山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

福田先生続報

2009-10-29 08:05:43 | Weblog
 福田先生の御滞在も残すところ後2日となってしまいました。6月頃から準備を始めて大変なこともありましたが、先生の笑顔と皆様に喜んでいただいたことで、本当に計画してよかったと思っています。

 先生は25日には講道館で行われた形選手権にゲストで参加されました。開会式では先生の御略歴が紹介されました。大会終了後は「柔の形」の競技者の方々にお言葉をいただきました。始めは遠慮していた人たちも先生のお人柄に触れて写真を一緒に撮らせていただいたり、サインをいただいたりとすっかり打ち解けられた感じでした。

 26日には講道館名誉館長主催の夕食会が開かれました。10段の先生三人と講道館幹部の方々が参加されました。名誉館長は福田先生のお体を気遣われて「お疲れであればお先に」と声をかけられたようですが、先生は「いえ、大丈夫です」といわれ最後までおられたようです。とても楽しい会であったことが伺えます。男女の最高段位の方々がお揃いになるのはおそらく始めてで、日本の柔道、世界の柔道のこれからについても貴重な意見交換がなされたものと思います。

 27日にはNPO法人柔道教育ソリダリティーとの共催で「講演会」が行われました。200人を超える方々におみえいただき、先生の貴重なお話に熱心に耳を傾けられました。「私は嘉納治五郎先生の教えを胸に生きてきました。そのことに悔いはありません。嘉納師範も『よくやっている』と褒めてくれると思います。」と締めくくられました。その後、懇親会も開かれ、先生に何十年前に教わったというお弟子さんたちと話が弾んでいました。

 心配していた先生の体調も良好です。先生は31日に成田を出発される予定です。

福田敬子先生到着

2009-10-24 07:41:18 | Weblog
 アメリカ在住、女子初の講道館9段福田敬子先生96歳が昨日元気に成田空港に到着されました長旅にもかかわらず、素敵な笑顔を見せていただきました。

 96歳というご高齢ですが、凛とした美しさには驚かされると同時に柔道が人を強くも美しくも優しくもできるのだと強く感じました。

 先生は日曜日の全日本形選手権(講道館)を観戦され、27日には講演会が開かれます。

 日本に帰ってこられるのは20年ぶりということで、変化に驚かれることも多いでしょが、短い滞在期間を有意義にお過ごしいただけるよう願うばかりです。また、嘉納師範から直接師事された先生から今後の柔道のあり方についても多くの御示唆がいただけますことと期待しております。

 詳しくは「福田敬子先生の帰国を実現する会」ブログに掲載いたします

柔道文化研究会2

2009-10-21 12:02:55 | Weblog
 先日、柔道文化研究会で講義いただいたボルドー大学教授ブルッス氏のお話の続きです。

 彼が現在研究中のテーマはいくつかあるが、その一つに日本の柔道がどのよう経緯をたどって世界へ広がっていったのかという研究である。20世紀初めから日本人は豊かさを求めてアメリカ、ハワイ、ブラジルなどに渡っている。そういった人々を通じて柔道がどのように伝搬されていったのか。1932年にアメリカ・ロスの道場に嘉納治五郎が植樹している写真なども残っている。戦後、アメリカにおいて日本人は強制収容所に入れられたことがあったが、その中に柔道場があり、柔道を行っていたという。日本においても戦後、柔道・剣道は禁止となっていたにも関わらず、なぜ収容所では許されていたのか。こういったことを解き明かすべく研究をしているという。
 話を聞いていて思ったのは、こういったことは日本人の私達や講道館が本来研究すべき事柄であるのではないかということだ。さらに、日本は柔道創始国ではあるが、いまや双璧ともいえるフランスともっと交流し、良い点は逆輸入していくべきである。ブルッス氏は「嘉納は、西洋と東洋を知り、二つの文化の違いを受け入れながら指導方法などを開発、進化させていった」という。嘉納師範の時代とは比べ物にならないほど国際化の進んだ現在、東洋、西洋という大きな括りだけでは論じられない部分もある。海外の研究者や柔道家と交流を深め、ともに柔道を深めていくことが重要だろう。
 講演の最中にフランス柔道の父と言われた川石先生について「川石先生に関しての資料や記述は日本ではあまりない。日本を出て活躍されていたからだろう・・」といったことを述べていた。
 柔道が国際化した背景には、日本人の移民の方々の活躍や指導のために海外へ渡られ尽力された人たちの功績が大きいのは言うまでもない。国際化したことで日本のみの価値観というわけにはいかなくなり失ったというよりは譲ってきたものも多い。しかしながら、国際化したことによる恩恵もまた計り知れない。何より嘉納師範は柔道の国際化を望んでおられたし、その思いを受けて海外へ指導へいかれた方も多い。そういう意味では、海外で活躍された、されている指導者の方々をもっとリスペクトすることも必要だと思う。

