山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

五輪当確ライン

2011-01-30 12:39:07 | Weblog
オリンピックまで1年半をきった。いよいよ本格的に代表権争いが始まる。日本選手は大会参加数も多く、男女ともに各階級数名の選手が上位にランクされているので代表権を獲得するということに関してはあまり問題ない。逆に国内での争いが大変である。
 
 IJFが現時点のランキングで五輪当確可能な選手をリストアップしている。これをみると一カ国から複数ランキングしている場合には、その人数をカウントせずに当確ラインを引き下げている。

 このページは大会ごとに更新されていくであろうから、当確ライン上の国、選手達はこのランキングを見ながら大会を選んでいくという駆け引きになっていく。また、モチベーションにもなる。

 興味のある人はチェックしてみてください

ワールドマスターズinバクー

2011-01-18 14:19:18 | Weblog
 ランキング上位16名によるトーナメント、ワールドマスターズがアゼルバイジャン、バクーにて行われた。上位16名といっても欠場する選手がいれば繰り上がるので階級によっては30位ぐらいまでが出場権内となった。

 アゼルバイジャンでこのような大きな国際大会が開催されるのは珍しいが、会場の様子をネットで見る限り、満員の観客で盛り上がったようである。旧ソ連から独立し、カスピ海に面し、石油やガスという資源を持ち、発展を遂げている国のようである。イスラム教徒が95%を占める。東京での世界選手権では男女1個ずつ銅メダルを獲得している。

 日本選手は多いところでは階級3名のエントリーだった。男子は100kg超級鈴木選手、90kg級小野選手、81kg級、73kg級粟野選手が3位を獲得したが、決勝進出したものはなく、100kg級穴井選手を含む6人が1回戦負けという厳しい結果だった。女子は3階級で金メダル、2位が5人(うち3人は日本人同士の決勝)、3位が2人とまずまずの結果であった。

 上位ばかりの選抜大会であるので、1回戦から強豪とあたる可能性を考えれば1回戦負けといっても気落ちする必要はないのかもしれない。また、以前にも書いたが選手は連戦の疲れもあり、出る大会全てで勝利するというのは難しい。ここのところ負けなしだった57kg級松本選手や63kg級の上野選手も決勝で敗れている。

 難しいのは、こういった敗戦をコーチや強化がどのように判断するかだろう。これだけ大会に出場していれば全てで勝つことは難しく、逆に全てに全力を注いでいれば、肝心のオリンピックを前に精神的にも力つきる可能性がある。しかしながら、日本人の感覚でいえば「負ける=弱い、だからもっと鍛えろ」という安直な方向にいきやすいのが心配だ。東京での世界選手権、グランドスラム大会での活躍は地元の利があって額面通りには受け取れない面もあり、今回の結果をみて、浮かれた気持ちを締める必要はあるだろうが、これ以上選手達にムチを入れるのはいかがなものか

 ランキングポイントをみると、上位にランクしていて2位以下に大きく水をあけている選手もいる。こういった選手達は大会派遣を見送って国内でじっくり研究、調整をさせた方がよいのではないだろうか。トップの選手は2月に行われるヨーロッパの大会に平均して2大会に派遣される。さすがに女子の何名かは1大会となっている。強化からすれば派遣しないという選択肢はないのかもしれないが、選手によってはそれもありだろう。ランキング制だから出場させるのではなく、ランキング制だからポイントをみて出場させないという戦略もあるはずだ。日本の派遣の仕方をみているとランキング制の大会になる前同様にパリから始まる2月の3大会のいずれかに選手を派遣するようだ。大会のシステムが変わったのに派遣の仕方には全く変わりがない

 今大会で81kg級の中井選手が関節技を決められて肘を負傷したようである。彼は技が決まっているのに「参った」しなかった。見ていた海外の関係者によれば、外からみても肘を脱臼もしくは折れているように曲がっていても「参った」せず、その後も、苦痛な表情で試合続行が不可能なようにみえたがコーチ陣は続行を促したという。「日本はいまだに何十年も前のような根性主義なのか」といった質問を受けた。そのときの状況がわからないし、怪我の状態も不明だが、もし、彼が「参った」できないような、怪我をしても試合をやめられないようなプレッシャーをコーチ陣から受けていたとしたら問題は大きい。仮定で話をしてはいけないが、もし怪我の具合が重く、4月の体重別にまで影響を及ぼすことになったら、世界選手権、オリンピックの可能性にまで影響を及ぼす可能性も否めない

