(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

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(ガラスの・Fiction)49巻以降の話、想像してみた*INDEX (2019.9.23)・・記事はこちら ※ep第50話更新※
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ep第27話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-07-27 18:47:31 | ガラスの・・・Fiction
ep第26話←                  →ep第28話
********************
11月頭の紅天女成功祈願祭を終え東京に戻ってきたのち、
いよいよ本格的に稽古がスタートされた。
来春の公演は東京・大阪・名古屋の3都市公演
演出黒沼の気合もみなぎる。
「でも、先週梅の里に行けて良かったです。
 なんとなく、気持ちがすっきりして、これからまた阿古夜になれるんだ、
 紅天女を演れるんだ、って全身に電気が流れた気がします。」
雑誌の取材を受けるマヤ、最近はこういった
女優・北島マヤとして取材を受ける事も多くなってきた。
自分は舞台をおりると平凡な、どこにでもいる女の子だから・・と
最初はかたくなに拒んでいたのだが、
先月からOA開始されているマヤのシャンプーのCMが
大変話題となり、
普段の素朴なマヤが一転大人の女性の色香を見せるそのギャップに
新たなファン層がついてきている。
「髪型は、しばらくは紅天女があるからこのままです。
 将来的には、そうですね、バッサリ短くしてみたいなって思う時はあります」
女性向けファッション誌の取材とあって、話題は舞台の事、映画の事、そして
ファッションや美容の事などにも話が及ぶ。

「好きな物はイチゴ!とか、趣味は編み物!とか言わなくて大丈夫ですか??」
普段そう言った取材に慣れないマヤは事前にマネージャーの大原に
そんなことを聞き大笑いされた。
「だって・・・・、以前大都にいた時にはそう言えって・・・」
その当時、現役高校生女優として猛烈な売出しをかけていた頃のトラウマが
こんな所にも・・・
「ぷっ。大丈夫よ、マヤちゃん。思う通りに答えて大丈夫、但し・・・」
恋愛ネタだけは絶対NGだからね。

「今は仕事が恋人です」
この使い古されたセリフを、マヤは微笑とともに口にした。
"ま、確かに仕事の鬼だけどね・・・くふふ"
ふと思い出すしかめっ面の真澄の顔に、思わず笑いが漏れる。
その柔和な笑顔はまさに少女から大人への変換期の女性が放つ
みずみずしさそのもの
インタビュアーもほう・・・とため息をつくほどだ。
"かつてはあの天才女優姫川亜弓と比べられて、地味な子だと思っていたけれど・・・"
今、大都芸能が最も力を入れている女優北島マヤのPR記事の
意味合いも強いこの取材だったが、
気付けばインタビュアーもマヤの不思議な魅力に取り込まれかけていた。

**
「そろそろ気を付けた方がいいかもしれません。」
雑誌取材の後、稽古場へ送り届けたマネージャー、大原は
自身の会社社長であり、マヤの恋人でもある真澄の元を訪ねそう言った。
「具体的には」
「マヤちゃんの女性としての魅力が、本人の自覚していない所で
 出てきている事です。」

マヤのマネージャーとして働くようになってもうすぐ8ヶ月
その間、誰よりも間近でマヤの事、そして真澄とマヤの事を見てきた。
実際マヤは裏表のない人物で、大原のことも信用し、言う事も素直に聞き入れる。
基本的に真澄との関係で気持ちを乱すことはないし、
(かつてどうだったかは知らないが)
仕事に影響を与える事もまずない。
対する真澄も、社長という立場にありがちな
権力行使でわがままを通そうとすることもない。
『お気に入り女優』と言われるような無理な仕事は入れないし、
仕事に影響が出るようなプライベートなスケジュールを
指示することもなく、なによりもマヤの仕事を優先に考えているくらいだ。
(たまの伊豆はむしろ真澄の方が無理をしているような
過酷スケジュールだし)
それでいて恋人としてのマヤから特に不満の声が出ないということは、
それなりにプライベートでのフォローも行き届いているのだろう。
芸能界での交際において、これ以上の対応はないというほど
周囲のバックアップと本人の心がけがそろっていることは珍しい。

