山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

大会を終えて

2009-08-30 23:10:49 | Weblog
 オランダで開かれた世界選手権は今日で5日間すべての日程を終了した。日本の成績は女子が金3、銅2、男子が銀1、銅1という結果であった。
 
 大会全般を振り返ると女子の安定した力が目立った。メダルを逃した階級も金メダルに届かなかった階級も「歯が立たない」というのではなく、いくつかの課題がクリアできれば金の可能性も見えるほどの位置だった。

 女子が活躍した一方で男子の不振が際立った。金メダル云々というよりもどの相手であっても「勝てる気がしない」というのがチームの現状のようにみえる。長いトンネルはまだまだ抜けられそうにない。負けた原因について‘ハングリーさ‘ということが言われるが、もっと単純な闘い抜く体力が劣っているようにみえた。北京五輪でも兆候はあった。金メダル2個を獲得したものの他の選手はメダルに絡めなかった。その後、新体制になって強化を行ってきたが何らかの改善や向上など明るい材料さえも見えなかった。

 篠原ヘッドコーチは、大会前に全階級金メダルといった目標を掲げ強気の姿勢を崩さなかった。選手を鼓舞する意味もあったのだと思う。一方、選手の力をそのように評価したのであれば、その力を発揮させることができなかった原因はどこにあるのかを語らなければなるまい。自分たちの選んだ選手が負けて「若い選手を連れてくればよかった」ではコーチを信じて闘った選手はどうすればいいのか。選手を批判するよりも強化システムや方法といった根本的な改善を語って欲しい。

 今大会から敗者復活戦に残れるのはベスト8以上に進出した選手のみとなり、ひとつ間違えればメダルを逃す確立が高くなった。こういった状況でも確実にメダルを獲得したのは男子では韓国とロシアであった。こういった国にあって日本にないものは何なのかを考えれば自ずと答えは出てくる。

 世界選手権は今年から毎年開催される。毎回結果を出すには選手層の厚さも必要になってくる。ジュニア世代からの強化システムも見直す必要があるだろう。

 強化とは別にIJFの様々な動きも見えた。ぼんやりしていれば、すぐにおいていかれてしまうほどのスピードで進んでいる。こういった現状で必要なことは早い段階での情報収集と理論武装であろう。何かを提示された時点で考えていたのでは到底太刀打ちできない。

 IJFでの日本の求心力の低下が囁かれるなか、競技力でも力を示せなくなっている。日本柔道はどちらにしてもここが正念場だ。なんとなく口を濁して通り過ぎるのではなく徹底的な議論をし、腹を据えた考えを持って進んでいくしかない。

 土曜、日曜の会場はほぼ満員で熱気に包まれた。昨日は自国オランダ選手の金メダルに湧いた。最終日の今日もオランダ選手が銀メダルを獲得して大会を締めくくった。印象に残ったのは自国への応援はしても勝った選手は同じように暖かい拍手を送ること。来年の世界選手権が日本で開催されるかどうかはわからないが、もし日本がホスト国になるとすれば、どこの国の選手であっても素晴らしい技や勝者には暖かい拍手を送ることを受け継ぎたい。

操られる審判?

2009-08-30 15:44:58 | Weblog
 今大会、審判理事のバルコス氏がオーバーコールで判定が覆ることが多いということは以前にお伝えした。テレビにも映っているかもしれないが、主審が突然、正面のテーブルから呼ばれ指示を受けた後、判定が覆る。不思議だったのは、副審の二人は微動だにせず座ったままであることと、主審もテーブルまで向かってビデオを見ることはせずに即座に判定を変えることだった。

 昨日もいくつかそういった状況があったので何人かの審判に聞いてみた。すると、驚きの事実が判明した。なんと主審は耳にイヤホンを装着させられており(敗者復活最終戦、準決勝などメダルのかかった試合から)、バルコス氏からの指示を聞いているらしい。副審はイヤホンの装着がないので何を指示されているのか、どこが問題なのかもわからない状況である。そして、指示は絶対であり、逆らうことはできない。明らかな間違いなどであれば百歩譲ってビデオを見ているテーブルからの訂正があってもいいかもしれない。しかし、「ブルー柔道着に指導を」といったような試合をコントロールするような非常に細かい指示までくるのだという!

