山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

お疲れさまでした

2010-09-20 23:53:42 | Weblog
 長年に渡って女子柔道を牽引してきた2人の選手が引退を表明した。78kg超級の塚田選手と63kg級の谷本選手である。塚田選手は先日の世界選手権で銅メダルを獲得した後、今後、国際大会には出場しない旨の意志を表明した。10連覇のかかった来年4月の全日本女子選手権は目指すようである。

 この階級では杉本選手が無差別級と2冠を達成した。塚田選手との直接対決はなかったが、バトンを渡した形となった。杉本選手の活躍も塚田選手が注目を集め、プレッシャーを引き受けたからこそであったと思う。アテネ五輪で金メダルを獲得してから第一人者として常にプレッシャーと闘ってきた。もう少し前に引退を考えた時期があったのではないだろうか。しかし、バトンを渡す若手が思うように育ってこず、彼女の責任感がここまで来させたに違いない。

 身体は大きいが繊細で優しい性格である。私は高校時代から彼女を知っているが当時はその「優しさゆえに勝負事には向かないのでは」と思ったほどである。その後、薪谷選手という好敵手を得て大きく成長していった。金メダリストであるにも関わらず驕るところが全くなく、合宿でも他の選手と変わりなく淡々と稽古をしていたのが印象的であった。「塚田先輩でもやっているんだから私たちが休むわけにいかない」と感じた若手は多いはずである。強い選手が驕らず努力する姿勢があるからこそ雰囲気が締まる。これこそが現在の女子柔道の強さを支えているといえる。

 谷本選手はアテネ、北京五輪と全て一本勝ちで2連覇という偉業を達成した。男子に負けない豪快な技で魅了した。若い頃には、その豪快さが諸刃の剣で豪快に負けることもあった。一本をとる柔道を貫くことに迷った時期もあったようだが、北京五輪決勝の見事な内股一本が彼女が目指した柔道を証明してくれた。

 五輪2連覇となると引き際も難しい。自分の気持ちだけでは決められない面もあったのではないだろうか。周囲の期待も半端なものではない。

 北京五輪の後に彼女とトークショーをさせてもらったことがある。以前に比べて一つ一つの発言に重みと深さを感じた。明るく人懐っこい性格で誰からも好かれるタイプ。苦しい練習でも怪我の時でも、辛さを人に見せることはなかった。外見とは違い、物事を深く突き詰めて論理的に考える内面がある。

 2人は今後、新たな道を歩き出す。指導者になっても、全く違う道を進んだとしても、きっと地に足をつけてしっかり歩いていくに違いない。今回の世界選手権において女子は圧倒的な活躍を見せたが、この成功の裏には彼女たち先輩たちの頑張りがある。バトンを受け継いだ若い選手達は、勝つことのみならず彼女たちの精神も引き継いで次につなげてもらいたい。

 塚田選手、谷本選手には、心からの賛辞と感謝を伝えたい。本当にお疲れさまでした。

審判とルール(世界選手権をみて)

2010-09-17 16:11:45 | Weblog
統計的な数字は見ていないが、今大会はゴールデンスコアになった試合が多かったように思われる。また、ゴールデンスコアから判定になるケースも多く、判定に関して物議をかもした試合もあった。

 52kg級の決勝の中村選手対西田選手、無差別級決勝のリネール選手(フランス)対上川選手の試合は、日本人でも意見の分かれる微妙な判定であった。審判が技のかけ数を見るのか、技の効果を見るのか、全体的な流れを見るのかによって判定は変わってくる。おそらく日本人の場合には、試合をコントロールしていること、技の効果という部分を判定の基準としてみていることが多いのではないだろうか。実際には判定の基準に明確なものはないために、見ている側にはわかりにくいものとなっている。また、今回はメダルのかかった試合を反則で決することに抵抗があったのか、消極的であるという「指導」が遅かったように思う。57kg級の決勝戦でも「指導」が遅いと感じた。

 確かに勝負が反則で決するのは好ましくないので、こういった傾向は良いと思うが、そのことを選手達が理解して闘っていたかということである。また、メダルのかからない予選では指導が簡単にとられていたとしたら、選手はその流れで行われると思うに違いない。リネール選手が判定に不満そうな態度を示したのも決勝戦以外は同じような試合運びで相手に「指導」が与えられていたからではないだろうか。IJFとしては、今後、判定の基準をある程度明確に示していく必要があるだろう。

