(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

( ´艸`)☆更新履歴☆(´~`ヾ)

(ガラスの・Fiction)49巻以降の話、想像してみた*INDEX (2019.9.23)・・記事はこちら ※ep第50話更新※
(ガラスの・INDEX)文庫版『ガラスの仮面』あらすじ*INDEX (2015.03.04)・・記事はこちら ※文庫版27巻更新※
(美味しん)美味しんぼ全巻一気読み (2014.10.05)・・記事はこちら ※05巻更新※
(孤独の)孤独のグルメマップ (2019.01.18)・・記事はこちら ※2018年大晦日SP更新完了※

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ep第11.03話(支線)【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-02-27 18:34:36 | ガラスの・・・Fiction
ep第11話←                  →ep第12話
(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話

********************

ep第11.03話 あの日、あの時のあなたの理由
--------------------------------------
「あの日・・・」
「え?」
「初めて私がここに来た日、月がきれいに輝いていた・・」
「ああ、そうだったな。」
真澄に促されて車に乗り込もうとしたマヤは、ふと左手を頭上の青空に掲げた。
その小指には、昨夜真澄からもらった指輪が輝いている。
「あの時は紫のバラの人があなただって、分かっていたけどその真実に向かい合う勇気が持てなくて。
 速水さんに会いたい、会いたい、それだったら紫のバラの人にあえばいいんだって!単純に・・・・」
そう言って顔を真っ赤に染める。
「でも、太陽もきれい・・・・」
かざした左手に輝く紫の石は、陽の光を受けてキラキラと輝いている。
「これからは、どんな時も一緒だ・・・」
太陽が明るく照らす春の日も、
波が激しく打ち寄せる夏の日も、
月が優しく輝く秋の日も、
雨が冷たく降りしきる冬の日も、
「君の手は、俺が導く。だから君の手は、俺を支えてくれ。」
これからずっと・・・・

**
「あれはやっぱり計算だったんですか?」
東京へ戻る車中、唐突にマヤが尋ねた。
「ん?あれとは?」
「あれですよ!あの、“来い、ジェーン!!!”」
そういうとマヤは助手席で狼少女よろしく、唸り声をあげた。
「ああ、あれか。そうだな、もちろん計算さ。しかし半ば自暴自棄の気持ちもあったかもしれん。」
確実に君に嫌われる、そう思ったからな。
「たしかに、恨みました・・・・」
でも、あの一件がなければ、きっと私は今こうして紅天女を演れていない。
「黒沼組が厳しい状況に追いやられているのは報告を見ても明らかだったからな。
 俺の立場としてできることは、ほとんどない。相対する立場にあると言ってもよかったからな、
 当時は。」
「や、でした?」
小さくマヤがつぶやくように聞いてきた。
「・・・・いやだったさ。君に嫌われるのは慣れていたが、決定打を自分で打つのはそれでも堪える」
「あの時思いっきりかみついて、ごめんなさい。」
ちょっと傷が残ってるの、昨日見つけたんです、そういってマヤは信号待ちで停まっていた真澄の手を
ギュッと握った。
“あなたの心の海は、とっても広いのね・・・”

**
「君の方こそ、どうしてずっと黙っていたんだ?」
あの時どうして?あの日何故?
私より速水さんの方がずっと隠し事が多いと言いながら
マヤの質問攻めが止まらないのに辟易した真澄は、反対に尋ねた。
「え?何ですか?」
「紫のバラ。今にして思えば確かに『忘れられた荒野』以降の君の言動は
 不自然なことが多かった。何度も聞こうとしたんじゃないのか?」
あの時、聞かれたなら、もしかしたら・・・。
「もし・・・なんてのはないんだけどな。」
自嘲気味につぶやいた真澄の横顔を見て、マヤは言葉を発した。
「速水さんの方こそ、どうしてずっと黙っていたんですか?」
「俺か?俺は・・・・」
君とのつながりを持っていたかった。
たとえこの世で結ばれなくとも、紫のバラを介してだけは、
ずっとそばに居られる、そう思っていたかった。

**
「どうでした?私の演技・・・あの時・・・」
そう言ってマヤは少し頬を赤くした。
「演技?いつのことだ?」
「阿古夜の・・、あの時、あの、船の上で・・・朝焼けを見ながら・・・」
薔薇色の朝焼け、今のマヤはそれ以上に赤い顔をしている。
「・・・・俺は今まで・・・」
真澄はハンドルを一瞬ギュッと握ると、スマートな目線でサイドミラーを確認しながら
車線を変更した。
マヤはずっと俺を憎んでいると思っていた。
俺の思いが、かなうことなどない、マヤがいつか振り向くことなどありえないと思っていた。
マヤへの深い深い思いが反対に真澄の心をかたくなにおしこめ、真澄は、
普通なら気づいていたであろうマヤから発せられる信号の色の変化を見落としていたのだ。
「あの日、君の演技を見た時、なぜだろうか、君の思いが素直に伝わってくる気がした。
 その・・・・阿古夜の思いは君の思い、一真を思う気持ちは、俺を思う気持ちなのではないか、
 不思議と素直にそう思えた。」
そうなれば、もう気持ちを抑えておくことなどできない。
「あの日、もうすぐ結婚しちゃうあなたに、せめて気持ちを伝えたくて、
 私は一生懸命演じました。速水さん、あなたに分かってほしくて。」
私の気持ちを・・・・
「もうだめだ・・・」
「え?」
「いや、そう思ったんだよ。もう、自分の気持ちに嘘をつくことなど、できないとね。」
「・・・あの時、速水さんに抱きしめられて、本当にびっくりしました。」
「俺の方こそびっくりしたさ。君がまさか、俺に・・・・俺の事をなんて、想像もしていなかったからな。」
あそこでもし、それでも俺が我慢をできていたのなら・・・
「今の幸せはないってことか・・・」
「え?」
薄く開けた車の窓ガラスから流れ込む風の音で、真澄の声はマヤまで届かなかったようだ。
「あの時、あの後本当に大丈夫だったんですかね、あの、その噂に・・・・」
マヤと真澄が固く抱きしめあっている様子は、同乗客数人に目撃されている。
その中には恐らく、二人の素性に気付いている者もいただろう。
「ふふふ、君は俺を誰だと思っているんだ?」
「・・・速水さん、大都芸能の(冷血)速水社長・・・・」
いわずもがな、不利になる情報をやすやすと表に出すことはしない。
「さすが敏腕若社長(仕事の鬼)ですね・・・」
「ふ、君の言葉の裏に、何か見え隠れするようだが、まあいい。
 少なくとも君はその、冷血鬼社長に女優人生を託しているんだからな、それをお忘れなく」
「すごい、人の心の中を読むなんて・・」
「・・・・やっぱりそう思っていたんだな、マヤ。」
「あ。」

**
「あの日は本当にすまなかったな。」
「え?」
「あの日、船を下りた後、君が大都芸能まで会いに来てくれた日、
 俺は君にひどい言葉をかけた。」
ーーーいい暇つぶしになったーーー
「ああ、あの事ならもう・・」
「言い訳をするつもりはないが、これだけは言わせてくれ。
 あれは決して本心ではなかった。」
「・・・・ええ、分かってます。大丈夫です。」
もっともあの時はひどく取り乱してしまったけれど・・・。
「あの後水城君からもこっぴどく言われたよ。」
「あの・・・、私、あの時は本当にショックで、どうしていいか分からないまま
 水城さんに助けてもらったんです。それでもあの船での出来事が嘘だったなんて
 信じられなくて、信じたくなくて、もうどうしていいか分からなくなって・・・」
「・・・・」
「・・・それで、月影先生に相談に行きました。」
「月影先生に?」
「はい。そしたら先生、本当の魂の片割れなら、私がつらい時は相手はもっとつらい思いを
 しているって。
 私、その言葉で速水さんを信じることが出来た。」
「・・・・ありがとう」
自分の気持ちを捨てるため、拒絶され傷つくことから逃げるため、一体どれほど
マヤにひどい事を、言葉をかけてきたのだろう。
真澄の心に改めてマヤへの思いがこみ上げる。
「幸せになりたいと、思ったんだ。」
「え?」
「これまで俺の人生は、復讐だけが目的だった。義父に、そして紅天女に、
 自分から平凡だけどささやかに守ってきた幸せを奪ったものに復讐する、
 そのことだけを支えに、仕事の鬼として生きることは自分にとってなんの疑問もない人生だった。
 それがマヤ、君に会って変わった・・・。」
幸せになりたい、君と一緒にいる時の、沸き立つような心の高揚感を
ずっと感じていたいと・・・・。
「私、幸せです。」
「・・・そうか?」
「はい。何より演じることが大好きな私が、演劇の世界でこうして生きることが出来る。
 紅天女という、すごく大きな舞台にも立つ事ができてそしてーーーー」
魂の片割れにも出会えた・・・。
「正直、これ以上の幸せなんて、ないかもしれない。」
「そうか・・・」
「速水さん、速水さんの幸せってなんですか?」
「え?」
「私は、言った通り、演じることが出来れば、そして速水さんの側にいられればもうこれ以上の
 幸せはありません。じゃあ速水さんは?」
「俺も同じだよ。」
マヤの演じる姿が見られれば、そして、マヤがずっと自分の側に居てくれれば・・・・
「他に何もいらない・・・」
「・・・・・」
窓から吹き込む風はまだ冷たくて、ほてったマヤの、そして真澄の頬を優しく冷ます。

********************
ep第11話←                  →ep第12話
(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
伊豆の別荘からおうちに帰る道すがらのとりとめのない
車中トーク、オムニバス。
もっといろいろ話続けたかったのですが、間をおきすぎて、
ちょっと整合性とるのが大変になってきたのでえいやっと
これでUPします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~



ep第11.02話(支線)【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-02-26 18:34:36 | ガラスの・・・Fiction
ep第11話←                  →ep第12話
(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話
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ep第11.02話 きみを好きだと思ったとき、あなたを好きだと気付いたとき
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--・・・・ねぇ。

--・・・・ん?どうした?