「当初の予定では、マヤちゃんは出来るだけ素のまま、特に無理に
 隠したりさせずにのびのびとさせる方針だったかと思います。」
舞台を下りたマヤに演技をさせることは無理、それは誰より
真澄が知っている。
「恋人はいません」という建前以外はほぼ普段通りに接しているし、
実際マヤと真澄の掛け合いは、昔も今も変わらず公の場でも見られている。
「これまでは、言葉はあれですがマヤちゃんが"子ども"でしたから、
 外で見ていても特に違和感は感じませんでしたが」
特にあのCMが放送開始されてから、世の中に広がる、
『北島マヤ、実はきれいなんじゃない』疑惑(?)が
その影に男ありという当らずとも遠からずな興味を買っている。
「あの・・・・こういうと大変失礼かとは思うのですが・・・」
「・・・・大原君、こと今回の件において私に遠慮など無用だ。
 思う事があればはっきり言ってもらって構わない。」
大原の逡巡を見通すかのように、真澄がそう告げた。
「・・・ありがとうございます。でははっきりと言わせて頂きますと、
 業界内関係者であれば、社長が女優を商品としてしか見ておらず、
 女には興味のない仕事人間であることはよく知られたことではありますが」
「確かに遠慮なくとはいったが・・・」
「・・・・続けます。とは言ってもただ見た目だけで言えば、社長は大変
 お若いですし、仕事もできる、何よりスタイルも顔も美しい、いわば
 大変魅力的な男性です。」
「褒められているのか、けなされているのか・・・」
「これまではマヤちゃん側の子どもっぽさが幸いして、お二人のご様子は
 特に問題なかったかと思います、しかし今後ますますマヤちゃんから
 大人の女性らしさが出てくるようになるとあるいは・・・」
「つまり二人の関係が疑われる可能性があると。」
「はい、まあさすがに社長との関係にダイレクトにいくとは思いませんが、
 少なくとも今後、何らかの形で男性とのスキャンダルが噂されかねないとは思っています。」
何やら思案気な真澄は、手にしていたタバコをそばの灰皿に押し付けて消した。
「とはいっても、あの年代の女優が女性らしさを見せることは
 仕事においてとても重要ですし、今後の仕事の幅も広がります。」
「確かに。あのCM放送開始後に入ってきたオファーはいずれも
 今までにない女としての演技を求めるものが増えたな。」
紅天女での圧倒的な愛の演技、これまでの北島マヤは実際とのギャップが
魅力の一つでもあった。
自身の恋人が、どんどん美しくなるという評判に嬉しさを感じないはずがない。
その一方、仕事のパートナーとして、頭の痛い問題でもある。
「とにかくなるべくマヤの側にいて、少しでも疑われるような状況を作らないように注意して
 くれるか。」
私もなるべく気を配るように心がける、と真澄は短く告げた、その時・・・
真澄の机上の内線が音を鳴らす。
「速水だ。」
「打合せ中に申し訳ございません。急な案件が入ってまいりましたので。」
現在のお打合せ内容に関係するものかと思い、おつなぎ致しました
内線の向こうからは、淡々とした水城の声が響いていた。

すまない、ちょっとそこで待っていてくれ
大原に短くそう告げるとなにやら電話先の相手と短く話をした真澄は、
受話器をおくや、
「早速起こったようだ。今から緊急ミーティングだな」
と淡々と告げた。

**
「これは一体どういうわけだ。」
「えと・・・」
「いつ撮られた写真だ?」
「先週の水曜日・・・、『紅天女』の稽古が休みの日だったから」
「だから?」
「朝から二人で舞台を観に行って、その後一緒に食事をして、
 買い物して帰るっていったら、じゃあ荷物持つの手伝ってくれるっていうから・・・」
「だからこうやって深夜に二人でトイレットペーパーやら抱えて歩いていたわけか。」
深夜に二人きりで生活用品を買っているとはな・・・
真澄の射るようなまなざしにとうとうマヤの堪忍袋の緒が切れた。
「んもう!速水さん、いい加減にして下さい!二人っきりでってだってこれ・・・・」
どっからどうみても、麗じゃない!

数時間前、真澄の元に北島マヤのスクープ写真に関する
雑誌掲載の情報が入ってきた。
『紅天女』北島マヤ 深夜のラブラブ半同棲デート
背の高いイケメン男性と親しげに話しながら、日用品を購入し、
二人で自宅マンションに消えていった

