(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

( ´艸`)☆更新履歴☆(´~`ヾ)

(ガラスの・Fiction)49巻以降の話、想像してみた*INDEX (2019.9.23)・・記事はこちら ※ep第50話更新※
(ガラスの・INDEX)文庫版『ガラスの仮面』あらすじ*INDEX (2015.03.04)・・記事はこちら ※文庫版27巻更新※
(美味しん)美味しんぼ全巻一気読み (2014.10.05)・・記事はこちら ※05巻更新※
(孤独の)孤独のグルメマップ (2019.01.18)・・記事はこちら ※2018年大晦日SP更新完了※

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ep第51話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2021-11-16 15:18:09 | ガラスの・・・Fiction

ep第50話←        →ep第52話
********************
「....眠ったのか?」
「....いいえ、寝てません。聴いてるから、もう一回。」

イギリス郊外の森の中、こどもの秘密基地のようなこの場所は
鳥のさえずりや木々のざわめきだけかBGMの世界
ひときわ大きな幹の上にこしらえられたツリーハウスは
まるで大きな巣箱のようにひっそりと、日差しの間隙の
ような涼しさ、その小さな空間でマヤはゆったりと
真澄の胸に身をもたせ掛けていた。

「睡眠不足は俺のせいかな?」
「え?あ、いえ、そんなことは。昨日はちょっとびっくりしましたけど」
過労をおしての渡航と、久しぶりにマヤに会えるという安心感で
不覚にも記憶を失い倒れこんでしまった真澄だったが
「君の看病を受けるのは、これで何度目だ?」
「え??」
「・・ふ、いやなんでもない。」

あれはいつだったろう。
遠い昔のような、つい最近のことのような
暴漢に襲われるマヤをかばって負った傷
朝まで寝ずに看病してくれたのがマヤだと知った時の驚き
そして、
「君の気持ちがもしかして・・・と思った時の高揚・・」
「え?何か言いました?」
「あ、いやなんでもない。続きを読もうか。」
まるで子供に読み聞かせをするように、腕の中に
マヤを囲って真澄が手にしている本は、
今回撮影中の映画『スヴァンスタイン荘の住人』を
元にした絵本、その原版だ。
「それにしてもマヤ、英語は理解できているのか?」
「・・・・いいえ。でもお話は知っていますし、
 速水さんの英語、なんだか響きが好きなんです」
耳からだけでなく、そっともたせ掛けた真澄の胸から響く
その鼓動も、マヤの全身を安心感で包み込む。
「でも、いつも仕事で話している時とは違う感じがします」
「・・・ん、ああ。確かに普段の商談相手はアメリカ人が
多いからな。こちらの発音とは異なるが。さすがだな」
言語としての英語はちんぷんかんぷんだが、音として
奏でられる英語はダイレクトにマヤの五感を刺激し
吸収されているようだ。
「何言っているかは分からないけど、何を言いたいのかは
 なんとなく伝わってきます」
喜怒哀楽、それはマヤが言葉を超えて表現してきた
人間の感情の本質
「確かに、エイカーさんとの意思疎通はできているようだったな」
「ふふふ。そうですね、速水さんの話す言葉は
 こちらのスタッフさんの話し方に似ているかも、でも
 エイカーさんに一番近いかな、ダントツで」
その後もあの照明の人は機嫌がいいとこういう話し方になるとか
麗がまた女性に声を掛けられていたなどといった
イギリスでの出来事を話しながら、二人だけの時間を
こうしてゆったりと過ごすのは一体いつぶりだろうと
思いをはせる。

「こうしていると、いろいろ思い出します」
「・・・・」
「あの日、冷えた体を温めてくれた時、自分の気持ちに気づいたから」
「ああ・・。あの日は俺も自分の進むべき道、
 進みたい道との間でもがいていたな」
「こうしているのが今も不思議です」
豊かな黒髪に優しく指を通しながら、真澄は
この胸に抱いた小さくも愛おしい宝物と、
二度と叶わないとあきらめていた自身の幸せを
かみしめていた。

かつてこの町で過ごしていた頃、
真澄に希望という言葉は存在しなかった。
人を信じるということは選択肢から消え、
ただ己の力だけが、己が力をつけることだけが
唯一であると信じ、生きていた。


「理屈じゃないんです。私、速水さんと一緒にいると
 安心するし、ドキドキするし、でもなんだか自分が一番
 自分らしくいる気がするんです。
 演じることも大好きだし、いろんな人の人生を
 歩むことができる女優というお仕事、本当に楽しくて幸せです。
 でも、こうして誰でもない、ただのつまらない女の子な
 北島マヤでいられることが、本当にすばらしいことなんだって、
 そのことに気づかせてくれた、
 それを叶えてくれたのが速水さん。あなたなんです」


いつの間にか読むことを放置された絵本は
だらりと所在なさげに真澄の片手に置かれ、
代わりに真澄は優しくも力強くマヤの体を抱きしめていた。

-- 君は時に恐ろしいほど大胆にまっすぐに
 予想外の動きと言葉で俺を惑わせる --

「・・・なあ、マヤ。一つお願いを聞いてくれないか」
「え?」
「・・・・名前で呼んでくれないか。」
「は?はや・・」
「・・・・俺の名前は知ってるか?」
「・・・・知ってます、、よ」
見えないマヤの顔が真っ赤に染まっていることを
想像するだけで、真澄の顔がほころぶ。
「くっくっく。いや、失礼。急に変えろと言われても困るな」

徐々にでいい。
君に速水さんと呼ばれるのも嫌いじゃない。




「おやおや、二人ともぐっすりと・・・」
木漏れ日がスポットライトのように差し込む中、
いつの間にか眠るマヤと真澄の寝顔はどこまでも柔らかく
警戒心を知らない安心感で満たされていた。



************

「本当に楽しかったよ。マヤ」
「ううん、こっちこそ。久しぶりに麗と一緒に
 お芝居できてうれしかった。」

撮影を終え帰国するマヤは、見送りに来てくれた
麗と共に空港に立っていた。

「それにしてもびっくりしたな。途中のインターバルから
 帰ってきたマヤがあんなに英語が流暢になっているなんて」
「流暢って・・・、決まっているセリフを言っただけで」
全然話せないんだけどね、といって笑うマヤ、しかし
麗をしても驚くほど、マヤの英語は本場のイギリス人も
気づかないほど、現地の発音に近いものになっていた。
「いったいどれだけマンツーマンレッスンを受けたら・・」
「ん?」
「いや。とにかく、本当に良かった・・・」
顔にかかる金髪を無造作にかきあげるしぐさはまるで
絵画のようで、マヤは少し憧れにも似た表情で麗を見上げた。
「マヤとこうして共演できたこと、そしてになにより、
 君が以前よりずっと輝いていることが分かった事」
本当に、幸せなんだね、そういうと麗はおもむろにマヤを
ぎゅっと抱きしめた。
「私の方こそ!
 イギリスに行っちゃった麗と再会できるだけでも
 楽しみだったのに、こうして一緒の作品に出られるなんて
 うれしくてうれしくて・・・」
いつの間にかマヤの声は涙でかすれ、麗の上着をびしょびしょに
濡らす。
「んも~まったく、泣き虫なのは変わらないんだね~マヤは。
 少しは大人になったかと、安心してたのにこれじゃ・・・」
まだまだ気にかかる妹、だな。
そう言って強く、優しくマヤの頭をポンポンと撫でた。
「日本に戻ったらすぐに紅天女がスタートするんだろ」