 今や私達の目に見えている審判は実際の審判ではなく操られて指示を出しているだけの存在に近い。さらに信じられない光景をみた。昨日のロシア対ウズベキスタンの試合は競り合って終盤を向かえた。ウズベキスタンがリードで終了寸前にロシアの選手が朽木倒をしかけ、ウズベキスタンの選手は臀部をつく。審判は有効には満たないとしてスコアを与えなかった。この瞬間、IJF会長であるビゼール氏が立ち上がってバルコス氏に駆け寄って何かを告げる。その次の瞬間、主審が反応して、突如として有効のポイントがロシアに与えられ、試合はロシアの選手が勝利した。会長がその時何をバルコス氏に告げたかはわからない。ただ、その時会長の隣に座っていたのがヨーロッパ柔道連盟の会長でロシア人であったことを考えるとあまりにもタイミングがよすぎるし、勘ぐられても仕方がない状況だ。

 つまり、一部の人間に権力が集中するということはこういった疑念を抱かれやすい状況をつくる。バルコス氏がどんなに優秀で誠実な人間であったとしても自国スペインに有利な判定を指示すれば、その判定が妥当なものであっても相手は何らかの意図があったのではと思う可能性が高い。

 おそらく近い将来、審判は一人になる。そういう状況であれば、いっそのこと審判は判定を下すのではなく、試合を捌くのみで判定はバルコス氏を含むトップテーブルの何人かが行うとした方がわかりやすい。その方が責任の所在が明らかになる。現状で見ている人たちは、判定に不服であったりすれば審判を責める。しかし、審判には実は権限もないのだから責任もないのである。

 他のスポーツのことは詳しく知っている訳ではないが、こんなように審判が上からコントロールされるスポーツがほかにあるのだろうか???フェアなスポーツといえるのだろうか?

 現在のIJFは理事会が大きな権力を持っている。理事会ではなくても、何人かのメンバーが賛成し、会長の同意が得られればルールでもシステムでも一瞬のうちに変えることができる。強いリーダーシップで改革も進むことは間違いない。しかし・・・。これまで何度も指摘しているが、彼らがどんなに優秀であったとしてもどこかにチェック機能がなければならないのではないか?世界の柔道を理事会という少数の人間に託して本当に大丈夫なのか?

オランダ

2009-08-29 20:51:04 | Weblog
 オランダの柔道事情を紹介したい。柔道人口は約6万人。サッカー、ホッケー、サイクリングなどに続くトップ10スポーツとして位置づけられている。

 オランダと言えば思い出すのは東京五輪で優勝したヘーシンク氏だが、その後も世界選手権やオリンピックなどで常に好成績を収めている。北京五輪では男女合わせて5個のメダルを獲得しており、柔道人気も高い。

 今大会は毎日生放送で2時間の放送がなされていて、視聴率もいいという。会場は毎日多くの観客が訪れて盛り上がっている。ヨーロッパで開かれる大会はどこもそうだが、ヨーロッパ各地から応援団が詰めかける。土曜・日曜のチケットは完売。

 日本人は外国人は柔道を知らないというが、観客の態度は非常にいい。自国の選手が敗れても決まった技が素晴らしければ相手に大きな拍手を送る。残念ながら日本の会場ではこういう光景はあまり見られない。今大会日本女子選手は非常に素晴らしい闘いを見せているので人気が高い。

 大会運営も素晴らしく示されたスケジュールは狂いなく進行されている。ホテルと会場を結ぶバスなどは若干いい加減な時間であったりするものの、概ね問題なく進んでいる。

 大会4日目、たった今70kg級の準決勝戦が行われ、残念ながら渡辺選手は敗れ、3位決定戦にまわることになった。日本女子4日連続のメダル獲得なるか?

速報 IJFアスリート委員選挙

2009-08-29 19:07:42 | Weblog
 IJFは新しくアスリート委員会を設置することを決め、今大会中に選手による投票で各大陸から1名ずつ、IJF指名で4名の計9名を選ぶことになっていた。

 日本からは元世界チャンピオン('87,'91)、バルセロナ五輪銅メダリスト('92)岡田弘隆氏(筑波大学)が立候補していた。

 昨日選手による投票が行われ、岡田氏が最高得票数でアジア代表に選出された。5人の代表のうち、現役選手が3人、女性は一人(48kg級ジョシネ選手)であった。
IJF指名の委員はまだ発表されていない。

