(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

( ´艸`)☆更新履歴☆(´~`ヾ)

(ガラスの・Fiction)49巻以降の話、想像してみた*INDEX (2019.9.23)・・記事はこちら ※ep第50話更新※
(ガラスの・INDEX)文庫版『ガラスの仮面』あらすじ*INDEX (2015.03.04)・・記事はこちら ※文庫版27巻更新※
(美味しん)美味しんぼ全巻一気読み (2014.10.05)・・記事はこちら ※05巻更新※
(孤独の)孤独のグルメマップ (2019.01.18)・・記事はこちら ※2018年大晦日SP更新完了※

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ep第42話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-11-04 16:35:01 | ガラスの・・・Fiction
ep第41話←                  →ep第43話
********************
「ふ~ん、まあ、悪くないんじゃないか」
黒沼のその言葉はかなりの褒め言葉だと
共演の桜小路優からは聞いていたが
それでも亜弓は納得したとは言い難いものを
感じていた。

紅天女ーーー一度はあきらめた幻の役を
再び演じることになった亜弓の胸中は
複雑だった。
これ以上はないという努力で立ち向かったその役は
北島マヤが勝ち取り、自身は完全なる敗北者となった。
その時に、全てふっきったはずだった、しかし。

「亜弓さんの紅天女が観たい」

他のだれでもない、紅天女の正式な継承者である
北島マヤがそれを熱望してきた。
マヤという人間の性格・考え方は熟知しているつもり、
その言葉に他意はないことなど分かっている、分かってはいるのだが
それでも敗れたものへの温情という慰めを抱かずにはいられなかった。

"だけど引き受けたのは私自身"

紅天女を受けると決めた時に、わだかまりは全て捨てた。
そしてただひたすら、紅天女を演じるということだけを考えてきた。
私は私の紅天女を・・・・
そう思い続けてきた、しかし・・・

「姫川亜弓の演じる紅天女なら、美しいに違いないわ」
「でも、北島マヤのあの胸を打つ演技と比べるとどうかしら?」
「見た目だけなら圧倒的に姫川亜弓でしょ」
「そんなこと、北島マヤの舞台を観た後にも言える?」

紅天女は、きれいなだけじゃつとまらない・・・・

見えない周囲の言葉の棘が、じわりじわりと亜弓を刺し貫くような気がする。
振り払うように稽古に集中すれど、その感覚はますます鋭敏になっていくようで
亜弓は焦りを感じていた。

「もうそれくらいにした方がいいんじゃない?亜弓さん」
一人居残り稽古をしていた亜弓に、桜小路が水を差しだした。
「もうみんな帰っちゃったし、黒沼先生も・・・」
プレッシャーを感じるのは分かるけど・・・という桜小路の言葉に
いらだつ気持ちが抑えきれない。
「そうね、あなたの中の永遠の魂の片割れは
 私ではないようですものね」
青ざめる桜小路に、こんなこと言いたかったわけではないのにと
後悔するがもう遅い。
「・・・・亜弓さんは亜弓さんだよ。」
「・・・・そうね、よく言われるわ」
「僕は亜弓さんの紅天女もとても素晴らしいと思うよ。」
桜小路の言葉もみじめな自分を慰めているようにしか受け取れない。
「表現力だけなら君の方がマヤちゃんより数段上かも・・・」
「もういい加減にしてっ!!」
気にするなといわれても気になる。
人は私に対して、すばらしい表現力とか圧倒的美しさなどといって褒めそやす。
けれどそれは、真実をそのまま演じるマヤには本質的に追いつきっこないと
言われているに等しい。
「・・・ごめん・・・」
「・・・・・・ごめんなさい。あなたに悪気はないことは分かっているんだけど
 今は私、何をいわれても言葉通り受け取れないようだわ」
努力では、追いつけない天才の影。
自分より先にその影がある、追いかけても追いかけても届かないその影の存在を
誰が理解してくれようか・・・・。


「こんなものじゃない・・・・」
12月中旬、『紅天女』公演場である大都劇場の舞台に
亜弓は立っていた。
大都劇場の稽古場に移ってきて半月、周囲の評価とはうらはらに
未だ亜弓は自分が納得する紅天女をつかめずにいた。
「せめてあの時の感覚が・・・・」