かつて、自らもあこがれた紅天女
全国から集められた類まれなる才能の卵たち
その中でもひと際異彩を、そして圧倒的存在感を放っていた

北島マヤ

少し悔しい気持ちもあるけれど、こうして今も演劇に
情熱を燃やし続けられる自分が居るのもその存在があってこそ
天に愛されたその才能を、今なら素直に認める事ができる
"だからといって、あきらめたわけじゃない"
自分には自分にしか表現できない世界がある
この世には、マヤよりも自分を求めてくれる人だっている

"才能はひとつだけじゃない"
"努力だけは、万人に与えられた才能だ"

「私は私らしくこれからも演技を磨いていく、そして
 またマヤと共演できるように努力するよ」
だから、マヤはマヤらしく、その才能を花開かせ続けてくれ


ゲートの向こう側に消えていくマヤの姿を見ていると、
麗は自分の上着に残った、マヤの香りを感じた。
「マヤのぬくもりが、残ってる・・・」
それは、演劇への飽くなき情熱
麗はぎゅっと、その体を抱きしめた。






******
「おかえりなさい、マヤちゃん。疲れたでしょう」
空港に迎えに来てくれた大原マネージャーの車に乗ると
「ううん、飛行機の中でたくさん映画が観れたの!」
と時差をものともしない明るさでマヤは答えた。
「ふふふ、だと思った。でもまあ無理しないで。
 それに家に着いたらびっくりするかもよ」
「え?なに?」
「おおっと、これはまだ言っちゃいけないんだった。
 私もよく知らないんだけど、速水社長がなにやら
 素敵な物が届いたから飾って・・・・ってマヤちゃん?」
いつの間にか後部座席のマヤからはスース―と
寝息が漏れていた。
「・・・・・お疲れ様でした。マヤちゃん。
 ゆっくり休んでね」

信号待ちのタイミングで、大原はそっとマヤに
ブランケットをかけた。




「・・・・素晴らしいですわね、真澄様」
「そうだな。それにしても一体いつの間に・・・」
「フフ、でもしっかりと分かりますわね、これがマヤちゃん、そして
 こちらが・・・真澄様」
アンティークな額に縁取られた一枚の絵画
その絵の中はしばしの安らぎを過ごした、あのイギリスの
森が描かれていた。


「それにしても、あの有名な作家、ジョージ・エイカーと
 その妻にして絵本画家のジェニファー・エイカーの家に
 ホームステイしていただなんて、さすが速水家ですわね」
「ふむ。まあでもすでにエイカー夫人は引退して、気が向いた時にしか
 絵は描かないと、全てのオファーを断っていたらしいが」
「そんな巨匠に思わず筆を取らせるなんて・・・いったいどれほど」
幸せそうな顔をしていたのか、水城には想像ができる気がした。