 厳しく指導をすることは結構であり、選手も勝負に厳しく臨むのはよいが、この時期に怪我をしてしまったら何にもならない。残念だが、怪我をして泣くのは選手だけで強化とすれば代わりがいる。選手が自己主張をしすぎて我がままになるのは良くないが、結局、オリンピックの切符は自分でつかむしかない。オリンピックは生涯に一度のチャンスかもしれず、後悔しない闘いをしてほしい。コーチの顔色をみて言うことを聞いていれば勝てるものでも、選んでもらえるものでもない所属のコーチも選手も全日本のコーチと正面からやりあってオリンピックへのベストな道を模索してほしい。

 

五輪の階級

2011-01-06 12:16:35 | Weblog
明けましておめでとうございます
今年も皆様にとって、柔道界にとって素晴らしい年でありますように

今年はいよいよオリンピック前年ということでランキング争いも厳しくなっていくことが予想される。以前にも書いたが、選手達の過密なスケジュールを考えると五輪で勝つことが目的なのだが、辿り着くまでのサバイバルレースを勝ち抜くことに多大な精力をつかってしまい、五輪直前に息切れするなどといったことがないように願うばかりだまた、この時期にきて万が一にも大怪我に見舞われれば、まずチャンスはなくなるのでこの点も十二分に注意が必要だろう。

今のシステムを考えれば五輪に連続して出場することは以前に比べて難しくなるだろう。そうなれば選手にとって五輪出場のチャンスは一回だけとなる可能性が高い。生涯に一度のチャンスをかけての闘いなのだから、今年そして来年にかけては、選手には多少我がままに見えようとも自分の納得のいく、悔いのない闘いをしてもらいたい。全日本の立場では強化選手の誰が出場しても(金メダルが狙える選手なら)構わない訳であり、個々の選手を思っていてもらっていると考えたら大間違いである。

オリンピックといえば、IJFのビゼール会長は2016年のリオ五輪から柔道競技に団体種目を入れたいと強く考えているようだ。そのために実績作りとしてヨーロッパ選手権に団体戦を導入したり(個人戦の日程の後に行う同時開催方式)、今年のパリの世界選手権でも行う。

ビゼール会長の強力なリーダーシップを考えれば、彼が「強く望む」ものであれば実現する可能性が高いだろう。しかし、問題はIOC(国際オリンピック委員会)である。オリンピックという船はすでに満員でこれ以上乗船させる余裕はない。つまり、新たに団体戦の人数枠を設けることは困難なはずである。となると、おそらくIJFがIOCと取引するのは階級の削減だろう。実際、昨年のグランドスラムにおいてビゼール氏に近い関係者からは、「7階級から5階級に変更する可能性がある」との話も聞いた。

ソウル五輪から無差別級がなくなったが、これは女子を入れる交換条件の一つであった。このことを考えると、2016年のリオで団体戦を導入する代わりに階級を減らすという交渉は真実味を帯びてくる。

女子のレスリングがそうであるように、五輪と世界選手権の階級が異なる可能性もあるだろう。いずれにせよ、こういった話がおそらく、かなりの段階で進んでいるにも関わらず、日本国内で知っている人がどれだけいるのか?選手にとっては非常に大きな問題である。例えば、下と上の階級を削るとなれば48kg級、60kg級はなくなる可能性もあり、ロンドンが最後のチャンスともなりかねない。

根本的な問題としても、五輪に団体戦が必要かという議論もある。個人戦を闘った選手が数日後にまた闘うことが可能なのか。個人戦で選手が怪我をした場合にはどうするのか?計量は?などなどテクニカルな問題も多い。私が噂を聞いているぐらいなので、上層部は当然のことながら対応策を既に検討し始めているだろうが・・・

強いリーダーシップによって良い面での改革がスピードを持って行われることもある。反面、多くの場合は秘密主義で情報公開がされずに密室、少人数で話が進んでいく懸念もある。今の体制が当分変わることも望めないのなら、せめて情報戦略をしっかりと自己防衛をしていかなければならない