山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

オピニオン ボックス

2009-06-22 18:20:50 | Weblog
 今日は午前中、海外からのお客さんと会うために講道館に行ってきた。その人は日系のアメリカ人女性で福田敬子先生のドキュメンタリーを作ろうとしている

 彼女から、講道館のこと、段位のことなど、外部の人には最もな疑問をたくさんぶつけられ、答えに困ってしまうこともあった。例えば、「福田先生が10段に昇段する可能性はありますか」「10段というのはどうすれば受けることができるのですか」などなど。おそらく、こういった疑問に的確に明確に答えられる人はいないのではないか

 そんな話をしていて、ふと思いついたことがある。講道館のどこかに「オピニオン ボックス」を設置したらどうだろうかこれは定期的に館長に届けられるようにする。もちろん、お忙しいので読む時間も大変ではあろうが、新しい時代にあった講道館を組織、運営するためには、まず、多くの人たちから意見を聞くことではないだろうか。また、面と向かっては言えないこともあるし、直接話ができるチャンスのある人など本当に限られている

 地方の人も、講道館オピニオン ボックス宛で送付できるようにすればいい

 できること、できないこと、短期・長期で考えることなど問題は様々出てくると思うが、まずは人の意見を聞くという姿勢を見せることが重要だと思う。日系の彼女曰く「オバマ大統領の人気の一因は、人の話を聞く姿勢にある」という

 柔道を支えているのは、日本、そして世界に広がる柔道愛好家の人たちである。その多くの人たちに、柔道をさらに発展させていくことに「参加してもらう」、「手を貸してもらう」ことはすばらしいと私は思うのだが・・・

就任を祝う会

2009-06-18 23:07:39 | Weblog
 6月16日6時30分~東京ドームホテルにおいて「嘉納行光 講道館名誉館長・全日本柔道連盟名誉会長、上村春樹 講道館館長・全日本柔道連盟会長就任を祝う会」が催された出席者は800名を超える数であり、盛況であった。ほとんどは柔道関係者であったが、JOC・文部科学省、政財界、報道、スポンサー関係と幅広い層の人たちが集まっていた

 嘉納名誉館長(いつも困るのだが、講道館と全柔連の役職を兼ねておられる場合、どちらの肩書きで言えば良いのだろうか?やはり、講道館なのか?それとも?)の挨拶のなかで印象に残ったことをいくつか挙げると(→からは私の考え)

*嘉納名誉館長が館長に就任したのは48歳のとき→今回、上村氏が館長になって若返ったと言われたが、上村氏は現在58歳であるので、前回の人事を考えれば決して若いとは言えないということ。また、いかに長く前館長がその職にあったかということ。講道館の館長は任期8年再任を妨げないからか。
*講道館館長はこれまで世襲というイメージが強かったが、嘉納治五郎師範は欧米的な感覚、先進的なセンスを持たれていたので、決して世襲ということにはこだわっておられなかった→とすれば、柔道の専門家ではなかった現名誉会長が就任されたのは如何なる経緯だったのだろうか?
*私(嘉納氏)の役目は、それにふさわしい次期館長を選び、引き継ぐこと→話の中で、「私が選んだ」といった「私が見込んでお願いした」といったニュアンスの言葉があった。館長というのは後継者指名ができるということか?

とにもかくにも大役の任を降ろされてホッとされたのか、とてもお元気そうで、少し若返られたようにお見受けした

 上村新館長の挨拶が続いた。やはり、800名を前にしてということもあってか、普段以上に緊張されている様子が言葉の端々に感じられた。就任当初、メディア等へのインタビューでも述べられていたことを繰り返して述べられた。つまり、「嘉納治五郎師範の目指された人間教育」と「日本が強くあって世界の柔道をリードしていく。しっかり組んで一本をとる柔道を目指す。」という2点。確かに言われることは最もである。しかし、理念はそうとして、具体的には何をしていくのかという話が正直言って聞きたかった就任直後であれば、理念のみでも良いが、2ヶ月経った今、講道館や全柔連の問題点や課題などについて以前よりもより明確にわかったのではないかと推察できるからである

 もしかしたら、改革をすることは嘉納前会長のやられてきたことを否定してしまうのでは?と遠慮している?のだろうか。嘉納氏は、現在の柔道を取り巻く環境の変化は著しく、それに順応し、対処できる若い人材ということで上村氏を選んだというのだから遠慮する必要はない!と思う

 個人的にまず着手してもらいたいのは、講道館館長の任期の改正である。現在は「8年再任を妨げない」というもの。一般的に考えて8年は長過ぎる「任期は4年2期まで」がよいのではないか。8年でできないことは、それ以上長くてもできない。水も流れなければ淀んでしまう

