昨日は日本武道館で男子の全日本選手権が行われた。勢いのある穴井選手の2連覇なるか、鈴木選手、棟田選手などベテランが意地を見せるかなどが注目された。しかしながら、やはりスター不在であることは否めず、柔道界はともかく世間の注目は薄かったように思う。
結果は、高橋和彦選手(新日本製鉄)が決勝で立山広喜選手(日本中央競馬会)を破って初優勝を飾った。高橋選手は準々決勝で鈴木選手を破り、準決勝では穴井選手を破っての優勝だけに価値は高い。立て続けに強豪と対戦し、フルに闘い、決勝戦では体力的にも極限の状況であったと思われるが「勝ちたい」という執念が感じられた。疲労の色は濃くとも前に出る姿勢は失わず、闘い抜いた姿勢には拍手を送りたい
確かに井上康生、鈴木桂治、穴井隆将などといった歴代のチャンピオンたちに比べれば地味な印象は否めない。しかし、このような選手が優勝することも意味がある。誰もが好むのは「一本をとれる技」を持つ選手であるが、一方で柔道はいわゆる「柔道センス」が足りなくても努力によってチャンピオンになれる競技でもある。実はそこが重要なポイントでもある。
高橋選手は優勝の瞬間も喜びを爆発させることもなく、泣くこともなく、冷静で謙虚であった。最近は過剰なパフォーマンスが多く見られる中で新鮮だった。世界選手権のことを聞かれた時に「自分の力ではまだ勝てない」と語っていた。実際にその通りだと思うが、今大会で見せてくれた気迫と執念で世界選手権でも頂点に立ってほしい。それにはまず、本人も周囲も「世界で勝つ」という意識を持つことだろう。
日本選手は技がきれ、見栄えのいい選手を評価し、そうでない選手は低く見る傾向がある。そういったイメージが本来「強くなれる選手も伸ばしきれない」といったことはないだろうか?現在、この100kg超級で頂点にいるリネール選手(フランス)が技がきれるかといえば、そんなことはない。海外の場合は、その選手の長所を最大限引き出して「勝つ」柔道を目指させる。「勝つ」ことによって選手に自信がつき、柔道自体も良くなってくる。
決勝を争った立山選手も体格的には日本人離れしており、海外の選手と比べても見劣りしない。こういった選手たちをどうやって世界一のレベルまで育て上げていくかが今後は問われていくだろう。そういった意味では、全日本が国士舘大学に協力要請をして、重量級特別担当コーチをお願いするのも手である。これまで育てたコーチが最後の仕上げに関われば効果は必ずあるはずである。これは重量級に限ったことではないが、現場のコーチたちの手をもっと借りて強化を行っていくことをそろそろ考えるべきだろう。コーチの役目は叱ったり、脅かしたりするばかりではなく、常に側にいてあげること、共に歩むことだと思う。全日本のコーチは「お尻をたたく」役目だろうが、それだけでは選手は・・・
試合は全般に「さすが男子の全日本」と思わせる試合が多く見られた。見事な一本勝ちもあった。そのせいか、試合進行が早く、テレビの放映上の都合で、準々決勝前に40分間の休憩が入ってしまい、会場からはため息が漏れた。試合進行は読めないものだが、テレビ放映の関係で4時から準々決勝と決まっているならそれを前もってアナウンスしておくほうが良いのではないか。また、今回は小さなモニターで過去の全日本の映像が流されていたが、モニターが小さすぎて見ている人は少なかった。会場に足を運んでくれた人のためのサービスがやはり足りないと感じる。
来年からはこの大会も国際審判規定で行われる。そういった意味でも区切りの大会であった。国際審判の経験がある審判員も多く、また、すでに国際規定への移行がわかっているからか、昨年よりは国際規定に近い感覚での審判が多かったように思われた。1試合場で皆が注目している試合を捌くのは想像する以上に緊張し、プレッシャーがあるに違いない。とくに無差別の大会は体重差が大きな試合も多く、観客の多くは判官びいきで軽量の方を応援する傾向にある。そういった中で観客にとっては「あれ?」という判定もあった。国際規定になれば自動的にゴールデンスコアの延長戦が導入されるので「判定」の数も少なくなるに違いない。