マヤと紅天女を争った2年前のあの試演。
稽古途中の事故により、視力を大幅に失っていたあの時、
亜弓はある種霊的な感覚ともいえる能力で、その場に梅の木の息吹を
感じていた。
見えないからこそ、感じたリアリティ。
しかし今の亜弓はその感覚が再現できずに苦しんでいた。
"見えなくなれば、あるいは・・・"
そう思い、タオルで目隠しをして演じてみるも
あの匂い立つ梅の里がそこに再現されることはなかった。

「だいぶ難航しているようだな」
タオルを外した亜弓が、一人呆然と舞台上に立ち尽くしているところへ
暗闇から近づいてくる男の声がした。
「・・・・速水社長」
「陣中見舞いを兼ねて稽古場をのぞいてみたが、亜弓くんはこっちだと
 きいたものでな」
随分と、悩んでいるようだが・・・という真澄の余裕ぶった様子が鼻につく。
「あいにくと私には魂の片割れと呼べるような人がいませんので・・・」
「はっはっは。亜弓くんともあろう者が、恋をしていないから恋の演技はできないと
 言うのかね」
亜弓の嫌味に気づいてないはずはない真澄の、予想外の
明るい返答に、亜弓は少し心が落ち着く気がした。
「速水社長は分かってらっしゃるんですね。私が紅天女をつかめていないこと」
「・・・そんなに簡単に体得できるものではないことは理解しているよ。」
これまで周囲の人間は、亜弓の演技を素晴らしいと評価するばかりで
亜弓だけがこれではないと空回りしているようだった。
「比べるな、気にするな、そういわれてその通りにできるようだったらこんな
 楽なことなどないからな」
実際は、比べられるし気にもする。
「この2年間で北島マヤが作り上げてきた紅天女とは、そういうものだ」
「後悔されてますか?私に紅天女を預けたこと」
「いや・・・」
禁煙の劇場で、手持無沙汰な様子の真澄は、亜弓から出た質問に
淡々と答えた。
「紅天女は誰でもやれる役じゃない。その資格があるのなら
 やり遂げるべきだと思っている、そして・・・
 姫川亜弓、君はその資格を持っているんだ」
その過程がいかに厳しいものであるかは、凡人の俺には到底理解しがたい
ことだがな、とまたもや意外なほどの柔和な顔を見せる。
「・・・・お願いがあります。」
「君のお願いは、聞くのが怖いな」
いつも突拍子もない・・とおどける真澄に、亜弓は真剣な顔で返す。
「来週のゲネを見て、判断して頂けませんか?
 私の紅天女が、上演するに値するかどうか」
「・・・・・」
「もし、私の紅天女が速水社長の承認を得られない場合は、
 私、降ります」
「なっ・・・・!俺は舞台の専門家でもなんでもないんだぞ」
「ですけど・・・誰よりもファンでしょう。
 北島マヤが演じる紅天女の。」
「・・・・!?」
「私は、マヤの紅天女を愛する人々を納得させる紅天女にならなければならない。
 そう、速水社長、私の舞台を観た後で、
 あなたが北島マヤの演技が見たいと思うのなら
 それは私が演じるべきではなかったということです。だから・・・・」
「しかし・・・」
しばらく無言のにらみ合いは続いた。
「誤解なさらないで。私弱気になって言っているわけではないのですよ」
この一週間で、私は必ず掴み取る。
「・・・・分かった」
言っておくが、引き受けた以上俺は生半可な評価はしないからな
真澄の低い声がことさら低く響き渡る。
「マヤには心づもりをしておくように伝えておこう」
君が降りたら、公演は北島マヤで行うーーーー
「準備期間などほとんどなくても構わないだろう」
紅天女をつかめない役者が舞台に立つよりはな・・・・

真澄の冷徹な言葉が、もしかしたら今の亜弓にとって
一番必要な言葉だったのかもしれない。

**
「あと、3日・・・か」
稽古終わりの車の中で、車窓をぼんやりながめながら
亜弓はぼそりと呟いた。
真澄に宣言した期限まであと3日
焦る気持ちと開き直る気持ちが交互に浮かび消えながら
未だつかんだとは言い難い状況にいた。
「たましいの・・・片割れ・・・・・」
曇りガラスに滲む都会のライトをぼんやりとながめながら
亜弓は誰にともなく言葉を発す。
「出会えばすぐに求めあい、相手を欲してやまぬ・・・」
そんな人、いるのだろうか・・・・
白いガラスをこすると、ふと何かに気づいた亜弓は
「ここで降りるわ」
と運転手に告げ、車を出た。
「まだやっている劇場があったのね・・・」
何となく気になって足を止めたその映画館では
亜弓が主演したフランス映画が上映されていた。