「マヤが見たらきっとびっくりするだろうな・・・なんといっても」

スヴァンスタイン荘の住人=おそろし荘の住人の作者自身が
描いた絵だからな・・・・




その森の中には、
この上もなく優しい表情で顔を寄せながら眠る
二人の男女がそっと描かれていた・・・




「もうすぐマヤの飛行機が到着する頃だな」
この絵を一体どこに飾ろうか
この絵をみたマヤは一体どんな顔をするだろうか

きっとそんなことを考えているのだろう、
絵の中の自分と同じ表情を浮かべる真澄を見ながら
水城はそんな風に思った。







ep第50話←        →ep第52話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~

とりあえず、とりあえずですね、イギリス編は終わりました。
もっと書きたかった気もするけど、そうするとまた
ずるずる更新が伸びそうで。

あと、結局PCで書くことも変わらずで。。


でもなんとか書けて良かった、うれしいです。
~~~~~




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ep第50話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2019-09-23 00:50:33 | ガラスの・・・Fiction
ep第50話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】


ep第49話←        →ep第51話
********************
「カット!・・・・・OK!!」
監督のその言葉に張りつめていた空気が
一気に安堵の色に変わった。
映画『スヴァンスタイン荘の住人』の撮影も
中盤を過ぎ、スケジュールはほぼ予定通りに
進行していた。
今日の撮影は天候に合わせて、
NGが出せないほぼ一発撮りの重要シーン
だったため、出演者・スタッフ共に
いつもに加えた緊張感があったが
何とか無事、時間内に撮影を終えることができた。

「明日は一日オフになります。
 それから来週のスケジュールは
 スヴァンスタイン荘"伯爵家軸"の撮影に
 なりますので、ここで一旦北島マヤさん
 出演シーン終了になります。」
来週は青木麗がメインの撮影がまとめて
行われるため、
マヤはしばしの休みとなる。
とはいっても、その翌週にはいよいよ
この作品の肝となるトリックシーンの
撮影が始まるため、マヤにとっては
大切な準備期間にもなっているのだが。

「本当に大丈夫かい?一人で列車の旅なんて」
「多分・・・。いざとなったら携帯もあるし」
「その携帯をどっかに落っことさないかが
 心配なんだけど」
「大丈夫!麗はほんとにいつまでも私を
 子供扱いするんだから」
この準備期間を利用して、マヤはイギリス郊外に
短い旅に出かける予定を立てていた。
そこは今回の作品とは直接関わりないものの
原作者の出身地であり、その情景が
作品の世界観にも反映されているといわれている。
「まあ、すぐに速水さんも来るんだろう?」
原作者がかつて住んでいた家は
現在ミュージアムとして開放されており
ファンの聖地として有名だが、
そのすぐ近くにある小さな別荘は
かつてその家族が住んでいたという家であり、
現在はプライベートステイで
滞在できるよう改装された施設となっている。
その一棟を真澄の手配によりこれから一週間
貸切で利用するのだ。
「うん。明後日の早朝ロンドンに着くって
 言ってたから、別荘に来るのはその夜になるのかな」

****

「Oh~~! Welcome!!!!」
管理人のまさに熱烈な歓迎を受けながら、マヤは
麗から習ったわずかばかりの英語を駆使して
ようやく部屋のベッドに寝転がった。
「ほとんどなに言っているか
 分からなかったけど・・・・・」
たまに出てくる「マスミ」の言葉に、
恐らく真澄の古くからの
知り合いであることは察したものの、
何故時折涙を浮かべながらマヤの肩を抱く程
感動しているのかは
ついに最後まで理解できなった。

異国の地でのたった一人の列車旅、
ただ揺られているだけの時間でも
だいぶ消耗していたとみえ、
安心感とともに思い出されるのは
もうしばらく会っていない最愛の人のことだった。
「もう数時間もすれば、会えるのに・・・不思議ね」
思い起こせば舞台『NATASHA』の頃から、マヤはほとんど
真澄とゆっくり過ごしていなかった。
マヤ自身は気づいていないが、『NATASHA』が
かつての恋人里美茂との久々共演ということで、
スキャンダル狙いのメディアにスクープを張られていたため
真澄は意識的にマヤと仕事以外の距離を置いていた。
それがどれほどのストレスで、どれほどの影響が
主に水城に与えられたかはさておき
当の本人はがっつりと役に集中していた。
そして舞台がハネるや、すぐにこの映画撮影のため渡英、
図らずもすれ違いの日々をもう数ヶ月は送っていることになる。
「よくよく思えば、速水さんにとって私、いったい何ができているんだろう・・・」
イギリスでの生活を麗と共に過ごしている中で、
マヤはどれほど麗が自立した女性として生きているかを感じ
同時に自分がどれほど周囲の人に甘えっぱなしの毎日を送っていたのかに
気づかされた。

私が演じる姿を見ているのが、この上のなく幸せだ

確かに真澄はそういって、事実マヤに演劇に集中できる環境を
公私ともに手配してくれる。
大原をはじめとするマネージャーやスタッフも、マヤの演技の事を第一に
動いてくれる。
そんな中でいつの間にか自分が演技"しか"できない人間になっているのではないか、
マヤはふとそんなことを思い始めた。

「私がやることといったら役作りばかりで、本当の北島マヤはどこにいるの?」
そしてそんな自分のままで、速水さんは幸せなの?
そんなことを思いながらマヤはいつの間にかベッドの上で
うつらうつらと眠りに落ちていった。

****
ガチャガチャガチャドンッ!!!

突然の大きな物音でマヤは跳ね起きた。
「な、なに??」
玄関で聞こえてきたその大きな物音に
得も言われぬ恐怖を感じながら、そっと部屋を出て玄関のほうへ
向かった。
「・・・・・・・!?は、はやみさん!???」
そこには横に置いたスーツケースにもたれこむように倒れた
真澄の姿があった。
「速水さん!?どうしたの??大丈夫??」
「・・・・マヤ・・・・か。 す・・まない。少し体調を崩し・・・て」
大したことはないという言葉と裏腹に額に脂汗を浮かべる真澄。
何度もうわごとのように「マヤ」とつぶやきながらゆっくりと意識を失っていった。

「・・・ここは。」
「あ、まだ体おこしちゃだめ!!」
次に目を覚ました時、真澄の体はだいぶ楽になっていた。
「・・・時間は・・・」
「えと、朝9時です。よく眠れましたか?」
手にしたトレイからオートミールを脇のテーブルにうつしながら
マヤはにっこりと笑った。
「・・・すまない。せっかくの休みを」
「とんでもない!昨日は本当にびっくりしましたけど、
 すぐにエイカーさんを読んだら
 お医者さんを手配して下さって・・・・」
ただの過労と睡眠不足が原因だと分かった時はほっとしました・・・と
トレイを胸にギュッと抱えながら微笑む顔は、明らかに寝ずの看病をしてくれていた
跡が見て取れた。
「・・・・ありがとう。」
そっとマヤの腕を取り、傍へと引き寄せる真澄に体を預ける形となったマヤは
耳まで赤くさせながら
「あ、こ、このオートミール、エイカーさんに教えてもらいながら
 私が作ったんですよ!!」
と照れ隠ししている。
「・・・・食べさせて」
「・・・・え?」
まだ疲れが残っているのだろうか、普段の真澄から出るはずのない言葉に
一瞬わが耳を疑ったマヤだったが、そのややうるんだ瞳に真澄が常に抱えるプレッシャーを少し
おろしているのだと感じ、たどたどしくもひとさじずつ、オートミールを真澄の口に運んだ。
「どう・・ですか?」
「おいしいよ。」
先ほどからの真澄の直接過ぎる熱い視線がマヤの顔をどんどん赤くする。



「食べさせて」
なんであんな言葉を発したのだろうと、今でも不思議に思う。
確かに無理がたたって不覚にも意識を飛ばしてしまったが
それでも普段の真澄であればそのような甘えた言葉など口にするはずもなく、
まさに魔が差したとしか言えない。
恐らく一晩中真澄のことを心配して傍についていてくれたのだろう、
元気そうなそぶりをしていても疲れは溜まっていたはず、
こうして自らの膝の上でぐっすりと眠る姿に逆に安心感を覚えた。
「あの姿は・・・反則だろう」
髪を後ろで一つ結びにして、エイカーさんに借りたのだろう
大きすぎるエプロンを体に巻きつけながらトレイをもって満面の笑みを
浮かべるマヤの姿に、得も言われぬ愛おしさを感じ、
つい気がゆるんでしまったとしか言いようがない。

「ごきげんようマスミ、お加減はいかが? あら?小さな奥様は
 ぐっすりとお休みのようね・・・」
オートミールの器を下げに来たついでに様子をうかがいに来たエイカー夫人は
休んでいたはずの真澄の膝を枕にぐっすりと寝入るマヤの姿に
その柔和な顔をほころばせた。
「すまなかった。昨日はずいぶんと心配をかけたようで」
「なんのなんの。この子に比べたら私の心配なんてたいしたことないわ」
そういって昨夜どれほどマヤが慌てふためきながら
たどたどしい英語を必死に織り交ぜながらひたすら真澄のことを
助けようとしていたかを軽妙に説明した。
「会った瞬間わかったわ。あなたが変わったのがこの子のお陰だって」
優しくブランケットをマヤにかけながら、エイカー夫人はにっこりと
微笑んだ。
「あなたがこんなに感情を表に出せるようになるなんて、
 あの頃は想像もできなかったもの」
「・・・そんなものか」
ええ、とうなずきながら、エイカー夫人はかつて真澄と
出会った頃のことを思い出していた。
「あの時のあなたは微笑みを浮かべていながら
 1ミリも笑っていない、そんな顔をしていたわ」
まるで自分以外はみんな敵、そう思っているみたいにね、と
片目をつぶりながら語る。
確かに、あの頃の自分は感情というものを失くすことで
生命をつないでいたといってもいい。

誰も信じない
誰も愛さない

そう決めて、ただひたすら義父への復讐の念だけを
育てていたあの頃
周囲に心を許すことなど決してなかった。

「本当に生意気で失礼な、恩知らずのガキだったと思いますよ。」
誰も近づけようとしないオーラを放つ真澄に
好き好んで近づく者などなく、気付けば真澄はこの異国の地で
たった一人でいることがほとんどだった。
「そんな私に、唯一声をかけ続けてくれたのがエイカー夫人、あなたでしたね」
イギリス留学時代、郊外へのホームステイで訪れたこの小さな田舎町、
誰とも話さず一人で本を読み続ける真澄に
秘密の場所があると声をかけてくれたのが、エイカー夫人だった。
「あの場所は・・・」
「今もあるわよ。といっても最近はめっぽう手入れをしていないから
 入口を見つけるのは大変かもしれないけど。」
「もしよければ・・・・」
「ランチボックスを用意するから、その子が起きたら出かけなさい」
真澄の意図などお見通し、と言わんばかりににっこりをエイカー夫人は微笑んだ。
「連れて行きたかったんでしょ、マスミ、自分の秘密の場所に、その子を」

****
「さっきから全く進んでいないようだが?」
「・・・・そうですか?」
マヤにオールを託して数分、二人が乗ったボートはただ
湖面の揺らぎに合わせて方位磁針のように向きを変えるだけで
どこかに向かう気配は一切感じられなかった。

昼過ぎにようやく目を覚ましたマヤを連れて
真澄はエイカー荘近くの湖でボートに乗り、
対岸の森に向かっていた。
最初は真澄が漕いでいたのだが、マヤが自分もやってみたいと
いうので渡した所、このような状況に至る。
必死な形相のマヤと対極に、まったく進まないボートに
揺られながら、なんだかとても安らぎを感じ、あえて助け船を
出すことなくそのままにしていたのだが、さすがにこのままでは日が暮れる。
結局真澄が遅れを取り戻すかのように優雅に漕ぎ手を請け負い
あっという間に対岸に到着した。
「ボートは速水さん得意でしたのもんね。」
言い訳をするかのように話すマヤのちょっとすねた顔がかわいらしく
思わず頭をポンポンっと叩く。
「チビちゃんは負けず嫌いだな」
「あ、あ~~~~」
それ言うの禁止だったでしょ~~~と追いかけてくるマヤの声を
背中に聞きながら、真澄は久しぶりに自分が腹の底から笑い声をあげていることに気づく。
「そういえば、昔はよくこうやって、君と憎まれ口をたたき合ったものだ」
冷血漢の仕事の鬼がマヤといる時はなぜか大きな笑い声を出すと
あの頃周囲がみな目を白黒させたものだ。
「いつの間にか、ずいぶんと守りに入ってしまったものだ。」
マヤとの交際をスタートさせて以降、表だってこうやって二人で会話をすることは
あっただろうか。
あくまで事務所社長と女優、その範疇を越えないように気をつかい、
距離を守ってきた。
「ここは秘密の場所、俺たち以外は誰もいないんだ・・」
ふいに足を止めた真澄の背中に、追いかけてきたマヤが止まりきれずにぶつかる
「わっ!!速水さん、急に止まらないで!」
ぶつかってきたマヤの手をぎゅっと握ると
「マヤ、ここでは俺はもう気を使わんぞ」
そういってひょいっとマヤを横抱きにして駆けだすと
「は、速水さん!!!!」
真澄の腕の中で表情をくるくる変えるマヤのおでこにキスをした。


「ここ、ですか・・・」
二人がたどり着いたのは、湖畔から少し入った森の中に広がる
ちょっとした広場のような空間、その中央にそびえる大きな木
「そう、この上にあるんだ」
ちょっと待っててとマヤを降ろすと、真澄は軽快にその木に昇り、
ほどなく上の枝から縄梯子を降ろした。
「上ってこれるか、マヤ」
梯子使ってマヤがたどり着いた先は、なかなかの広さの
ツリーハウスだった。
「確かにエイカー夫人の言うとおり、ずいぶんと誰も訪れていないようだ」
「ここが、速水さんの秘密の場所?」
「そう、そしてここが」
『スヴァンスタイン荘の住人』が生まれた場所だーーーー




ep第49話←        →ep第51話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
お久しぶりです。
本当にお久しぶりです。

たまに頂くコメントに、お返事もできないくらい
放置状態でしたが、ようやく永い眠りから覚め再始動。
少しずつですが、進めていきたい。2020はもうすぐそこ!!

