山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

ランキング制に関する情報

2009-01-30 11:55:03 | Weblog
 昨日、全柔連の国際委員会があり、新しい大会の仕組みやランキング制について報告がなされたので情報を発信したい。 

 ロンドンオリンピックに出場権が与えられる資格が概ね明らかになってきた。ただし、未だ決定ではなくあくまでも案という段階なのであしからず 。 

*柔道の出場選手は男子221名、女子145名の計386名で、北京五輪同様の数。  
*各階級につき1カ国1名のみの参加が可能。  
*男子がランキング上位22名、女子が14名が個人の資格として出場権獲得可能。(ランキング内に同国の選手が複数名含まれる場合、誰が出場するかは国に委ねられる)  
*開催国イギリスに各階級1名が与えられる。  
*招待国枠(ワイルドカード)20 IOC,IJF,ANOC(各国五輪委員会)にて協議  
*残りは大陸枠となる(これまでと違いアジアには全階級で男子12、女子8となり、また、各国最大1名のみとなるため、ランキングで2階級以上出場枠がとれなかった場合には日本が参加できない階級か確実に生まれる

2009年IJFカレンダー・新しい大会のしくみ(変更の可能性あり)
*これまでと違い、大会が名前によってランク付けされる。
*大会のランクによってポイントが変わってくる
以下、ランクの高い大会順に示す( )内は優勝、2位、3位のポイント
①世界選手権(500、300、200)年1回の開催
②マスターズ(400、240、160)年1回の開催、ランキング上位者のみ
③グランドスラム(300、180、120)年4回の開催(パリ、モスクワ、ブラジル、東京にて開催予定)
④グランプリ(200、120、80)年5回の開催
⑤大陸大会(180、108、72)年1回の開催
⑤ワールドカップ(100、60、40)年10回の開催

1月24~25日には、ブルガリア(女子)、グルジア(男子)のワールドカップ大会が既に行われた。2月7~8日にはパリにてグランドスラムが開催される。このように年間を通じて、世界各地でいずれかの大会が開催されていく予定になっている。グランドスラムとグランプリは賞金大会であり、敗者復活戦は行わない

今のところ、こういった大会には全柔連が選手を選考し、派遣するといった形をとっているが、将来的に全柔連が選手を派遣しない大会に、ポイントの少ない選手が自費で参加したいといったケースもでてくる可能性がある。また、上位にランクされた選手と下位にランクされた選手を国で選考する場合、どういった基準で行うかなどを考えていく必要がある。また、ランキング内に入っていない選手はオリンピックに出場できる資格がないので、これまでのような8名参加しての国内選考会が意味をなさなくなってくる。選考会という形ではなくした場合、ランキング上位者は大会に出場しないという可能性もでてくる。

このシステムがスタートしたばかりなので、動き出してみないと対応もできないといった現状だが、世界の動きに対して遅れをとることなく対応すること、そして選手にきちんと全柔連の方針を示していくことが混乱を避けることにつながる。





メダリストのセカンドキャリア

2009-01-29 13:42:37 | Weblog
 オリンピックが終わると、選手達が競技を続行するのか、引退するのかが話題になる以前に比べて医科学の進歩、連盟や企業のサポート、練習環境の整備などによって競技年齢は上がってきている。長い時間をかけて世界に通用する選手を作ったことを考えれば、その選手が長い間世界の舞台で活躍することは非常に喜ばしいことである柔道以外の競技でもこの傾向はある。

 自分の目標を達成した選手が大会後も高いモチベーションを維持して競技を継続するのであれば何の問題もない。しかしながら、「選手をやめてしまっても次の目標がない」「辞めてしまったら会社との契約はどうなるのか心配」などといった次のキャリアへの不安から続けたいという強い希望ではなく何となく続けている選手もいる

 JOCや文部科学省、サッカー協会などがトップアスリートのセカンドキャリアサポートを始めている。選手の時代から将来に不安を持つことなく競技に専念できる環境づくり、一貫指導とは競技引退後のキャリアも含むという考え方によるものである。

 実際問題として、経済状況が厳しい中で引退後に自分の望むようなキャリアを手に入れることは簡単ではない。多くのアスリートは自分のファーストキャリアを生かした指導者を希望する。学校の先生が一般的だったが、少子化の影響で採用が少なくなっている。県によっては実績を考慮してくれるところもあるがまだまだ少数派である。企業に残るという選択肢もあるが、それまで競技に専念してきた選手は職場の同世代の人間より仕事ができるはずもなく、スター選手であっても一からの出発となる。こういった環境に順応できる選手も入ればそうでない選手もいる