 この委員会がどのような役割を持ち、活動をしていくかは明らかにされていないが選手やコーチという現場とIJFをつなぐ架け橋となることが期待されている。

 以下、参考のために各大陸の選出された代表を記す。
 ヨーロッパ代表 FREDERIQUE JOSSINET(女)(フランス)
 アジア代表   岡田弘隆 (日本)
 アフリカ代表  ANIS LOUNIFI (チュニジア)
 パンアメリカ代表 LEANDRO GUILHEIRO (ブラジル)
 オセアニア代表 DENNIIS IVERSON (オーストラリア)

祝63kg級上野順恵

2009-08-28 17:14:42 | Weblog
 世界柔道3日目は、日本女子が計3個目となる金メダルを63kg級上野順恵が獲得した。全て一本勝の見事な内容だった。

 彼女も同階級五輪2連覇の谷本という壁にいつも跳ね返されてきた。初の世界代表の切符で見事に結果を出した。代表を逃してきた理由が谷本と比較して「一本を取れる柔道ではない」だったことが皮肉である。

 今日の上野は得意の体落ではなく、大外刈で勝負した。回りながら相手の膝の後ろに足をかけて倒す変形気味の技だ。これが見事にはまって一本を連発した。

 48kg級の福見同様にここまで来るまでの長い時間を考えると、勝ったのは必然かもしれない。代表に選ばれずに腐りたくなる時もあっただろう。しかし、そんな全ての思いを吹き飛ばすような見事な優勝だった。心から’おめでとう’と言いたい。

祝52kg級中村美里金メダル

2009-08-28 16:22:09 | Weblog
 1日目の48kg級福見の金メダルに続いて2日目も中村美里が52kg級で金メダルを獲得した。海外のコーチ曰く「she has nothing special」確かに、彼女の柔道には派手なところはない。これは福見にも同じことがいえる。北京五輪63kg級金メダルの谷本のような派手な一本をとる技は少ない。試合後のパフォーマンスもそうだ。どちらも勝った瞬間も冷静だった。

 この二人が現在の日本女子の強さを象徴していると思う。特別な運動能力やセンスがなくても努力によって頂点に立つことができるのが柔道だ。(と私は思っている)二人をみていると大会ごとに確実に何かを身につけ進化している様子がわかる。一つ一つの技術が努力の結晶だからこそ自分の技術に自信が持てる。彼女たちのようなタイプの選手達がチャンピオンになることで若い選手達も「自分も頑張れば必ずチャンスがある」というモチベーションで稽古に励み、新たな可能性が生まれる。

 2日間をみて感じたのは、女子に関して言えば、勝つための条件は
①徹底したトレーニングに裏付けされた基礎体力・・外国選手とでも力負けしない体力、とくに体幹の力が重要。ゴールデンスコアや競った試合になっても負けないスタミナ(このスタミナこそが気持ちで負けない精神力にもつながる)
②早く強い組み手・・二人ともとにかく組むのが早かった。外国選手は組んでしまえば意外と技がでない。(ほとんどの選手がこのことは認識しているが競り合っても怖くないという自信がなければあのようには組み合えない)組み手で相手を制することができるので試合を常に支配できる。
③寝技に自信・・決勝まで5試合ほどを闘わなければならない状況で全て立ち技で勝負するのは厳しい。立ち技では力に差があっても勝負がもつれる場合もあるが、寝技は返される心配もなく明らかに力の差がでる。ポイントをリードした後の闘い方も楽になる。
④足技・・組み手が強く、相手を揺さぶれば足に力が入る。また、外国選手は下がり気味で後ろに重心があるケースが多く、足技が非常に効果的である。

 言うのは簡単だが、こういったポイントをきちんと自分のものにしている選手は意外と少ない。男子に関しても同じようなポイントでみることができる。ただし、男子の場合は女子以上に外国選手とのフィジカル面での差が大きく感じる。だからこそ、徹底した体力トレーニングは必須である。韓国選手が強いのは徹底して体を作り、その上に技術をのせているからだ。体力面での自信が競り合いを怖がらず組み合うことを恐れないことにもつながっていく。