~~~~~


ep第49話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2019-02-15 13:29:42 | ガラスの・・・Fiction
ep第48話←                  →ep第50話
********************
「おもしろいから読んでください!!」
きっかけは数年前のマヤのこの言葉だった。
久しぶりに自宅でゆっくりと過ごす時間を取っていた真澄は
窓からそそぐ光を浴びながら雑誌に目を通していた。
隣にはマヤ、マヤが静かにしている時は
寝ているか台本を読んでいるかと相場が決まっている。
隣で身じろぎもしない黒髪に特に気にすることもなく
ページをめくっていた真澄の耳に、先ほどの
よく通る大きな声が突然響いたのだ。

「・・・・なんだ?」
さすがの真澄もびっくりしてまじまじとマヤのほうを見ると
その顔に持っていた本を突き出してマヤが再度
「おもしろいから、速水さんも読んでみてください!!」
と繰り返した。

『おそろし荘の住人』
それは、タイトルそのまま暗めの絵画風の表紙になった
一冊の絵本だ。

絵本といってもその頃はやりだった「大人の絵本」と呼ばれる
文字が多めの絵本である。
真澄はそのタイトルを知らなかったがほどなくしてそれが
有名なイギリスの作家が書いた伝説的古典ミステリーサスペンスを
土台として、子供向けにアレンジした作品であることに気付くと
「この本は知らないが、原作なら読んだことがあるぞ」
渡された本をパラパラとめくりながら答えた。

その時はあまりに興奮したマヤがおもしろくて
なりきって何度も読ませたりしながら穏やかな昼下がりは
過ぎていったのだが
仕事の鬼の真澄は翌日はすぐ次のプロジェクトを立ち上げていた。
それが、現在マヤが撮影に入っている来春公開予定の映画である。


『スヴァンスタイン荘の住人』
1930年代ヨーロッパを舞台とするこの作品は
イギリスの有名作家によるミステリーだが
その細かな人物描写と驚きのストーリーで多くの読者を魅了し
全世界で愛される作品となっている。
時代背景の変化により、もはや映像化は不可能と
言われてきた作品であり、そのトリックの特異性ゆえ
過去の映像化作品の評価も賛否両論分かれることが多い。

この仕事について話をした時、最初マヤは
何のことかピンと来ていなかったようだが
すぐに昔読んだあの絵本の原作だと分かると
目をキラキラさせながら何度も企画書と真澄の顔を
見比べていた。
「速水さん、昔の話覚えていてくれたんですか!!!」
その笑顔を見れただけでも、努力の甲斐があったと
映像権取得のための根回しの数々に費やした労苦を
思う真澄。
「驚くのはまだ早いぞ、マヤ」
キャスト欄を見てみろ、とマヤを促す。
「えと・・・・・あ、ほんとに!?」
先ほどの10倍は輝いた笑顔を見せた。


そして季節は夏ーーー
舞台『NATASHA』も千秋楽を迎え一息つく暇もなく
映画撮影がイギリスの郊外で始まった。
「舞台が終わったばっかで本当にもうしわけないんだけど、
 体調は大丈夫?」
「全然平気!だって今回は強い味方もいるし!」
映画1ヶ月にもわたるイギリスでの撮影が中心となる。
そのため、マヤはイギリスでアパートメントを借りて
生活をしているのだが・・・。
「以前にもスクープされた相手だから、気を付けてね」
「・・・・は~~~い」
「あ、噂をすれば・・・ほら」
マネージャーの大原が指差す方向には、すらりとした長身のイケメン・・・ではなく・・・
「麗~~~!!!」
よっ!と片手を掲げるようにこちらに目線をよこしたのは
「マヤ、ちゃんと言った通りのもの買ってこれたかい?」
かつてボロアパートで寝食を共にした戦友、青木麗だった。

***
「なんかすごく昔の事のような気がする・・・・」
以前と変わらぬ手際で夕食の準備を進める麗の横で
半分邪魔しているように手伝うマヤがしみじみとつぶやいた。
「・・・そうだね。私もまたマヤのごはんを作る日がくるなんて」
言いながら麗は、不覚にもグッとくるものをこらえた。
「少しは料理の腕も成長したのかと思ってけど・・・」
あわてて軽口でごまかしながら、麗は改めて隣に立つ
小柄な大女優の姿を見つめた。

北島マヤとの同居生活を解消したのち、青木麗は
独立系の女優として舞台を中心に活動、同時にモデルとして
海外の雑誌にも起用されるなど、着実に知名度を上げていた。
そんなさなか、もっと演劇の真髄を学びたいという思いから
英国に留学するという決断をしたのが去年の秋の事だった。

それから約10ヶ月、マヤの相手役、しかも
非常に重要な役どころを演じる共演者として再会することとなった。
「もとより期待してなかったからね、家事に関しては・・・だけど」
語学だけは、この生活である程度覚えてもらうからね、と麗は言った。
「大原さんにもお願いされているし・・・」
「んもう。。。この年になってまた勉強するなんて・・・」
「ハハハ、大丈夫大丈夫。ちゃんとマヤ好みの教材選んでおいたから」
さっきまでとは打って変わった渋い表情をするマヤを見ながら
麗は笑って調理作業を再開した。



「でも、なんだか夢みたい。いつかいつかと思っていたけど
 こうして本当に麗と一緒の作品に出る日が来るなんて」
できあがった食事をパクパクと食べながら、昔の思い出話をして盛り上がる。
「麗が留学するって話を最初聞いたときは、本当にびっくりした」
「そうかい?」
「ねえ、麗はどうしてイギリスに留学しようと思ったの?」
片付けは自分の仕事、と食器を洗いながら尋ねたマヤの質問に、
一瞬クッと言葉を飲み込んだ麗は
「そうだね、ちょっと食後の散歩に出かけないか?」
とマヤを外へと誘い出した。

