山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

外国選手受け入れ

2010-08-31 14:56:11 | Weblog
 世界選手権がいよいよ間近に迫ってきて各国代表選手達も続々と日本に到着している。大会の受け入れは大会の数日前となるために多くの国は時差調整などを行うために早めに到着し、調整を行う。

 こういった場合に問題となるのは受け入れ先である。筑波大学では現時点で12カ国110名を超える外国チームを受け入れている。日本は柔道大国であり、多くの大学や実業団が強いチームを持っているが以外にも海外からのチームを受け入れているところは少ない。最も問題となるのは宿泊である。道場での練習は受け入れることができたとしても宿泊施設が整っていないので断らざるをえないケースも多い。

 今回は東京での開催のため、東京に宿泊して練習は大学などに通うということも考えられるが、自分たちで宿泊を手配してというのはハードルが高いようである。ホストである全柔連も大会の運営、役員の受け入れなどで手がいっぱいで大会期間中以外の面倒までは見られないのが現状のようである。

 外国チームを受け入れるのは大変なことも多い。事前のメールでのやり取りから始まって、人数の変更や、宿泊所などへの不満、トラブルなどなど。今回は週末に大学生の大会(個人の地区予選)があるという理由で受け入れを断った大学もあったようだ。確かに断ってしまうのは簡単だが、ホスト国としての役割と柔道大国日本の果たすべき国際交流の役割などを考えるとそうもいかない部分もある。

 自分たちの道場で練習した外国選手が活躍してくれるのをみるのも嬉しい。また、各国の代表選手達と練習ができることは学生達にとって大きな経験となる。

 今回、52年ぶりに東京で世界選手権が開催されるわけだが、日本といえども海外のチームを受け入れるホスピタリティーが充実していないということがわかる。遠い国へ来る場合にはある程度の猶予を持って到着するわけだが、自分たち同士で練習するには長過ぎるので練習相手が必要になる。日本の場合は練習相手までの現地に連れていってしまうからそういった問題は発生しないが他の国はそうはいかない。また、滞在期間が長くなれば高いホテルに滞在するわけにもいかない。そういった彼らの要求を満たす受け入れ環境(場所)が非常に少ない。そのため、受け入れが可能な幾つかの大学に負担が集中する。

 強い大学ではなくてもチャンスがあれば海外のチームを受け入れても良いと思っているところもあるはずである。しかしながら、両者をつなぐシステムがない。全柔連もしくは学生柔道連盟がイニシアチブをとってやるのがベストなのだろうが、なかなか進まないのが現状である。

 選手に限らず、応援や視察など多くの海外の柔道関係者も大会に訪れるだろう。その中には、機会があれば道場や大学で柔道をやりたいと思っている人もいるはずである。私も知り合いからどこか紹介してくれるように頼まれた。大会期間中ではなくとも日本で柔道を練習したいと思っている人は大勢いる。ただし、彼らの多くはどこに尋ねたらいいのか、コネクションがなくてあきらめている。

 日本が柔道においてリーダーシップをとっていくためには日本柔道の考え方を世界の人に伝えていく必要がある。そういった機会を積極的に作っていくことが必要である。こういった大きな大会を機会に皆がホストとしての意識を持って何ができるかを考えてくれることを願いたい。

 

ヘーシンク氏

2010-08-28 15:09:12 | Weblog
 1964年東京オリンピック、無差別級で神永昭夫氏(故人)を破って金メダルを獲得したアントン・ヘーシンク氏(オランダ)が27日オランダの病院でお亡くなりになった。76歳だった。

 日本にとって東京オリンピックでの敗戦は苦々しいものとなったが、初めての五輪での彼の優勝が世界に柔道を広めることになったといっても過言ではない。また、五輪で優勝の瞬間、喜び、畳に上がろうとする選手を押しとどめた姿は柔道の心を理解していたことを示している。