 柔道はビデオによる判定が導入されているが、その運用方法に対しては疑問がある。大会をみていて何度も気がついたのが、主審が自分の出した技の判定や反則に対して副審が異議を唱えるわけでもないのに訂正をする場面だった。おそらく会場で見ていた人にも不審に映ったに違いない。自分で出した判定を自分で訂正するのである。実はここにはカラクリがある。各テーブルでジュリーといわれる人がビデオをチェックしているが、さらにメインテーブルに審判理事のバルコス氏がビデオでチェックしている。例えば会場でブーイングが起きると、すかさずバルコス氏がビデオでチェックし、訂正を審判に指示する。訂正に関して審判員3名が集まって競技することはない。訂正を要求された審判員がバルコス氏に意見を言うこともない。ある時期からコーチたちも気がついて文句があるときには審判ではなくバルコス氏に向かって抗議するようになった。

 3人の審判で見ていても角度や間の悪さで判定が難しいケースはあるのでビデオの導入は良いと思う。しかし、導入にあたっては技の判定に関してはビデオによって覆ったりすることはないという条件であった。それが今となっては審判が「有効」といったのに対し、バルコス氏が「一本」といえば、そうなる。小野選手が負けた試合の投げられたシーンでも審判はノースコアであったのにバルコス氏が有効を指示した。バルコス氏はすべての試合を判定できるほど有能なのか???というよりは、バルコス氏が「勝たせたい」「勝たせたくない」という思いがあれば簡単に試合を支配することができる。こういった状況で審判は徐々に考える力をなくしていっているように思う。「どうせ真剣にやったってバルコス氏にいわれたら変えなくちゃならないし、間違ったら彼が直してくれるはずだ。」という心理になっていく。

 試合が終わると審判が子どものようにバルコス氏のもとへ駆け寄って怒られている(指示をうける?)のを目撃した。世界選手権を捌く審判は世界で最も高いレベルのはずであるが、その人たちが大会中にあんなにも怒られるというのはどういうことか?彼らには力がないのか?そう思うと、「やっぱり決勝戦の判定も間違っていたのでは」という穿ったみかたになってしまう。そのバルコス氏でさえ、無差別級の決勝戦の後にはIJF会長のビゼール氏に判定について問いただされていた。

 双手刈や朽木倒といった、いわゆる足取りについての反則も不明瞭な場面が何度かあった。初日の3位決定戦で勝ったフランスの選手は足を取って大内刈をかけて一本勝ちとなった。私の目からは、技に入る前に足を取ったのだから「反則負け」のケースである。実際にはお咎めなしだった。技をかけた本人もかけられた相手も一本勝ちか反則負けかでは天と地ほどの差がある。前述した小野選手の試合でも同じような場面があった。「反則」が認められれば小野選手は勝っていた。選手は不用意に足に手が触れてしまうことはあるのだから、それを「反則」にしていいかどうかという議論はある。しかし、今のルールに忠実に判定を下す責任が審判にはあるし、そうでなければフェアとはいえない。

 審判が見切れないルールであるのであれば「反則負け」ではなく、「指導」のような軽い反則に変更すべきだろう。

 新ルールによって確かに以前よりも上半身が起きて見栄えが良くなったと感じるので、IJFの試みは成功したと評価できるかもしれない。しかし、そもそも誰のための柔道なのか、見ている人なのか、競技者なのか・・・。ルール、審判は、そのスポーツを支える大きな柱である。そういった意味で今のルール、審判のシステムには大きな問題がある。

世界選手権閉幕

2010-09-16 17:19:09 | Weblog
5日間に渡った世界選手権が幕を閉じた。日本選手は、多くの声援も後押しして好成績を収めることができた。今大会は毎年開催になって行われた大会であり、各国2名がエントリー、双手刈や朽木倒などいわゆる足取りを禁じたルールで行われるなど注目すべき点がいくつかあった。

 成績で振り返ると、男子の金メダル4個は昨年に比べて大きな躍進であった。穴井選手(100kg)、秋本選手(73kg)の金メダルは妥当としても、森下選手(66kg)、上川選手(無差別級)は良い意味で意外であった。森下選手、上川選手の闘いを振り返っても、危ない場面が少なくなかった。若い選手が勝つ場合には運も必要だが彼らにはそれがあったし、金メダルにまで辿り着いたことは「まぐれ」とは言えない。