 こういったように自分の進むべき道を決めかねながら、中途半端な形で選手生活を継続するケースも多くなっているように思う。とくにオリンピックは集中するエネルギーも莫大なので終わった後の脱力感も予想以上に大きい。思い切って1年ぐらいの休養宣言でも出来ればよいのだろうが、現実としては認められないケースが多い

 十分な実績を持ちながら、疲れ果てて、消耗していく選手達をみるのは忍びない思いがある

 これまで柔道界は選手のセカンドキャリアは個人や所属に任せてきたが、これからはそうもいかないような気がする。メダリストに関しては、次のキャリアを手助けする支援をしてもいいのではないだろうか。例えば、

①海外に研修に出す→JOCが行っている在外研修とは別に全柔連独自で派遣する→費用が捻出できない場合には、世界各国と連携して指導者として派遣する→海外からの指導者研修生も受け入れる 
日本のメダリストが指導に行けば海外は大歓迎で費用も持ってくれるに違いない。指導者コースだけではなく、国際組織で活躍できる人材もこういった形で育成していきたい。まあ、あまり成果を求めるのではなく、メダリストへのご褒美、海外への貢献、人材の発掘、セカンドキャリアのサポートのひとつとしてやる価値はある。
②アンバサダーとして活用→メダリスト達は競技を継続していても「柔道アンバサダー」としての活動を義務づける→月1度程度、柔道教室もしくは講演などを全国各地で行う(費用は自治体と全柔連で折半)、スポンサーを回ったり、新規の開拓事業など→こういった活動は、メダルを獲ったことへの柔道への恩返しとして位置づけ、また、社会的な活動やスポンサーなどと接することで人間関係を広げ、次のステップに役立てる
③全柔連や大会においてのインターンシップ→自分が出場しない大会などでは積極的に大会運営に関わっていく→選手達の目で、発想で大会運営を助けていく→将来、連盟の仕事に携わっていく準備ができる(もしくは自分は連盟の仕事などには不向きであるとの判断も出来る)

 メダリストは、日本の宝であり、柔道界の宝である競技者のうちは面倒をみるがその後は知らない、では単なる消費である。お金と時間をかけてつくった素晴らしい選手達を将来にわたって柔道界の宝として私たちは活用する道を考えるべきであろう。そして、柔道界へ社会へ貢献していくことが彼らのセカンドキャリアにおいても誇りを持って生きるということにつながっていく。金メダルを獲ることが柔道の目的ではない。その後の人生においても「世の中の役に立つ人間となること」が柔道の教育である。彼らの才能は選手としてでなくても多いに発揮されるべきであり、そうできるシステムを私たちは作っていかなければならないだろう上に挙げたような例はほんの一例だが、こうした中から選手達が何かを感じ、見つけ出し、次のステップにつながれば大きな価値があると信じる

谷亮子選手フランス国際欠場

2009-01-27 17:59:44 | Weblog
 やっぱり・・・。というのがこのニュースを聞いた感想だろうか。谷選手がフランス国際に選ばれ、本人も調整を続けているとの報道がされていたが、おそらく私を含め多くの関係者はドタキャンするだろうと予測していたのではないだろうか

 なぜなら、彼女が出場するメリットはほとんどない。昨年、全日本選抜体重別選手権で敗れている山岸選手の出場が決まっており、フランス国際で順当にいけば決勝であたることになる。もちろん谷選手が勝てば良いが負ければ、力の差は明確になってしまう。谷選手とすれば、苦手な山岸選手との対戦は少ない方がいいのはわかりきっている

 谷選手の代わりに、嘉納杯優勝の福見選手が選ばれた。ここで問題になるのは時期である。大会まで10日ほどの時期に交代を言い渡される。減量、調整、モチベーションなど、どう考えても不利な状況にある。挑戦者としてはそういった不利な状況で戦わなければならないのは遺憾ともし難いが、個人的な意見としては、谷選手が出場しないことは予測できた訳で、そういう点では、選考の時点でなぜ最も大事な大会にリスクのある選手選考をしたのか?と思わずにはいられないフランスには、嘉納杯1、2位の福見、山岸を選び、谷は欠場しても体制に影響のない大会に選ぶこともできたはずである

 おそらくこれで谷選手は4月の選抜体重別大会まで大会には出場しないであろう。興味があるのは選抜のシードである。嘉納杯、フランス国際と大きな二つの国際大会で実績を残した(残すであろう)山岸、福見と、オリンピック銅メダルの谷がどういうシード順になるのか?