 先日、1956年東京世界選手権、1961年パリ世界選手権のビデオを見たが、ヘーシンク氏はとてもスリムで姿勢もよく美しい柔道をしていた。

 心よりご冥福をお祈りしたい。

歴史は眠らない

2010-08-28 11:58:46 | Weblog
 NHK教育テレビで以下のような日程で柔道の番組があるようですのでご案内します。

番組名は「歴史は眠らない 柔の道」
第1回 「柔術から柔道へ」8月31日(火)22:25~
第2回 「国家と柔道」9月7日(火)22:25~
第3回 「スポーツとして世界へ」9月14日(火)22:25~
第4回 「柔道精神と国際ルール」9月21日(火)22:25~

キッズフェスタ

2010-08-20 13:49:38 | Weblog
 昨日は有楽町東京国際フォーラムにて開催中の「キッズフェスタ」において世界柔道の宣伝を兼ねて「子ども柔道教室」を行った。

 展示場に畳を敷き、未経験の小学生を対象に1時間の柔道入門を3回行った。それぞれ整理券を配って16名を定員とした。初めて柔道衣を着た子供達は少し緊張の面持ちであったが、時間が経つに連れて自信に満ちた表情に変わっていくのがわかる。

 子供達には柔道では「礼」を大切にしていること、簡単な受け身、寝技の攻防、組み合って動く(私は「柔道ダンス」と命名!)などまでを体験してもらった。1時間はあっという間で物足りなさを残して終了。

 今回は大学生2名に手伝ってもらった。この二人は以前にも私のキッズじゅうどうを手伝ってもらったこともあって子どもの扱いが非常にうまい。一人の女の子などはファンになってしまったらしく自分の回が終わって次の回も見に来ていたぐらいである。近頃では両親ともに忙しく、また住宅事情などもあって、身体を使って子どもと遊んであげることが少なくなっているように思う。今回参加した子供達は柔道体験ということもあるがそれ以上に大きなお兄さん、お姉さんに身体ごとぶつかっていくことが楽しかったようだ。

 参加者は友達同士や兄弟での参加もあったが、組み合うのは全く初めての子ども達である。お互いの名前を覚えて握手をしてから始めた。終わる頃にはすっかり友達になったらしく離れ難い様子で長い時間話込んでいた。すぐに友達になってしまう子どもの能力に改めてびっくりした。

 教室をやっていると通りすがりの外国人も足を止めて見学していた。彼らには日本の柔道の指導はどんな風に映ったのだろうか?

 1日3クールの子ども相手の柔道教室は結構ハードであったが、子供達がブースを去り難く興奮して親に話をしている姿を見ると充実感があった。手伝ってくれた大学生も同じ充実感があったようで、「また機会があれば是非お手伝いします」という有り難い言葉をもらった。

 おそらく昨日参加してくれた子供達は世界選手権をテレビで見てくれると思う。様々な宣伝の方法もあるだろうが、こうやって少しずつ柔道ファンを増やしていく地道な活動も大事なのだろう。

世界選手権

2010-08-16 12:18:00 | Weblog
 お盆も終わり、世界選手権もいよいよ間近に迫ってきた感がある。いろいろなところに出かけると、「今年は東京で世界選手権がありますから」と宣伝しているのだが「そうなんですか」とか「「知らなかった」と世間の反応が今ひとつなのが気にかかる。

 オリンピック、ワールドカップに比べれば盛り上がりがないのは理解できるが、それにしても・・・・

 まあ、大会前に盛り上がって始まってみたら成績不振でがっかりされるよりは、知らなかったけれど見てみたら凄いということで徐々に盛り上がっていったほうが選手達にも良いのかもしれない。

 今大会は各国2名のエントリーが認められるが出場選手数がどのぐらい増えるのかも興味がある。全階級2名のエントリーをする国は少ないだろうが階級によっては2名のエントリーをする国も多いと思われ、そうなればやはり人数は大幅に増えるのだろうか。