 
「あの時に決めたんだ。『微風のかたち』」
シンと静まり返った世界にただ木々のさざめきだけが響く景色を見ながら
麗は静かに、だがよく通る声で話し始めた。
「フランス映画祭で堂々と日本を代表する女優として存在していたマヤを
 画面越しに見て、ああ今自分は何をしているんだろうってね」
「・・・麗・・」
「誤解しないでくれよ。別にうらやましいとかくやしいとか、
そういう気持ちじゃないんだ。
 私はマヤが女優になる前から知っている、そして
 女優になっていく姿をすぐそばでずっと見てきた。
 だからこそマヤ、君が誰よりも才能を持っていて
 そして演劇のためならどんな努力も惜しまない
 人間であることを分かっているつもりだった。」
でも、どこかでいつものドジでおっちょこちょいな北島マヤの事も
忘れずに覚えていて・・と
マヤの豊かな黒髪をやさしくなでながら微笑むような流し目を向けた。
自分はいつまでもマヤの保護者であるという気持ちが
他の芸能人と自分とを分ける"優越感"に
変わってしまっていたのかもしれない。
「だけどどうだろう、映画祭でその中心に立つマヤの姿に、
 女優としての自信と覚悟が
 はっきりと見えたんだ。そしてそこには当然ながら
 私など欠片も存在してなくて・・・。
 その瞬間、自分はいったいどうなんだ、私にとっての"演劇"は、
 それに賭ける情熱はどれほどのものなんだ、って声が聞こえたんだよ」
物言いたげなマヤの視線を柔らかく視線で制して、
麗はゆっくりと言葉を足した。
「このままじゃいけない、思ったのはそれだけ。
 次の瞬間にはもう英国(ココ)に居た。
 気分としてはそんな感じ」

なんとなく仕事がある日々、完全なアングラではなく
ある程度のメジャーな仕事もこなし
街中でも「青木麗」と気づいて近づいてくるファンが増えてきた。
そんな日々に、なんとなく居心地の良さを感じ始めてすらいた麗にとって
『紅天女』を手中にしながら、さらに高みを目指して
努力と成長を続けていたマヤの姿は
あの、ただがむしゃらにもがいていた劇団つきかげ時代の自分を
いやでも思い出させ、気づかぬうちに安定の方向に動いていた自身を自覚させた。

「マヤ、演劇は好きかい?」
「うん!観るのも、演るのも!」
「・・・・だね」

"演じることが好き"
ただそれだけの情熱をいまだに煌々と燃やしながら演技に生きる小さな大女優に、
麗は自分の中のそれを再確認したくて、日本を離れることを決めた。

「今回の映画、実はオーディションを受けたんだ」
「え、そうなの??」
「そう。自分がもう一度演劇人になるために」
麗の言葉の意味がどれほどの重さをもつのか、マヤはよく分かっていないかもしれない。
それでもかまわない。麗にとってマヤは最大のライバルであり最愛の友だ。
だからこそ、ヌルい自分のままでは向かい合えない。

「マヤ、私は覚悟をもってこの映画に臨んでいる。
 北島マヤの相手役として、しっかりとした演技でぶつかり合えるよう、
 こっちに来て得たすべての経験を糧に、この作品に取り組むつもりだ」
だから、よろしく

そういって差し出された麗の手をマヤは両手でぎゅっと握った。
「こちらこそ、よろしくね麗」
その顔はただただ旧友との共演を喜ぶ無邪気な女の子の顔だった。
"本当に、変わらないねマヤ、君は・・・"
麗は有象無象が交差する芸能界という世界に存在する一つの奇跡を見ている気がした。

「こりゃ、しっかり守ってくれた人に感謝だな・・・」
「うん?なにか言った?」
「・・・いや、なんでもないよ。さて・・・、寒くなってきたから戻ろうか。そして今夜は・・」
いろいろとタノシイ話を聞かせてもらおうかな、と
麗は人差し指でツンとマヤの額をつついた。
「・・・?」
麗の視線が、自分がつけているアンティークネックレスに向けられていることに
気づいたマヤの顔がみるみる赤く染まっていった。


ep第48話←                  →ep第50話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
本当に本当にご無沙汰しておりました。
こちらのお話は、7、8月頃を想定しております。

今回思ったことは、「ガラスの仮面」ってなんだかんだいってやっぱり
少女マンガであり、恋愛マンガなんだな、ということ。
心にトキメキが多くないと、たとえ拙いFictionですら
書き進めるのは難しい、ということです。

単純に"ラブ"な気持ちがたまらないと
楽しい話が浮かばないし、筆が進まない・・・。

今回の話、短いんですけど
待って下さっている方がいるおかげで
Upすることができています。

自分自身の私生活を振り返る期間にもなりました。
別の記事でも書くと思うんですけど、今年はたくさん本を
読みたいなと思っていて、映画もみたいなと思っていて、
そんなひとつひとつの創作物に触れていくことで
自分の感性を取り戻していきたいなと。

今回の話、イギリス編ですけど久々の青木麗登場で
わくわくしています。
なんとなく麗の姿に、再び書き始められた自分自身のことを
重ね合わせたり、なかったり・・・(笑)