 日本人の柔道の特徴は「力を抜く」ことだと思う。外国選手の乱取は常に試合のように激しい。それに比べると日本選手の乱取は軽い。外国選手のような乱取で技術が身につけることはある意味で難しいので真似をする必要はない。しかし、軽い乱取だけでは闘う体力が身につかないので、それとは別にトレーニングをやるしかない。三井住友海上の選手達のトレーニングをみたが、韓国選手のそれに近い。話をすることもなく淡々と延々とトレーニングが続く。日本人が負けると必ず反省の弁で「気持ちの弱さ」「組み手」といったことだ。私が考えるにこの両方は全て闘い抜く充分な体力があってこそ発揮されるものだろう。日本柔道の技術は今でも世界のトップにあるといっていい。しかし、昔と今では競技人口も増え、全体のレベルが上がり、1回戦から決勝戦と同じような緊張感の試合が続くこと、ルールが変わって常に攻め続ける姿勢が求められるなど技術だけで勝つことは難しい。

 今日は大会3日目。日本男子がここからどんな闘いを見せてくれるのか。奮起を期待したいところだが、勝つためには何が必要かという冷静な分析もしてほしい。おそらく日本男子が今後世界で闘っていくためには強化の考え方に大きな軌道修正が必要とされるような気がする。

大会あれこれ

2009-08-27 16:35:22 | Weblog
 大会一日目を振り返って、あれこれ気がついたことをあげてみる。

 世界ジュニア選手権で試験的に一人審判で行われることは伝えたが、この大会でもそのような状況が進んでいることがわかった。どういうことかというと、試合の最中に何か問題が起きたとする、例えば、どちらのポイントか?技有か一本か?など。この場合、これまでは副審二人を加えて合議をし、決定していた。また、3人の合議でも決着を見られない場合にはビデオを見ているジュリーに意見を求めるケースもあった。今回驚いたのは、何か問題があったときに主審は副審を呼ばずに真っ先にジュリーのテーブルに行き、指示を仰ぐ。そして、その指示通りに判定を下す。その間、全く副審が席を立たず、合議することも、状況を確認することもないケースがあった。

 ビデオを導入したときには、ジュリーはどちらのポイントであったかなどについてビデオをみて確認することはあっても、技の判定に関しては審判の判断となるということだったように思う。しかし、今大会を見る限り、ジュリーの意見は「神の声」とでも言おうか、審判を完全にコントロールしている。審判は試合をコントロールしているが、技や反則の判定にジュリーに権限がある、つまり、審判は相撲の行司のような役目に変わろうとしている。

 審判に話を聞いてみたら、「ジュリーの手元にボタンがあって、一本、技有、有効の判定をしてくれればわかりやすい」と皮肉を言っていた。確かにビデオの導入によってクリアになった部分はある。しかし、技の勢いや、どの角度からの映像であるかなどによっては不確かな部分があることも事実である。やはり一番近くで見ている審判の判定をサポートするのがビデオ判定の役割ではないかと思う。

 男子の試合と女子の試合を比べると、女子のほうが組み合っている時間が長いような気がした。男子の試合は、組み合わずに足を取るなどのチャンスを伺うシーンが多かった。また、今大会では審判は、前屈みで姿勢の悪い選手には躊躇なく’指導’を与えるケースも多くみられる。IJFは双手刈や朽木倒、すくい投げなど帯から下を手で攻める技を禁止しようとしている(世界ジュニアで試験的に採用)が、今の選手達がそういったルールに対応できるようになるのかと思われるぐらい、こういった手で足をとる技が多い。おそらく、これが禁止になれば一昔前にロシアが見せた背中越しに帯をとったりといった技が復活するのか?

 コーチたちは、準決勝以上の試合はスーツでコーチ席にはいる。バスで試合場に向かうコーチたちは皆スーツの入った衣装ケースを持っているという風景も今大会からである。抽選会でもビゼール会長はジャージなどを着ているコーチたちを叱責したという。「柔道は教育的なスポーツなのに君たちのその服装は何だ?」といった具合である。このお説教が聞いたのか、コーチボックスでの態度も今のところ問題はないようだ。

 敗者復活戦がベスト8に入った選手のみというのは非常に厳しい。60kg級は北京五輪のメダリストは誰もメダルを獲得できなかった。仮定だが、おそらく以前の敗者復活方式であればメダルには届いた選手もいたはずである。つまり、これまで確実にメダルをとっていた強豪国がメダル数を減らす可能性が高い。大会を終わってみて北京五輪と比べてメダル獲得国がどのように変化したか、またランキングとメダルの関係も検証してみたい。興味深い結果が出るかもしれない。