紅天女のオファーを受け、揺れる心を抱えながら
撮影に臨んだ映画
この作品で国際賞を獲ることを、自分の中の最低限の
条件にしていた。
マヤには告げず、自分の胸の内だけの決意。
映画のポスターに、撮影時の事が思い出される。
「・・・何してるかな、あの子」
ふと亜弓は、フランスで知り合った不思議な青年の事を
思い出した。
「気付けばいつも撮影現場にいたっけ」
名前は確か・・・ルーク。
監督の甥っ子だとかいう青年は、なんだかんだと
現場に出入りし、雑用のようなことをしていた。
聞けば特に正規のスタッフではないようだったが、監督に
頼み込んで現場見習いをしていたという、映画好きの
青年だった。
「あの子のせいで・・・・・」
少し苦く、そして今となっては懐かしい思い出だった。

「ねえ、他の事考えるくらいなら、この役降りてよ」
撮影序盤、突然亜弓の前でそう言い放った時の事を
今でも鮮明に覚えている。
少なくとも日本では姫川亜弓に対してこんな口をきく人間など
存在しない。
「映画に集中できないなんて、この役に失礼じゃない?」
0からやり直す、といいながらこれまでの自分を捨てきれずに
いた自分自身の甘さを突かれたような、そんな言葉だった。
しかもそれが単なる撮影のつかいっぱしりから言われたのだから
衝撃も大きい。
しかしその言葉に、ある意味で亜弓は紅天女の呪縛から
一時解放されたのも事実だった。

「・・・・・え?」
映画館の前で立ちすくんでいた亜弓の携帯が光った。
その名前が今まさに思い出していた人物からのものであることに驚く。

「・・・Allo」
「アローアユミ!今なにしてるの?」
"この役降りてよ"
あの時と全く同じ口調で、相手は話し始めた。
「何の用?わざわざフランスから電話なんて」
「別に用はないよ。ただなんとなくアユミの声がききたくなっただけ」
なにか問題でも?と言わんばかりにあっけらかんと声の主、
ルークは話す。
「別にいいけど・・・・」
フランスを発ってから数か月、それまで一度も電話をかけてきたことなど
ないのに、どうして今、このタイミングでこの人はかけてきたのだろう。
"まるで、私が役に集中できていないのを分かってるみたいに・・・・"
「・・・・ねえアユミ」
「なに?」
「・・・・ボクこれから、日本に行ってもいい?」


「本当に来るなんて・・」
突然の電話の翌日、本当にルークが亜弓の目の前に現れた。
呆れた・・・・という表情の亜弓のそっけない態度も気にならない様子で
興味深げに舞台を見回す。
「クレナイテンニョの舞台?」
「・・・・そうよ。そもそもあなた、紅天女知ってるの?」
知るわけないと高をくくっていた亜弓にルークは淡々と
「知ってるよ。僕らの映画そっちのけでアユミが考えていた舞台でしょ?」
と答えた。
「え?」
「正確には、後から聞いた・・・んだけどね。」
こっちのペースになど乗らないといった余裕ある表情でルークは亜弓の
視線をかわす。
なぜ突然、日本に来るなどといいだしたのだろう。
亜弓より2,3歳年下のこの青年は、フランスにいた時からいつも
何を考えているのか分からない所があった。
カメラマンのハミルは、ずけずけと人のテリトリーに入ってきながら
情熱的にアプローチしてくるのに対し、
ルークは年下ゆえかどこか甘えたような表情をみせながら
人の顔色などお構いなしに言いたい事をぶつけてくる。
恐い物知らずのフランス人青年が、興味があるのかないのか
劇場をキョロキョロと見回している姿を見ているうちに、
急に亜弓の頭の中に一つの思い付きが浮かんだ。
"なんだろう、なんだかよく分からないけれど・・・・"
思いついてしまったら、行動に移さずにいられない。
「ねえルーク、私と一緒に紅の里を見に行かない?」