そしてきっと必ずあの男もじきにイギリスに
やってくることでしょう。
海外生活はイチャイチャ5割増なのでそれも楽しみ。

2019年もよろしくお願いいたします!
(あ、もうすぐマヤちゃん誕生日ですね・・・)
~~~~~

ep第48話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2018-03-19 13:00:57 | ガラスの・・・Fiction
ep第47話←                  →ep第49話
********************
愛都にとって地獄のような5月も下旬となり、
いよいよ舞台初日まであと一週間と迫ってきた。
例年より早くおとずれそうなジメジメとした梅雨空が
広がっている。

舞台『NATASHA』

北島マヤが露出度の高い衣装とセクシーなダンスを
披露することでも話題の本舞台、
マヤ演じるナターシャの子供時代を演じる子役
松多愛都は、今だ不調に悩まされていた。

里美茂を意識して演技ができないーーー

当初こそ、棒立ちのような状態で周囲を心配させていたが
そこは芸歴=年齢の経験を生かして、なんとか
平静をつくろって演技していた。

"本番では、私のシーンに里美さんはいないし・・・きっと大丈夫"
この不調の原因が"恋"であることは明白だったが
愛都は自身が最も忌み嫌う恋愛にうつつを抜かして
演技に集中できない自分を認めることなどできなかった。
"私は里美さんに恋してなんかいない。ただ、助けてもらって
 感謝しているだけ・・・"
その時、目の前から里美とマヤが楽しそうに話をしながら歩いてきた。
「あ」
「あ!愛都ちゃん、お疲れ様。」
こちらの気持ちなど知る由もなく、北島マヤはいつものように
屈託のない笑顔を向けてくる。
今の愛都には苦痛でしかなかった。
「おはようございます。今日も仲がいいんですね、お二人は」
言わなくてもいいことを言っている自覚はあるが止められない。
「あいとちゃ・・」
「失礼しますっ・・・」
タオルを握りしめ、愛都は足早に舞台へと向かった。

"・・・・まあ、こんなもんだろう"
及第点を出す演出家が心中そう思っているのだろうことは
分かってはいたが、今の愛都はそれが精いっぱいという
状態だった。
「じゃあ、子供NATASHAのシーンはこんな感じで」
演出家の声を聞きながら、足早に舞台を後にしようとした
愛都の背中に、落ち着きながらも刺すような声が響いてきた。
「本当に今のでいいのですか?」
「?」
振り向いて見つめる先には、背が高く美しい、それでいて
どこまでも冷たい男の姿があった。
「このNATASHAが本当に成長してあのNATASHAになると
 観客は思えるでしょうか」
「は、速水社長・・・」
決して大きな声ではないはずなのに、その低く響く声は
一言一句こぼれずに愛都に突き刺さった。
「こんな子供時代なら、マヤにやらせたほうがいい」
最後の言葉が終わるか終らないかのうちに
愛都はその場から逃げるように走り去っていた。


****
急に、降り注ぐ雨が遮られた。
雨なのか涙なのかわからないぐらい濡れた顔を上げると
そこには背の高い男が立っていた。
「・・・・」
「舞台初日目前に、傘もささずに外に出るとは
 体調管理も大事な仕事だぞ」
風邪でも引いたらどうするんだ、と冷徹な顔のまま
愛都を見下ろす男はまぎれもなく先ほどの言葉を発した人物だ。
「・・・すみません。すぐに戻ります、大都芸能の速水社長。」
ペコリと頭を下げてそのまま稽古場に戻ろうとする愛都の腕が
ぐっと速水につかまれた。
「そんな恰好で戻ったら、みんなびっくりするだろう。」
とりあえず少し落ち着いてからにしたらどうだ、そういうと
いかにも高そうなスーツのジャケットを愛都の頭からすっぽりとかけた。
「5月とはいえ、雨はまだ冷たい」
屋根のあるベンチを見つけるとそこに誘導し
そつのない動きで、気付けば愛都の手には温かいミルクティーの
缶が握らされていた。
「・・・・すみません。」
「気にすることはない。」
まるで仕事だといわんばかりの冷たい口調、しかしいったん口にしかけた
タバコをそのまま吸わずに戻したのはきっと、未成年の愛都への配慮
なのだろう。
"冷血漢の仕事の鬼、敵に回すと恐ろしいといわれる速水社長"
"女優北島マヤをここまで育て上げた人物"
愛都の横には座らず、柱にもたれかかるように立っていた速水は
何か問いかけて来ることもなく、
ただ、愛都が落ち着くのを待っているようだ。
「・・・・・ですか?」
「ん?」
「・・・北島さんと里美さん、昔付き合ってたって本当ですか?」
一瞬、シャンパングラスでも割りそうな殺気を見せた速水だったが
すぐに先ほどまでの冷静な作り笑顔に戻った。
「君が芸能界のゴシップに興味があるとは意外だな。まあそれなりの年頃か」
「そんなんじゃありません!」
バカにされたようであわてて言い返したものの、興味があるからこそ
質問したのは明白で、言い訳のしようもない。
「・・・・・俺が知っているのは
 二人がドラマで共演したこと、
 記者たちの前で"初恋宣言"をしたこと、それぐらいだ」
遠い昔の話だが、という速水の顔に嘘はなさそうだ。
もっともこの百戦錬磨の鬼社長の本音など、たかが13歳の自分に
分かるはずもないのだが。
「・・・あの噂は」
降りしきる雨の音、時折遠くからクラクションが聞こえるくらいの
静けさと、ほかに誰もいない雰囲気がそうさせたのか、
愛都は通常ならば誰も聞けないような質問を当の本人にぶつけた。
大河ドラマ途中降板、舞台初日すっぽかし、その言葉を聞いた速水は
とたんに何かとてつもなく物憂げなものを瞳に奥に漂わせる。
「大都芸能だから、うまく事を大きくせずに済ませたんですよね。
 さすが大手事務所。北島さんは守られてますね。」
昔も今も・・・・その言葉は身を切るような速水の鋭い視線に遮られる。
「・・・守られてなどいないさ、むしろ・・・」
という速水の目は怒っているような、苦しんでいるような
今までに見たことのない複雑な感情を内包していた。

「人を好きになったのは初めてか?」
「え?」
不意打ちの質問に戸惑う。
「気になっているんだろう?里美茂のことが」
それで舞台に集中できずにいる・・・
あわてて否定しようとするが、いかにもそうに決まっていると
言わんばかりの速水の様子に言葉が続かない。
「・・・・女優失格ですよね
 私情に影響されて演技ができなくなるなんて。」
「まあな。しかし」
女優として、決して悪いこととは限らない
「芸の肥やし、というのはいささか時代遅れだが、
 恋する気持ちを知らないよりは知っていたほうが
 演技の幅が広がるだろう」
「そうでしょうか?」
"先ほど私の演技を見ていたでしょう・・・
それでそんなこと、言えますか?"

「彼女の母親が直前に亡くなったことは知っているか」
「はい。」
「彼女は母一人子一人で育った。演劇の道を進むため、
 たった一人の母親を捨てて、東京に出てきたんだ。
 その後母親は病気で視力を失い山中の療養所にいたのだが
 娘会いたさにそこを抜け出し、交通事故に遭って亡くなった」
本来ならば、女優として成功し、生き別れた母と再会する直前に・・・

「原因を作ったのは、俺だ。」
「え?」
「俺が、母親を療養所に軟禁し、一番いいタイミングで母娘再会の
 演出をするために情報を遮断した。その結果、母親はそこを逃げ
 死んだんだ」
冷たくも美しい顔で、何よりも冷酷なことを淡々と話す速水の顔から
愛都は目を離すことができない。
「すべて、当時所属事務所の社長である俺が、大都芸能の速水真澄が指示をした」
言葉を発することができない愛都に
速水はこれまでで鋭利な視線を向けてきた。
「わかるか?自分が演技の道に進んだせいで母親を亡くした、しかも
 曲がりなりにも所属する事務所の社長に殺されたんだ」
「そのことを・・・・北島さんは」
「知ってたさ」
だから、行方をくらませたんだ・・・
「・・・・だがな、それでもあの子は帰ってきた。演劇の世界、この
 虹の世界に」
そういう速水の顔は、もはや愛都ではなく、遠い昔のことを
見ているようだった。

「演じることができなくなった彼女は、再び自分自身で
 演じることの喜びをつかみ直し、そして全てをぶつけて
 演じることができる場所へ戻ってきたんだ。」
その時見せた速水のなんともいえない優しさと慈愛にみちた微笑みを
愛都は忘れることができなかった。
"この人に、こんな顔をさせるなんて・・・"
女優北島マヤの存在が、自分が思っているよりずっと
大きなものであることに、いまさらながら気づかされる。

ふいに速水が愛都の頭に手をやりくしゃくしゃと触れる。
「!?」
「少しはマシになったようだな。」
それが単に愛都の髪の毛が乾いているか確認していただけだと分かっても
愛都はこのつかみどころのない男の動きに緊張を覚える。
「そんな大事な話、どうして私に話してくれたんですか」
「・・・・さて、どうしてだろうな。」
そういってにやりと口元を上げた速水の目はすでに笑ってはいなかった。
「なんとなく・・・いや。なんでもない」
そういうと愛都から湿った上着と飲み終わった缶を
スマートに受け取った。
「そろそろ戻るか。」
「・・・はい。」
いつの間にかやんだ雨空にはうっすらと虹がかかっていた。


「速水社長!あ、愛都ちゃん!」
「外で見かけたので雑談に付き合ってもらっていたら
 遅くなってしまった。申し訳ない。」
愛都が勝手に飛び出してしまい、稽古の雰囲気を乱してしまったのに、
何気ない速水のフォローで、現場の愛都を取り巻く雰囲気は一気に変わった。
"速水社長って、噂よりずっとやさしい人かもしれない・・・"
湿った体をふくためにスタッフがタオル持ってきてくれたタオルに
くるまりながら、愛都はすでに遠く離れた速水の後姿をずっと見つめるのだった。

「は、速水社長!」
「?」
ゆっくりと振返った速水に
「私のNATASHA、楽しみにしていてください」
そういって微笑む愛都の顔は、いつものような勝気で自信にあふれたものだった。


****
舞台『NATASHA』上演
北島マヤの新境地!妖艶なダンスにコケティッシュな演技で観客を魅了!
元恋人里美茂との息もぴったり!観客を虜に!
松多愛都の完璧な演技!まるで第二の北島マヤ!!
違和感なく進む時系列に息つく暇もなく引き込まれる至福の体験
本場ブロードウェー監督も絶賛の舞台、早くも再演決定か!?



ep第47話←                  →ep第49話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
やっと『NATASHA』編が終わりました。
この後裏『NATASHA』書いて一応終わり。
最近更新をあけることが多かったので
とりあえず話の区切りがいい所まで
あげようと思いました。

ということで、現段階でのストックは
全放出しております。
~~~~~

ep第47話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2018-03-19 12:58:23 | ガラスの・・・Fiction
ep第46話←                  →ep第48話
********************
5月も半ばを過ぎ、舞台「NATASHA」の舞台稽古もいよいよ熱を帯びていた。

"日本初上陸『NATASHA』の世界とは?"
"舞台『NATASHA』徹底解剖"
"『NATASHA』を演じる魅力的な俳優陣を一挙紹介!"