 現在、二日目がスタートした。男子73kg級の大束は1回戦でグルジアの選手と対戦。力で押してくる相手をうまく捌き、大外刈で技有を取ってリードしたものの、相手の強引な組み手に徐々に苦しい展開となり、残り30秒ほどのところで首を抱えられながら大腰気味に入られ一本負けとなった。昨日、60kg級平岡は苦しみながらも決勝戦に駒を進めた。残念ながら決勝では敗れたが初日にメダルを取れたことは苦しい展開が予想される男子チームにはよかった。4試合場で試合が次々と進み、時間をフルに闘っていった場合、メダルに絡むところまで勝ち上がるには、技術のみならず余程の気力と体力が要求される。

 会場は3階建てで2階の観客席は予選ラウンドからほぼ満席。地元オランダ選手がここまでは思ったほどの活躍が見られないが、フランス、ベルギー、ドイツなどから多くの応援団が詰めかけ盛り上がっている。

祝48kg級福見金メダル

2009-08-27 02:01:22 | Weblog
 派手なガッツポーズもなく、飛び跳ねることもない、とても静かな勝利の瞬間だった。世界選手権初出場、初めての世界チャンピオンとは思えないほどの冷静な態度で、見ている方には物足りなささえ覚えさせた。16歳で女王谷を敗ってからここまでの道のりがいかに長かったかを感じさせる。彼女にとっては世界選手権で優勝するプレッシャー以上のものを幾度となく超えてきたに違いない。

 事実上の決勝戦は、準決勝だった。相手は北京五輪金メダルのドミトル(ルーマニア)。相手は必要に右奥襟を狙い、福見の動きを封じようとする。福見は冷静に対処して足技をみせて相手を揺さぶる。冷静な試合運びが相手に攻撃のチャンスを与えず、二度の指導を奪う。その後相手が焦って攻めにきたところを返して一本勝。

 今日の試合は一回戦から決勝戦まで、落ち着いた自信に満ちた試合運びだった。早い組み手から足技での崩し、背負い投げ、寝技と攻めに躊躇する部分がなかった。

 女王谷亮子の大きな壁に何度となく跳ね返されてきた。しかし、そのことが福見をここまで強く大きくしたに違いない。これまでにも世界選手権に選ばれてしかるべき時もあった。それでも選ばれなかったのは、今日のような万全の闘いができる準備が足りなかったのかもしれない。そう思えば、これまでの試練も肯定できる。

 世界チャンピオンになったからといって安泰ではない。日本で代表になることの難しさは今後も続いていくだろう。しかし、少なくても‘世界での実績がない’と言われ続けたハードルは越えることができた。

総会続報

2009-08-26 13:54:03 | Weblog
 前回伝えた総会の速報の他にいくつかの決定事項がわかった。また、総会後に変更になったこともある。

 まず、10月に開催される世界ジュニア選手権大会は結局パリでの開催に昨日の理事会で決定したようである。アテネの準備不足ということだが、大会まで2ヶ月を切った状態での変更は非常に異例である。9月に開催される予定であったマカオでの無差別の大会もキャンセル、来年の東京での世界選手権もペンディングになった状況などを考えるとIJFが求める大会準備が非常にハードルの高いものであるのではないかという予測がつく。また、日本でさえもそのハードルを越えられないということになると世界の本当に限られた国でしか開催ができないということになる。

 総会における議決の委任状は一切認められないことに決まった。これは、フランスから提案されたもので、採決の結果、多数の賛成によって可決された。また、総会の成立も以前は加盟国の3分の2以上の参加であったものが、2分の1となった。さらに法令などの重要事項の変更は総会参加国の2分の1で決定できることとなった。現在約200カ国の国と地域が加盟しており、その半分の半分で重要議題が通るということは約33カ国の承認となる。これは何を意味するかと言えば、ヨーロッパの加盟国だけで約50カ国なので彼らの賛成だけで重要議題が決定できるということである。ヨーロッパ主導の流れを押さえることはますます難しい状況になった。