「ここが、クレナイテンニョの生まれた街?」
「ええそうよ」
「ウメは咲いてないの?」
「今の時期はさすがに・・・。でも季節がきたら辺り一面
 紅い波のように広がっているのよ」
突然現れたルークの姿は、亜弓を紅天女のふる里に向かわせた。
何もないと分かっていても、何かを求め、
すがるようにしてたどり着いた12月の紅天女の里は
生命が全ての活動を停止したような
静まり返った枯野が広がっている。

「この場所で、私は紅天女とは何かを教えられたの」
「ふ~ん、いったいどんなことをしたの?」
寒そうにコートのジャケットに両手をつっこみながら
ルークが尋ねる。
「風火水土・・・」
「ふーかすい・・・、ねえそれってなに?」
知らない日本語に戸惑うルークに、その意味を説明すると
「・・・・それが一体どういう意味があるの?」
と素直に聞かれてしまった。
「・・・・分からないわ。」
そうだ、私は分からない。
あの時私は風を感じた
あの時私は火になろうとした
あの時私は水の中で生きた
あの時私は土を慈しんだ
そして私は、私の紅天女は・・・・

「ねえ、クレナイテンニョってどういう話?」
ルークの質問に、そうか彼は舞台を観たことがなかったんだと
気付いた。
よく分からないままにこんな山奥にまで連れてきて
随分と無茶な事をしてしまったと亜弓は思う。

「紅天女は、梅の木の精なの」
「精?精霊?」
「そうね。紅天女は梅の木なの。梅の木でありながら
 人間を愛してしまうの。それも、自分を切り倒そうとしている人を」
ルークには細かいことを説明しても分からない。
日常会話に不自由はないとはいえ、亜弓のフランス語も
紅天女を伝えきるには限界がある。
「梅の木?木の幹がしゃべるの?」
ルークの素直な疑問に大きな口が浮かぶ大木のイメージが
浮かんだ亜弓は、思わず吹き出してしまった。
「・・・いいえ、ルーク。紅天女は梅の里を守る巫女でもあるの。
 ちゃんと女性の姿をしているわ」
「へえ、要するに梅の木の女の子が男の子と恋に落ちて
 その男の子のために自分の命を落とす話なんだね?」
「そんな簡単な話じゃ・・・・」
ルークのあっけらかんとした紅天女評にあきれた亜弓だったが
結局のところそういうことなのかもしれないと思い直した。
「そうね・・・・そうなのかもね」
もしかしたら、私は深い意味を求めすぎていたのかもしれない。
真理はもっと単純で、だからこそ奥深く広がるのかもしれない。
「私は・・・一真が愛おしい。 愛おしい一真のためなら・・・・
 一真と一緒にいられるのなら・・・・」

橋の落ちた崖、その先に広がる漆黒の闇に向かって
おもむろに立ち上がった亜弓は、一言一言をかみしめるように
白い息を言葉に変えて宙に放ちはじめた。


"あの日・・・・・初めて谷でおまえをみたとき・・・阿古夜にはすぐにわかったのじゃ"
"おまえさまはもうひとりのわたし わたしはもうひとりのおまえさま"
"離れることなどできませぬ 永遠の生命あるかぎり・・・"


「梅の木ってきれいだね」
いつの間にか後ろにしゃがんで亜弓の様子を見ていたルークが声をかけた。
「え?」
「梅の木って、ボク見たことなかったけど、とってもきれいなんだね」
「・・・・今はどこにも咲いてないわよ」
「うん。でも見えたよ。」
だってアユミ今、梅の木だったでしょ?
ルークは、まるで晴れた空をみて青いねというようにさも当たり前の顔で言った。

"日本人でも難しいセリフを、しかも衣裳もなにも付けないまま
 最低限の身振りでしか演じていないのに・・・"
亜弓は宙に伸ばしていた手をそっと引き寄せ、
胸元でギュッと握りしめた。
これが、表現力ーーーー
ない物をあるかのごとく見せられる技術
マヤに追いつきたくて、必死になって身に付けた
私の武器

「私は褒められていたのね・・・」
小さく呟いた亜弓の言葉は、ルークには理解できないようだった。
「ありがとうルーク。行きましょう。」
「次はどこへ?」
「帰るのよ」
「え~~~~!!今ここにきたばかりじゃないか!」
「ふふふ。ごめんなさい。でもその代わり・・・」
あなたに満開の梅の里を見せてあげるわ、東京で。
その時初めて、亜弓は笑った。

