山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

マスターズ

2010-01-17 17:56:50 | Weblog
 IJFランキング上位者が出場するマスターズ大会が韓国で開催されている。最大で16名の参加枠があるが、欠場もあって各階級平均12~13名といったところである。参加国をみると偏りがみられ、強化が進んでいる国、選手をトーナメントに多く派遣できる国が絞られてきていることがわかる。

 女子における日本女子の活躍はすごい。昨日行われた軽いクラスからの4階級すべて日本が優勝した。48kg級にいたっては9人中5人が日本選手で4人が準決勝に進出した。結果、メダリスト全員が日本人となった。日本以外にみるとフランスやスペイン、ロシア、韓国といった国がどの階級にも選手が入っている。

 現在のトーナメント方式、ランキング制を継続していくと、活躍できる国が限られてくるであろうことは予測できる。柔道は世界の200カ国に近い加盟国を持つがそういった国々のなかで経済的に恵まれない国、強化が難しい国がチャンピオンを出す可能性はますます少なくなるだろう。こういったことが、長い目で見れば柔道の世界を狭めていってしまうであろうと危惧する。

 今年の世界選手権、世界ジュニア、カデ世界選手権はいずれも1カ国2名ずつの参加が認められる。こうなった場合、柔道強国を自認する国以外、選手を送ることすら躊躇するようになるのではないだろうか。また、世界チャンピオンの数が増え、チャンピオンの権威は間違いなく低下するだろう。

 今大会から帯から下の柔道着や足を直接手で握ったりすることが「反則負け」というルールが適用された。48kg級一回戦、山岸選手対浅見選手の試合で、山岸選手が肩車にいったことで「反則負け」となった。山岸選手のコメントでは「反射的に出てしまった」とある。当分はこういった事故のような反則負けが起こることも予測できる。柔道は柔道着をつかんで投げても良い競技である。その競技にあってパンツを持ったら反則負けになるというルールそのものに問題があると、個人的には今でもそう思っている。

 男子は3階級中、金メダルはゼロだった。今回のルール改正で日本が有利になるのではとも言われたが、そう簡単なものではないことがわかる。新しいルールで2月3月に行われる一連の大会でどういう結果が出るか興味深い。

 

IJFの新ルール(ビデオ)

2010-01-06 18:39:12 | Weblog
 IJFが柔道着の帯からを直接握ったり、足をつかんだりすることが反則負けになることは以前に伝えた。IJFのホームページに「反則であるケース」(レッド)、「反則ではないケース」(グリーン)の例が示されている。

 見てみたが、非常にあやふやな部分が多く、審判の主観にまかせられる部分が多い。審判の技術が高ければ見切れるかもしれないが・・・。さらに、審判が「反則」と判断したら負けてしまうのだから、選手としては「危うきに近寄らず」がよいということか?

 非常に曖昧な判定基準のまま、ルールが施行されるというのは選手にとってはリスクが大きい。また、何度も言うが危険という因子がないのに「反則負け」というのは・・・。

 とりあえず、見てみてください。
IJF new rule 2010

裁判の結果

2010-01-05 13:19:52 | Weblog
裁判の結果

昨年4月、PJU(パンアメリカ柔道ユニオン)はIJF(国際柔道連盟)に対してCAS(スポーツ仲裁裁判所)に訴えを起こした。理由は、3月に行われたIJF理事会においてPJUの加盟を無効とし、新しく立ち上げられたPJC(パンアメリカコンフェデレーション)を加盟するとした決議をしたからである。

この紛争は現在のビゼールIJF会長が前会長のパク会長(韓国)と会長の座を巡って争っていた頃にさかのぼる。PJUはパク会長側についており、ビゼール氏が新会長となっても体制派になびくことがなかったために、ビゼール氏
としては厄介な存在であった。

ビゼール氏が会長になって新しい法令が制定された。古い法令では、メンバーの加盟や排除の決定は総会の決議とされていたが、新しい法令においてはその決議が理事会において行えるとされた。さらにメンバーとは、国の連盟を意味していたが大陸もメンバーと解釈されるようにもなった。このことで、IJF理事会は自分たちに対して忠実ではないPJUを排除し、新しい大陸連盟PJCを加盟させる決議を行ったのである。この決議を無効としてPJUはIJFをCASに訴えたという訳である。