 ドイツから提案されたカデ、ジュニア世界選手権においては敗者復活戦を以前のように準決勝に進出した選手に負けた選手は権利があるようにしてほしいという提案は議論も行われず、ドイツが取り下げる結果となったようだ。今回の世界選手権からベスト8に進出しなければ敗者復活の権利を得られなくなった。昨晩、抽選があったが、100kg超級の棟田選手は2回戦でロシアのミハイリン選手と対戦、78kg級の中澤選手は1回戦でフランスのルブラン選手と対戦が決まった。どちらが負けるにしても優勝の可能性があるであろう選手が早い段階で姿を消す。IJF側は「全日本選手権と同じで優勝者を決める大会なのだから敗者復活戦はベスト8以上で充分」という論理を展開している。しかし、観客など見る側の心理はどうだろうか?強い選手であれば、敗者復活戦であってもそのパフォーマンスは1試合でも多く見たいと思うだろう。ゴルフの石川遼選手が優勝には絡まなくても予選を通過したかどうかで視聴者の興味は大きく変わりテレビの視聴率にも影響する。こういったこともマーケティングの観点からIJFは検討するべきではないだろうか。

 審判理事のバルコス氏の提案で「帯から下の部分を手で技をしかける技にはペナルティ-を与える。一度目は指導、二度目は反則負けとなる」こと、「審判は主審のみ(一人)で行う」との提案がなされ、10月の世界選手権で試験的に導入され、11月の理事会で決定されることとなった。最近の試合で選手達の姿勢が前屈みの状態が増え、足をとる朽木倒や双手刈、肩車を多用する選手が増え、レスリングに近い状況が懸念された結果だと思われる。しかしながら、いくつかの懸念がある。まず、いつもそうだが、世界ジュニア選手権という選手にとっては生涯において何度もないチャンスである選手権大会を試験的な大会としていいのかということである。また、二ヶ月を切った段階での決定は、それぞれの国や選手に周知するには時間が短すぎる。また、双手刈を得意技をしていた選手はいきなり武器をもぎ取られて闘えと言われたようなものである。確かに最近の傾向は目に余るものがあるが、朽木倒や双手刈、肩車なども講道館柔道の立派な技である。こういった技をルールによって排除することは技術の多様性を排除することにはならないか。こういった状況が好ましくないのであれば、かけたから反則にするのではなく投げてもポイントを有効までに押さえるなどといった方法も考えられる。

 審判を一人にするという案も時期尚早な気がする。高いレベルの審判の数を確保することが難しいなどの状況はあるだろうが、世界選手権やオリンピックなどの決勝戦の主審であっても副審に何度となく訂正を促される状況がある。優秀な審判であってもその人間の主観であることは間違いない。副審に訂正されるのであれば良いが、一人となって場外にいるテレビの再生を見ているジュリーに訂正されるとなると審判の権限は低くなる。また、ゴールデンスコアの時間が短くなったことで判定に持ち込まれるケースも多くなっているが、この場合も主審は一人で判定を下すことになる。審判のプレッシャーは相当なものとなる。

 現在のIJFの体制は多くのことが理事会、つまり何人かの考えで即座に決定され、実行されていく。確かにスピード感があって改革は進む。しかしながら、動き出してしまえば止めることや軌道修正をすることは困難である。多くの問題が柔道という競技の本質を変えてしまう危険もあるにもかかわらず、比較的簡単に動き出しているようにみえる。こういった状況に対して柔道創始国日本はどのような立場で臨むのかが問われている。

総会速報

2009-08-24 01:30:44 | Weblog
 現在行われている総会の速報です。

 世界ジュニア選手権は、予定通りアテネにて開催となったようです。まあ、この時期にどこかに移すにしても、移された方が準備ができないとの判断でしょうか??

 来年予定されている東京での世界選手権は、日本がテレビ局と現在の時点で契約を結んでいないことに懸念を示し、近々に進展が見られない場合は開催地をロンドンに変更すると発表があったそうです。

 このことについては理事会においても上村理事に事前に通告があったようですが、総会までに返事が用意できなかったために代替地まで示されたようです。

 IJFの日本のテレビ局への放映権料の提示があまりにも高額なことや、日本柔道の現在の状況では視聴率が計算できないなどから、テレビ局側も決断できずにいるのではないかと予測がつきます。

 東京の世界選手権がキャンセルとなれば日本としては恥ずかしい思いと残念さはあるものの、IJFの言い値でテレビ局が契約すれば益々IJF、というよりもビゼール会長に足下をみられることになってしまう可能性もあります。

 全柔連、上村会長(IJF理事兼務)がこれに対してどんなコメントを出し、対応するのかが興味深いところです。