記事の削除

2009-10-17 14:00:28 | Weblog
 先日書いた学生大会についての文章の中に、学生のパフォーマンスを指摘した部分がありました。この文章については多くのご意見、ご批判をいただきました。全日本学生での入賞者は講道館杯への出場、その後、日本代表として世界で活躍を期待されている選手達です。学生ではありますが、そういった意味でも考えていただける内容だと思い、文章にしました。私自身への批判は甘んじて受けますが、このことによって当該の学生が迷惑を受けることは私の本意ではありませんので記事を削除いたしました。ご報告まで。

 

女子選手に育児休暇

2009-10-15 11:44:20 | Weblog
 谷亮子選手が第2子を出産し、母子共に健康で退院されたとの嬉しい報道があった。久しぶりに見た映像はふっくらしていて、アスリートというよりはお母さんの優しい顔つきであった。「年内は育児に専念して体調を戻し、年明けから選手として始動し、ロンドンを目指したい」と語った。

 海外では結婚、出産を経てもアスリートとして活躍する例は昔からあったが、最近は日本でもママさんアスリートが多くなった。多くなったとはいっても、まだまだ限られた恵まれた環境(周囲の理解や家族の援助などなど)の一握りである。

 日本スポーツ界において女子の競技力向上は目を見張るものがあり、今後もおおいに期待できるが、これに伴って競技年齢もあがっている。こういった状況の中で女性に特化したルールや援助、環境づくりなどを考えていく必要があろう。

 例えば「育児休暇」である。谷選手の場合、昨年の北京五輪以降、合宿、試合には参加していない。それでも強化選手としての地位は確保されている。彼女の場合には抜きん出た実績があるので暗黙の了解でそうなっているのだろうが、それでは何も変わらない。他の選手が同じことをしたら、谷選手のように強化選手でいられる保証はない。

 つまり、谷選手の挑戦を生かすためにも「育児休暇」を制度化する必要がある。「強化選手が妊娠、出産をした場合には『特別強化選手』という枠で2年間は維持する。育児休暇が終了した段階で大会に出る場合には他の強化選手とは別枠で参加を認める。」といったルールをつくる。谷選手が母としても挑戦したいと頑張っても「彼女だからできた」「特例」では意味がない。

 全日本柔道連盟のイメージアップにもつながる。他の競技連盟に先駆けてこういった女性に特化したルールをつくり支援体制を整えていけば「柔道界は女性の活躍を応援している」というメッセージにもなる。

 11月には講道館杯が行われる。おそらく谷選手に関して強化選手としての処遇をどうするかなども議論になるはずである。是非、制度としての「育児休暇」の導入を検討してほしい。

柔道文化研究会

2009-10-11 19:09:13 | Weblog
 最近、忙しさに謀殺され更新が遅れてすいません
 さて、10月5日に東京大学駒場校舎にて、ミシェル・ブルッス氏をお招きした柔道文化研究会が開催された。ブルッス氏は、以前、選手としてもヨーロッパ選手権で優勝(1969~71)、国際柔道連盟理事などでご活躍された。現在はボルドー大学教授としてスポーツ歴史学などを教えている。今回の研究会は、フランスナショナルコーチとしての経歴を持つ溝口紀子氏の尽力によって実現した。私も過去に何度か彼の講演は聞く機会があったが、今回のように比較的少人数でゼミ形式で行われたものは始めてで、講義の後には活発な意見交換も行われ、非常に有意義であった。こういった機会を提供いただいた東京大学、溝口氏に感謝したい
 講義の内容は、「フランスに柔道がどのように根付いていったのか」を歴史的な背景と合わせて解説したものであった。当時の柔術は護身の目的が強かったこと、エリート(上流階級)層に受け入れられた。フランス柔道の父と言われる川石先生は川石メソドと呼ばれる色帯によって進級を示した。これは学校の進級と同じで技術や強さの上達で進級するというよりは、白帯は2ヶ月、黄色帯は3ヶ月というように、その間に学ぶべき内容が決まっており、その課程を修了すると次の級に自動的に進んでいく。川石先生は柔道を生活の生業としていたので、サービスも重んじ、同時に教育的な部分を強調した。この二つの幹があったからフランスの柔道のマーケットは拡大していったという。
 フランスでは柔道の指導者資格は国家資格である。このことも大きいという。柔道は危険と隣り合わせの競技でもあるが、資格を持った指導者が指導してくれるということに親は安心感を持つという。指導内容には技術ばかりではなく、8つの道徳も入っており、級が上がるごとにこれらの道徳観も身につけていかなければならない。
 日本とフランスは柔道大国であるが、男子においてはメダル大国ではないことも興味深いと述べていた。さらに現在取り組んでいる研究についても語ってくれた。その話は次回に