**
「いかがでしたか?」
ゲネプロ終了後、亜弓は静かに真澄の元に近づいた。
舞台上では演出家の黒沼がアシスタントや技術スタッフに事細かな指示を
出している。

"私の紅天女が、上演するに値するかどうか、判断して下さい"

亜弓が真澄に言ってからちょうど一週間、さきほどまで紅天女だった亜弓は
静かにその審判の時を待った。
一週間前まであんなにいらだっていた気持ちが嘘のように
今日の心は穏やかだった。
情熱的な高揚感があるわけでもなく
悲観的な絶望感が支配しているわけでもなく
ただただ、亜弓の心は無だった。
「ふむ・・・・」
顎に手をあて、何やら思案しているような真澄は次の瞬間
まっすぐに亜弓の目を見ると答えた。
「・・・・・マヤに会いたいと思うよ。」
「・・・・・そうですか。」
その答えは、亜弓の紅天女がマヤに及ばなかったことを意味している。
「興行主である速水社長には、ご迷惑をお掛けすることになりそうですね」
上演直前での主役交代、既に掲示されているポスター差替や
場合によってはチケットの払い戻しなど、年末のこの時期に余計な仕事が増えてしまう。
なにより舞台の仲間たちには負担が大きくかかる事だろう。
「君は何か誤解しているようだが・・・・」
真澄が言葉をかけた。
「俺は、マヤに会いたいと言ったんだ。マヤの紅天女が見たいと言ったわけじゃない。」
「え?」
「君の舞台は自分の心の中の魂の片割れを思い出させてくれるらしい」
なにも役者自身が、その運命の相手を演じる必要はない。
見ている観客が、それぞれの心の中の一真や阿古夜を想像できること
それもりっぱな感覚の再現
「と、いうことは・・・・」
「マヤの紅天女が、唯一無二の絶対価値を知らしめるものならば、
 君の紅天女は、多くの大衆の心の中に紅天女を生み出す魅力があるのかもしれないな」
初日を楽しみにしているよ
亜弓の肩を軽くたたいて、真澄はその場を去っていった。
「おっと・・・・いけない。」
振り返った真澄は少し照れたように小さく
「さっきの感想は、ここだけの秘密にしておいてくれるかな」
と囁いた。

「じゃあ、ボクそろそろフランスに帰るね」
自分なりの紅天女を体得した余韻に浸っている亜弓に
突然ルークがそう話しかけた。
「・・・・・・え?今から?」
「うん。もう僕の用事は終わったみたいだし。」
「用事って、あなた一体何しに来たの?」
「だから言ったじゃない?僕はアユミに会いたくて来たんだって」
そんなこと一言も言っていない、そう反論しかけた亜弓は
その言葉を飲んで一言だけ、答えた。
「ありがとう。ルーク」
確かにルークは、したいと思ったことしかしないし
したいと思ったら必ずする人だ。
「次は、フランスで」
差し出された手を、亜弓はしっかりと握り返した。

一人残された劇場で、亜弓は自分の魂が真円になっていくような気がした。


ep第41話←                  →ep第43話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
亜弓さんが紅天女を身につけるまでの苦悩は当然
あるはずで、その辺りを書いたのが今話です。

またもや架空キャラを創造してしまいましてすみません。
ハミルさんどないなっとんねん、と突っ込みたい気持ちは山々ながらつい。
亜弓さん話を書くのは結構楽しくて好きなのですが
それはもしかしたらまだ亜弓さんサイドにLOVEの余白が
残されているかもしれません。
マヤの話は、どうやったって真澄しか登場しようがないし・・・・。
ハッピーエンドもいいけれど、盛り上がりにはかけるし・・・・
なんて不謹慎なことを。
(でもしれっと真澄にのろ気させる)
ちなみにこの頃裏ではマヤと追走劇を繰り広げて
へろへろの真澄なはず・・・・タフね。