TV、WEB、雑誌、ありとあらゆる媒体を使った宣伝効果もあり
6月の舞台チケットは平日昼公演数回をわずかに残し
殆どの回が既にソールドアウトとなっている。
記者会見直後こそ、マヤと里美の過去のラブロマンスに
興味の矛先を向けるメディアはいたが、
その後は、舞台稽古の取材や積極的なキャストのTV出演など
徹底した情報公開作戦が功を奏し、驚くほど二人の過去を
気にする風潮は消えていた。
もっとも、裏では当然速水真澄の剛腕があったことはいうまでもないのだが。

「今の時代は、上から圧力で抑えることに限界がある」
それこそ昔であれば裏社会の力を使うこともいとわなかったであろう、そして
その手段が何より有効的に働いたであろう。
しかし時は流れた。
一億人が全員情報発信の拠点となりうるこの時代
旧態依然としたやり方に限界が来ていることに気付かず
大衆を敵に回した結果想定以上のダメージを食らうかつての大物も多い。
「力を使わない手もある、しかし力はなければ使えないからな」
世の中の目を過剰に気にしすぎて小さくなるつもりはない
いざという時はどんな汚い手でも行使するのにためらいはない
「何か不審な動きがあったらすぐに報告するように」
いつものように人目を避けた地下駐車場で聖からの報告を受けた真澄は
目を合わせることなく受取った封筒を小脇に抱えて車に戻った。

マヤ、そして里美を週刊誌記者が追っていることは気づいていた。
どんな些細な現場でも写真を撮られ、勝手にキャプションをつけられれば
一気に噂は加速する。
むしろ誰よりも確実な目撃者として、二人の間になんの
関係もないことを知らしめるために、真澄はあえてそれらを排除することなく
泳がせていた。
もちろん、マヤの日常生活は全てマネージャーの大原に完全に管理させ、
家と稽古場の往復には常に同行させている。
たまにある役者仲間との食事会は必ず複数人数で大衆的な店に限定し
そこに里美がいることもあればいないこともある。
完璧なまでの「普通」の演出に、週刊誌もスクープを取りあぐねているようだ。

その代わり・・・・・
ここしばらく真澄はホテル暮らしを続けている。
大都芸能所有の社宅マンションの存在は業界内では知られた話で
そこに社長として出入りする姿が見られても問題があるわけではない。
もっとも出入は完全に地下から、その姿を見られること自体が皆無なのだが。
念には念を、
自身のプライベートなど、マヤの演劇に賭ける情熱の肥やしになれば本望だ。
薄く開けた窓ガラスから、フーーと薄い煙を吐いた。


その頃稽古場ではーーーーーー

「今日初めて同じシーンの稽古だったんだけど・・・」
「どうなの?やっぱりさすが北島マヤって感じ?」
「うん・・・、それよりやっぱ里美さんよ!なんてさわやかでかっこいいんでしょう!」
「きゃ~~~、あなたそういえば里美さんと絡みあるわよね、うらやましい!!」
「えへへへへ。」
「でもどんな気分なんだろうね」
「そうよね、元カレと共演って・・・。そもそも
里美さんと北島さんってほんとにつきあってたの?」
「付き合ってたって言っても、北島さんは高校生の時だし、
 すぐに例のドタキャン事件で破局したんでしょ。」
「ドタキャン事件?」
「あ、そうか、あの事件は大都の力ですぐにお蔵入りになってたんだっけ」
里美と付き合っていた頃、北島マヤは母親を亡くし、
そのショックから付き合いのあった暴走族仲間と
姿をくらまし、結果主演舞台の初日に穴をあけたのだ、
当時その舞台に出演していた劇団の先輩女優から聞いたのだと
興奮気味に話をする。
「噂によるとその時彼女、飲酒もしてたらしいのよ。」
「え??当時ってまだ未成年でしょ。あんな純朴そうな顔して意外!」
「でしょ?でも、大河ドラマで里美さんと共演してる時も
 結構公私混同で演技に集中出来ないことがあったみたいで」
「そうだったんだ・・・・。ちょっと見る目変わっちゃうな~」
「でもさ、私ちょっとびっくりしちゃったんだけど、愛都ちゃんってすごいわよね」
「私も見た!小っちゃいころから演技力は有名だったけど、生で見てちょっと
 鳥肌立っちゃった!」
「正直、私あのまま愛都ちゃんの大人シーンも見てみたいな・・なんて」
「ちょっと!北島さんに失礼じゃない?」
「ゴメンゴメン。」
「さ、人の事より自分たちのことがんばりましょ!」

ケータリングルームから人の気配が去ったのを確認して
ゆっくりと松多愛都はロッカー室から出てきた。
「・・・信じられない」

物心つく頃には既に演技の仕事をしていた愛都にとって
北島マヤの子役というのはそれほどのプレッシャーではなかった。
周囲の人々はあの天才女優の子ども時代ということに
かなり興奮と緊張をしているようだったが、
勉強のためと見に行った『紅天女』も、確かに世界観はすばらしいもの
だったが、正直自分でもできるのではないかと思ったくらいだ。
"時代劇だから言葉が難しいってだけで、要は悲恋物でしょ"
有象無象の自称"役者”達とたくさんの共演経験を積んでいるだけに
確かに北島マヤがそこら辺の二流女優とは違うということは
稽古が始まってすぐに理解できた。
"確かにセリフも完璧、雰囲気もナターシャそのもの・・・って感じはするけど"
正直圧倒的なオーラを感じない、愛都はその点に微妙な気持ちを
抱くのだ。
"これだったら姫川亜弓さんと共演したかった・・・かもな"
随分と昔、テレビ局ですれ違っただけの姫川亜弓は
その圧倒的オーラが桁違いだった。
"あれぞまさしく、女優・・・・"
華やかさと確かな実力、松多愛都にとって姫川亜弓は
憧れでもあり目標でもある。
そんな姫川が唯一ライバルと認める北島マヤの才能を
愛都はまだ感じきれずにいた。
そんな時耳にした北島マヤ過去のスキャンダル。
“しかも事務所の力でそれを隠してなんて・・・・“
演技に対して潔癖なまでにストイックな愛都には理解できない世界だった。