 昇段についても改革を実行してもらいたい。上村氏は就任直前に嘉納前会長から特別昇段で9段となった。58歳での9段は異例の昇段である。このこと自体は決して悪いことではないと思うが、大事なのは特別昇段が行われた事由を述べることだろう。これがあれば全国の修業者が目標とできる。またその説明がないと、昇段は館長の専権事項で私物化している?との疑念も持たれかねない
男女ともに現在の昇段システムには問題が多い。その点についてはこのブログで何度も指摘している昇段は講道館の根幹を支えるものであるだけに、できるだけ早く改革に着手してもらいたい

 他にもたくさんあるが・・・変えることは難しいことはよく理解している(とくに柔道界では)。しかしながら、まずは改革ののろしのようなものをあげてもらいたい

 今回のパーティーに集まった人の多さを見れば、新しい改革への期待がわかる。私もその一人である。危惧しているのは、館長、会長の他、JOC、IJFと役職が多すぎてあまりにも多忙なことだ。能力があるのはわかるが体は残念ながら一つであり、時間も24時間しかないどの役職をとっても、それだけに専念しても大変なものである。他の役職があるから、こちらが疎かになったという訳にはいかない。次を担う人材を育てることも考えて、仕事を分配することも大事ではないかと思う。優秀な人材を発掘し、育てていくこと、その人間を生かすこともリーダーとしての資質だろう。忙しすぎては見えるものも見えなくなることもある

 最後に写真の説明をしたい。これはパーティーのお土産「本嘉納正宗」である。嘉納師範は灘の酒造家嘉納本家の一族に生まれ、嘉納本家は現在の菊正宗株式会社である。まだいただいていないが、さぞかし美味しいのであろうこの日はあいにくの雨であった。ありがたいお土産ではあったが持ち帰るには重い!と思ったのは私だけだろうか

世界マスターズ

2009-06-11 11:55:45 | Weblog
 5月28日~31日にかけて、ドイツ・シンデルフィンゲンにて世界マスターズ(ベテラン)選手権が開催された。30歳以上(過去2年間、国内外のIJF公式大会に出場していないこと)で5歳ごとに区分があり、7階級で行われた。男女ともにM10という区分は75歳以上である。この大会はIJFが主催で行われた第1回の大会である

 世界マスターズ柔道協会(WMJA)が主催し、毎年行われてきた世界マスターズ柔道選手権という大会があった。この大会は1999年から行われていて、今年も第11回大会が8月19日~23日、アメリカ・アトランタにて開催される。この大会には「形」の試合も行われる。昨年のベルギー大会には1200人を超える参加者があったという。日本にも「日本マスターズ柔道協会」があり、日本においてもマスターズ大会が開催されている

 IJF主催のマスターズも、WMJA主催のマスターズも大会の主旨や要項などは似たところが多いが、今のところ連携はなく、それぞれが独自に大会を行っている。WMJAは、そのことに対しては残念であるとしながらも、「マスターズ世代の選手達には年に2回も国際的な大会が開かれ、チャンスが与えられたということを好意的に考えよう」といったコメントがHPに載っていた

 今後、この二つの大会がどのような連携をしていくのかわからないが、できることならば、IJFが、これまで大会を盛り上げてきたWMJAに敬意を表して、協力して、それぞれの大会が盛り上がるようになればいいと思う

 今回の大会には、情報が流れたのが遅かったこともあってか、日本からは10人(すべて男性)の参加に留まった。60歳以上の比較的高齢の方(最高齢は75歳)が多かったようだ。ドイツということで、長旅、時差などで体調を崩されたり、試合で怪我をしたりなどといった心配がされるが、実際、帯同した役員に聞いたところ、参加者は「普段から稽古をしているし、畳の上で死ねるなら本望!」という胆のすわった方々らしい試合数はともかく、参加者全員がメダルを獲得されたそうである

 参加国は48カ国、参加選手数は875名(男性763、女性112)。年齢区分と階級区分があるので結構な試合数であっただろうと推察できる。

 柔道は剣道と比較して「生涯スポーツとなりにくいのでは?」という指摘もある。実際、剣道家に比べて、競技を離れると柔道から遠ざかってしまう人も少なくないのが事実である。しかし、柔道が今後さらに発展していくためには、こういったベテラン達にももっとスポットをあてていくことが必要だろう

 前回書いたように、成人になってから参加する大会がほとんどない、という現実もある。皆が競技を目指すことはないが、それぞれのライフステージにおいて大会に参加でき、自分を試すという機会は提供していくのが望ましい。ママさんバレーは非常に盛んだが、将来は、ママさん柔道大会などもあっていい

 今回は日本から男性だけの参加者だったが、来年は女性にも多く参加してもらいたい。といっても、人にばかり勧めて自分は?と言われては困るので、来年は参加することを目標にしたい。そうなると自分一人では淋しいので、大学の後輩達に号令をかけて、今からトレーニングを開始し、旅費を積み立てるように言おうまあ、このブログを読んでいれば、言われなくても準備をするとは思うが!