 シードは、対戦相手を決める意味でも重要だが、強化の姿勢を表すものでもある。第一シードは、コーチが最も世界に出したいと思っている選手をおく。だからこそ第一シードは負けても選考されることがある。

 これまで谷選手は様々いわれても世界で結果を残してきた。しかし、北京で敗れ、現在の48kg級は3選手が横一線にいると思われる。そういったなかで、今一度確認しておきたいのは、山岸、福見が勝てば選ばれるのか?本当にその可能性はあるのか?直接対決が多ければ、その力の違いは有無を言わさず、はっきりする。しかしながら、谷選手が出場する大会が少なく、対戦のチャンスは非常に少ないなかで判断しなければならないことが問題である実績で彼女にかなう選手はまずいない

 4月に世界選手権の選考が行われるが、この階級に限らず、お願いしたいのは、大会の前に選考の基準を公にし、どの選手がどの程度可能性があるのかを明らかにしてほしい実績とは、どの大会とどの大会をみるのか?勝てばチャンスがあるのか?以前にも書いたが、若い選手もベテランも生かしてこその強化であるし、その切磋琢磨が必ずや日本柔道の力の底上げとなると信じている

小川大使インタビュー

2009-01-26 16:35:32 | Weblog
 講道館で発行している「雑誌柔道」をご存知だろうか?一般の書店では手に入らないので、契約している、もしくは講道館の売店などで求めるしか今のところ方法がない。という不便さもあって、なかなか売れていないのが現状のようだ

 この売れない雑誌の編集長に昨年から私の大学の恩師が就任した。基本的に「熱い」性格の方なので、この雑誌をなんとか売れるような、多くの人たちに見てもらえるようにということで色々な人たちを集めて知恵を絞ってもらった。私もメンバーの一人で「柔道界の中だけではなく。外の人たちからも意見を聞くのがいいのでは?」といった発言をした。すると、この世界にありがちな「それならお前が言ってこい」という話になり、「山口香の一寸お邪魔します」という対談がスタートした

 記念すべき第一回はコマツの坂根会長にお願いをした。企業のトップであり、国際人としての立場から鋭い意見を頂戴した

 今日は2回目の対談で、外務省の小川郷太郎大使にお話を伺った。フランスを皮切りに、カンボジア、ロシア、韓国、フィリピン、デンマークなどに赴任された経歴を持ち、東大の柔道部出身、現在も週に一度は丸の内柔道倶楽部で汗を流され、全柔連の国際委員も勤められている。

 詳しい話の内容は是非「雑誌柔道3月号」でみていただきたいが、簡単に話の論点を紹介したい。

①日本の柔道はもっと国際的な活動をしていくべきである。そのためには、人材、資金が必要であり、その基盤を作るマネジメントが大切
②海外の国々と提携し、様々な事業を展開していく
③日本の考え、理念をもっと発信すべき
④日本の中には多くの人材が埋もれている。それらを発掘すること。
⑤国際社会では自我を主張することも大事だが相手を理解する寛容の精神も重要
⑥多くの若者に世界をみせる機会をつくり、国際人を養成する
⑦金メダルを獲ることも大事だが、それが一義的な目的になってはならない

上記した意外にも多くの示唆をいただいた。おそらく、多くの柔道家たちは同じ思いを持っているはずであろう。では、こういった思いをどうやって実現していくかである。

 オバマ大統領の就任式は、黒人でなくとも心動かされるものであった。そして、大きな勇気をもらった彼が成し遂げたことを考えれば、不可能はないとさえ思える。資金がない、人材がいない・・・と言い訳せずにできることから始めたい

 私の役目の一つは、まずは、柔道界内外の多くの人々に「今の柔道界の現実を知らせ、何が必要なのか、改革すべきことは何なのか」を伝えること。そして、賛同者、協力者を増やしていくこと。このブログもその一歩である

 何かの会で柔道家は本を読まない!と言っていた先生がいたが、そんなことはないと思いたい。小川さんが書かれた本は、大使として世界を回り、文化、歴史、言葉など大きな壁がありながらも現地にとけ込み、「世界に心を開く」「開かれていない日本のイメージ」を払拭されるための様々な考え、思いが詰まっている。柔道はまさに「世界に心を開き、共生していく必要がある」のであり、そのためのバイブルとなりうる本である。

 小川郷太郎著 「世界が終の棲み家」文芸社1575円

 講道館「雑誌柔道」も是非読んでほしい。私の対談企画も含めて様々な新しい企画がスタート!一冊560円。年間6720円。
 お問い合わせは03-3818-4191 編集部まで
 

