山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

ルネッサンスフォーラム

2010-05-20 10:15:04 | Weblog
 2001年から始まった柔道ルネッサンスも10年目を向かえ、この活動がより発展的に継続的に全国各地で行われていくことを願い、14日(金)~15日(土)に講道館にて「柔道ルネッサンス・フォーラム」が開催された。

 各都道府県より推薦を受けた1名ないし2名の代表者、総勢57名が参加して、活発な議論が交わされた。私も委員の一人として参加したが、全国各地で行われている活動は私が想像していた以上に熱心で活発なものであった。また、柔道指導者の方々が集まった会はいつもそうだが、ひとりひとりの柔道に対する熱い思いを感じる。

 競技の部分が注目され、それに伴って勝利を求める気持ちが強くなって、柔道の持つ教育的な部分がないがしろにされてしまう傾向も否めない。金メダルを目指して頑張ることも大きな意味と意義はあるが、金メダルを目指したことが人間的にも成長する過程であってほしい。嘉納師範の言われた「精力善用」とは、柔道で得られた全ての力を善き方向に発揮しなさいということであり、逆に言えば「力を持たせることは、その使い道を誤れば、力を持たせたこと自体がマイナスになる」という示唆が含まれている。

 今回のフォーラムでは以下の「柔道ルネッサンス宣言2010」を採択した。

1.指導者自らが襟を正し、「己を完成し、世を補益する」事を実践します。
1.理にかなった技の習得、「一本」を取る柔道を目指します。
1.老若男女が親しめる、安全に配慮した柔道の普及・発展に努めます。
1.美しい礼、正しいマナーで、品格のある柔道人になり、育てます。

キーワードとなったのは「指導者」「一本」「安全」「品格」だと思っている。ルネッサンス活動も10年の節目を迎え、今後の活動は、柔道の稽古がそうであるように、「やらされてやる」のではなく「自発的」 なものとなっていくことが望ましい。

 世界の中の柔道、日本の立場、リーダーシップ、中学校武道必修化、指導者養成、安全への配慮などなど、現在の柔道が抱えている問題は少なくない。しかしながら、私たちは、嘉納師範の掲げられた柔道の理念を現代にあった形で継承し、次の世代へ引き継いでいかなければならない。「そのために何ができるか」をそれぞれが考え、実行していくことがルネッサンス活動につながるのだろうと思う。

フォーラム

谷亮子氏

2010-05-11 11:37:45 | Weblog
 昨日、谷亮子氏が民主党から参院選に出馬するとのニュースが日本を駆け巡った。サッカーのWカップ代表選手の発表がかすんでしまうぐらいのビッグニュースとなった。

 スポーツ選手が政界に転身するのは決して珍しいことではないので、ニュースを聞いた瞬間でも大きな驚きは感じなかった。私も含めてびっくりしたのは「現役はもちろん続けます。ロンドンでは金メダルを目指します。」という発言ではなかっただろうか。

 2児の母としてオリンピックを目指すだけでも大変なのに、議員になっても頑張るという挑戦にはある意味敬服する。彼女の場合、他の誰もがなし得なかった未知の世界への挑戦ということに大きな意味と意義を感じるのだと思う。

 立候補を決めた段階であり、まだ当選したわけでもないので議員と選手を両立できるのかという議論はおいておきたい。私が興味があるのは、全柔連がこれに対してどういう対応をするかということである。彼女は第2子出産ということで2008年北京五輪以来、試合に出場していない。強化選手を決める公式な規定に「産休」はないが、彼女の実績を考慮して現在に至るまで強化選手トップの「ナショナル」に属している。これだけの期間において合宿、試合への出場が無条件に免除されてきた選手はいない。

 彼女がロンドンを目指すと公言した以上、全柔連としては合宿に参加させ、国際大会にも派遣しつつ、強化を図っていかなければならない。おそらくこれまでは出産、育児ということで大目に見てきたのだろうが、「選挙活動はできますが、合宿や大会には参加できません」というのは理由にならなくなってくる。