 ランキング制が導入されて今年からオリンピックにポイントがカウントされるとあって選手も獲得に必死だろう。世界選手権のポイントは大きいが、敗者復活もないので自信のない国や選手はお金をかけて負けにくるよりはポイントは低いがレベルの低い勝つ可能性のある大会にシフトする可能性もある。

 そろそろエントリーも閉め切られて出場国数、参加者数などがわかってくるはずだが、興味があるところだ。

ブログの目的

2010-08-09 19:32:28 | Weblog
 このブログを立ち上げて1年半あまりが経過しています。これまで多くの方々に読んでいただき議論をしていただきました。私自身が勉強になることも多く、感謝しています。

 このブログの目的は、柔道を考え、より良い形やシステムを作っていきたいと言うものです。柔道を否定したりするものではありません。私の書くことに対して反対意見を述べられたり、議論をいただくことは構いませんが、柔道自体を否定的に捉えるような発言は非常に遺憾です。

 柔道を愛し、柔道を良くするために建設的なご意見をいただくことは大歓迎ですが、柔道自体に文句を言われたり、否定的な発言は違うブログで議論していただきたく思います。

 柔道や指導者に問題がないとは申しませんが、議論は「柔道をよくする」ためのものでありたいと考えています。甚だ恐縮ではありますが、是非ご理解をいただきたくお願いいたします。

情熱

2010-08-06 22:32:06 | Weblog
 先日、ある学校の先生と話をしていたら、中国の有名大学の付属中学校、高校の先生が視察に来ていたときの話をしてくれた。中国では受験戦争が加熱して通常学校のカリキュラムにおかれている体育の授業を他の科目に置き換えて授業を行っている学校が多いという。

 この付属学校はエリートスクールであることから将来の中国を背負う人材育成を担っているという。そんな状況で勉強ばかりさせていて人格的にその任を担う人物が育つのかという漠然とした疑問を持っており、日本の体育・スポーツ環境を視察に来たそうである。

 放課後であったために、体育館、校庭はもちろん、通路などあちらこちらで熱心にスポーツに取り組んでいる風景をみてビックリしていたという。そして質問したのは
「指導されている先生達に学校はどのぐらい指導料を支払っているのか。」
これに対して
「放課後の課外活動は教育活動の一貫だから特別な支給はしていない」と答えたという。
相手はこの答えにとても驚いたという。そこで日本の先生は
「この先生方は自分たちが生徒だった時にも熱心な先生に教えてもらっていたに違いない。そして、そういった先生方に憧れもあって先生になり、クラブを指導するのは当たり前という感覚があるのだと思う」と答えた。
中国の先生は「まあ、そういうことなのか」と答えながらも納得していなかったようである。

 年配の方々に言わせれば昔の先生は聖職であり、素晴らしい先生が多かったが最近では・・・となるのかもしれない。しかし、私の知る限り、多くの先生方は心血を注いで指導をされている。夏休みは合宿、試合の季節である。先生は生徒達の交通費を浮かすためにバスを運転して全国どこにでも行く。試合に勝ったり、強い選手を育てれば自分の名誉にもなるが、「名誉をあげるからやれ」と言われても断りたくなるような過酷な毎日である。お金をもらうどころか、出ていくことのほうが多い。

 熱心なあまり「やりすぎ」てしまう指導者もいる。それでも、選手をいじめるためにやっている指導者などいない。指導のやり方について間違っているところは矯正していく必要はある。しかし、指導法についていえば「これが正しい」という方法もない。

 私の持論は「良い指導者は、さらに良い指導者を生む」である。熱心な指導者に教わった選手は、将来自らも指導者になりたいと思うということである。熱心に、愛情をかけて教わった生徒達は自分が指導者になったとき、同じように生徒達に愛情を注ぐ。