講道館の役割2

2009-01-21 11:56:19 | Weblog
 講道館柔道は、嘉納治五郎を教祖とする一つの宗教のようなものである。だからこそ、その理念を世界に広め、柔道愛好家を増やしてきた

 講道館と全日本柔道連盟は同じ建物の中にあり、同じ人(嘉納行光氏)が館長と会長を務めているので、どこか同じような性格のものとなってしまっている。しかし、家元制度的な講道館と競技団体とが同じ性格のわけもなく、目的も違っている。その部分が明確にされていないことに問題がある

 全日本柔道連盟が、日本の選手を強化し金メダルを目指すことは多いに結構であるが講道館は違う。講道館は柔道を志す全ての柔道家に対して平等であるべきだと思う。極論をいえば、いかなる国の柔道家であっても柔道の理念を持っている人であれば講道館は喜ぶべきであろう

 昭和39年、東京オリンピック無差別級、神永対ヘーシンク。神永氏はヘーシンクに敗れ、日本中が日本柔道敗北と悲しんだ。もちろん、現象をみればそうだが私は日本柔道が敗れたとは思っていない。ヘーシンクは勝った直後に自分のチームのコーチたちが畳に上がってこようとするのを冷静にいさめている。ガッツポーズをすることもなく、飛び上がって喜ぶこともなく、冷静に礼をしている。つまり、ヘーシンクは講道館柔道の理念をきちんと持った柔道家であった。現象をしては日本人が敗れたかもしれないが本質は違う。日本人は悲しむべきではなく、ここまで講道館柔道が世界に広まって素晴らしい柔道家を生んだことを喜ぶできであろう

 最近では、日本人選手でも勝った瞬間にガッツポーズをしたり、飛び上がってはしゃいだり、敗者への配慮を欠いたものも多い。一般的には日本人が勝つことは嬉しいのが当たり前だが、講道館は違う評価をしてしかるべきだろう

 ということで、講道館が世界の柔道をリードしていく為に今すぐにでも為すべきだと思われることを挙げてみた

①アカデミーとしての役割:柔道についての歴史、文化、技術などの研究機関であるべきである。研究員をおき、研究の成果を世界に向けて発信すべき。
②教育機関としての役割:世界中の人たちが講道館で勉強をし、柔道の技術を磨く場所であるべき。私のアイデアは、奨学金を出して、年間5~10名の研修生を招く。彼らは柔道エリートとして自国に戻り、柔道普及に尽くす。
③昇段システムを世界に広げる:これはすでに各国連盟で段を出す制度になってしまった今となっては遅い気もするが、それでもやるべきである。講道館の人間が世界を回り、講習会及び試験を行って即日昇段をさせる。これが講道館の財政の基盤となる。
④毎年、もしくは2年に一度、柔道サミットを開催する:フランス、ドイツ、韓国、ロシアなど柔道の大国である国々を招き、サミットを行い、今後の柔道のあり方について検討し、提言を行う。こういった提言にIJFが耳を傾けなければならないようにしていくべき。

 他にも様々な提案があるが、大事なことは、講道館と全日本柔道連盟の役割の違いを明確にし、講道館は独自の柔道の更なる発展の為のビジョンを打ち出していくことである。講道館が世界の柔道家達に尊敬される為には、それだけのことをしていかなければならない。嘉納治五郎師範が生きておられたならば何をしただろうか?私たち子孫は、師範の教えを守るだけではなく、彼の思い、意志を継いでいかなければならない

講道館の役割

2009-01-19 12:44:57 | Weblog
 昨日から風邪を引いてしまい喉の調子が悪く、声が出ないあまり喋るなという天の声だろうか

 このブログも始めてから20日あまり、大勢の方から様々なご意見をいただき深く感謝しております誰かがやるではなく、ひとりひとりの方々が声をあげ、知恵をしぼり、道を探っていくことが大事だと考えますので今後ともご意見、ご感想をよろしくお願いいたします

 今日は、講道館について考えてみたい。以前から思いはいろいろあったが、なかなか発言の機会がなかった。まず、あの建物の外見と中の造り(ハード面)をなんとかしたい。文京シビックセンターと後楽園ドームなどに隣接しているが、一般の人が前を通っても講道館と気がつく人は少ないに違いない

 旧館の正面に嘉納治五郎師範の銅像があるが、立ち止まって見るほどの印象がない。また、全体的に暗い感じで中に入りにくい。もしかしたら、人が入ってこないようにわざとしているのかと思うぐらいである

 新館の1階は、以前までは銀行が入っていたが、現在ではホームセンターのドイトが入っている。建物から受ける印象は、講道館というよりもドイトのイメージの方が残念ながら強い。家賃収入を考えれば仕方がないのかもしれないが、母屋を取られたようでなんとも残念である

 講道館の財政状況が定かではないので言えない部分もあるが、いくつもの地下鉄が入り込んでいる立地を考えれば、もっと有効活用ができないだろうかと思う。ハードの面で言うならば、旧館の1階をもっと明るくしたい。

 入ったことのある人ならわかるが、とにかく暗い。建物が古いのもあるが、外から来る人のことや外観などを全く考えていない。今時、どんな小さな町の役場でももう少し奇麗なのでは?