概ね記事にはそのような内容がまとめられていたが、
そのマヤの隣にいたというイケメン男性は、帽子をかぶった青木麗だったのだ。

「からかうのもいい加減にして下さい。」
稽古がえりに大原に連れられやってきた大都芸能社長室で、マヤはほっぺたを
ぷくっとふくらませて抗議した。
「ハッハッハ、すまないすまない。ちょっとやりすぎたな。悪い。」
しかしな、と真澄はタバコに火をつけやや表情を戻して話した。
「こうやって青木君の顔にモザイクをかければ、これだけでりっぱな
 北島マヤデート現場写真の完成だ。」
「ひどい・・・・麗なのに・・・・」
確かに手元にあるゲラは麗の顔にモザイクがかかっており、
あたかもマヤが長身男性と親しげに歩いているように見える。
「それが週刊誌のやりくちだ。」
「でも本当の写真はこんなに鮮明なのに、わざわざこんな・・・」
確かにもう一方の手元にある元画像は、しっかりと麗の顔まで映っている。
「とにかく、こうやって写真に撮られることもあるってことを肝に銘じて、
 これからは更にプライベートでも気を付けてもらわないとこまる」
何となく納得のいかないマヤだったが、確かに半ばねつ造とはいえこういって自分が
実際にスキャンダル雑誌に載るのをみるのは気持ちがいいものではない。
「こういった雑誌の記者なんて、真実なんてどうでもいいやつらばかりだ。
 派手な見出しに、見たいと思わせる写真がついていればなんだっていい。
 そんな奴らに足元をすくわれることのないように。」
真澄はそう言って、たばこの火を消した。
「・・・・使ってくれてるんですね。それ。」
マヤは先ほど真澄がタバコを押し付けた灰皿を指差した。
「ん?ああ、もちろん。」
その灰皿は依然マヤが映画撮影中に練習を兼ねた焼いていた焼き物のうちの一つ、
真澄にプレゼントしようと作った灰皿だった。
シンプルな薄づくりのお皿のようなものだが、縁にうっすらと、アルファベットのmをかたどった
模様が入っている。
「灰皿だったら、いつも速水さんの側にいて一番使ってもらえると思ったから・・・当たりですね。」
既に灰皿には山盛りのタバコが溜まっていた。
「大事に使っているよ、マヤ。」
ありがとうといつものようにマヤの頭を軽くなでる。
「・・(コホン)・・社長・・・。」
「あ、ああ。ま、とにかくこの記事に関してはこちらでなんとかしておくから、
 以後気を付けるように。」
甘いムードになりかける所をかろうじて大原の存在で回避した真澄は、
名残惜しさをかみ殺しながらマヤを引き取らせた。

**
「気を付けたまえとは・・・俺が言えた言葉か。」
「真澄さま?どうされましたか。」
いつもの地下駐車場で、例のごとく極秘報告書を提出した聖は、
真澄の独り言に反応した。
「ふ。いや。マヤにとって俺は一体どんな存在なのかなと思っただけだ。」
相手が麗だったということはさておき、スクープされた写真に写る
マヤは本当に楽しそうに笑っていた。
外で堂々と、二人で歩きながら日常会話を楽しむ、
そんな日は一体いつになったら来るのだろう。
気をゆるめて過ごせるといえばせいぜい伊豆の別荘ぐらい、
あとは密室空間でしか二人きりの時間を楽しめない状態で、
マヤは本当に満足しているのだろうか。
「案外お強い方ですよ、マヤさまは。」
聖はそういって真澄をなぐさめた。
「真澄さまのお気持ちはとてもよく分かっていらっしゃると思います。
 むしろ自分の方こそ、演技の事で頭がいっぱいになると何もできなくて
 申し訳ないと思っているくらいですから。」
一体聖がいつそんな情報を手にしたのかが若干気になったが、
その言葉に少し安心した真澄は、
「まあ俺も、いつまでもこのような状況でいることを好ましいと思っている
 わけではないからな。」
と発した。
鷹宮家との縁談が解消されてから一年、
ようやくビジネス面での問題も落ち着いてきた。
あれほど壁になるかと思われた英介も、千草からの言葉がきいたのか
何も言ってこない。
そしてなにより、鷹宮紫織。
彼女も一時の心神喪失からはほぼ回復し、
以前のように庭で花を育てられるほどまでの穏やかさを見せているようだ。
「元来のお体の弱さがありますので、まだそれほど回数は多くないようですが、
 食事に出かけたり、美術館に行けるほどには体調も戻ってきているようです」
会わない方がいい、鷹宮ともそのように決着し、
最後の別れの日以来、真澄は紫織と顔を合わせていない。
定期的に聖が紫織の様子を報告してくる以外は、これまでほとんど
状況を推し量る材料はなかった。
「マヤさまとは、お会いになられたとか。」
「ああ。去年の紅天女公演を一度見に来たらしい。
 その時楽屋に挨拶に来たそうだ。」
紫織に対する責任は真澄にある。
しかし今の真澄に直接的に手助けをする術はない。
「マヤが・・・」
「なんでしょう?」
「いや、マヤが気にしているんだ。はっきりと口にするわけではないが、
 紫織さんが元気になっているかどうか、まるで自分の責任のように。」
恐らくマヤの心の中には、消せない紫織への贖罪の念がある。
自分の存在が紫織の心を乱し、自分が紫織から婚約者を奪ったと。
しかしそんな風に思う事で、今度は真澄を追い詰めるとでもいうかのように、
マヤは二人の時に一切そのようなことを会話にあげることはない。
かといって真澄からその話題に触れる事もためらわれた。
「大丈夫です。マヤさまは真澄さまの事を心配していらっしゃるのです。」
「ふ・・、そうだな。」
ふかしていたタバコを消すと、真澄はいつもの仕事の顔に戻った。
心身ともに安定した環境を得るためにも、
早くマヤを女優としてもう一回り大きく成長させなければ・・・
そして・・・
寒風の中、決意を新たにする真澄だった。

