山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

祝52kg級中村美里金メダル

2009-08-28 16:22:09 | Weblog
 1日目の48kg級福見の金メダルに続いて2日目も中村美里が52kg級で金メダルを獲得した。海外のコーチ曰く「she has nothing special」確かに、彼女の柔道には派手なところはない。これは福見にも同じことがいえる。北京五輪63kg級金メダルの谷本のような派手な一本をとる技は少ない。試合後のパフォーマンスもそうだ。どちらも勝った瞬間も冷静だった。

 この二人が現在の日本女子の強さを象徴していると思う。特別な運動能力やセンスがなくても努力によって頂点に立つことができるのが柔道だ。(と私は思っている)二人をみていると大会ごとに確実に何かを身につけ進化している様子がわかる。一つ一つの技術が努力の結晶だからこそ自分の技術に自信が持てる。彼女たちのようなタイプの選手達がチャンピオンになることで若い選手達も「自分も頑張れば必ずチャンスがある」というモチベーションで稽古に励み、新たな可能性が生まれる。

 2日間をみて感じたのは、女子に関して言えば、勝つための条件は
①徹底したトレーニングに裏付けされた基礎体力・・外国選手とでも力負けしない体力、とくに体幹の力が重要。ゴールデンスコアや競った試合になっても負けないスタミナ(このスタミナこそが気持ちで負けない精神力にもつながる)
②早く強い組み手・・二人ともとにかく組むのが早かった。外国選手は組んでしまえば意外と技がでない。(ほとんどの選手がこのことは認識しているが競り合っても怖くないという自信がなければあのようには組み合えない)組み手で相手を制することができるので試合を常に支配できる。
③寝技に自信・・決勝まで5試合ほどを闘わなければならない状況で全て立ち技で勝負するのは厳しい。立ち技では力に差があっても勝負がもつれる場合もあるが、寝技は返される心配もなく明らかに力の差がでる。ポイントをリードした後の闘い方も楽になる。
④足技・・組み手が強く、相手を揺さぶれば足に力が入る。また、外国選手は下がり気味で後ろに重心があるケースが多く、足技が非常に効果的である。

 言うのは簡単だが、こういったポイントをきちんと自分のものにしている選手は意外と少ない。男子に関しても同じようなポイントでみることができる。ただし、男子の場合は女子以上に外国選手とのフィジカル面での差が大きく感じる。だからこそ、徹底した体力トレーニングは必須である。韓国選手が強いのは徹底して体を作り、その上に技術をのせているからだ。体力面での自信が競り合いを怖がらず組み合うことを恐れないことにもつながっていく。

 日本人の柔道の特徴は「力を抜く」ことだと思う。外国選手の乱取は常に試合のように激しい。それに比べると日本選手の乱取は軽い。外国選手のような乱取で技術が身につけることはある意味で難しいので真似をする必要はない。しかし、軽い乱取だけでは闘う体力が身につかないので、それとは別にトレーニングをやるしかない。三井住友海上の選手達のトレーニングをみたが、韓国選手のそれに近い。話をすることもなく淡々と延々とトレーニングが続く。日本人が負けると必ず反省の弁で「気持ちの弱さ」「組み手」といったことだ。私が考えるにこの両方は全て闘い抜く充分な体力があってこそ発揮されるものだろう。日本柔道の技術は今でも世界のトップにあるといっていい。しかし、昔と今では競技人口も増え、全体のレベルが上がり、1回戦から決勝戦と同じような緊張感の試合が続くこと、ルールが変わって常に攻め続ける姿勢が求められるなど技術だけで勝つことは難しい。

 今日は大会3日目。日本男子がここからどんな闘いを見せてくれるのか。奮起を期待したいところだが、勝つためには何が必要かという冷静な分析もしてほしい。おそらく日本男子が今後世界で闘っていくためには強化の考え方に大きな軌道修正が必要とされるような気がする。

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3 コメント

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教えてください (視聴者より)
2009-08-28 23:45:30
大束選手が投げられた時、相手選手が脳天から突っ込んでいる様に見えたんですが、内股ではないから反則ではないんですか?

それと松本選手と対戦したシルバ選手、ズボン短くないですか?

自分の間違いならいいんですが、疑問に思ったもので。
よろしくお願いします。
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お答え (山口 香)
2009-08-29 16:43:02
 頭から突っ込んだ場合、内股ではなくても反則になりますが、私の位置からみたところ、あの場合はそれにはあたらなかったように思います。また柔道着の大きさについては、現在は試合前にはチェックをおこなわずに、そのかわり審判がいつでもチェックでき、その際に問題があれば失格となるようになっています。日本人の感覚からすると外国人の柔道着は小さかったり短かったりみえますが、測ってみるとギリギリで大丈夫なケースが多いようです。
 柔道着の規定も襟の厚さや固さなど徐々に統一の規定ができていく方向です。
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お答え (視聴者より)
2009-08-30 00:03:15
頂きましてありがとうございました。
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