようやく佐賀の斎場へ到着。
『佐賀唐人町商店街連続放火骨無し事件』
事が事だけにマスコミやら警察やら県や市の役員やらで凄い人だ。
挨拶を済ませ姉の棺へ。
空っぽの棺。
遺体や骨が発見されてないのだものね。
思わず笑っちゃいそうになる。
「ふふふ…ぷぷっ」
なんとか堪えて線香をあげひと拝み。

「この度は…」

そんな声を背に受け振り返ると神妙な面持ちの女性が焼香待ちで立っていた。
「!?」
何故かギョッとする女性。
ああ、成る程。
「妹です。
ビックリなさいましたでしょう。
双子なんです」
「あ、ああ…成る程
いやすみません。
あ、私『ロバさんベーカリー』の隣で
『春夏冬』という小料理屋をさせて頂いております『猪股シシ代』と申します」
「『老婆 味美(ろば みみ)』です。
今日はお忙しい所姉『花(はな)』のためにありがとうございます」
「この度は…何と言ってよいものやら…残念です。
私『ロバさん~』のパンも人柄も大好きだったもので」
「ありがとうございます。
そうおっしゃっていただけると姉も報われます。
良かったら御焼香を」
「ありがとうございます」
『猪股シシ代』という女性はとても丁寧に焼香を済ませ
そのまま急ぎ足で斎場を後にして行った。

私は私そっくりな姉の遺影を見つめながら思う。
まるで私までもが死んでしまったかの様な気分だわと。
燃え盛る炎。
『ロバさんベーカリー佐賀支店』店内で
まさにパンのように自分の身が焼かれてゆく中
いったい姉は何を思って死んでいったのだろうか。
強気でおちゃめな姉の事だから
最後はすっかり覚悟を決めて
「こんがり美味しく焼いてちょうだいね」
なんて思ってあの世に旅立っていってたりして。
そんな事を想っていたら
「ふふふ…ぷぷっ」
またまた思わず吹き出してしまうのだった。


♪探しものは他己ですか 見つけにくい他己ですか
自分の中も他人の中も 探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか それより木刀振るいませんか
夢の中へ夢の中へ 逝ってみたいと思いませんか
夢中中 ムチュウチュウ ムチュッチュウ
さあ~♪

熊本県熊本市下通り商店街の筋をちょっと入った建物地下1階。
ライブハウス『チロルチョコ』では
入手困難なプレミアチケットを手にした幸運の若者達が
狂ったように騒ぎ暴れ盛り上がっていた。

パンクバンド『OCTOPUS ARMY』ワンマンライブ。
会場はモッシュ&ダイブ!
ペットボトルが飛び交い前方では揉みくしゃの殴り合い。
片や血を流すファンがいたり
片や失禁失神しちゃうファンがいたり
グッチャグッチャの異常な盛り上がりだ。
そんな様子をボーカル『阿蘇 熊美(あそ くまみ)』は恍惚な表情で歌い眺めていた。

狂った会場は熊美にとってまさに絶景だ。
もっと狂え!もっと狂え!とシャウトする。
そんな熊美の狂気感情を知ってかファンは益々狂い暴れる。
“いっそ皆、死ねば良いのに”
なんていつも思う。
何かが憑依したかのようにヨダレを垂れ流し歌い狂う熊美。

あれ?

気づくといつの間にか横に知らない男の子が立っていた。

何だこいつ。
警備の奴ら何やってんだ?
ま、いいか盛り上がってるし。
何だかわからねーが、とりあえずこいつぶん殴っておくか。
などと思った瞬間。
突然現れた目の前のその知らない男の子が

「ニヤリ」

と笑い
場内は高らかな悲鳴に包まれたのだった。


“ピンポーン”
長崎県佐世保市。
“ピンポーン”
商店街の近所。
“ピンポーンピンポーン”
小さな古めのマンション。

「ハイ」
「あ、クロネコ戦艦ヤマトの宅急便ですが」
「ハイ、チョットマッテネ」

“ガチャ”
その402号室。

「オマタセー」
「警察だ。
『梟・デ・リトマス(ふくろう・で・りとます)』!
銃刀法違反の疑いで逮捕状が出ている。
署までご同行願おうか」
「…バリヤバイケンネー…」
402号室の外人は下駄箱の上の置いてあった“物”をむんずと掴み
「ゴキジェットフンシャ!」

“プシューーーッ!”

ゴキブリキンチョールを警察官の顔面めがけてジェット噴射。
「うわっ!?」
ひるんだすきにそのまま裸足で逃走したのだった。
「あ、こら、どこだ、待てっ!」
「ヤバヤバーーーッ!」


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。


写真。大分県の高校野球球児挨拶式。
駅前にてパシャ。


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2 コメント

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タコ (ぴゅあこ)
2009-05-23 22:25:10
毎週楽しみに読んでるよ。
登場人物の名前も、おもろい

読んでいくうちに
あ~。あの人がここで繋がっているのかぁ。
っていうのも楽しいな。
怪しげなナゾもあったり。

時々、前のを読み返したりもしてるよ

白烏さんと豆郎さんは、まだなの~
ぴゅあこさん。 (ばんぱく。)
2009-05-24 20:16:55
いつも読んでいてくださっているようで
ありがとうございます!
もっともっと面白いものをと思うのですが
まだまだ小説と呼べる程のものが書けず
日々精進であります。
今後とも『らーめん放浪記』ならびに
『めけめけブログ』の日々を
どうぞよろしくお願いします!

九州編もはじまったばかり。
今ならばらんばらんに読んでもおもろいかもです。
白烏&鳩山っすか!?
これからですよ!
特に鳩山は(笑)
お楽しみください!

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