--いつから私の事、その、大切というか、気になるというか・・・・その・・・・

--好きなったのか?

--(真っ赤)まままま、まーそーゆー事でしょうか!

--(クックック)知りたいか?

--知りたいです!だって速水さんからしたら私なんてすっごく子供だし、多分きっと生意気だったし、
 その・・・・仕事の上でもじゃまっけな存在だっただろうし。

--そうだな。。

--・・・・やっぱりそうなんですか・・?

--北島マヤ・・・確かに大都芸能にとって、そして速水にとって、君の存在は紅天女を手に入れるという目的において
 最大の障壁だった。
 きみと初めて出会ったのは君がまだ13歳の時、まだ俺が月影先生の居場所を発見して間もなくの頃だった。
 あの頃は、月影さんが自身で「紅天女」を再演しようと画策していて、それをつぶすのに必死だった。
 
--・・・・

--月影さんが君に目をつけている事を知って、いったいどれほどの事ができるのか、と思っていたが・・・・
 まさか君が、こんな小さな体のどこにあんな情熱を持っているのだろうと、驚いたよ。

--やだ、速水さん、苦しい・・・・

--その頃の俺は、今に輪をかけて冷血仕事虫だったからな、月影さんが君に目をかけているのならその芽を摘むまで・・・
 そう思っていた。いや、そう思おうとしていた。
 しかし・・・、君のエネルギーに惹かれ、その理由もわからないまま、君を気にかけている自分がいたんだ。
 その頃の俺は、自他ともに認める仕事以外は全く興味のない朴念仁だったし、実際その方が仕事をやる上で
 効率的だった。愛だ恋だと浮かれるのは時間の無駄・・・・そう思っていたからな。

--そうなんですね。本当はこんなにあったかいのに・・・・(ぴと)

--今にして思えば、俺はあの頃からマヤ、君を愛していた。

--XXX

--腕も指も髪も、ここも、ここも、ここも・・・

--きゃははは、くすぐったいです、速水さん。

--俺とは全く違う君だが、でもほら、こうしてここに君がいると
 なんだかとってもしっくりくると思わないか。

--ハイ。そう思います。ここは私だけの場所。

--君への気持ちに最初に気付いたのは、有能な秘書殿だったかもしれないな。

--・・・・・え、水城さん!?

--ああ。でも俺自身はそんな気はないと思っていた。
 ・・・・思っていた割には、里美との事は気になったが・・・(ボソ)

--里美さん!!!  ああ、あの時は・・・・。

--・・・マヤ、笑わずに聞いてほしいんだが、君はあの時やっぱり里美の事が好き・・い、いややっぱりいい。
 聞かなかったことにしてくれ。

--もう聞いちゃいました。速水さん、顔真っ赤。ちゃんとこっち向いてください。

--イヤだ。

--んもう。でも速水さんの気持ち分かります。私だって、聞きたくないけど・・・やっぱり気になるし・・・・その
 紫織さんの事・・・。

--紫織さんと里美とは違うと思うが。俺は紫織さんには最後まで愛情を抱けなかった。
 大切にすべき人・・・それ以上には思えなかったのだから。 君は里美の事・・・

--好きでした。里美さんの事が気になってどきどきして、一緒にいると楽しくて。優しくて。

--・・・・・

--でも、それだけ。だってその頃の私は知らなかったから。

--何を?

--恋をした時に自分がどんな気持ちになるのか。幸せなだけじゃない。つらくて苦しくて、それでもその人の事しか
 考えられなくなるそんな切ない気持ち。
 今何をしているんだろう、私の事好きになってくれるはずがない、そう思うだけで胸が押しつぶされそうになる
 あの気持ち。あの頃は何も知らなかったから。
 単純に、一緒にいて楽しい。こっちをむいて笑ってくれるのがうれしい、それが恋って気持ちなんだと
 思ってました。

--マヤ・・・。

--でも速水さん、あの時私たちのお付き合いを駄目だって言わなかったですよね。

--あれは里美が先手を打って公にしたからな。売出し中の若手女優の相手としては、さわやかでこれまで
 スキャンダルもない好青年と噂になるのはイメージアップになるし、北島マヤという名が世に知られる
 きっかけとして利用できる・・・、所属事務所社長としてはそういう判断をするのが適切だろうということだ。

--なんか、回りくどいですね。

--しょうがないだろ。君のことを愛してると自覚したのはあの日・・・、あの、君が雨の中倒れて
 俺の屋敷に運び込んだあの夜のことだったんだから・・・!

--え・・・・あの日。

--(しまった・・)いや、君にとってはつらい思い出だったな。

--いいえ、聞かせて下さい。速水さん。

--・・・・・・
 君が演技が出来なくなるなんて想像もしていなかった。たとえどんなにつらいことがあったとしても、
 舞台の上に立てば君は輝ける、そう信じていた。しかし君はあの日、舞台で仮面をかぶることができなかった。
 この体に流れる演劇への情熱を奪うほどの事を俺はしてしまった・・・。
 その後悔は計り知れなかったよ。もちろん今もその時の気持ちは・・・・・持っている。

--速水さんっ!!

--それまで俺にとって女優は商品だった。そもそも俺が誰かのファンになることなど有り得なかった。
 そんな俺が君のファンになってしまった。君を応援し続けたいと思った、たとえ名を明かせなくても。
 しかし速水真澄が純粋にファンとして女優を応援したいなどと、思うはずがなかったんだ。
 君に送っていた紫のバラは、そのまま君への愛の表れだった・・・・その時やっと俺は気づいたんだ。
 君を愛していると。

--そんなに前から・・・・。その頃私・・・

--17歳、俺は28。いろいろな意味でやばいな。

--(ぷぷ)

--その日俺は決意した。君に再び演劇への情熱をよみがえらせると。そして
 君が大人になるのを、待つと。

--速水さん・・・・そんな風に思ってくれていたなんて・・・。

--そう言えば、俺のパジャマ似合っていたな、あの時。

--(かあ~~~)恥ずかしい。ていうかあのパジャマ着せたのまさか・・・

--俺じゃないぞ。さすがに俺もそこまでは出来ん。少女の服を着替えさせるなんて、
 でもま、その頃から比べれば・・・・大人になったよ、マヤ。(しげしげ)

--速水さん!!からかうのやめて下さい!!(真っ赤)

--ははは、すまんすまん。しかしな、マヤそんなことで顔を真っ赤にしている場合ではないぞ。

--え?

--あの日、君は本当に危険な状態だったんだぞ。医者を呼んで、一晩薬を飲んであったかくして寝て
 翌日にはなんとか回復したようだったが、そもそも君、高熱で倒れている状態でどうやって薬を飲んだと思う?

--え?それは・・・・どうやって・・・・でしょう・・・。

--それは・・・。

--(うぐっ・・・・・コク、コク) っぷはぁ・・・・っては、は、速水さん・・・・まさか・・・・!?

--命の恩人にお礼を言いたまえ。

--ひどい・・・・。私の・・・ファーストキス・・・。

--・・・いやだったか?

--いいえ、記憶がないうちにそんなことになるなんて、ちょっとショックだっただけです。
 だって私のファーストキスはあの日の社長室だと・・・(ボソ)

--ん?? なんかいったか?

--あわわわわ、なななんんでもないです、なんでもないです。

--君はどうなんだ?

--え?

--君はいったいいつからなんだ?

--速水さんの事を好きになったの、ですか?