 今大会2番手で選ばれた選手達が多く活躍した背景には大会の雰囲気が世界選手権というよりは国際大会のようであり、大きなプレッシャーを感じなかったのではないかと想像する。毎年開催、2名のエントリーが続けば、今後も大会の価値は下がり、グランドスラムなどと変わらぬ評価となっていくような気がして少し残念である。五輪は各国1名の枠しかないことを考えると、彼らが1人でプレッシャーを背負ったときに同じような闘いができるかが心配である。

 女子に関しては8階級中金メダル6個という圧勝だった。3つの階級は日本人同士の決勝であった。喜ばしいことであり、選手達は精一杯闘っていたが見る側には退屈なものであった。世界のトップ数名が日本人となってくると、今後女子の強化はシステムを変えるなどの調整が必要だろう。彼女達にとって目指すライバルは国内にいる。しかしながら、その敵と始終合宿で手の内を見せ合わなければならない状況がある。決勝戦ではどちらにもコーチはつかなかった。「日本人同士でどちらが勝ってもよいのだから」というチームの考え方だろうが、本人達にとっては生涯で一度しかないチャンスかもしれないのである。コーチをつけるのは選手の権利である。全日本のコーチがつけないのであればパーソナルコーチを付けさせるべきであった。おそらく合宿等にも同じようにするべき時期にきているのかもしれない。

 コーチということで、違和感を感じたのは、男子の重量級担当コーチとしてほとんどの選手に井上康生氏がついていたことだ。彼は現在イギリスに留学中である。彼の現役時代の技の素晴らしさは知っているし、おそらく優秀なコーチになっていくことだろうと予想できる。しかし、現在は勉強中であり、何よりイギリスにいる。選手達は多くの合宿や遠征をこなしてきたが、それらにどのぐらい帯同し、選手の強化にあたったのか。全日本のコーチとは実際の強化に関わっていなくともできるものなのだろうか?篠原ヘッドコーチは後ろの観客席からひと際大きな声でどの試合にも声援を送っていたが、なぜ彼がコーチ席につかなかったのかと疑問に思った。彼がコーチボックスに入った方が見ている側にも自然であった。所属の指導者は世界選手権、五輪では全日本に選手を託さなければならない。選手としてもコーチを選ぶことはできない。全日本のコーチは単なる看板なのか?強化には是非一考してほしい。

 新ルールの判定を巡る問題、ビデオ判定など審判についてもいくつかの課題を残した。長くなったのでこの問題は次回に。

強い日本が復活

2010-09-11 22:09:17 | Weblog
 大会3日目。日本は3階級すべて(男子73kg、女子57kg、63kg)で金メダルを獲得した。久しぶりに日本柔道は強い!と思った。

 今日の日本勢の強さは、寝技がポイントであったように思う。秋本選手も事実上の決勝戦と思われた韓国のワン選手との試合で寝技の攻撃が勝敗を分けた。作戦であったかどうかはわからないが、随所で、寝技で攻め込んだことがポイントにはつながらなくても相手へのプレッシャーとなり、スタミナも奪った。

 松本選手も寝技の強烈な印象が相手をひるませ、試合を常に優位に運ばせた。最近では寝技をじっくり見る審判が少なく「待て」が早いせいか、海外の選手達に寝技のスペシャリストが少ない。その点において寝技という武器を持った選手は非常に有利である。57kg級はこれまで唯一金メダルのなかった階級である。今日の闘いぶりを見る限り、しばらくは彼女の時代が続くのではないかと思うほどの強さだった。強い選手が出れば自然とその階級は強くなる。57kg級も今後は常に金メダルが狙える階級となっていくに違いない。

 秋本選手は昨日の高松選手同様に高校時代から注目されていた。内柴選手を破って世界の代表になったこともある。しかし、怪我と減量に苦しみ、階級変更に踏み切った。今日の結果を見れば「もっと早くに階級を変えていれば」という人もいるだろうが、逆に言えば、その頃の苦労があったからこそ今日があるとも言える。決勝戦のあと、噛み締めるような表情がそのことを物語っていた。

 63kg級は日本人同士の決勝戦となった。これ自体は喜ばしいことだが、予想通り、といってはなんだが試合自体は非常に面白みのないものだった。二人とも勝ちにこだわるあまり慎重になる気持ちも、必死さもわかるのだが、見ている人間としては、もっと迫力のある攻防が正直みたかった。日本人は柔道が世界に広まって様々な柔道スタイルが出てきたことを嘆く人が多い。しかし、今日のような決勝戦をみると、違ったスタイル同士が闘うから面白いのでは?と思ってしまう。外国人と試合をするから日本人の柔道が引き立つのかもしれない。となれば一概に外国人の柔道を否定することはできない。