 ハード面の改正アイデアを以下に示す

①入り口をもっと開放的にする為に、旧館の一階をカフェ&展示場にする・・・講道館に興味のない人でもお茶ができる。中では競技の映像や嘉納治五郎先生にまつわるビデオなどを流しておく。マガジンラックには講道館発行の雑誌柔道や近代柔道、スポーツ雑誌などを置く。反対側は簡単な展示場にして、講道館の歴史や嘉納治五郎に関しての資料や、選手のメダルのレプリカなどをおいてもいい。横には売店をおく。少年柔道の父兄や、外国人修行者、稽古で汗を流した人たちの憩いの場になることは間違いない。海外の柔道クラブにはそういった付帯施設が必ずある。

②誰が入ってきても簡単に理解できる受付をおく・・・旧館、新館ともに外部の人たちには不親切な感じを受ける。エレベーターの部分に各階の案内はあるものの、非常にわかりにくい。

③資料館、図書館のオープン・・・現在、新館の2階に設置してあるが、残念なことに月~金がオープンで土・日は開いていない。基本的にこういった施設はウィークデイよりも休日の方が見に来る人は多い。また、いまの設置状況では非常に入りにくい。

 こういったことは主にハード面だが、つまり、講道館が外部の人たち(地方から、世界各国から来た柔道愛好家、一般の人々)にどれだけサービス精神を持ってのぞんでいるかということである。「頭を下げてまでやってもらう必要はない」「見に来る人は勝手にどうぞ」といった上から目線をどうしても拭いきれない。講道館が努力していないというわけではない。しかし、そのアイデアとスピードの問題である。柔道が日本のみならず世界の宝であり、講道館はメッカである。そのことを考えた場合に、訪れた人が講道館を誇りに思えるような建物にしたい

 何かをするにはお金がかかるが、多くの柔道愛好家は講道館のためなら喜んで出すと私は思う。ただし、そこには明確なビジョンが示されなければならない。また、オバマ氏が行ったように、一人から多くの献金を集めるのではなく、一人千円でも構わない。そのほうが柔道を愛する多くの人たちの思いが集結するまた、こういったマネジメントは、柔道の大先生だからできるのではない。専門家が必要である。なにをするにも結局そこに行き当たってしまうが、柔道界はもっと風通しをよくして、外部の人たちから意見を聞き、伝統を守りつつも、改革を進めていくことが必要だ

 皆さんは講道館に行ったことがありますか?
 講道館をみてどう思いますか?

増えるジュニア大会

2009-01-16 18:57:24 | Weblog
 今年から世界選手権が毎年開催されることは報道などでも知られているが、世界ジュニア選手権(20歳以下)、その下の世界カデ選手権(ヨーロッパでは15-16歳)も毎年開催されることになったことは意外と知られていない。また、ユースオリンピック(14歳ー18歳)も2010年から開催されることが決定されている

 ジュニア世代の大会が大幅に増えることによって強化のあり方も、これまでとは違ったやり方を考えなければいけなくなるだろう。ジュニア世代は勝ち負けにこだわらず技術を身につけなければいけない時期ではあるが、大会が始まってしまえば建前はそうであっても「勝つ」ことが求められていくことは間違いない。全日本強化ジュニアに小学生の強化選手を入れるという話も噂で聞いた

 日本の取るべき道は二つあると思われる。国際柔道連盟に対してジュニア世代の大会のあり方を積極的に提案していく。例えば、ジュニアやカデの世界選手権は2年に一度にする、あるいは、カデの世界選手権は必要ないことを主張するなど、である。もうひとつは、大会には参加しても「試合に勝つこと」を目的としないことを徹底することである