--まあ、そうだな。

--う~~~ん。正直よくわからないんですよね。
 だって速水さんと初めて会った時って、まだ私中学生だったし、当然大人の速水さんに
 そんな風に思うはずもないわけで。
 ただ、最初は・・・・優しそうな人って思ってました。

--優しそう??

--ハイ。『椿姫』でうろうろして速水さんにぶつかっちゃった時、速水さん優しく席まで案内してくれたから。
 その後あの人が大都芸能の若社長だ、仕事に厳しくて血も涙もないヤツだって聞かされても
 私しばらくの間その噂が信じられませんでした。

--そうだったのか。

--その時の印象を大切にしていればよかったんですよね。周囲の言葉は見える物だけを信じるんじゃなくて、
 自分で感じたその気持ちを大事にしていれば・・・・。

--そうさせなかったのは俺のせいだ。

--まぁ・・・・。つきかげにとっては天敵、速水さんも、私の事邪魔ものだと思ってるってずっと信じてたから、
 たまに見せる優しい顔とか、ほら、二人でいつか一緒に乗ったボート、覚えてますか?

--ああ、パックの頃だったな。

--ええ、あの時のきらきら輝く水面、今でも覚えています。
 どうしてこの人はこんなにやさしい顔をするんだろう。私達こと、嫌いなはずなのにーって。
 母さんの事も・・・・。あの時速水さん私に「好きにしろ、俺は謝り方を知らん」って言って
 体を広げたでしょう。あの時私、これがこの人なりの謝り方なんだって、何故だか恨みよりも先に
 そういう気持ちの方が沸き起こってきて・・・・。
 その後も、あなたの事を憎みたい、大嫌いって、思っても思っても思いきれなかった、そんな時・・・・

--そんな時?

--あなたを、見たんです。街で・・・・綺麗な人と、一緒にいる姿を。

--ああ。

--体の中に冷たい風が吹き抜けたみたいでした。
 あなたがあの人、そう、紫織さんに向けてみせる顔がとっても優しくて、それは
 私が今まで見たこともないような、そんな顔・・・・

--マヤ・・・

--速水さんがお見合いしたって水城さんに聞いて、私一瞬どうしていいか分からなくなった。
 速水さんが遠くに行っちゃう。誰かの物になっちゃうかもしれない・・・・。
 今にして思えば、もうその時には私あなたの事が・・・・。

--マヤ、俺が紫織さんに見せていた顔は、決して心からの笑顔では・・・

--見せて、顔を。もっとそばで。
 ・・・・・そう、この顔。速水さんが私に見せる、ちょっとさびしそうで、それ以上に何かを
 訴えているような、こんな目・・・・。
 私は何度もこの目の意味を考えていた。
 あなたが私に見せる表情は、いじめっ子みたいに人をからかうような冷たく嫌味っぽい目か、
 こうして何かを言いたそうに、それでも言えない何かを隠しているようなさびしい目。
 昔はもっと普通に、あなたの笑顔を見てた気がする、怒ってるのに笑っちゃうみたいな感じだったのに
 あの頃から、あなたがお見合いをした辺りから変わっちゃった・・・・
 私、それがきっと多分さびしかったんだと思う。

--そうか・・、おれはあの頃自分の気持ちを封印して、一生を影としてマヤを支える事を決意していた。
 かなわぬ思いを仕舞い込んで、表面をとりつくろうだけの人生を選んだ頃だった・・・

--その後、紫のバラの人があなただってわかって混乱して。あなたに対する見方がどんどん分からなくなって、
 速水さんの事が分からなくなって、自分の気持ちもわかんなくなっちゃった。
 そのまま梅の里に行っちゃったから、私・・・・
 速水さんの事ばっかり考えちゃって、紅天女の稽古どころじゃなくなっちゃいました・・・!

--向こうで君と見た星、きれいだったな。

--ええ、速水さんにも見せてあげたいって思ったら速水さんが現れたからびっくりしました。

--俺の方が君にはびっくりさせられてばかりなんだが・・・・。あの梅の谷でも。

--あ、あの時・・・・。そう、あの時です。私があなたのこと好きだってはっきりわかったのは。
 あなたが私の事だけを考えてくれていた事に気付いたあの時・・・・
 社務所であなたに温めてもらったあの時・・・・わざと私の事金の卵扱いして元気付けようと
 してくれたり、私の舞台をずっと見ていてくれたことを話してくれたり・・・・
 でもあなたはもう別の人との縁がある人、今ここにいるのは幻の出来事。
 だから私、あの時わがまま言ってでも、あなたに抱きしめてもらいたかった。
 どうせ朝には消える夢、それなら朝まで夢を見ていたい。
 そう思ってました。

--今はどうだ?

--え?

--あったかいか?俺は君を暖められているか?

--ええ、ええ速水さん。あったかいです。

--梅の谷よりずっと薄着だが・・・・

--その分速水さんの暖かさが直接伝わってきます。

--あの日、君と別れてから、君が着ていたコートを身にまとって車に乗った時、
 君の香りが俺を包み込んだんだ。一晩中、抱きしめ続けた君の残り香が、
 俺の封印したはずの気持ちを呼び起こしていた。
 そう、こんな風に、とても穏やかな香りだった・・・。

--速水さん・・・

--あの夜、君はぐっすり眠れたのか?

--え?ええ、あの、いくらかは眠れたと思います・・・。

--俺は苦しかったぞ。長い夜になることを覚悟していた。君を胸に抱いて、
 このまま身も心も封印しないといけないなんて、とんだ苦行だ。
 だから、夜明けに君の穏やかな寝顔を見ていたら・・・・

--見ていたら・・・

--君はこれから目の前に広がる大きく広がる世界へ飛び立っていく、そんな女優なんだと
 そんな君の姿を見れるのは俺にとって一番の幸せだと確信したよ、だから・・・
 
--だから・・・?

--こうした。

--(うぷ・・・っ)・・・って速水さん、また!? え、まさかあの社務所でも??

--ククク、ああ。まあな。

--うそっ!! なんかひどい。

--じゃあ君もそろそろ教えてくれたらどうなんだ?

--え?

--君のファーストキス、社長室って聞こえたような気が・・・・・

--あわわわわわわわ、そ、そそそれは・・・・・・ぁ!!!

--でもその前に、今はまるであの時のような感じだな。
 このままでは、苦行だ。
 マヤ、あの時俺が言った言葉覚えているか?

--え?

ーーーーー俺も男だからな。責任がもてなくなるかもしれんぞーーーーー

********************
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(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
どー考えてもピロートークなんすけど・・・どーなんしょ。
同じ布団の中に入っている時の方が、自分の気持ちに素直に、
普段言えないような歯の浮く言葉も平気で言えちゃうってこと
ありませんか。
そんな感じ。
マヤの誕生日お祝いした後、夜が明ける前の会話ってタイムラインの
イメージでしょうか。
さてさて、俺の責任はどうなったのでしょうか・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~~~

ep第11.01話(支線)【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-02-26 18:33:59 | ガラスの・・・Fiction
ep第11話←                  →ep第12話
(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話
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ep第11.01話 紫のバラに気付いたわけ
--------------------------------------
--そう言えば、君は一体いつから気づいていたんだ?

--え?なにが?

--紫のバラ。俺が贈っていたって知っていただろう?初めて伊豆に来た時にはもう・・・。

--ああ・・ハイ。知ってました。

--・・・・恥ずかしいな。いったいいつから?実は最初から知ってたわけでは・・・。

--まさか!!速水さん分かりませんか?いつ私が気づいたか?

--う~ん、見当もつかんな。聖に完全に任せてからは、俺は渡す現場には
 極力立ち会っていなかったと思うのだが・・・。

--これ。

--ん?ああ、メッセージか。こんなのもの持ち歩いているのか?いつも。

--全部ではありませんが、このメッセージカードは特に大切な物なので、いつも身に付けています。

--これは、『忘れられた荒野』で君が最優秀演技賞を受賞した後に送ったものだな。

--はい。速水さん、これ読んでみてください!