昨年12月12日、CASが裁定を下した。結果はPJUの勝訴であり、新連盟は認められないというものだった。理由を簡単にまとめてみると以下のようになる。

* 各大陸の連盟において紛争があった場合でも、その問題は大陸連盟内で解決されるべき問題である。IJFはそういった問題に対して介入するべきではなく、どちらの側にもつくべきではない。
* IJFは現在、スイスに法人登録をしているが、スイスの法律に照らした場合、理事会が総会の権限を肩代わりすることは認められていない。また、IJFがメンバーを排除するには相当の理由が必要であるが、今回に関して相当の理由は認められない。
* IJFの新しい法令は、会長が理事会のメンバー22名のうち、14名を指名できるというものであり、会長の権限が大きいことを認めざるを得ない。こういった状況においての裁定はその点を考慮してIJF理事会に対して厳しい見方をとらざるを得ない。
* IJFは裁判の費用を全額負担すること。さらにPJUに対して15,000スイスフランを支払うこととする。

CASの裁定は極めて常識的なものであった。自分達の意に添わないからといって新しい大陸連盟を作ってしまうというのは明らかにおかしい。考えなくてはならないのは極めて常識的な判断が現在のIJF理事会には存在しないという点である。裁定の記述にも載っているが、PJUが招集した総会に対してビゼール氏は「この総会は違法的な総会であるので出席しないように」といった内容のレターを各国に向けて送っている。また、新連盟創設に関連した会議にビゼール氏が参加しているようである。こういった一連のことに対して裁判においてビゼール氏は言い訳をしているが、それをCASは認めておらず、ビゼール氏、PJCのリーダー的存在の二名を名指しして、「この3人が協力していたことに疑いはなく、この3人のうち、いずれかが嘘をついている」とも述べている。

おそらくIJF敗訴の裁定が大きな影響を及ぼすことはないだろう。しかし、IJFの法令や理事会のあり方、ビゼール氏についてのCASの発言は国際組織としての信用性を大きく失墜したものであったことは間違いない。IJFは裁判の結果を今の段階ではホームページにて報告はしておらず、さらにCASが認められないといったPJCのサイトをリンクしている。

以前にも書いたが、私がこのブログを開設した最も大きな理由は、IJFがビゼール会長のもと、非常に独裁的に組織を運営できる法令を作ったことにあった。今回の裁判で、この法令が外から見れば非常識的であることが明らかになったことは良かったと思う。これによって流れが変わることは期待できないが今後に向けての小さな光ではある。そして、忘れてはいけないのは今のIJF、ビゼール会長を日本も支持しているという点である。

裁定の詳細(英文)

能力の開発

2010-01-02 11:09:05 | Weblog
 今年のお正月はとくにどこにも出かけることもなく家でのんびりして、買ったのに読む時間がなくて積んであった本を読んだり、溜まっていた書類の整理などをして過ごしている

 テレビを見る時間も普段以上に長い。昨晩はsasukeを見た。かなり長い時間であったが、意外にも他にチャンネルを変えることなく見続けてしまった。といっても始めのほうの時間帯はタレントが多く、無駄な時間に感じた。タレントに混じって現役、元スポーツ選手達も参加していた。

 タレントよりはマシだが、その程度のレベルであったのが少し残念だった。確かに始めて挑戦する種目で結果を出すのは難しいのは理解できるし、ハンディーはある。しかし、そのういった部分を差し引いても「もうちょっと・・・」という感じであった

 最近のスポーツ選手は小さい頃からその競技に特化して非常に専門的に専念して成長してきたケースが多い。そのために、その種目においては優れた能力を発揮するものの、他の種目などをやらせると意外にも平凡であることがある。例えば、全日本クラスの選手であっても「簡単なマット運動ができない」「泳げない」「逆上がりができない」など。もちろん、その競技で才能を発揮できれば良いともいえるが、本当にそうだろうか?