 国内だけでもジュニア世代の大会が多すぎるのでは?という意見もある中で、今後、国際大会が増えていくことで様々な弊害が考えられる

①早い段階から試合で勝つための技術を身につけるため、技の基本を学ぶ時期がなく完成度が低くなる。
②大会が多くなれば稽古量も増え、怪我が多くなる。また怪我をしても休めない状況になる。
③体重のコントロールを小さい頃から行わなければならない。
④合宿、大会等で学業との両立が早い段階から阻害される。
⑤国内の主要な大会と国際大会が重なるケースが出てくる。

 他にもまだまだあると思われる。大きな弊害に比べて、ジュニア世代の大会を増やしていくメリットがあまり感じられない。また、世界大会でも選手を送るのに苦労している財政的に苦しい国々は開催国にもよるだろうが、ジュニアやカデには選手を遅れない可能性も高い。そうなれば、ヨーロッパと一部の国のための大会になってしまう可能性も出てくる

 こういった情報があまり発信されておらず、議論にもなっていないことにも多いに問題がある。カデ世界選手権が始まるなどいつ決まったのか?突然IJFのカレンダーにでてきた感じである

 今の柔道界の問題は、突然ルールが変わったり、突然大会のシステムが変わったりできることであろう。そういった変化に日本を含め各国が、現場がついていけるのだろうか?結局、選手が不利益を被ることになるのではないかと危惧してしまう

 以下、今年以降、行われるジュニア大会に関する情報

2009.8.6-9 世界カデ選手権(ハンガリー)
     *年齢区分、階級は詳しい情報はないのでヨーロッパで行われているものを参考に記す
      年齢:15-16歳 階級:女子-40,44,48,52,57,63,70,+70 男子-46,50,55,60,66,73,81,90,+90
      試合時間:3分 計量:前日 
      最低でも一人2試合できるトーナメント方式を採用

2009.10.22-25 世界ジュニア選手権大会(ギリシャ)
      年齢:20歳以下
      階級:シニアに準じるが、女子-44,男子-55が加わる可能性あり
      試合時間:4分 計量:当日

2010.8.14-26 第1回ユースオリンピック(シンガポール)26競技、約3500人規模、4年に一度開催
       年齢:14歳ー18歳
       柔道競技種目 男子:-55,-66,-81,-100 女子:-44,-52,-63,-70 ,チーム団体戦

ベテラン選手の扱い

2009-01-14 12:03:12 | Weblog
 全日本強化合宿が年明け早々に行われている(男子は既に終了)。篠原、園田両ヘッドコーチが実質的に活動し始めた。若い彼らが選手達にどのように自分の強化の姿勢を示し、実行していくかには大きな期待がかかっている

 昨日は女子合宿の公開日であったようで関連するニュースが載っていた。

 「塚田選手が怪我のため、フランス国際出場を取りやめる」
 「谷選手は合宿不参加、フランス国際に向け自身で調整」

 最近では企業、JOCの支援にっよって競技に専念できる環境が整い、以前よりも競技年齢が上がってきている。となると、実績を持ったベテラン選手の扱いが非常に難しい。わがままとは言わないまでも、ベテラン選手には結果を残してきた自信もあり、自身の信念に従って行動するので、全日本としての枠から外れてしまうことも多々ある。それが他の選手達に「特別扱い」と映るた場合にはコーチたちの求心力や信頼性も揺らぎかねない。片方でどんなに厳しいことを言っても他方で甘やかしていたのでは説得力に欠ける

 私個人の意見としては、ベテラン選手には「特別扱い」を容認しても良いと考えている。彼らはすでに鍛える時期を過ぎており、大切なことは現状の体力を維持し、怪我に対してのケアを徹底し、技術をさらに磨いていくことである。若い選手と同様に合宿で鍛えようなどとすれば壊れてしまうのが目に見えている。実績を残した選手達の多くは自分で練習環境を整えるだけのスタッフも抱えていることも大きい

 しかしながら、こういった「特別扱い」を認める以上はある種の契約のようなものが必要となるだろう。それは自分で勝手にやるのだから、指定された大会においては必ず結果を出すということである。自分勝手にやっておきながら、大会で「負けても選んでもらいたい」というのは少し虫がよすぎるこの部分が明確に示されれば若い選手達も納得して「特別扱い」を容認できるはずだ

 園田女子ヘッドコーチのコメントに「基本的に本人に任せているが、試合に出るからには負けられないだろうし、しっかり調整してくるだろう」とあった。前後の話が載っていなかったので何ともいえないが、「本人に任せて」出来るのであれば、全日本の存在自体、意味がなくなってしまう。選手みんなが「私に任せてください」と言い出したらそうするのかそういった意味では、もう一言、「自分でやるのであれば大会では必ず結果を出すことが求められる」と付け加えるべきだろう