--なに?自分で読むのは恥ずかしいな・・・。え、読めって・・・。分かったよ。
“受賞おめでとうございます いよいよ「紅天女」ですね 頑張ってください
いつもあなたを見守っています
「忘れられた荒野」でのあなたの狼少女ジェーンはすてきでした
スチュワートの青いスカーフを握りしめながら人間にめざめていく場面は感動的でした 
                                  あなたのファンより”

--・・・・・(うるうる)

--(?)ん?どうした、これになにか問題でも・・・。

--いいえ、思い出したんです。最初にこれを手にしたとき、どれだけ驚いたか。

--ということは、この中に俺だと分かることが入っていたというのか?一体・・・。

--“青いスカーフ”、速水さんは舞台の初日、台風が上陸して他に観客が誰一人いなかったあの日に
 来て下さったでしょう?舞台で青いスカーフを使ったのは、その時だけだったんです。

--なに?それは本当か。

--ええ・・。打ち上げの時黒沼先生がタバコで燃やしちゃって・・・、翌日からは赤いスカーフを代用してて。

--そうか・・・・。俺も舞台を見たのはあれ一度きり、記事やテレビでもあのシーンは使われていなかったからなあ。
 俺としたことが。とんだ凡ミスだ。

--でも、そう思って振り返ってみたら、確かに速水さんだったって思う事は多々あって。
 ていうか、あんなにいつもぴったりのタイミングで手を差し伸べられる人、自分の近くにいる人でないと無理に
 決まってるんですよね。むしろなんで気づかなかったんだろうって思います。

--紫のバラの名をかたることで、俺は唯一自分に正直にしたいと思う事をすることができた。
 現実世界の“速水真澄”はしがらみが多すぎて、君を素直に助けることが出来なかった。

--しょっちゅうイヤミなこと言って、私の事バカにしてたのに、裏であんなに私の事考えてくれてたなんて・・
 なんかずるいです。

--ハハハ!!君のためだけじゃないさ。紫のバラを贈ることで、俺の心は癒されていたから・・・・。
 だからこそ、たとえ現実世界で君の手に直接触れることが出来なくても、紫の影として一生、君を見守り続けていきたい、
 そう思っていた・・・。

--・・・・・(じーん)

--では、狼少女以降君が紫のバラの人に会いたいと言い続けていたのは実は・・・

--ハイ、速水さん、あなたに会いたかったんです。

--・・・・・そうか・・・(じーん)

--『奇跡の人』で稽古場として使わせて頂いた長野の別荘の時、足をくじいた私をソファーまで運んでくださったのも
 速水さんだったんですよね。

--ん?あ、ああ。

--あの後、助演女優賞を受賞した時、私速水さんとダンスして、うっかり足を取られてあなたにまだ抱きついちゃった。
 その時なんとなく思ったんです、この感触、前にも・・・って。

--やっぱりそうだったのか、気づかれたのじゃないかと慌てたよ、あの時は。

--学校にも通わせて頂いて、本当にありがとうございます。

--君が無事卒業できてよかったよ・・・。

--あ、卒業証書・・・・あ、あの・・・。

--君から卒業証書をもらった時は、本当にびっくりした。あんな大切な物をもらう資格、俺にはないと返そうとしたんだ。
 それを聖がマヤの気持ちを思うなら、是非受け取ってくださいと言って・・・。

--はい。私が高校に通えたのも、高校で一人芝居に挑戦できたのも、全て紫のバラの人のおかげでした。
 感謝の気持ち、どうやって伝えたらいいのか分からなくてそれで・・・。

--まだ持ってるか?

--え?

--卒業証書。君の所に送り返されたのだろう?

--・・・・・・・はい。

--俺の知らない所で起こったとはいえ、君を傷つける事になってしまって申し訳ない。
 誰が何のために、ということは今更かもしれないが、でもこれだけは言っておきたい。
 マヤ、君からもらった写真や品物は、全てここで大切に保管していた。
 卒業証書も、持ち出されたと気付かなかった俺の責任だが、
 きみの写真を破ったり、卒業証書を送り返したりしたのは、俺ではない。そんなこと、できるはずがない。

--最初はびっくりしてショックで、どうしようもなくなっちゃったけど、でも・・・信じてました。
 速水さんが必死で私の事を暴漢から守ってくれているのを見て、この人があんなことするはずないって。

--今度、持ってきてくれないか?もし君がいやじゃなかったら、もう一度渡してほしい。俺に。速水真澄に。

--・・・・・・ええ、速水さん。もし紫のバラの人にもらっていただけるなら、こんなうれしいことはありません。

--俺が紫のバラの贈り主だと知って、ショックだっただろう。

--最初は・・・でも、あとから思い返せば納得できる事もたくさんあったし、それに何より・・・
 私が速水さんに抱いていた感情がずっと自分でも説明つかなくて、どうしてだろう、カタキみたいな人なはずなのに、
 優しい笑顔が気になるんだろう?本当は何を考えているのか、知りたいと思うんだろうって、ずっと
 分からずにいたんです。
 それが、あなたが紫のバラの人だと分かった時、ようやく一つになったっていうか・・・。
 あなたの本当の気持ちが、紫のバラに隠されていたとしたら、私の事をずっと見守ってくれていたのはあなただった。
 あなたが憎まれ口ばっかり言いながら、結果的に私にとって一番いい道を選ばせてくれたのは、
 きっとあなたの本当の気持ちなのかもしれない、あなたの優しさだったのかもしれない、って気づいて・・・・
 そして気づいたんです。私、速水さんの事が好きだって。ずっとずっと前から好きだったんだって。

--ありがとう、マヤ。

--紫のバラの人のおかげです。私に、速水さんの事を好きな気持ちを気づかせてくれた。

--いつの日か、君に堂々と紫のバラを手渡せる日がくるまで、もう少しだけ待っていてくれ。

--はい、速水さん。紅天女も、そしてこれからの北島マヤも、紫のバラの人に喜ばれるような芝居をし続けます。

--期待しているぞ。

--はい、でも・・・

--でも?なんだ?

--やっぱり一番にほめられたいのは、速水さんですっ
 速水さんの “よかったぞ” また聞きたいから私、頑張りますっ!!

********************
ep第11話←                  →ep第12話
(支線) ep第11.01話 ep第11.02話 ep第11.03話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
お昼過ぎに伊豆の別荘に着いて、ひとしきり今後の事を
話した後、夜になるまで話し続けた時の取り留めのない会話
落ち無し会話が続くだけでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~


ep第11話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-02-25 16:33:48 | ガラスの・・・Fiction
ep第10話←                  →ep第12話
********************
2月中旬ーーーマヤは伊豆の別荘に向かっていた。
以前は聖の車で通った道だが、今日は真澄が隣にいる。
「ようやくだな・・・」
誰に言うともなく真澄の口から言葉が漏れる。
「二人であの船に乗ったのは・・・・9月の事か・・・」
まだ半年も経っていないのに、もうずいぶんと昔のような気がする。
「疲れているだろう、着いたら起こしてあげるから寝ていなさい」
運転しながら真澄はマヤの体を気遣った。
1月2日にスタートした『紅天女』公演は、3月いっぱいのロングランに入っていた。
今回の紅天女は約30年ぶりの再演ということもあり、黒沼としても
オーソドックスな、これぞ紅天女という物を示す舞台にしたいとして、
比較的シンプルでありながら重厚感のある演出で行われていたが、
回を重ねる毎にマヤと桜小路の息もあい、特にここへきて一真の
阿古夜を思う演技が非常に涙を誘うと評判になっていた。
そうなってくると、元来演劇への飽くなき欲求が強い黒沼は、
演出方法を変えてみたいという思いが強くなる。
そこで後半の舞台は、今までと少し趣向を変えた演出にしたいから、と
2月中旬に5日間の休演日が設けらえたのだ。
休演日、といっても役者たちは新たな演出に向けて急ぎ稽古をつけねばならない。
その合間でマヤと、そしてある意味マヤ以上にスケジュールが詰まっている真澄は
何とか休みを合わせ、こうして伊豆へと向かっている。
「いいえ・・・・、せっかくなのに、寝るのもったいないし」
そう言ってマヤは助手席でニコリと笑った。

「あ、そうだ。すっかり忘れていた。速水さん、ありがとうございました。」
「ん?なにがだ?」
「紫のバラです。初日の舞台に届けて下さったでしょう?」
「・・・ああ、そうだったな。」
初日の舞台前日、真澄はマヤに自分が紫のバラを贈っていた事を告白した。
もう、名前を隠すことなく堂々と贈ることができる。
しかし真澄は、本公演でも今まで通り直接手渡すことなく
聖を介してマヤに花を贈っていた。
「すまないな、本当は直接渡したいのだが・・・だが・・・」
「わかってます。だって速水さんが紫のバラ持ってたら、
 多分現場はみんなパニックになっちゃう・・・!」
それもいつか見てみたいけど・・・とぷぷっと笑うマヤに屈託はない。
北島マヤという女優にとって、紫のバラがどれほどの意味を持つのか、
もはや業界関係者で知らない者はいない。
現状、大都芸能社長であり、マヤとは過去にいろいろ因縁のある関係、ましてや
公には発表していないとはいえ、ついこの前婚約破棄をした身、となれば、
本人同士の真実など、スキャンダルに塗りつぶされてしまう。
「それでも、贈りたかったんだ。君に」
「ええ、私も紫のバラの人がいなくなるのはさびしいです。」
「俺にとっての紫のバラは、俺自身の生きる支えだった気がする・・・」
真澄は遠くを見る目で話し始めた。
初めてマヤの舞台を見たとき、あんなに小さな体のどこに
こんな情熱を持っているのだろうと思った。
演劇にかけるひたむきな思い、そして才能。
そんなマヤにずっと憧れていた。人として・・・。
「俺は速水真澄だが、紫のバラを贈る時はただの君のファンになれた・・・
 そうすることで人の心を取り戻していた気がするよ」
マヤにとっての紫のバラの人が、女優を続けていく上で何よりも
支えになっていたように、真澄にとっても紫のバラを贈る時だけは
冷血漢の仮面を外しただの一人の男になれていた。
「できればこれからも、君にバラを贈りたい。紫のバラを・・・」
「私も、初舞台からの大切なファンの方に認められるような演技を
 これからも続けていきたいです。」
正々堂々と皆の前で渡してやれなくて申し訳ないという真澄に、
真実は二人が分かっていればそれでいいと微笑むマヤ。
それに・・・、ちゃんと名乗ってくれていますし・・・
そう言うとマヤは、鞄からメッセージカードを取り出した。