 スポーツには様々な局面があり、そういった局面において驚くようなパフォーマンスを発揮するのは、その競技だけの経験値や技術のみならず、身体運動全般の経験値、能力が必要であるように思う。そういった全般的な能力が自分の持っている技術を最大限に生かすプレーのアイデアをも生み出す。世界超一流のプレーヤーは凡人には思いもつかないプレーを簡単にやってのける

 日本人は非常に器用でどの種目においても技術力は高い。しかしながら、その技術を生かす独創的なアイデアやパフォーマンスには欠けるような気がする

 「ひとつの道を極める」ことを美徳とする価値観も影響している。小学校時代などは専門種目を決めずにいくつかの競技を掛け持ちでやることもよい。少し前には遊びの中にそういった要素がたくさんあったが、現代の日本では遊びの中からは期待できない。親も過保護になって子供が何かしようとすれば「危ない」と手を差し伸べてしまう

 柔道をみていてもこういった影響を少なからず感じる。一見すると強そうな日本選手が意外な脆さをみせるときがある。格闘技の場合は他の種目以上に相手と向き合ったときの「触覚」のような部分が重要で、こういった感覚は技術練習だけでは身につかない。だからこそ、昔から理不尽と思えるような様々な修行の方法が取り入れられてきたのだろう。

 現代は「科学的なトレーニング」ということで合理的に身体を鍛え、技術を磨くことが是とされるが、究極的な局面で奇跡のようなパフォーマンスを生むためには理屈を超えたトレーニングもありなのではないか。

 スポーツにおいて難しいのは「これをすれば勝てる」というセオリーがないことである。トレーニングにおいても同様である。結果論として「これがよかったのでは?」ということは言えるが、ほんとうに何がよかったのか、役に立ったのかはわからない。

 一流を目指す子供達には、自分の種目以外にも様々なことにチャレンジしてもらいたい。スポーツのみならず、音楽もよいと思う。リズム感は重要だ。テレビなどの映像もよいが、本を読んで活字からイメージを膨らませる想像力も身につけて欲しい。

 優れた選手になるためにイメージは欠かせない。世界選手権、オリンピックなど、誰でも初出場のときがある。見たことのない舞台となる。そんな夢の舞台で、たいていの選手はあがってしまって力を発揮できない。初めての舞台でも平常心で闘えるのは、日頃からその舞台をイメージして練習ができているかがカギである。誰と練習をしている時でも、どんな環境の中でも、自分の目指す舞台をイメージして自分を追い込むことができるかである。

 イメージの源泉が多い人間は魅力的でもある。多くの柔道選手達が年末年始は暫しの休息を取っているはずだ。どんな時間の使い方をしているのだろう。ちょっと覗いてみたいきがする

2010年は

2010-01-01 11:10:47 | Weblog
 明けましておめでとうございます。今年はどんな年になるのだろうか。

 昨晩は家でテレビを見て過ごした。やはり見てしまったのは「吉田VS石井」の一戦。私の予測では石井選手が勝つのでは?と思っていた。しかし、始まってみれば経験で上回る吉田選手のペースで終始進んでいった。中盤、疲れの見えた吉田選手だったが、石井選手の股間への蹴りで試合は中断し、痛みはあったろうが、スタミナ回復の十分な時間となってしまったことも勝敗の分かれ目であった。

 意外だったのは石井選手の表情、態度だった。北京五輪で金メダルを獲得してからは常に自信満々の態度だったように思うが、昨晩は幼い子供のような自信なさげで、不安そうな態度だった。逆にそういった表情が新鮮で「新しい世界」への真剣な挑戦の思いを感じさせた。

 吉田選手の身体をみると、40歳という年齢が隠せない。しかし、勝負となると強い、というところが不思議だ。おそらく柔道の試合であれば石井選手が勝っただろう。石井選手とすれば負けてよかったのかもしれない。これで簡単に勝ってしまったら新しい挑戦への興味が薄れてしまうのは間違いない。「そんなに甘い世界ではないんだよ」という現実を見せつけられ、さらなる闘志を燃やすことだろう。

 それにしても観客の多さには感心する。たしかに、ガチンコ勝負でどちらかがいつ倒れてもおかしくない緊迫感はテレビからも伺える。しかし、ボクシングのような、キックボクシングのような、グラウンド技もあって・・・なんだかよくわからない競技でもある。それでも人気がある。

 一時ほどの勢いはないが、依然として格闘技人気は続いている。今年は9月に東京で世界柔道選手権大会が開催される。こういった格闘技が人気があるのに柔道はなぜダメなのか?日本人が弱くなったとはいっても、格闘技の世界では海外の選手も人気がある。テレビの放映の仕方なのか、宣伝の方法なのか、選手のキャラクターなのか、ルールなのか・・なにが違うのか???