 全日本の仕事は、すでに力をつけ、実績をあげた選手を鍛えるのではないと思っている。これから出て行く若い選手達を徹底的に鍛え上げる。そして、ベテランに挑戦させていく。ベテランといえども若い選手が出てくれば尻に火がつく。そういったベテランと若手の競争の図式を作っていくことこそが全体のレベルをあげていく

 柔道の場合には、水泳や陸上などと違い対人競技であり、誰と試合で当たるかなど組み合わせ、相性などでも結果は変わってくるため、一発勝負での選考というのは難しい。けれどもベテランには「わがまま」は最大限認めても「この試合だけは必ず勝て」という試練を示すことが重要である。負けても使ってもらえれば自然とモチベーションは下がる。強い選手は基本的に負けず嫌いなのでその部分に火をつけるやり方が賢い戦略だ。また、若い選手達も「勝てば道が開ける」と考えれば意気もあがる

 日本には海外に比べて優秀な選手が多い。海外のチームが筑波大学に合宿に来てたときにコーチが「これが日本の5番手なのか?連れて帰りたい」といっていたが、これは冗談ではない。実際、日本の5番手、6番手であっても世界においてはトップクラスの技術を持っている。ただし、彼らが試合に出て金メダルを獲れるかというと違う。彼らにはやはり5番手の意識しかない。試合で勝つということは「自分が勝つ」という強い思いが重要である。また、コーチも良い人材がいすぎてその選手の才能を見過ごしてしまうケースもある若い選手には「自分がやらなければ」という自覚を持たせることが何より大切であり、その気になれば力は一気に伸びる。そういった意味では、ベテランと若手、優れた人材の宝庫をどう生かすか、全日本の手腕が試される

現場と全日本のコミュニケーション

2009-01-13 19:03:49 | Weblog
 昨日も書いたように選手を本当の意味で手塩にかけて育て、強化しているのは中学校、高校、大学の先生方である。全日本は育てていただいた選手を預かって国際的に通用するようにパッケージして送り出すのが仕事である。だからこそ、全日本のスタッフには指導経験もさることながら実績のある人が多いのだと思う。世界をみて、戦ってきた人間にしかわからない部分を指導できる。また、世界で顔を知られていることも意外に役に立つことが多い。合宿や大会中に何か困ったことがあっても顔が知られていると助けてもらえることも結構ある

 そういった役割分担がしっかりできれば現場との関係もうまくいくはずである。しかしながら、全日本の立場や役割について現場の先生に説明したり、協力を求めたりするなどの接点が意外と少ないのが現実である。毎年行われているジュニアブロック合宿には現場の先生方にも参加をいただくが、じっくり話をする時間は少ない。

 全日本のコーチが威張っている訳ではないのだが、やはり敷居が高く感じてしまうようで、積極的に話をする人も少ないこういったコミュニケーション不足が原因で全日本への不信感を抱いている人もいる

 今は少なくなったのかもしれないが、全日本の合宿に行くと弱くなるからいかせない、とか、余計なことを教わってくるなどといって合宿に積極的に参加させない指導者さえいた

 また、中学生や高校生などは強化というよりは育成の段階なので、合宿や国際大会に選ばれても怪我を押して出てくる必要はない。にもかかわらず、選手や指導者のなかには欠席すると2度と選ばれないと思い、無理をしても参加させるケースもある

 以前にジュニアの強化について理念や方法、目的などを書いた文章をみたことがあるが、こういったものをもっと現場に見える形で発信するのも効果的であろう。合宿や大会の日程は全柔連のホームページに載っているが、どうやって選手を選考するか、どういった目的のものなのかなどがあるとわかりやすい

 またジュニアの国際大会にはできるだけ中学校や高校の先生を帯同もしくは見学に来てもらうことも良いと思う。世界で戦える選手を作ってほしいといいながら世界の柔道をしらなければ育てることは難しいお金を全柔連で負担できなくても派遣依頼を出せば熱意のある先生は自費でも参加すると思われる。海外では時間もゆっくり取れるのでコミュニケーションがとれる絶好の機会でもある

 一度全日本の強化の現場をみてもらえば、敷居も低く、しこりもなくなる。全日本の強化は、現場の協力なくしてはできない。これは柔道のみならずサッカーや野球などをみても同様である。全柔連の強化予算は、比較的たくさんある(男女合わせて4億円ほど)そういった意味では、強化の予算をそういった現場の指導者の教育?コミュニケーションにあてるのも有効な使い方だと思うがいかがなものだろうか