“素敵な紅天女をありがとう。 速水真澄”

**
「うわ~~~~~~ぁ、すごい!!!」
伊豆に着いたマヤは早速海岸へと降りた。
東京と比べると暖かいとはいえ、まだ2月。
さすがに裸足で砂浜を歩くのは無理だと、そのまま軽く海辺を歩く二人。
「暖かくなったら、また来ればいい」
そう言ってほほ笑む真澄を見ていると、そうかこれっきりでないんだ、
と改めてマヤは喜びをかみしめた。
当たり前みたいに、速水さんが隣にいる・・・・!!

これまで何度となく真澄と紫織が仲良く寄り添う姿を見ては、
自分なんかが釣り合うはずがない、と自己嫌悪に陥り落ち込んでいた。
今もどうして真澄が自分なんかと・・と思う気持ちはあるが、
こうして見上げた時に見せる真澄の顔はどこまでも穏やかで、少しだけ安心する。
すーっと、真澄がマヤの手を取った。
「まだ風が冷たい。これ以上ここにいると風邪をひくな。上に上がろう」
そういうと手を握って真澄の別荘に向かった。
今までも何度かつないだ手。
いつも暖かく導いてくれた。
このままこの時が止まればいいのに・・・・何度そう思っただろう。
でも今つながったこの手は、
これから二人で時を刻んでいくためにある。

「すごい・・・」
一体何回目だろうかというマヤの感嘆の言葉。
それも無理はない。
別荘の中はきれいな花が飾られ、そしてテーブルの上には
これでもか!!というほどたくさんの種類のデザートが並べられている。
「どれでも好きなの食べていいぞ。君の底なしのお腹ならきっと結局全部
 なくなってしまうだろうがな」
笑いながら近づいてきた真澄は、手にしていたマヤと自分の分の飲み物を
テーブルの上に置いて椅子に腰かけた。
「どうしたんですか?こんなに?」
「聖に頼んで準備しておいてもらったんだ。」
「聖さん・・・。もう帰っちゃったんですか?」
そう言えばまだ聖とちゃんと話をしていない・・・・マヤはそのことに気付いた。
「君に訊きたい事はいろいろあるよ。いったいいつから俺が紫のバラを贈っていた事に
 気づいていたのかとか・・・・」
でもとりあえずは、休憩だ。と二人はデザートを食べながら(食べている姿を眺めながら)
楽しいひと時を過ごした。

何から話します?と最初に言葉を出したのはマヤだった。
何となく、真澄が言えずにいる気がしたから。
「そうだな・・・・ではとりあえず事務的な事は早めに終わらせるか。」
仕事は日が沈む前に・・・といった感じで真澄は
飲み干したコーヒーを足しに一旦キッチンに向かった。
「紅天女に関して、君はこれからどうしたい?」
マヤをまっすぐに見て話す真澄の顔は、大都芸能社長のものだった。
「ええと、月影先生が何年もご自身で守られ続けたものです。
 出来ればこれからも私がしっかりと管理していきたい。
 でも、私なんかが、世の中の事とか
 大人の難しい話とかも何も分からない私が
 本当に一人で出来るのか不安なんです・・・・」
予め話す事は決めていたかのように、マヤの言葉はよどみがなかった。
一呼吸おいて、飲み物をコクリと一口飲むと、続けてマヤは、
「だから、できればいろいろと速水さんに教えてもらいたいです。
 契約ってなんなのか、とか、
 上演権を持っていると何が重要なのか、とか、
 今後『紅天女』を演じたい時にはどうしたらいいのか、とか・・・」
そういってマヤは真澄の目をまっすぐ見た。
「なるほど・・・・ではその件はもう一つの方の話を進めてから後でまた話そう。」
真澄はマヤの目を見て続けて言った。
「大都芸能に戻ってこないか?マヤ?もう一度、君を虹の世界で輝かせたい」

大都芸能に所属する、かつて高校時代に一度は経験したことではあるが、
それは苦い思い出とともにあった。
芸能界の事など、何も分からなかった子供の自分。
タレントを売るためにはどんな裏の手を使っても平気だった、あの頃の自分。
お互いに振り返るのをはばかられるようなつらい経験だった。
「私はもう、子供ではありません。だから・・・、自分の意志で決めたい事もあります。」
“わたし、早くおとなになりますから・・・”
かつて船着き場でそう言って真澄の胸にすがりついてから5ヶ月ーーー
「でもまだまだ私、大人ですと胸を張って言える自信がありません。」
それでも速水さん、私のそばで見守ってくれますか?
そういって真澄の方を濡れた目で見るマヤの手をとり、真澄ははっきりと口にした。
「もちろんだとも。以前のようなことは、もう二度としない。
 君を、そして君が大事に思う物はすべて俺が守る。守らせてくれ。」
力強い真澄の言葉に応えるように、マヤもぎゅっと手を握り返す。
「ありがとうございます。速水さん。私、大都芸能で頑張ります・・・・」

**
しばらくの沈黙ののち、
先ほどの件だがーーーと、真澄が口火を切った。
「君を大都芸能に迎え入れるまで、少しの時間を欲しい。」
意外な言葉にマヤが理由を問う。
真澄としては、今すぐにでもマヤを大都に入れたい気持ちなのは揺らぎない。
しかしその前に片づけておかなければならない問題があった。
速水英介ーーー
英介との話し合い如何によっては、自分自身も大都芸能を
そして速水家を出なければならない可能性がある。
「もし万が一、おれが大都芸能の人間でなくなった場合・・・」
君はそれでも俺についてきてくれるか?
真澄への答えに、考える時間など必要なかった。
「速水さん、私はこれまでずっと速水さんの影の支えに導かれてここまで来ました。
 速水さんが私に対してしてきたことは、全て私のためになることばかりだった。
 幼かった私はそのことに気付けなくてあなたに随分とひどいことを・・・・。
 でも今なら分かります。あなたが先の事を考えずに行動する人でないってこと。
 だから、信じています。」
真澄が大都芸能を離れる理由は分からない。でも真澄がそう決断するのなら、
自分もそれに従うだけ・・・・。
マヤの決意はシンプルかつ強固なものだった。
「ありがとう」
マヤを優しく抱きしめると、真澄は、
「君はもうチビちゃんじゃない。これから俺が話すことは、難しい事もあるかもしれないし、
 つらいこともあるかもしれない。だが、俺はもう君になんの隠し事もしたくないんだ。
 だからぜひ、聞いてほしい・・・」
そういうと真澄は、自分の婚約にまつわる話、英介や紫織の事を話し始めた。

マヤと初めて思いを確認し合った、アストアリア号を下船したあと
紫織に破談を申し入れたこと。
紫織がショックを受けて自殺未遂を起こし
一命は取り留めたが心神喪失状態になり、
その怒りの矛先がマヤに向かっていたこと。
マヤの身を守るため、心を捨てて再度紫織と結婚することを
決意していたこと。
マヤが紫のバラの人に会いたいと言ってくれたことで
自分の思いはこれからも決して
消えることはないと自覚したこと。
自分に正直に生きるため速水邸を出て、紫織の回復に尽力していたこと。
紫織がマヤの紅天女を見て以降、少しずつ回復の兆しを見せていること。
二人で話し合って、婚約を破棄したことーーー

