山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

大会を終えて

2009-08-30 23:10:49 | Weblog
 オランダで開かれた世界選手権は今日で5日間すべての日程を終了した。日本の成績は女子が金3、銅2、男子が銀1、銅1という結果であった。
 
 大会全般を振り返ると女子の安定した力が目立った。メダルを逃した階級も金メダルに届かなかった階級も「歯が立たない」というのではなく、いくつかの課題がクリアできれば金の可能性も見えるほどの位置だった。

 女子が活躍した一方で男子の不振が際立った。金メダル云々というよりもどの相手であっても「勝てる気がしない」というのがチームの現状のようにみえる。長いトンネルはまだまだ抜けられそうにない。負けた原因について‘ハングリーさ‘ということが言われるが、もっと単純な闘い抜く体力が劣っているようにみえた。北京五輪でも兆候はあった。金メダル2個を獲得したものの他の選手はメダルに絡めなかった。その後、新体制になって強化を行ってきたが何らかの改善や向上など明るい材料さえも見えなかった。

 篠原ヘッドコーチは、大会前に全階級金メダルといった目標を掲げ強気の姿勢を崩さなかった。選手を鼓舞する意味もあったのだと思う。一方、選手の力をそのように評価したのであれば、その力を発揮させることができなかった原因はどこにあるのかを語らなければなるまい。自分たちの選んだ選手が負けて「若い選手を連れてくればよかった」ではコーチを信じて闘った選手はどうすればいいのか。選手を批判するよりも強化システムや方法といった根本的な改善を語って欲しい。

 今大会から敗者復活戦に残れるのはベスト8以上に進出した選手のみとなり、ひとつ間違えればメダルを逃す確立が高くなった。こういった状況でも確実にメダルを獲得したのは男子では韓国とロシアであった。こういった国にあって日本にないものは何なのかを考えれば自ずと答えは出てくる。

 世界選手権は今年から毎年開催される。毎回結果を出すには選手層の厚さも必要になってくる。ジュニア世代からの強化システムも見直す必要があるだろう。

 強化とは別にIJFの様々な動きも見えた。ぼんやりしていれば、すぐにおいていかれてしまうほどのスピードで進んでいる。こういった現状で必要なことは早い段階での情報収集と理論武装であろう。何かを提示された時点で考えていたのでは到底太刀打ちできない。

 IJFでの日本の求心力の低下が囁かれるなか、競技力でも力を示せなくなっている。日本柔道はどちらにしてもここが正念場だ。なんとなく口を濁して通り過ぎるのではなく徹底的な議論をし、腹を据えた考えを持って進んでいくしかない。

 土曜、日曜の会場はほぼ満員で熱気に包まれた。昨日は自国オランダ選手の金メダルに湧いた。最終日の今日もオランダ選手が銀メダルを獲得して大会を締めくくった。印象に残ったのは自国への応援はしても勝った選手は同じように暖かい拍手を送ること。来年の世界選手権が日本で開催されるかどうかはわからないが、もし日本がホスト国になるとすれば、どこの国の選手であっても素晴らしい技や勝者には暖かい拍手を送ることを受け継ぎたい。

操られる審判?

2009-08-30 15:44:58 | Weblog
 今大会、審判理事のバルコス氏がオーバーコールで判定が覆ることが多いということは以前にお伝えした。テレビにも映っているかもしれないが、主審が突然、正面のテーブルから呼ばれ指示を受けた後、判定が覆る。不思議だったのは、副審の二人は微動だにせず座ったままであることと、主審もテーブルまで向かってビデオを見ることはせずに即座に判定を変えることだった。

 昨日もいくつかそういった状況があったので何人かの審判に聞いてみた。すると、驚きの事実が判明した。なんと主審は耳にイヤホンを装着させられており(敗者復活最終戦、準決勝などメダルのかかった試合から)、バルコス氏からの指示を聞いているらしい。副審はイヤホンの装着がないので何を指示されているのか、どこが問題なのかもわからない状況である。そして、指示は絶対であり、逆らうことはできない。明らかな間違いなどであれば百歩譲ってビデオを見ているテーブルからの訂正があってもいいかもしれない。しかし、「ブルー柔道着に指導を」といったような試合をコントロールするような非常に細かい指示までくるのだという!

 今や私達の目に見えている審判は実際の審判ではなく操られて指示を出しているだけの存在に近い。さらに信じられない光景をみた。昨日のロシア対ウズベキスタンの試合は競り合って終盤を向かえた。ウズベキスタンがリードで終了寸前にロシアの選手が朽木倒をしかけ、ウズベキスタンの選手は臀部をつく。審判は有効には満たないとしてスコアを与えなかった。この瞬間、IJF会長であるビゼール氏が立ち上がってバルコス氏に駆け寄って何かを告げる。その次の瞬間、主審が反応して、突如として有効のポイントがロシアに与えられ、試合はロシアの選手が勝利した。会長がその時何をバルコス氏に告げたかはわからない。ただ、その時会長の隣に座っていたのがヨーロッパ柔道連盟の会長でロシア人であったことを考えるとあまりにもタイミングがよすぎるし、勘ぐられても仕方がない状況だ。

 つまり、一部の人間に権力が集中するということはこういった疑念を抱かれやすい状況をつくる。バルコス氏がどんなに優秀で誠実な人間であったとしても自国スペインに有利な判定を指示すれば、その判定が妥当なものであっても相手は何らかの意図があったのではと思う可能性が高い。

 おそらく近い将来、審判は一人になる。そういう状況であれば、いっそのこと審判は判定を下すのではなく、試合を捌くのみで判定はバルコス氏を含むトップテーブルの何人かが行うとした方がわかりやすい。その方が責任の所在が明らかになる。現状で見ている人たちは、判定に不服であったりすれば審判を責める。しかし、審判には実は権限もないのだから責任もないのである。

 他のスポーツのことは詳しく知っている訳ではないが、こんなように審判が上からコントロールされるスポーツがほかにあるのだろうか???フェアなスポーツといえるのだろうか?

 現在のIJFは理事会が大きな権力を持っている。理事会ではなくても、何人かのメンバーが賛成し、会長の同意が得られればルールでもシステムでも一瞬のうちに変えることができる。強いリーダーシップで改革も進むことは間違いない。しかし・・・。これまで何度も指摘しているが、彼らがどんなに優秀であったとしてもどこかにチェック機能がなければならないのではないか?世界の柔道を理事会という少数の人間に託して本当に大丈夫なのか?