いつか、亜弓とルー君のミニエピソードも支線で書きたいな~。
~~~~~


ep第40.01話(支線)【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-11-02 23:45:00 | ガラスの・・・Fiction
ep第40話←                  →ep第41話
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ep第40.01話 今年も・・・
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"やっぱ無理だよね・・・・・"
カットがかかった後、時計を確認したマヤは
ほうっと小さくため息をついた。

『Letouch of Love』

10月に始まったマヤ初主演連続ドラマは
放送開始されるや、今秋一番泣けるドラマとして
視聴率もうなぎのぼりだ。
放送開始前は
"主役の割に地味"
"ユーレイの話なんて季節はずれ"
"記憶喪失なんてありきたり"
など散々の言われようだったが
フタを開ければマヤの可憐にも切ない
幽霊役が健気でかわいいと評価を高めている。
それに加え、これまであまり一般知名度が
高かったとは言えない俳優由比隼平の
評判も上々で、まさに二人の恋模様を
日本中が見守っている状態である。

"私は演じるだけ、とはいってもやっぱり視聴率が
 こんなに雰囲気を変えるなんて・・・"

主役として初めて臨むマヤは、ドラマの撮影現場が
想像以上に"数字"というものに敏感で
影響を受けやすいことに今更ながら驚いていた。
前評判を引きずってか、初回視聴率は決して
高いとは言えなかった。
正直放送週の撮影現場は心なしか落胆の
雰囲気があった。
それが放送3回目を終え、とうとう今週は
週間最高視聴率を獲得するまでに伸びてきた。

"正直、ミナトが死んでいるという事実を信じたくない"
"どうにかして二人のハッピーエンドが見たい!"

特に放送終了後はファンの叫びがタイムラインを駆け巡る。

今日の撮影は午前中のロケが天候の影響を受けたため
大幅にずれ込んでいた。
このままでは十中八九日付を越えることになるだろう。
「みんな遅くまでがんばってくれてるんだもんね・・・・」
だけど・・とマヤは恨めしそうにさっき確認したばかりの
時計を再度見た。

「はぁ。。。」
「お疲れ!大丈夫?北島さん」
ため息なんかついて・・・と温かいお茶を差し出してくれたのは
共演者の由比隼平だった。
ただでさえ薄着なんだから、気を付けないと・・・と
ウインドブレーカーをかけてくれる。
「ありがとうございます。。・・・あったかい!」
ため息一転笑顔のマヤに隼平も安心したようだ。
「本当だったら今日の撮影はもう終わっている予定だったもんね」
今日も深夜営業ですか~~~と、伸びをしながら隼平がおどける。
「・・・・何か予定でもあったの?」
なんとなくいつもと違ってそわそわしているマヤの様子が
分かったのか、隼平が尋ねてきた。
「い、いえ、予定ということは・・・・。撮影は何時までかかるか
 分からないのに予定なんて入れられないですから・・・・」
そもそも撮影中は演技以外のことは考えられないほど集中してしまい
日常生活に支障をきたすくらいだ。
「ただ・・・・」
「・・ただ?」
「・・・・い、いえ、なんでもありません。もしちょっと早めに終われたらと
 思っていただけなんです。」
ちょうど監督から声がかかり、二人は撮影現場へと戻っていった。


**
「順調のようだな」
真澄の机の上には、今秋スタートのドラマの報告書が多種多様に
並べられていた。
大都芸能所属俳優達の出演作品をひとつひとつ確認しながら
デスク上のPCで姫川亜弓の『紅天女』舞台に関する資料に
目を通していく。

「お疲れ様です」
水城がコーヒーの香りと共に社長室に現れた。
「水城君、まだいたのか。」
社長が休日出勤なさらなければ、明日は休日ですので・・・・と
表情を崩さず答える。
「ふ。この時期にカレンダ―通りに休めると思うか。」
さようでございます。とカップを置きながら水城が
机上の資料に目をやる。
「なかなか数字もいいようですわね。」
なにが?と聞くまでもなく、資料の一番上にはマヤのドラマの
速報が置かれていた。
「マネージャーによると、今日の撮影も恐らく日付を越えるかと」
「そうか。」