自分が想像していたよりもずっと難しい立場に真澄がいたことにマヤは驚いた。
そして、辛い思いを体にも心にも刻んだ紫織の事を思うと胸が痛んだ。

「本来なら君に伝えることではないのだろう
 俺自身で解決すべき問題なのだろうが・・・」
そういう真澄に、うるんだ目をしたマヤはきっぱりと
「いいえ速水さん。私が以前、梅の里で言った言葉に偽りはありません。
 あなたと私は同じ一つの魂、あなたの罪は私の罪です。
 これからは決して一人で抱え込まないで。私ももう
 一人で勝手に落ち込んだり、怒ったりしませんから!」
「・・・・ありがとうマヤ。」
そういうと真澄は、マヤの頭を優しくなでた。
「幸い紫織さんもだいぶ回復してきた。今は俺の顔を見ない方が生き生きとしているのかもしれない。
 鷹宮との話し合い、ビジネス面においても大体の決着は見えてきた。あと残るは・・・」
速水英介・・・義父だけなんだ。
「パフェのおじさん・・、速水会長・・・」
「オヤジは大都と鷹宮の提携で得るはずだった利益をふいにした俺に対し不満を持っている。
 今は当座のしりぬぐいをしなければならないからまだ大都に、速水の家に籍があるが、
 ある程度のめどが立ったら恐らく俺の進退問題は避けては通れないだろう。」
もとより速水家は出る覚悟だった・・・・マヤとの道を進むため。
「オヤジは、紅天女を手に入れる事を目標に大都芸能を興した。
 今回君が大都に入ってくれるとなれば、その目的は果たしたと言える。
 しかし俺としては・・・」
マヤ、君は俺自身の手で守りたい。
「全ては・・・速水会長との話し合いの後、という訳ですね。」
「ああ。マヤ、今は舞台に集中して、素晴らしい紅天女の舞台をつくる事に専念してくれないか。
 千秋楽までには・・・・、決着をつけたい。だからそれまで・・・もうしばらく」
マヤの両肩をつかみ、まっすぐな目でマヤの顔を見据えた真澄に、
マヤはこれまで以上に穏やかな微笑を浮かべて言った。
「はい、速水さん。私待ってます。」

**
「ちょっと待ってろ」
そう言ってさっきまで一緒に星を見ていたテラスにマヤを残し、真澄は一人部屋に入った。
紅天女の上演権の事、そして大都芸能の事を離したあと、真澄とマヤはお互いのこれまでの
隙間を埋めるかのように話を続け、いつしか陽は沈み、夜の気配に移っていった。
肩にかけられたブランケットを体に巻きつけると、マヤはふっーーと大きく息をついた。
真澄と居る、2回目の伊豆・・・・。
前に来た時は、まだ自分が紅天女になるなんて思ってもいなかった。
毎日が必死で、真澄の事でいっぱいで、とにかく無我夢中だった。
そしてまだ、紫のバラの人が真澄であることを告げられていなかった。
それが今や、試演を乗り越えこうして真澄と二人ゆっくりと星を眺めている。
紅天女の本公演中に・・・。
「うそみたい。やっぱり夢かしら」
そう言ってほっぺたをつねってみる。痛い。
「よかった~」
「・・・・何をしているんだ?」
挙動不審な動きを一部始終見られていた事にマヤは慌て、顔を真っ赤にする。
「もう、いるんなら声かけて下さい!!恥ずかしいXXX」
「・・・クックック、すまない」
笑いながら真澄は中に、とマヤを室内へと連れて行った。

「わぁ~~~!!!なにこれ!!」
星を見たいから、と明かりを消していた室内は真っ暗だったが、
ただ一か所、テーブルの上にきらきらとろうそくが光り輝いていた。
ホールケーキ、そしてプレートには・・・
「誕生日おめでとう、マヤ。」
そう言ってにっこりとほほ笑んだ真澄の胸にマヤは飛び込んだ。
「ありがとう、速水さん。私すっかり忘れてたっ!!」
いつの間にか日付を越えた今日は2月20日
「去年の俺の誕生日、君と過ごせたことを本当に幸せに思った。
 その時から君の誕生日は絶対に一緒に過ごしたいと思ってきた。」
優しく、時に強くマヤの体を抱きしめる真澄の力強さに、
マヤの涙は止まらない。
「これでやっとまた、11歳だ。」
「・・・?」
「君との歳の差。11月から2月までの間、君と12歳の差になるのがつらかった。
 11歳以上は縮められないけれど、それでも今日、君に少しだけ近づけた気がする」
「速水さん・・・」
「これからはずっと、君のそばにいる。君にも俺のそばにいてほしい。」
「・・・はい。速水さん。私もがんばって、もう少し大人になります。」
「・・・?それは期待していいのかな?」
「え?・・・あ、えと、いやいやいや・・・」
慌てて真澄の顔を見上げるマヤの顔は真っ赤で、真澄は笑いをこらえきれず吹き出してしまう。
「いやいや、冗談、冗談だよ。さ、とにかくケーキを食べるか?
 それとも、既にたっぷり食べた後だから、明日にするか?」
一口ぐらい食べたい!というマヤに、優しくろうそくを吹き消すよう促す真澄。
ふぅ~~~~~~~~
マヤの肺活量で一気に消えたろうそく。
室内に漂う、燃えたろうの匂い。ケーキの甘い香り。
わずかばかりのろうそくの火も消え、再び漆黒の暗闇に包まれた室内。
つーっと、マヤの手が取られた。すかさずひやりとした感覚。
「!?」
次に真澄が部屋の明かりをつけた時、
マヤの左手の小指にキラリと光る指輪があった。
「・・・これ・・」
「アメジスト、2月の誕生石。紫に輝くこの石は、君にぴったりだ。」
「すごく・・・綺麗。」
華奢なリングに清楚にちりばめられたアメジストの紫色は、まるで小さな紫のバラの花束のようだった。
「小指のリングもいいだろう?ようやく速水真澄として、君に堂々とプレゼントができるんだ。」
今はそれを楽しませてくれーーーーそしていつか・・・・・
真澄はマヤの左手にキスをした。
「君と、この世で出会えてよかった。」
「私も、生まれた世界にあなたが居てよかった。」

二人は優しく、唇を重ねた。

********************
ep第10話←                  →ep第12話
*支線エピ ep第11.01話  ep第11.02話  ep第11.03話

~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
伊豆に来たんですけど、季節的に砂キュッキュも
カニ泡ブクブクもさせてあげられなかった・・・。
せめてもと星見くらいは・・・・。
と思ったらそれも素通りでただの甘々話。
本編予想で(無理やり)真澄の誕生日をからめたので、
エピローグ編では(強引に)マヤの誕生日を祝いました。
一応この日から正式に、二人の交際はスタート・・・ってことで
いいのでしょうか、自分でいうのもなんですが。

付き合い始めの頃って、いつから私の事好きだった???
みたいな激甘トークがしたい盛りなはず。
あと、あの時実は・・・みたいなネタバレ話とかも
話しているだけで夜明けになりそうな感じ。
今まで自分の気持ちを隠しまくって伝えずに伝えずに
きた二人なので、ここぞとばかりに会話をさせたかった。。。
~二人の話は朝まで続いた~
の一行で済むんですけど。
だから絶対、漫画だったらこんなシーン削られるでしょうねぇ。
という訳で、支線エピソードに分けました。
ビジネスに絡む部分だけ、本線で進みます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~

【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第24巻【ネタバレばれ】

2015-02-23 23:19:36 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第24巻 ※第13章(途中から)(途中まで)

第13章 ふたりの阿古夜


真澄と紫織の婚約披露宴で、仲睦まじそうな二人の様子を目の当たりにしたマヤは、
自分の想いを告げることなく、真澄にいつものようなけんか口調でその場を後にすることしか
出来なかった。
「ご婚約おめでとうございます」
「私の事、チビちゃんって呼のやめてください」
「どうかお幸せに・・・!!」
もう少しでバカなことするところだった。
あの人にはあんなに素敵な人がいるのに・・・。
真澄の魂の片割れは、あの人・・・
自分にとっての魂の片割れでは真澄ではなかった・・・。
マヤの心は空洞になり、抜け殻のような状態で、
紅天女試演に向けての稽古に向かうこととなる。

全日本演劇協会「紅天女」実行委員会による記者会見で、
試演についての詳細が発表された。

小野寺グループ
演出:小野寺一

黒沼グループ
演出:黒沼龍三

役者もそれぞれ2チームに分かれ、演出家をはじめとするすべての出演者を
試演によって選出する。
上演順は、抽選により、黒沼チーム→小野寺チームと決まった。
審査に関しては、月影千草をはじめ実行員会審査員のほかに
一般審査員も参加する。
試演日は10月10日
会場はシアターX
本公演は来年1月2日から約1ヶ月
本公演の劇場は、試演審査終了後会場で発表される