***
「北島さん、このシーンのナターシャの気持ちってどんな感情なんでしょうか」
この前ロッカー室でマヤと里美の過去を聞いて以降、
愛都は執拗にマヤに役作りのことを尋ねていた。
「・・・・ええと。。そうね、きっと"もっと楽しい事はないかなーー!!"とか」
「だから北島さんはあんなに無邪気に楽しそうな演技なんですね。
 でも、あの時家族の事を思ったら、心のどこかにひっかかりのようなものが
 あると思うんですよね・・・、あ、私だったらですが。」
「そ、そうか。そうね、そういわれれば・・・」
「・・・・まあ、大人のナターシャは北島さんのものなので、
 子役の私がどう思おうが関係ないので気にしないでください」
淡々とした口調はいつもと変わらない、少なくとも周囲の大半の人間は
そう思っているだろう。
"個人的理由で仕事に穴を開ける人を私はプロと認めない"
ましてやそれが恋愛なんて浮かれた理由ならなおさらのこと。
"おまけに私とはナターシャの解釈が違いすぎる"
落ち着いた表情の裏には、ここ数日で急速に膨らむ
北島マヤへの不信感でいっぱいになっていた。

自分の出演するシーンは前半の数場、しかし女優として
たかが子役と流すつもりは毛頭ない。
今日も様々な解釈で演出家と意見を交わしながら
自分なりのナターシャを作り上げてきたつもりだ。
自分の演技で急遽他の部分の演出が変わったこともある。
しかしその過程で徐々に大人役を演じる北島マヤの演技との
つなぎ目の違和感が広がっている、愛都はそう感じているのだが
おかしなことに演出家もスタッフも誰も北島マヤにそのことを
忠告しようとしない。
"天下の紅天女女優、ただそれだけで?"
もしくはこれもまた大都の力によるものなのか。
“大きなものに守られてヌクヌクと演技するなんて
北島マヤもその程度の女優だったってことなのかしら・・・・“


「愛都ちゃん、マヤちゃんと何かあった?」
稽古終わり、着替えに向かう廊下で愛都を呼び止めたのは他でもない
里美茂だった。
「え?」
「・・・試してるでしょ、いろいろ。マヤちゃんに」
演出家も共演者も、誰も指摘しなかったことをよりにもよって里美に
言い当てられたことに愛都は驚きを感じた。
「・・・・別に。ただ、自分の演じるナターシャを理解したかったからです。」
「ふぅ~ん。そっか・・・」
言葉とは裏腹に、その目は愛都の返事に納得した様子はない。
「甘く見ないほうがいいよ」
「・・・甘くなんて」
「思ってたほどじゃない、みんながいうほどじゃないって、マヤちゃんのこと思ってるでしょ」
そう思って舞台上でコテンパンにされた俳優を、山ほど見てきたよ、と
壁にひじをついて寄りかかりながら微笑む里美の表情と言葉の厳しさのギャップに
愛都は息をのんだ。
「マヤちゃんはヘタなんだよ」
「・・・そんなこと」
「演技が、じゃなくて言葉にするのが。」
自分がどうやってその役をつかんでいるのか、どういう意図でこのシーンこの表情を
するのか、説明するのがヘタなんだ。
「何が正解なんてわからない。君の演技は確かにすばらしいし、みんなが言うように
 何十年に一人の逸材だと思う。何よりまじめだし。」
だけどね・・・そういって里美は愛都の顔を改めてまっすぐに見つめた。
「君のナターシャには恋できないよ。マーレー(僕)は」


***
『君のナターシャーには恋できない』
里美から言われた言葉が愛都の頭から離れない。
"やっぱり里美さん、北島さんのことが・・・・好きだから、だからきっと"
里美が共演者としてマヤの才能を評価しての発言だと、これまでなら
落ち着いて解釈できただろうことを、今の愛都は素直にそうとらえることができずにいた。
"もしかしたら二人は今も・・・"
そう考えるだけで愛都の集中力がとぎれそうになる。

"だめだ、こんなんじゃ。もっと集中しないと"
自分のシーンの稽古が終わり、舞台を降りながら愛都は
タオルで汗を拭くふりをしてギュッと目を閉じた。
いつもならすぐに客席側に回ってマヤの稽古を食い入るように見る愛都だが
今日に限ってうつむきがちに控室に向かう。 

その時ーーーーー

「危ない!!」
誰かの叫び声に振り向いた次の瞬間には、目の前が真っ暗になっていた。
柔らかく、でもしっかりと包み込まれるような感触と共に床に倒れ込む。

「さ、里美さん!愛都ちゃん!」
「大丈夫??」
「・・・・だいじょう・・・イテテテ」
「里美さん!血が!!」
「すぐに救急車だ!!!」

周辺が一気に殺気立つ中、里美茂は冷静に
「だ、大丈夫です。自分で病院に行けますから」
と答え、それまで胸の中に抱いていた愛都をようやく解放した。
「愛都ちゃん、大丈夫?けがはない?」
やや顔をゆがめながら、それでもいつものように優しい笑顔で
話しかけてくる里美は、右手を抑えている。
「・・・大丈夫、、、です。」
自分の身に降りかかった事態を飲み込めない愛都は
とりあえず自身の体に何の問題もないことを確認してそう答えた。
「よかった。。」
愛都ちゃんに別状がないか、しっかり確認してあげてね、
そう言い残すと里美はゆっくりと手を抱えたまま立ち上がり
すぐにマネージャーとおぼしき男性数名に抱えられるように
稽古場を後にした。

その後スタッフから、作業員が誤って落とした工具が愛都の頭に
当りそうになったのに気付いた里美が
右手でその工具を受けながら抱えるようにして
愛都をかばったのだということ、
病院での診察の結果、里美の手は骨にひびが入った程度で
大きな怪我には至らなかったこと、そして
もし里美がかばっていなかったら愛都の頭への直撃は避けられなかっただろう
ということを聞かされた。
"里美さん・・・・!"
すぐにでもお見舞いに行きたいとマネージャーに訴えたが
特に入院したわけでもなく、すぐに復帰するからとなだめられ
ようやく愛都も納得した。
"里美さんが復帰したら、すぐにお礼を言わなきゃ"
それからの数日は、里美になんといって謝ったらいいか、
何かお見舞いを渡せるものはないか、そればかりを考えていた。

そしてようやく里美が稽古場に復帰する。
「ただいま~~~!マーレー復活!」
いつものように太陽のような明るい笑顔と、おどけたようなポーズで
稽古場に入ってきた里美を、共演者もみな笑顔と拍手で迎える。
"よかった、里美さん元気そう・・・"
みんなと一緒になんとなく拍手をしながら、愛都の目には涙がにじんでいた。
「・・・あ!よう!元気だったか?」
人の輪のなかから愛都を見つけ出した里美が笑顔で向かってくる。
「特に傷もついてないって聞いて、安心したよ」
そういってポンポンと愛都の頭をなでる手は、利き手でないせいか
少しぎこちない。
"・・・・あったかい。里美さんの手"
里美の手の感触を思い出しながら、稽古が再開された。
"よし、里美さんが見てるんだ!頑張らなきゃ!"
勢いよく舞台に上がった愛都だったが・・・・・

「・・・・・」
「・・・・・??」
「・・・・・どうした?」

進むごとに周囲のざわめきが大きくなる。

「・・・・あれ。」
(どうしちゃったんだろう・・・)
「・・・・・で、・・・・・」
(なんだかおかしい、わたし・・・・)

舞台袖に立つ里美を認識するだけで、
愛都は演技に集中できなくなっていたのだ。

"私、里美さんが気になって演技ができない・・・・"



ep第46話←                  →ep第48話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
現代っ子愛都ちゃん、演技の才能とストイックさは
まさに亜弓さんとマヤを足して2で割ったような
天才子役、ちょっとクールで冷めた目をしています。

若さゆえの自信と、割り切った考え方で
マヤと対照的ですが、マヤがスロースターターなのは
読者にはもうおなじみなのよ!愛都ちゃん!!
~~~~~