 また、強豪国の選手が勝ち上がって同じ国の選手が闘う試合が多くなれば、手の内を知っているだけに平凡な試合となってしまう可能性が高い。そういった点でも一カ国2名の出場というのは今後検討されていくだろうと予想される。

 松本選手の金メダルは日本人通算100個目の金メダルだそうである。日本の強さはこういった伝統に支えられてのものである。日本男子は近年苦しい闘いが続いてきたが、今日の闘いをみて「やっぱり底力はある」と感じた。明日の選手達にも自信と誇りを持って思い切って闘ってくれることを期待したい。

世界選手権2日目

2010-09-11 07:56:35 | Weblog
世界選手権2日目、日本は男子90kg級西山選手銀メダル、81kg級高松選手銅メダル、70kg級国原選手銅メダルと、金メダルはなかったものの全ての階級でメダルを獲得し、タスキを渡した。

 現在、90kg級IJFランキング1位で昨年から好調を維持してきた小野選手に金メダルの期待がかかったが惜しくも3回戦で敗れた。相手は今大会優勝したアテネ五輪81kg級チャンピオンのイリアデス選手(ギリシャ)。試合の流れを決めたのは、序盤、イリアデスの背負投で小野が倒された判定にあった。審判は腹這とみてスコアを与えなかったが、会場の応援団からブーイングがあって審判委員長のバルコス氏が試合場にかけよって審判に指示し、有効のスコアが入れられた。審判3人は協議することもなく、バルコスの指示に従った。イリアデスがリードで迎えた後半、彼が小野のズボンに手をかけた。技をしかけたというよりは習慣で触ってしまったという感じだった。しかし、これでも現在のルールでは反則負けとなる、はずだった。審判が協議をしている中に再びバルコス氏が登場し、結局反則は与えられなかった。

 もちろん、審判のせいで負けたとは言えないが、試合というのはこういった微妙な判定が大きく影響する。1日目の試合でもあったが、反則に対しての審判の共通理解が極めて低いために状況によって反則を取ったり、取らなかったりであり、アンフェアな印象を強く持つ。また、試合場にいる審判3人よりもバルコス氏が力を持っており、何かあれば彼の判断が最優先される。確かにビデオでチェックしているとはいえ、近くで見ている審判の判断がまずは優先されなければ審判をおく意味がない。ビデオ導入の際には、技の判定には介入しないという見解でもあった。大会終了後には多くの事例を検討し、改善を求めたい。

 高松選手、国原選手の銅メダルは立派だった。高松選手の場合は、若い頃から期待され、五輪、世界選手権とチャンスをつかんできた。しかしながら、病気、怪我、減量などに苦しみ、結果を出すことができなかった。おそらく引退を考えた時期もあったはずである。若かった頃の荒々しさは消えたが、人間的にも一皮向けた落ち着きが見られた。そういった苦労が糧となった銅メダルだった。日本人は柔道では金メダル以外はメダルじゃない、勝っても喜べないという人もいるが、彼のメダル獲得の瞬間のホッとした表情は心温まるものがあった。

 国原選手にも拍手を送りたい。決して派手な柔道ではない。一本をとるというよりは攻めて攻めて勝ち上がっていくタイプである。努力の人なのでスタミナが切れることもない。一本をとる柔道も確かにすばらしいが、攻め続ける柔道は見ていて気持ちがいい。

 90kg級の西山選手の銀メダルは大健闘であった。随所に若さと経験不足が見られたが、さらなる可能性を感じさせた。今回、一カ国2名のエントリーが可能になったことで2番手の選手、若手の選手が大舞台を経験できる大きなチャンスであった。1日目の78kg超級の杉本選手もそうであった。1番手で闘うプレッシャーと2番手で出て行くのとは全然違う。彼らが今後、一番手というプレッシャーを背負っても同じ闘いができるかどうかである。

 階級別の試合は残り2日。朝から晩まで会場にいるだけで疲れがたまるが、日本選手をしっかり応援しつつ、今の柔道で何が起きているのかも観察したい。

世界柔道開幕

2010-09-10 17:37:52 | Weblog
 昨日から世界柔道選手権2010東京大会がスタートした。111の国と地域から750名を超える選手が参加、無差別級を含む男女各8階級が行われる。