 日本の柔道が長い歴史の中で競技力を維持しながら脈々とつながってきたことは、指導者の力が大きい。指導者が次の指導者(選手)にタスキを渡してきたからである。その原動力は選手を強く逞しく育てたいと思う「情熱」である。

 相撲界がそうであるように柔道界にも「柔道界の常識は世間の非常識?」と思えるようなことがないとはいえない。専門的な世界には少なからずあるはずだ。狭い見識で伝統という隠れ蓑に甘んじてきたところもあるだろう。もっと外部の人にも入ってもらってご意見をいただき、耳を傾けなければならない。

 変革すべきところは積極的に取り組むべきである。ただし、自虐的にばかりなる必要もない。日本には世界に誇るべき指導者が大勢いる。強い道場、強い学校に限らない。暑くても寒くても毎日道場に立っている指導者が日本の柔道を支えている。私はそんな指導者こそ財産であると思うし、心から誇りに思う。

無過失責任

2010-08-01 16:14:23 | Weblog
 先日、日本スポーツ学会で代表理事を務める永井憲一(法政大学名誉教授)の「国民のスポーツ権とスポーツ文化ーその現在と未来を考えるー」という講演を聴いた。永井先生は憲法・教育法の専門家で東京大学他国内30あまりの大学で講師を務められている。スポーツ権という言葉を使い始め、早い時期からスポーツ省庁の必要性に言及された方である。

 今回の演題を聞いた時に、さぞや固い話で眠くなってしまうのでは・・・と思って行ったのだが、話はわかりやすく、眠くなる暇もなくあっという間の1時間であった。憲法の保証しているどの部分がスポーツをする権利に言及しているのか、なぜ権利として認める必要があるかなど、これまで深く考えてみたことのなかった根本の部分がよく理解できた。

 スポーツと法律というと、はじめのうちは学校での事故などを扱う弁護士の関心が強かったという。そこから学校での事故について話があった。日本の法律の問題は、「過失主義」にあるという。例えば柔道の練習中に起きた事故の場合、教師(学校)に過失があったと証明できなければ賠償されない。先生は学校で起きたいかなる事故や怪我であっても「過失主義」ではなく、「無過失責任」とするべきだと説かれた。子どもは、冒険や挑戦することによって成長していく。それらは当然リスクを伴うケースが多い。確かに小さい子どもは親がビックリするような高いところから飛び降りたりするものだ。学校は子供達が挑戦する場であるのだから、そこで起きた怪我や事故(健康が損なわれた場合)については過失があろうとなかろうと国の責任として保障するべきであるという。

 柔道現場で事故が多く報告されていることもあって、「無過失責任」という考え方に目から鱗のような感覚を得た。学校や教師は、安全管理を徹底し、注意を怠らないことは当たり前であるが、不幸にも事故が発生してしまうことはある。深刻な事故が起きたケースをみると、保護者は当然のことながら原因を究明しようとするが教師や学校側は過失があったと指摘されることを恐れ、情報をすべてオープンにしようとしないことが多い。その結果、事故の原因がきちんと検証されるのに時間がかかり、情報が操作されてしまうことも少なくないのではないか。原因が究明されなければ事故の再発を防ぐこともできない。

 もちろん、怪我や事故といってもケースによって違いはあると思う。しかしながら、障害が残ってしまったケースなどは過失の有無にかかわらず保障が行われれば裁判などで長い期間争うという二次的な負担が大きく軽減されるのではないだろうか。また、教師にとっても「何か事故が起きたら・・」という漠然とした不安が軽減される。

 怪我や事故を未然に防ぐ努力を怠ってはならない。しかし、同時に子供達が挑戦する機会が損なわれることもあってはならない。そういったことから、永井先生の言われた「過失主義」から「無過失責任」という考え方に法律を変えていくということも考えていくべきではないだろうか。スポーツ選手から国会議員になった方々には是非競技スポーツのみならず、こういった部分にも着目してもらい議論を進めてもらいたいと願う