 中・高校の先生方にも全日本に参加する以上は、親子参観のようなものなので全日本のコーチたちに敬意を払ってもらうことは必要であろう。指導という面では現場の先生方の方がずっと上というケースもあるが、そこはひとつ年の功で全日本をたてていただくことが肝要である

 日本の柔道は、特に男子は非常に厳しい戦いが続き、これからもっと苦しくなることが予想される中、現場と全日本が一致団結して強化を行うことは重要であろう。そのためにはやはり全柔連がそういった場をどんどん提供していく、イニシアチブを取っていくことが大切だと思う。

多くの柔道愛好家に支えられて

2009-01-12 10:03:40 | Weblog
 昨日は、知人に誘われて千葉県内の道場の鏡開き及び創立60周年のお祝いに参加した。狭いながらも楽しい我が家というような言葉がぴったりの道場だった

 畳はわずかに30畳ほどで、その中に大勢の門下生達がひしめき合って暑いほどの熱気だった。館長の子供達はもちろん、親族も大勢集まって、家族の絆も感じた

 この時代に道場を続けていくのは難しいと思う。本人の熱意があっても家族や多くの人たちの協力がなければ継続は困難である。しかし、日本の柔道を根底で支えているのはこういった人たちの力の結集であることを忘れてはならない

 世界チャンピオン、オリンピックチャンピオンは素晴らしいが、同じように、あるいはそれ以上に地域で柔道の普及に貢献している人たちは評価されるべきである。嘉納治五郎師範は、柔道の究極の目的を「世の補益」としている。つまり、自分が修行し、強くなることも重要だがその鍛えた心と体を世の中の為に使いなさいということである。

 そういった意味では、町道場やスポーツ少年団などで毎日道着を着て、道場に立ち、指導をしておられる方々こそがその教えを実践されており、本当に頭が下がる思いである。こういったことが実は昇段などになかなか直接繁栄されないのも残念だとも思う

 海外において指導されている方も同じである。

 私は全日本のコーチも務めたが、選手が金メダルを獲ったからといってコーチが偉いわけでもなんでもない。ついつい表に出るのは強化コーチの顔だけなのでそう思わされてしまう部分もあり、実際、コーチの中にもそういった勘違いをしている人もいないわけではない全日本のコーチはいわば最後の飾り付けをしているにすぎない。選手を育てたのはあくまでも現場である。そのことを全日本のコーチは忘れてはいけないし、だからこそ預かった選手達を大事に育てることができる。

 世界が強くなったとはいっても日本は、北京五輪で男女で金メダル4個を獲得した。他国にはないこの底力は日本中に張り巡らされた道場という選手育成組織である。JOC(日本オリンピック委員会)はタレント発掘、一貫指導という方針を打ち出して活動を始めた。はっきりいって柔道にはそのシステムが何十年も前からある。
だからこそ強さを維持してこられた。これは決して全日本だけの強化の結果ではない

 それでは全日本柔道連盟や講道館がこういった草の根の力に報いているだろうか?もちろん、彼らは見返りを期待してやっているわけではない。しかし、小さな心遣いで「もっと頑張ろう」いう力を与えることは可能なのではないだろうかと常々思ってきた。君主が労いの言葉をかけてくれただけで家来は火の中にでも飛び込むことができる

 例えば、全日本の強化選手を育てた指導者(小学校、中学校、高校時代に教えた人)に全日本のマークの入ったTシャツやトレーナーを送るとか、優秀指導者認定証を出す?などなど、方法はある。さらに、町道場などで長年に渡って指導をしている人たちを毎年何十名かピックアップして全日本柔道選手権に招待する。招待状を出せば、旅費は出さずとも必ず来てくれると思う。人を動かすのはお金ではなく、気持ちを示すこと、心の問題である

 こういったアイデアを長年考えてきて、多くの人たちにも語ってきたが未だ実行に移されないのは何なのだろう。私の力不足もあるが、今までみんなが文句も言わずにやってきたのだから・・・という慢性的な安心感があるのだと思う。確かに何もしなくても日本の柔道のあり方は崩れないかもしれない。しかし、現状を維持すればいいのか?そうではない

 金メダルを獲ることも重要だが、柔道に関わる多くの人が「やりがい」と「熱い思い」を持ち続けて取り組んでいけるような環境を組織は作っていかなければならない。私の力ではどうにもならないことは多く、やりきれない気持ちになることも多いが、私自身の金メダルも多くの柔道家の頑張りに支えられて生まれたものであるので、その恩に報いる為にできることを精一杯やり、ダメでも言い続けることしかないと思っている