シアターX・・・そこは、劇場ではない。
再開発予定の旧汐門水駅跡地である。

いよいよ各チームに分かれて、本格的な稽古がスタートする。

**
黒沼チーム

失恋をひきずるマヤは、読み合わせに全く心が入っていない。
セリフはすでに入っているが、阿古夜のセリフを語るたびに
頭に真澄との思い出が去来し、集中できない。
「名前が過去がなにになりましょう おまえさまがここにこうして生きている」
「それだけでわたくしは幸せになれるのです」
「あなたの声をきくだけで心が浮き立つのです」
「そしてあなたにふれているときはどんなにか幸せでしょう」
「いとしい方・・・」
「捨ててくだされ名前も過去も 阿古夜だけのものになってくだされ」
「でなければいつかおまえさまはわたしをおいていってしまう」
「阿古夜のことを忘れてしまう」
とうとうマヤは大粒の涙を流し、読み合わせは中断された。
気持ちを入れ替え立稽古に集中しようとする。
しかしそれでもやはりマヤは真澄の事ばかり思い出してしまい、
とうとう一真役の桜小路を突き飛ばしてしまう。
気が入っていないマヤに黒沼は激怒し、謹慎を言い渡された。

翌日、謹慎になったと家で落ち込んでいるマヤを桜小路が迎えに来た。
自分も謹慎にしてもらったと言いながらマヤをバイクの後ろにのせ、
遊園地に向かう。
二人でジェットコースターやバイキングなどアトラクションを楽しむ二人。
桜小路が自分を励ますために連れてきてくれたことに感謝するマヤ、
少しずつだが明るさを取り戻していった。
私の事を心配して、優しく接してくれる。
二人で乗った観覧車からは富士山が間近に見え、さらにそこにかかる虹がとても美しく、
マヤは歓声を上げる。
その姿に、少しでも元気になったようで安心したといった桜小路のほほえみを見ていると、
自分が大事な相手役になんて迷惑をかけているのだろうと
マヤは桜小路の胸で涙を流す。
河口湖の近くの土産物屋でイルカが水晶を抱えているペンダントに引かれるマヤ。
桜小路がプレゼントだと買ってくれた。
そしてそのペンダントがペアになっていることを知ると、
二人でそれぞれペンダントをつけた。
河口湖の近くにある桜小路の従姉、葉子のアトリエを訪ねた二人。
せっかくだからと葉子の誘いで夕食をごちそうになる。
三人で料理に取り掛かり、庭に来る小鳥に餌をあげ、
出来上がった食事を囲んで楽しい時を過ごした。
ついつい飲みすぎたマヤは、そのまま眠りに落ちてしまう。
夜中に目が覚めたマヤ、テラスにでると眠れない桜小路が携帯電話を見ていた。
桜小路のお陰で元気が出たとお礼を言うマヤは、
つけていたイルカのペンダントを外し、桜小路に返そうとする。
桜小路には恋人、舞がいる。
しかし桜小路は、自分がペンダントを外すから、マヤにはつけていてほしいと
再びマヤの首にペンダントをつける。
僕は、舞台の上で君の一真になる。
君の魂の片割れになる、だから君も僕の魂の片割れになってほしい、
阿古夜になってほしいと告げる。
舞台の上では・・・・。
マヤは、自分の不安定さが桜小路に迷惑をかけてしまっていたことを改めて感じ、
相手役としてしっかり阿古夜を演じようと心に誓う。
私は今まで、自分の魂の片割れを求めていた。
私が求めるべきなのは、舞台の上の魂の片割れ・・・

翌日、桜小路のバイクで稽古場に戻った。
吹っ切れた様子のマヤに気付いた黒沼は、怒声を響かせながらも二人を稽古に再び迎えた。

黒沼はマヤを始め役者達に、信じていないものを信じさせるのは無理だ。
そこで大切なのは、自分で作りだすこと、自分で作り出したものならば
信じられると説く。
想像力と創造力それに加えて・・・表現力
紅天女として、どう歩く、どう動く、どう話す
精霊の女神、紅天女をどう表現する・・・・

**
謹慎明けに二人で稽古場に戻ってきたマヤと桜小路
さらにマヤの首に光るイルカのペンダント
謹慎後から急速に呼吸が合ってきた二人に、稽古場のみんなは
二人の関係をあやしみ冷やかす。
秘かに様子を探っていた聖もその情報を入手し、
真澄に二人の遊園地デートの写真や、噂の数々を報告する。
しかし真澄は暗い表情でその報告を受けるだけで、特に対策を指示することなく、
紫織との約束に向かった。

桜小路は、あるグラビア撮影を行っていたスタジオで偶然真澄と遭遇する。
ぶつかった拍子に落とした桜小路の携帯電話を拾う真澄。
待ち受け画面は、桜小路とマヤがペアペンダントをつけて笑う2ショット写真だった。
“ふたつあったのか”
聖からの報告書でみた、マヤの写真
首にかかっていたイルカのペンダントは、桜小路とお揃いだったのか。
桜小路と少しの時間喫茶店で話をする真澄。
マヤとつきあっているのかという真澄の問いを否定する桜小路。
マヤにペアペンダントは出来ないと返された事。
せめてと自分は外してマヤにだけつけてもらっている事。
せめて舞台上では恋人役を演じたいと。
もし、魂の片割れと出会えたらどんな気持ちになるのだろうという桜小路の言葉に、
「もし奇跡的にそんな人に出会えたら、ひとはそれまで自分がどれほど孤独だったか
 初めて気づくに違いない・・・」
そういって真澄は去って行った。
「そしてもし、結ばれることができなければ、そのときはきっと・・・」

マヤとは舞台上の上の恋人、魂の片割れ・・・・
桜小路はマヤを観劇に誘う。
『レッドミラージュ』
そのあと、桜小路おすすめの運河沿いの地中海レストランで食事をする二人。
いつもと違う豪華な雰囲気に、まるでデートのような時を過ごす。
その様子を、偶然紫織と同じレストランに来ていた真澄が目撃する。
そしてマヤに、紫のバラを1輪届ける。
“この場所のどこかに、速水さんがいる!”
紫のバラを手に、あちこち探しまわるマヤ、しかし真澄を見つけることは出来ず、
マヤは停泊していたクルーザーのロープに足を絡め、そのまま動き出した船に引っ張られるように運河に落ちてしまう。

舞からの電話を受けて、席を外していた桜小路、そして
騒ぎを聞きつけた真澄が、おぼれるマヤに気付く。
慌てて助けようとする真澄だったが、先に飛び込んだ桜小路によって
マヤはなんとか救出された。
マヤを運び上げる桜小路の首には、あのイルカのペンダントがきらめいていた。
外したといっていた、あのペンダントを・・・。
真澄は何もできないまま、その場に立ちすくんだ。

あの日、二人で遊園地でデートしたあの日から、
桜小路はどんどんマヤへの思いを加速させていた。
舞には悪いと思いながらも、ふくらむマヤへの気持ちは抑えられない。
秘かにマヤと写った写真を携帯電話に収める桜小路。
稽古場のロッカールームで、こっそりとその写真にキスをした。
そんな様子を潜入していた聖はとらえる。
そして、桜小路の携帯電話からそれらの写真データをコピーすると、
真澄に報告した。

必死に抑えてきたマヤへの思い。
それでもどうにもならない自分の高ぶる感情をこらえきれず、
真澄は表に出せないいらだちをぶつけるように、社長室で机上からその写真を投げ捨てた。
床には砕け散っていたコーヒーカップの破片が飛び散っていた。

桜小路から一向に連絡の来ない舞は、不安な気持ちを抑えきれず、
とうとう稽古場に押し掛ける。
そこで、桜小路の携帯電話に収められたマヤの写真を見つけ嫉妬の炎が燃え上がる。
マヤが、写真でみたイルカのペアペンダントをつけているのを見つけると、
それを引きちぎり、桜小路を奪うなと暴れる。
舞を傷つけてしまったことに気づいたマヤは、桜小路にそのペンダントを返そうとするが、
桜小路はそのペンダントを持っていてほしいとマヤに告げ、
自分の首元に光る、ペアペンダントを見せた。
桜小路は舞に別れを告げ、マヤの事を待つと決心した。
マヤの心の中に、誰か別の人がいることを知ったうえで。
いつかその人の事が忘れられたら、その時またそのペンダントをつけてほしい。
それまでマヤにそのイルカを持っていてほしいと語った。

桜小路がマヤに告白したことは、すぐに稽古場の仲間たちも知る事となり、
ほどなく真澄の元にも報告される。
相変わらず、能面のように受け流す真澄だったが、内心は穏やかでない。
桜小路の優しさで、少しずつ真澄の事を忘れようと努力するマヤ。
紫のバラの人としてだけでもいい、真澄に応援されるような女優になりたい。
私のファンでいてくれることだけは、きっと真実だと信じたいから。
いつものようにバイクで桜小路に送られ、自宅へと戻るマヤ。
夜空に光る流れ星を見ながら、自分に言い聞かせるようにマヤは
「わたしの願いはもうかなわないってわかったから・・・」
と言った。
同じころ、デート帰りに紫織を自宅まで送る真澄。
夜空の流れ星を見つけ、願い事をしないのかという紫織の問いに、
「どうせかないませんから」
と冷たく答えた。