 オープニングセレモニーではIJFのビゼール会長、全柔連の上村会長の挨拶があった。来賓の挨拶でユニークな挨拶があった。「私は北京オリンピックを観戦しましたが、『あんなのは柔道じゃない』と思いました。皆さんはせっかく日本に来られたんですから、正しい柔道を学んでいってください。時間で勝敗を決めるのもおかしい。柔道はお互いがヘトヘトになってから本当の技がでる。このスタジアムは夜中まででも使ってかまいませんから、とことんまでやってください。」というような挨拶だった。そして挨拶が終わるや否や出口に向かって帰っていった。受け取り方は人それぞれだと思うが、ホスト国の挨拶としては若干違和感を感じた。確かに柔道は世界に広がって技術、スタイルなど変容を遂げてきており、日本人にとっては苛立ちや不満を感じることもある。しかしながら、文化とは変容していくものでもある。これから世界の頂点を極める闘いをしようとする前としては士気をあげるスピーチではなかったし、日本人は勝てなくなった今でも外国人を上から目線で見ているというメッセージとなってしまった。また、そこまで立派なスピーチをしたが、試合はただの一試合も見ることなく去っていたのも尊大な感じがした。

 重量級からスタートした初日、日本は期待に応えて男女それぞれ金メダル1個、女子は2個の銅メダルを獲得し、順調な滑り出しをした。金メダルを獲得した穴井選手、杉本選手は全試合を通して安定した試合であり、ラックではなく勝つべくして勝ったといえる。昨年の世界選手権で金メダルゼロであった男子チームには何よりのカンフル剤となった。これで今日からの闘いが余裕とまではいかないが、恐れずに闘えるはずだ。

 残念だったのは男子の高木選手や高橋選手が勝てる試合を落としたことだ。地元開催で応援など有利な条件があっても勝てる試合を落としたのは非常に残念であった。後半にスタミナが切れて敗れるというのも日本人らしくない。女子の試合でも何度か先にポイントを先行されて苦しい試合もあったが、疲れの見える相手に後半追い込んで勝利したのがあった。男子がスタミナがないとは言わないが、プレッシャーの有無によってもスタミナは変わってくる。また、守ろうと思うと余計につらくなることもある。

 昨日は平日で観客が少ないのでは、と思われたがほぼ満員だった。2日以降、勝ち負けも重要だが、見に来た人が納得できるような覇気のある、攻める柔道を期待したい。

新たな反則

2010-09-07 11:52:55 | Weblog
 世界選手権を目前に控えてIJF(国際柔道連盟)は新たな反則を導入することを決めた。

 報道によると、組み合う前に相手にいきなり抱きつくなどの行為で1度目は「待て」で試合を止めて警告し、2度目から「指導」を与えるそうである。今回の大会から導入される。

 導入の理由は、今年から、双手刈、朽ち木倒しなど、帯から下の下半身を直接攻撃した場合は即座に「反則負け」とする新ルールが適用されたが、それに伴い、それらの技を得意としてきた選手を中心に、相撲のもろ差しのように上半身に抱きついて攻めるスタイルが急増し、組み合って技をかける柔道を奨励するためにも好ましくないとのことである。

 確かに近年レスリングスタイルが加速して柔道競技の独自性が失われる危機感からいわゆる足取り行為を禁止した措置は方向性としては理解できないでもない。しかしながら、以前にも書いたが「反則負け」にする必要があるかというと疑問を持たざるを得ない。実際、相手の技に反応してかけた朽ち木倒し、実際には「反則」にならないと思われるケースで反則負けになった試合もある。つまり、審判によって判定が曖昧な部分が少なからずある。

 選手には「反則」と言われてしまえば抗議することもできない。選手の立場を考えた場合、やはり「反則負け」という取り返しのつかない裁定はいかがなものか。同様に今回の反則の導入も「この時期に????」という疑問がある。確かにヨーロッパで行われた大会で運用されていたという情報はあったが、知っている人間がどれだけいるのか?また、どういった状況であれば反則なのかという共通理解も今の時期では得られない。

 さらにいえばIJFは今年1月に新ルールを発表した際に、今後はオリンピックまでルールは変えないと明言している。つまりIJFの約束は守られないということか?選手からすれば、IJFに対して「反則だ」と言いたいところだろう。

 確かに柔道は組み合って行うものだが、格闘技としての側面もある。「あれをしてはいけない」「これをしてはいけない」と規制をかけていけば格闘技としての部分をどんどん減らしていってしまう。選手達は決められたルールに対応していく。抱きつくような行為が禁止され、それに選手達が対応し、次の策を考えたら次は何が反則になるのだろうか???