短く返事をする真澄を残し、部屋を後にした水城は
扉を出る直前でくるりと振り返った。
「現場は大変活気づいているようですが、今日の撮影は
 マヤちゃんにとってかなり重要なシーンです。」
もし、可能でしたら視察して頂いた方が宜しいかもしれません、と
事務的な口調をくずさない水城。
「数字がよくて、士気も高まっているかとは思いますが、
 疲れもたまってきているころでしょう。」
今夜は一段と冷え込みそうですから、何か温かい物でも差入れては・・・と
既に手配済の雰囲気を漂わせながら水城は進言した。
「幽霊役とはいえ、演じているのは生身の人間です」
「そうだな。確かにいつも心もとない衣裳ばかり来ていたな」
真澄の脳内が切り替わったのを確認して、水城は
差入れの手配へと向かった。



「速水社長から、差入れを頂きました~~~!」
有名レストランのケータリングと共にドラマの撮影現場に
現れた真澄の姿で、現場はにわかに活気立った。
ちょうど小腹がすく頃、スタッフや演者も嬉々と向かう。
「速水社長、ありがとうございます」
さわやかな笑顔で礼をする隼平にねぎらいの言葉をかけたあと
真澄は周辺にいるはずのマヤの姿がないことに気付いた。
「・・・・あ、北島さんならたぶん、屋上だと」
真澄の視線に気づいた隼平が、答えた。
「屋上?」
「はい。この後屋上でのシーンがあるんですけど、北島さん
 その準備してると思います。」
「なるほど。この寒空の下、凍えるのも忘れて
 役に没頭しているというわけだな・・・・」
うっすら浮かべた笑顔とはうらはらに、薄着で空を見上げるマヤの
様子が急に心配になってきた真澄は、自らケータリングの列に並んだ。


**
「あれかな~~~。でもよく見えないし・・・・」
屋上で一人、マヤが天に指を向けながらなにやらつぶやいている。
「やっぱり梅の里と違って、東京は明るすぎてよく見えないな」
いつか、速水さんが言っていた通りだ・・・とマヤは思う。
「落ちてきそうなあの星空・・・きれいだったな~」
撮影器具が乱雑に置かれた狭いスペースの一部で
毛布にくるまりながらマヤはごろんと横になった。
「今日とは比べ物にならないくらい寒かったけど・・・
 でも、あったかかった。」
真澄にすっぽりと包まれて見上げたあのひとときは
目を閉じれば今でも鮮明に思い出される。
「結局今年は直接会って言えなかったな・・・・」
もうすぐ日付が変わろうとする時計を抱え、白い息を吐いた。
「電話しても大丈夫かな~ぁ。」
自分が素晴らしい演技を見せることが、何よりのプレゼントになると
分かってはいる、いるのだが。
「お仕事の邪魔しちゃだめよね。うん。」
諦めたように一人でうなずくと、せめてもと
屋上のフェンスに寄りかかりながら精一杯背中を伸ばし
空で一番輝いて見える星に向かって語りかけた。
「33歳の速水さん、一年間私を見守ってくれてありがとう!
 34歳の速水さん、いろいろ迷惑かけちゃうかもしれないけど
 これからも宜しくお願いします!!」

お誕生日おめでとう!!!!

その時、マヤの背中になにか暖かいものか重なった。
「!?」
「・・・・間に合ったようだな。」
低くしかし柔らかなその声が背中越しに響いてくる。
「・・・・心地いい・・・」
「?なんだ?」
「速水さんの声が、直接体に届いてくるみたいで」
振り返らなくてもわかる、声の主。
こうして包まれるたびに、自分の居場所はやっぱりここなんだと
再確認できるそんな瞬間。
「速水さんの誕生日なのに、いつも私のほうにいいことが起こる気がする・・・」
ささやくようにはくマヤの言葉が白い息となって消えていく。
「いつも、何もできなくてごめんなさい」
「言っているだろう、君という存在以上のものなど必要ないと」
こうして自分の誕生日を気にかけてくれる人のいる喜び
ただ、こうして寄り添っているだけで得られる幸せ
「俺のほうこそ、つい忘れがちになってしまってすまんな」
来年の君の誕生日にはなにが・・・という真澄の言葉をさえぎるように
マヤが振り向いた。
「会えたら・・・・それだけでいいです。もし、もうひとつかなうなら・・・」
あなたに触れられたら、それだけで幸せです

透明な空気がより一層マヤを美しく見せる夜
真澄にとってなによりも離したくない宝物を
やさしく、そしてしっかりと胸に抱いた。

「この上もなく、幸せだ」

自分の人生に必要のない物だと思っていたこと
生きるために邪魔になるとさえ考えていたもの