準々決勝戦で微妙な判定で敗れた高木海帆選手(東海大学)は会場を多いに湧かせた。19歳と若く、100kg級で世界選手権代表にも選ばれている。こういった若い選手の活躍は多いに楽しみである。国際規定が採用されれば「反則」も早くなる。今大会もそうであるが、勝ち上がっていくためには精神的にも肉体的にもタフさが求められる。そういった意味でベテラン勢には厳しい状況となると思われる。
最後にもうひとつ、決勝戦は福岡県大牟田高校出身、同級生同士の対決という珍しい対戦であった。決勝を捌いた主審も同校の出身というおまけもついた。これは粋な計らいではなく、たまたまだろうが
全日本選手権で優勝すると選手は特別昇段がある。高橋選手は現在4段だが5段となる。今回のように同一高校から決勝に上がるというケースは非常に稀である(おそらく過去には国士舘高校ぐらいだろうか)。この二人を指導された先生にも是非特別昇段をお願いしたい。もちろん、今回のケースのみならず、優れた選手を育ててくださった指導者の方に敬意を払う意味で、指導者への特別昇段も積極的に行ってもらいたい。さらに提案したいのは、今年、東京で開催される世界選手権に出場する選手の指導者は全員招待してもらいたい。予算の都合はあると思うので、旅費、宿泊費に関しては自費でということも仕方がないかもしれないが、チケットを用意し「是非お越し下さい」という招待をしてもらいたい。
ここ数年、男子は厳しい闘いが続いているが、全日本を見る限り、「柔道の醍醐味」を伝えることのできる試合がたくさんあった。柔道もまだまだ捨てたものではない!ただし、私たちは柔道界の外の人にも柔道の魅力をわかってもらう努力を怠ってはならない
結果は、高橋和彦選手(新日本製鉄)が決勝で立山広喜選手(日本中央競馬会)を破って初優勝を飾った。高橋選手は準々決勝で鈴木選手を破り、準決勝では穴井選手を破っての優勝だけに価値は高い。立て続けに強豪と対戦し、フルに闘い、決勝戦では体力的にも極限の状況であったと思われるが「勝ちたい」という執念が感じられた。疲労の色は濃くとも前に出る姿勢は失わず、闘い抜いた姿勢には拍手を送りたい
確かに井上康生、鈴木桂治、穴井隆将などといった歴代のチャンピオンたちに比べれば地味な印象は否めない。しかし、このような選手が優勝することも意味がある。誰もが好むのは「一本をとれる技」を持つ選手であるが、一方で柔道はいわゆる「柔道センス」が足りなくても努力によってチャンピオンになれる競技でもある。実はそこが重要なポイントでもある。
高橋選手は優勝の瞬間も喜びを爆発させることもなく、泣くこともなく、冷静で謙虚であった。最近は過剰なパフォーマンスが多く見られる中で新鮮だった。世界選手権のことを聞かれた時に「自分の力ではまだ勝てない」と語っていた。実際にその通りだと思うが、今大会で見せてくれた気迫と執念で世界選手権でも頂点に立ってほしい。それにはまず、本人も周囲も「世界で勝つ」という意識を持つことだろう。
日本選手は技がきれ、見栄えのいい選手を評価し、そうでない選手は低く見る傾向がある。そういったイメージが本来「強くなれる選手も伸ばしきれない」といったことはないだろうか?現在、この100kg超級で頂点にいるリネール選手(フランス)が技がきれるかといえば、そんなことはない。海外の場合は、その選手の長所を最大限引き出して「勝つ」柔道を目指させる。「勝つ」ことによって選手に自信がつき、柔道自体も良くなってくる。