**
亜弓は、紅天女としての表現力を磨くため、独自の稽古を取り入れていた。
トランポリンや跳び箱、吊り輪や鉄棒など、まるで器械体操の練習場のような稽古場。
亜弓の動きはどんどん研ぎ澄まされ、美しく輝くその動きは、
指一本一本、羽衣に至るまで優雅に舞い踊る紅天女そのものだった。
観ている者を魅了する亜弓の素晴らしい動き。
小野寺の画策により、亜弓の特集記事やドキュメンタリーが放送されると、
一般人もその美しさを話題にし、紅天女のイメージは一気に亜弓が持っていく。
一般審査員も加わる今回の試演において、その効果は計り知れない。
誰もがもう、紅天女は姫川亜弓で決まりだと思っている。
テレビでみた亜弓の美しい紅天女に、自信を喪失するマヤ。
マヤのそんな様子を想像できる真澄は、紫織とのデート中もそのことが気になって
ぼーっとしてしまう。
気を紛らせるように紫織とダンスと踊るが、紫織は真澄がこうして
心ここにあらずになるときはいつも紅天女の事を考えていることに気づいていた。
紫織が姫川亜弓の事をほめ、マヤの事を話題すると
マヤの事を冷たく突き放す発言をする真澄の、さらに凍りついたような表情に
息を飲む。
そして、そんな顔をしている真澄の心中を思いやる。
ほんとうはきっと、お優しい方・・・。
しかし、デートの帰りに立ち寄った花屋で、紫織が何気なく選んだ紫のバラを
「それだけはダメだ!!」
と強く拒絶する真澄の顔に、いいようのない不安を覚えた。

亜弓に大きく水をあけられたような格好となったマヤだったが、
それでも必死で自分の中の紅天女を見つけ出そうと必死に取り組む。
梅の里で受けた、風化水土のレッスン。
自分の中に、紅天女はあるという千草の言葉。
黒沼に志願して、近くの公園で一人稽古をする日々。
阿古夜として水を汲む、阿古夜として、薬草を摘む。
阿古夜として、木と語る・・・
阿古夜にとっての土とは、火とは・・・。
降り出した雨にうたれながら、阿古夜にとっての水を思うマヤ、
その時、自分と同じように雨に濡れながらこちらに向かってくる人影に気付く。
それは、真澄だった。

真澄は前日、黒沼をおでん屋台に呼び出してマヤの様子を聞いていた。
一連の亜弓の記事・報道で、マヤがどのような状況になっているか気になったのだ。
亜弓に関する一件が真澄の差し金でないことに安心した黒沼は、
マヤが勝つためには本物の紅天女を感じさせることができるかどうかにかかっていると語った。
本物の紅天女・・・それができるのは北島マヤだけだ。

「マヤ、俺に紅天女を信じさせてくれ」
公園からマヤをむりやり近くの歩道橋の上に連れて行った真澄は、そう言った。
ビルに囲まれ、車の往来がひっきりなしに続くこの都会で、人は紅天女を信じられるのか。
「紅天女のリアリティを感じさせてくれ」
「この現実の世界に紅天女がいると、それができるのは・・・」
マヤ、君だけだ。
しかし真澄の最後の言葉は、傘を持って後を追ってきていた桜小路によって遮られ、
発せられることなく、真澄の心の中にとどまった。
“私が、紅天女を信じなければ・・・・”
真澄の言葉に、マヤの中で変化が起きる。
演れるかもしれない、あたしの紅天女

今までどこか別の世界のように感じていた、紅天女の世界。
阿古夜がいつくしみ、大切にしてきた風化水土。
でもちゃんと、現代社会の中に阿古夜の世界がある。
水・・・蛇口の水も水の神からの頂もの
火・・・闇を照らし、暖め、生活を紡ぎ出す大切なもの
土・・・すべての食物は土が育てた生命
他の生命をいただいて、生きる
着物も、家も、すべて生命の頂きもの
人はみな、自然から生命をいただいて生きている。
全ての命の輝きに、感謝を・・・・
マヤの演技はがらりと変わった。

公園で一人、子供のように泥まみれになりながら稽古を積むマヤの様子は
亜弓と比較され、お粗末な候補とネガティブな記事が週刊誌に掲載される。
しかし千草は、優位なのはマヤのほうだと言い切る。
いまのままでは、亜弓はマヤに勝てない・・・。
「そろそろ時がきたようね」
千草は梅の里で決意を決めた。

**
紫織は、大都芸能社長室で真澄の帰りを待っていた。
何気なく見たゴミ箱の中に、乱雑に捨てられた週刊誌を発見する。
そこには、お粗末なライバルと書かれたマヤの中傷記事が載っていた。
さらに、半開きのデスク引き出しにマヤと桜小路が仲良く写る写真の数々を
見つける。
以前別荘で見つけた、マヤの舞台写真アルバム。
真澄がなぜ、紅天女の片方の候補者の事をこれほど気にしているのか・・・
漠然とした不安を抑えきれず、紫織はマヤ達の居る稽古場へ向かった。
そしてそこでマヤが紫のバラの花束を受け取り、涙する姿を目撃する。
黒沼から、マヤにとっての紫のバラの話を聞いた紫織は、
以前自分が紫のバラを手にした際、恐ろしい表情で拒否した真澄の顔を
思いだし、さらに不安が募る。

「あたしと会ってください」
聖から紫のバラを受け取ったマヤは、そう伝言を残した。
明日の午後、朝日公園の歩道橋まで来てくださいーーー
そこは以前、真澄がマヤに紅天女のリアリティーを感じさせてほしいと語った、
あの歩道橋・・・
絶対に会うことはない、正体を知られてはいけない
おれとマヤの唯一の絆を失いたくない・・・
マヤは紫のバラを抱え、昼からずっと歩道橋で真澄の来るのを待っていた。
真澄はマヤの願いを黙殺するように、仕事に集中していたが、
午後3時を過ぎ、マヤの事が気になり移動途中に歩道橋の近くを通るよう指示する。
会うつもりもないのに、なぜかそこへ向かおうとしている。

歩道橋の上では、マヤが記者を名乗るあやしい男たちに絡まれていた。
以前、マヤの中傷記事を週刊誌に乗せた記者、彼らの裏には暴力団が関係していた。
マヤが手にしていた紫のバラのメッセージカードを無理やり奪おうとする男たち。
必死に抵抗するマヤ、奪われた花束を取り返そうと男にとびかかると、
男の手から花束が離れ、歩道橋の下へと落ちて行った。
下を走る車にはねられ、無残に散らばる紫のバラ。
それでも必死に取り戻そうと、走る車列に飛び込もうとするマヤ。
ほとんどの花はひかれ散ってしまったが、唯一助かった一輪のバラを両手に、
マヤは震える体で、その花びらにキスをした。
その表情は、恋をする阿古夜の顔そのものだった。
マヤは紫のバラに恋をしているーーーー
現場に駆け付けた黒沼、桜小路、そして真澄は、その姿に衝撃を受けた。
“マヤが、紫のバラの送り主に恋をしている・・・そんな、バカな・・・!”

来ないと分かっていた、だけど、来てくれるんじゃないかと思っていた。
真澄への思いを断ち切るように、紫のバラの人への思いだけで、マヤは
紅天女の稽古に没頭する。

そんなマヤの稽古場に、月影千草が現れたーーー


第25巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
前章「紅天女」が非常にまとめづらくて、筆が乗らなかったので、
実は先にこちらを書きました。
といっても失恋マヤと現実逃避真澄が婚約ウキウキ紫織と相まって・・非常につらいのですけど。

マヤの事すっぱりあきらめた風な割に、桜小路とのデート現場目撃して
大人気もなく(どこで手配したのか)紫のバラ送っちゃったり・・・
聖さんの七変化が見られたり、(花屋だけでなく、運送屋さんにまで・・・)

でも、まとめていて思ったのは、
真澄は、マヤとの現世での融合をあきらめて、せめて紫のバラを通じて
マヤとのつながりと保ちたいと思い、
マヤは、真澄と紫織の関係に身を引く失恋をしつつも、せめて紫のバラの人としての
真澄の気持ちはつなぎとめておきたいと、役者として必死で努力する。
だけどどちらとも、素の自分に戻った時にお互いを思う気持ちを止められず、
一人もがき苦しむ・・・
と、まあさすが魂の片割れらしく、同じ時に同じ事を思い悩んでいるもんだな~と
なんだか納得しました。
更に更に、マヤの事を忘れようとことさら紫織さんと親密になろうとするところや、
真澄を忘れるために桜小路の優しさに甘えるマヤとか、やってることが・・・・。
すれ違っているようで、ちっともすれ違っていない二人。
早く魂めぐりあって~~~!!