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時遊人~La liberte de l'esprit~

優游涵泳 不羈奔放 by椋柊

おくりびと

2009-03-03 | 映画
「旅のお手伝いって、旅行代理店かな!?」
東京で
オーケストラのチェロ奏者をしていたが
楽団の解散で演奏家への道をあきらめ
故郷の山形に戻ってきた主人公の大悟は
求人広告に
願ってもみない好条件の職を見つけた

早速面接に向かった彼を待ち受けていたのは
なぜか棺桶が置いてある古びた事務所だった
ほどなく現れた社長の佐々木は
履歴書に目を通すこともなく
大悟の顔を見るなり
一発で採用を決める



呆気にとられて
求人広告を持ち出して
仕事の内容を尋ねる大悟

「どんな仕事をすれば…」
「納棺」
「のーかん?」

佐々木は答えた
「あぁこの広告 誤植だな ‘旅のお手伝い’
 ではなくて 安らかな‘旅立ちのお手伝い’
 NKは納棺のNK」

納棺…

それは遺体を棺に納める仕事だった
思いもよらない仕事に
慌てふためく大悟だったが
佐々木に言われるがまま
引き受けてしまい
妻の美香には
冠婚葬祭関係の仕事に就いたと答えてしまう

こうして
晩秋の庄内平野を
佐々木とともに駆け回る
大悟の新人納棺師としての日々がはじまった



美人だと思ったら
ニューハーフだった青年

ヤンキーの女子高生

幼い娘を残して亡くなった母親

ルーズソックスを履いてみるのが
憧れだったオバアチャン

沢山のキスマークで
送り出される大往生のおじいちゃん

さまざまな境遇の死や別れと向き合ううちに
はじめは戸惑っていた大悟も
いつしか納棺師の仕事に
理解を示すようになっていった



そんな矢先
冠婚葬祭関係=結婚式場で働いていると
勝手に勘違いしていた美香に
本当のことがばれてしまい
彼女は
「汚らわしい!」と言い残して
実家に帰ってしまう

数年前に母親を亡くし
幼い頃に
父親が失踪してしまった大悟にとって
唯一の家族であった妻が
離れていったことは
大きなショックであったが
真摯な態度で仕事にのぞむ信念はゆるがず
彼は
妻が戻ってくるのを
待つことにした



季節はうつろい
庄内平野に春が訪れようとしている時
納棺師として
充足感と誇りを胸に刻みはじめていた大悟のもとに
さまざまな知らせが舞い込んできた

美香の懐妊
幼馴染みの母親の死
そして
30年間ゆくえ知らずだった父親の死…

はたして大悟は
納棺師として
そして夫として人として
身近にいるかけがえのない人々の生と死に
どのように向き合えるのだろうか…



誰もが
避けることの出来ない道
現世での最後の時に
立ち会う‘納棺師’を
静かに淡々と描いた作品

暗く湿った雰囲気に陥りがちな題材を
たとえば
納棺の流れを
プロモーションビデオの撮影と称して
ストーリーに盛り込むユーモアも
センスが良い
そして
美しい自然
四季の移ろいと
チェロの音色を織り交ぜる構成は
とても叙情的でした

人は誰もが
‘おくりひと’であり‘おくられびと’

‘おくれれびと’になるその日まで
取りあえず
精一杯生きていこう

そんな事を
ふと思ってみたりしました



この作品は
第81回米国アカデミー賞
最優秀外国語映画賞を受賞されましたが
本木雅弘さんの演技以上に
脇を固めた
山崎努氏 吉行和子さん
余貴美子さんを始めとする
実力あるベテラン俳優の演技力と
脚本の素晴らしさに
依るところが大きいと思います

身内の葬儀を
経験済みの小生ですが
葬儀屋は
自分で手配したけれど
納棺師を依頼した記憶がない
いわゆる
最後のお化粧も小生がしたし…

いまから思えば
葬儀屋さんが
納棺師も兼ねていたのか?