決勝を争った立山選手も体格的には日本人離れしており、海外の選手と比べても見劣りしない。こういった選手たちをどうやって世界一のレベルまで育て上げていくかが今後は問われていくだろう。そういった意味では、全日本が国士舘大学に協力要請をして、重量級特別担当コーチをお願いするのも手である。これまで育てたコーチが最後の仕上げに関われば効果は必ずあるはずである。これは重量級に限ったことではないが、現場のコーチたちの手をもっと借りて強化を行っていくことをそろそろ考えるべきだろう。コーチの役目は叱ったり、脅かしたりするばかりではなく、常に側にいてあげること、共に歩むことだと思う。全日本のコーチは「お尻をたたく」役目だろうが、それだけでは選手は・・・
試合は全般に「さすが男子の全日本」と思わせる試合が多く見られた。見事な一本勝ちもあった。そのせいか、試合進行が早く、テレビの放映上の都合で、準々決勝前に40分間の休憩が入ってしまい、会場からはため息が漏れた。試合進行は読めないものだが、テレビ放映の関係で4時から準々決勝と決まっているならそれを前もってアナウンスしておくほうが良いのではないか。また、今回は小さなモニターで過去の全日本の映像が流されていたが、モニターが小さすぎて見ている人は少なかった。会場に足を運んでくれた人のためのサービスがやはり足りないと感じる。
来年からはこの大会も国際審判規定で行われる。そういった意味でも区切りの大会であった。国際審判の経験がある審判員も多く、また、すでに国際規定への移行がわかっているからか、昨年よりは国際規定に近い感覚での審判が多かったように思われた。1試合場で皆が注目している試合を捌くのは想像する以上に緊張し、プレッシャーがあるに違いない。とくに無差別の大会は体重差が大きな試合も多く、観客の多くは判官びいきで軽量の方を応援する傾向にある。そういった中で観客にとっては「あれ?」という判定もあった。国際規定になれば自動的にゴールデンスコアの延長戦が導入されるので「判定」の数も少なくなるに違いない。
準々決勝戦で微妙な判定で敗れた高木海帆選手(東海大学)は会場を多いに湧かせた。19歳と若く、100kg級で世界選手権代表にも選ばれている。こういった若い選手の活躍は多いに楽しみである。国際規定が採用されれば「反則」も早くなる。今大会もそうであるが、勝ち上がっていくためには精神的にも肉体的にもタフさが求められる。そういった意味でベテラン勢には厳しい状況となると思われる。
最後にもうひとつ、決勝戦は福岡県大牟田高校出身、同級生同士の対決という珍しい対戦であった。決勝を捌いた主審も同校の出身というおまけもついた。これは粋な計らいではなく、たまたまだろうが
全日本選手権で優勝すると選手は特別昇段がある。高橋選手は現在4段だが5段となる。今回のように同一高校から決勝に上がるというケースは非常に稀である(おそらく過去には国士舘高校ぐらいだろうか)。この二人を指導された先生にも是非特別昇段をお願いしたい。もちろん、今回のケースのみならず、優れた選手を育ててくださった指導者の方に敬意を払う意味で、指導者への特別昇段も積極的に行ってもらいたい。さらに提案したいのは、今年、東京で開催される世界選手権に出場する選手の指導者は全員招待してもらいたい。予算の都合はあると思うので、旅費、宿泊費に関しては自費でということも仕方がないかもしれないが、チケットを用意し「是非お越し下さい」という招待をしてもらいたい。
ここ数年、男子は厳しい闘いが続いているが、全日本を見る限り、「柔道の醍醐味」を伝えることのできる試合がたくさんあった。柔道もまだまだ捨てたものではない!ただし、私たちは柔道界の外の人にも柔道の魅力をわかってもらう努力を怠ってはならない