 現在、ナショナルに属する選手達は多くの大会へ有無を言わさず派遣されている。五輪、世界選手権などで既に実績のある選手も同様である。全ての選手がサバイバル戦を闘い抜いている状況を考えれば、これ以上特別に扱うことは難しいだろう。

 彼女の復帰戦は11月の講道館杯が有力だが、それまで全日本としての活動に参加しなくてよいという理由はない。全日本の強化選手として活動ができないという状況であれば、強化から外すしか無くなる。彼女の挑戦は挑戦として、全柔連は、強化は、組織としてどのように対応するのかが注目される。

 

強化方針

2010-05-07 19:59:40 | Weblog
全日本選抜体重別、男女の全日本選手権が終わり、9月に行われる世界選手権の代表が決まった。国内の大会は一段落して、ここからは国際大会、合宿を経て世界選手権に臨む。

 男子日本代表(各階級2名、14名、90kg級西山選手は怪我のために欠場)は、早速、今週末チュニジアで行われるグランプリ大会に出場する。オリンピック2年前のシーズンに突入したこともあって、前年度に比べると出場選手も増えている。男子73kg級は最も多く42人である。オリンピック出場権をかけたランキングポイント獲得の闘いがいよいよ始まった感がある。こういった厳しい中でしのぎを削って生き残ったものがオリンピックに辿り着くということか。

 心配なのは選手の心理面、肉体面の疲労である。例えば、100kg超級の鈴木桂治選手は29歳である。4月に選抜、全日本と2つの大会を闘った。そして休む間もなくチュニジアへ。私自身の経験から考えても若くともこのペースで試合をすることは非常に難しい。大きな大会を終えれば自分が思っている以上に心身ともに疲労し、消耗する。消耗した状態で無理をすれば怪我を誘発することにもなる。

 国内の練習環境(レベルの高い練習相手)が十分でない海外の選手の場合には試合を練習の一貫と捉えて割り切っている選手も多い。しかし、日本の場合はコーチも選手も「出場した大会は全て勝たなければ」という観念的なものがあるので、試合が増えれば増えるほど大変である。そして、毎月のように大会をこなしていき、どの大会も勝たねばならないとなれば、世界選手権にピークを持ってくるのが非常に難しくなる。

 試合に出るのはプラスの面とマイナスの面もある。若い選手であれば、経験を積むというプラスの面が多いのだろうが、ベテランもしくは既にある程度実績を持った選手は、研究され、「勝ちづらくなる」マイナス面の方が大きいと思う。とくにヨーロッパの選手は一度負けた選手に関しては徹底的に研究する。1時間やったら勝てないとわかっていても5分間なら勝てる方法を見つけ出す。

 確かにランキング制になったことでポイントを獲り、より有利なシードを獲得して世界に挑むというのもわかる。しかし、実際にはその選手が強ければシードは必要ない。誰とやっても勝つ自信があればシードなど必要ない。鈴木選手や小野選手のような選手は、大会を多く闘って得られるものと、疲労や怪我、研究されるなどといった失うものとを天秤にかけて大会に出場するべきだろう。

 今年の世界選手権で勝つことは重要だが、最終的にはオリンピックが勝負となる。ポイントに振り回されて大会に出続けて肝心のオリンピックでは息切れしてしまったということがないようにしなければならない。「試合に出る以上勝たなければ」という意識の強い日本は、大会前はどうしても調整期間をとる。つまり、大会が増えれば調整の期間が増えて、実際に鍛える期間が削がれるといった心配もある。

 ナショナルコーチ達は私が考えるようなことは百も承知で大会を選び、強化計画を立てているとは思うが・・・。篠原体制になってからは一貫して厳しい強化方針を打ち出している。そのことは選手も理解していて、選ばれた大会には余程の怪我でない限り回避しないようだ。こういった厳しさは評価もできる。しかしながら、コーチの立てた計画に沿って懸命に頑張った選手が万が一結果がでなかったとしたら、その責任は、これまで言い尽くされてきた「選手の気持ちが甘かった」「勝とうという気持ちがみられない」というように選手のせいにするのではなく、強化委員会なり、コーチ陣の責任であると認識しなければならない。またそうでなければ、選手達も救われない