それらの全てがこの小さな体一つにつめこまれ、とらわれてしまった

「正直怖いな」

自分が自分ではなくなるのではないかという不安
それ以上に、このかけがえのない存在がなくなることへの恐怖

「誕生日とは、こうも自分の心と向き合うものなのか・・・」

あきらめるという感情すら機械的に処理してきた人生において
これまで自分が得るために失ってきたすべてのことを思い出し
それでも自分の根幹が求めてやまなかった唯一の存在を
真澄は強く抱きしめた。

「このまま、ひとつになれたらいのに」

押しつぶされるようなマヤの声が、今度は真澄の胸にダイレクトに
伝わってくる。

その時・・・・・・
"ピピピピピピ"

「!?」
「あ・・・・!」
マヤの持っていた小さな時計からアラーム音が鳴り響いた。
「・・・・・」
慌ててアラームを止めたマヤはそのまま満面の笑顔で
真澄の顔を見上げた。
「速水さん、お誕生日おめでとうございます!」
その笑顔があまりにも美しく愛おしくて
真澄はゆっくりと顔を近づけた。

「今年も素敵な誕生日をありがとう、マヤ」


**
"きっと今夜は社長がプレゼントを受取りに行くから"

社長秘書の水城からそう連絡を受けていた大原は
マヤが今日に限ってやけに時間を気にしている理由を察した。

そもそも今日はマヤもやけに時間を気にしている風だったし
めずらしく水城からも撮影の進行状況を確認するメールが来ていた。

当初の予定がずれ込むことが確定し、そのことを伝えた直後に
届いたのが上記のメール、もっともその後本当に現れた本人の
様子から察するに、自覚は全くないとみえる。
「ほんとに優秀な秘書様でいらっしゃいますこと・・・」
あのメガネの向こうでいったいどんなことを考えているのやら・・・と
思った瞬間、大原の携帯に着信がかかる。

「はい大原です、あ水城さんお疲れ様です。
 ・・・はい、先ほど。いつもありがとうございます。
 ちょうどスタッフも集中力が切れかけていた所だったので
 今はみんな休憩中です。」
電話の向こうの水城に、大原は社長の到着報告と差入れのお礼を伝えた。

ーマヤちゃんは今どこに?
「マヤはさっき屋上に・・・・、ええひとりです。
 そういえば先ほど社長がスープを持って上に上がっていかれました。」
ーそう・・・・。撮影再開は何時から?
「あと30分もすれば・・・。はい。屋上のセットで撮影です。」
ー・・・・
電話の向こうで何か気をもむ様子の水城に
大原は明るい声で答えた。
「大丈夫です。鍵かけときましたから」
そういって大原は通話を終えた。

もうしばらくしたら、どうやって二人の邪魔しようかな・・・
ひとりこっそりと笑いをかみ殺しながら、ほんのひと時の逢瀬を
邪魔しないようにと、大原はゆっくりと階段を下りていった。

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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
正確にいうと、ep39話とep40話の間の支線エピなので
39.01になるのかもしれませんが、40話と並行して
書いていたので40話の支線としました。

38・39・40話と秋冬シーズンの書き物をしていると
どうしても避けては通れない(避けたいのか!)のが
真澄の誕生日です。
が、どうやりくりしてもこの時期がマヤちゃんにとって
超多忙でして!!仕事をほっぽらかしてお祝いしても
いいんですけど、現実やっぱりそんなことはできないよねとか
そもそもそんなに原作でも触れられてないよねとか
悩ましいのですが、なにより私自身が誕生日を祝うという
習慣を持っておらず、自分でも他人に対してでも
どうやれば喜ぶのか、なにがうれしいのかが全く分からない
のであります。

でも、全くなんにもしないのは不自然かもしれないな~と
40話を書きながらずっとくすぶっていて、それなら
とりあえず支線エピで発散しておこう!と思って書いたのがコレです。
で、しばらく更新を怠っていた功名(?)で
ちょうど現実時間のタイミングも近かったことから
慣れない誕生日企画風に時間を合わせてUPしようかなと
試みました。

ちょうど11月3日になる直前で、つかの間の幸せ
感じられたら幸いです。
ハッピーバースデー、いつの間にか年下の速水さん!!
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