 できればこういった大会では、試合のみではなく、柔道の将来について世界の人たちで語り合うファーラムや研究会なども取り入れられるようになればいいと思う。そういった提案をするためにも、やはり来年は視察をかねていってみようちなみに来年の開催はどこだろう?

女性の指導者養成

2009-06-05 08:46:56 | Weblog
 6月2日、3日と講道館において全日本柔道連盟主催(総務委員会、指導者養成プロジェクト委員会合同)の女性指導者養成セミナーが開催された。各都道府県から2名、100名近い女性指導者が集まった。全柔連が主催する女性セミナーは初めてであり、集まった年齢幅は非常に大きく、1978年に初めて開催された全日本女子選手権を思い起こさせた

 セミナーの内容は、初日が主に総務委員会が担当し、登録に関する説明、その後、参加者同士のディスカッションなどが行われた。私は、初日は事情があって参加しなかったがディスカッションは非常に活発で興味深い発言も多かったという

 次の日参加者から聞きかじったところ、「登録すると何かメリットがないと・・」「登録費が高い。ファミリー割引は?」、「女性が指導者として活動したいと思っても、出産や育児などの負担が大きい。そういった現状に対して全柔連としてはどのようなサポートを考えているのか」とか「4段の昇段試験を受けたが県の柔連には『女子の4段は男子の6段に相当するのだから昇段料は6段のものと同じとする』と言われた」とか「成人の女性が子供などと始め、初段をとっても、その人たちが参加できるような試合がないので、登録もその時だけになってしまう。柔道を続ける楽しみもすくない」などなどの意見があったという。女性ならではの問題やアイデアがある

 2日目は、歴史や指導観、体力トレーニングなどの講義、パネルディスカッションが行われた。

 初日は午後から、2日目は1時解散という実質1日のセミナーであったが、内容は非常に盛りだくさんであった。2日目を見た限りでは、内容はよかったが、参加者たちが常に受身で話を聞く時間が長かったのが残念だった。各県の参加者たちは、意欲も高く、実際に抱えている問題も多くあるように見えただけに、そういったものに対していかに全柔連が聞き取りをし、答えていけるかが今後は重要だと思われた

 女性の指導者養成といっても私の考え方は、指導者に女性も男性もない。学校の先生を要請するのに男性、女性を区別しないのと同じである。確かに女子の競技は男子に比べると歴史は浅いがすでに優秀な指導者や審判などを多く排出している

 問題となるのは、いかに優秀な女性の指導者を作るのかに特化するのではなく、女性が抱えている現実の問題に対してどのようなサポートができるか、そういったシステムを構築できるかであるパネラーになった元全日本チームのコーチは、合宿のたびに実家に子供を預けていったという。しかし、第2子を身ごもった時点でコーチを続けることを断念させられた?つまり、妊娠、出産に伴ってコーチとしての空白期間ができるという理由から交代を余儀なくされた。つまり、全柔連のコーチに産休は認められなかったということである。彼女は今3児の母となり、母校の柔道部(旦那さんが監督を務める)で女子のコーチをしている。試合の時は子供を会場に連れて行って学生に見てもらったりしている。

 現状では、柔道界に限らず、スポーツ界で女性が指導者として活躍しようと思っても、出産、育児との両立へのサポート体制はほとんどないといっていい。個人の情熱や負担に大きく依存しているパネラーのJOC副会長福田氏はナショナルトレーニングセンターには育児室や託児所などの設置を検討しているといた前向きな発言もあった女性の指導者を養成してもシステムが整わなければ、その人材を生かすことができない

 講義やパネルディスカッションの中では、全柔連の理事に女性がいないことも指摘された。競技化が遅れたことも差し引いても、ここまで女子柔道が盛んになっていることを考えれば、そろそろ女子の理事が採用されてもいい。それに足る人物がいるかどうかが議論されるだろうが、大事なのは女性が存在することである。なぜならば、女性が抱えている問題については正直言って男性にはあまり関心がなく、議論の対象にもならないことが多い。女性の昇段規定や指導者についてもそうである。他の競技団体でも女性の理事をおいていないほうが珍しくなってきている現状もある。サッカーがJリーグを立ち上げる時に女性の視点を必要として女性の理事を採用した。強化の面にかかわらず、観客動員、普及といった多くの面で女性の視点は功を奏している。これからのスポーツは、女性、母親に指示されなければ発展はのぞめない。このことを競技連盟がどのように認識し、取り組んでいくかが問われる

 女性の問題ばかりではなく、少年柔道や学校柔道などそれぞれの指導者や現場が抱えている問題がある。これに対して全柔連は、それぞれの声を聞きながら、いかに対応策を示していけるかが重要である。今回のセミナーで多くの意見が述べられたが、そういった貴重な意見を集約し、それに対しての全柔連側の今後の対応など見解がホームページなどに載ればすばらしい。できること、できないこと、短期・長期で取り組むべきことがあるが、大事なのは現場の意見を取り込みながら進んでいく姿勢をみせることで理念を共有し、同じ目標に向かっていると感じさせることができる