「聖、ひとつ頼まれてくれないか」

**
「勘弁してくれよ。よりによって初スキャンダルの相手がマヤだなんて・・・」
結局『深夜のラブラブ半同棲デート』記事は、
写真にかかっていたモザイクを外すことと、記事の最後に
相手が青木麗であるということを明記させることを条件に
そのまま雑誌掲載されることとなった。

雑誌が発売されるや、
麗のもとには次から次へと冷やかしのメールや電話がかかってきて、
その対応に追われる麗は悲鳴をあげた。
「急上昇ワードで"青木麗"があがってるわよ。」
この状況を楽しむかのように、劇団つきかげの仲間が声をかけてくる。
「冗談じゃないよ。いつまでここにいなけりゃならないんだ。」
劇団つきかげが稽古に利用している地下劇場には、取材と名乗る記者が
多数押しかけたため、一時的に麗はかつてアルバイトをしていた
喫茶店に避難しているのだ。
「一躍人気者ね、麗。」
「バカいえ。あいつら結局の所マヤのスクープ記事が取りたいだけなんだ。」
最初は馬鹿正直に対応していた麗だったが、
記者が根掘り葉掘りとマヤの恋人の有無を聞き出そうとしていることに
辟易し、身を隠すことにした。
「でも、むしろ麗の方が話題になっているみたい・・・・」
何気なく付けたテレビでは、マヤの女優としての人となりから、
麗自身の人物像まで、どこからひっぱりだしてきたのか過去の舞台写真などを
使って事細かに説明されていた。
「まいったな・・・」
長年麗の追っかけをしているファンがインタビューに答える姿まで
放送されている。
「でもま、まさにスキャンダルを逆手に取った売り込み戦略は当たりね。」
麗の横で涼しげにジュースを飲むさやかが言った。
「今回の記事で、マヤはなにも傷つかないわ。むしろ中学生の頃から
 ずっと一緒の女優仲間と休みの日も楽しく過ごしてるなんて
 好感度が上がるばかり。
 麗にしたって、今までずっと舞台に立ってきたけど、最近はモデル業も
 初めて、少しずつ顔が売れ出したところにこの話題性。
 さすが大都芸能の社長って感じ。」
そうなのだ。最初マヤのマネージャーから今回の記事のことで
連絡があった時は驚いた麗だったが、そのまま掲載されると聞いて
更に驚いた。
大都芸能の速水真澄なら、そんな記事の差し止めなどいくらでも可能だろうに、
なぜそうしない・・・・。
しかし結果としてさやかの指摘通り、マヤは取材に対しても明るく
麗との関係をアピールしているし、一般には無名の青木麗という存在も
にわかにクローズアップされていることは事実なのだ。
「わたしは大都の人間でもないのに・・・」
「狙ってるのかもよ、麗も!」
そういって意味ありげにウインクするさやか。
「まさか。」
さすがにそこまではないだろうとは分かっているが、それでもこれまでの
接点のなかで、速水という人物が先の事を考えずに物事を判断する
人物でないことはよく理解している。
「ほんと食えないヤツだ。」
悪態をつく言葉とはうらはらに、麗の中での速水真澄という人間の
イメージがまた塗り替えられていく気がした。


ep第26話←                  →ep第28話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
中長期的な話の流れがようやくできてきまして、
今はその踊り場的な時期なため、
なかなか話が進みませんが辛抱辛抱。

麗とかその他の劇団メンバーの活躍も
少しずつ書いていきたいです。
~~~~~~~~~~~~~~~~


ep第26話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-07-22 16:29:03 | ガラスの・・・Fiction
ep第25話←                  →ep第27話
********************
"来ないとは分かってはいたものの・・・・"
やっぱりさびしいな・・・
一人土手で見上げる夜空は、ちょうど去年の今日見た星と同じだった。

去年の今日、ここで告白されたんだ
あの日この地で、真澄はマヤを大きな腕とそして深い愛で包んでくれた
この輝く星に見守られ、私たちは真正面から己の魂の片割れと
向き合った
その優しさも厳しさも全部私の為に向けてくれた、速水さん
私のために、あえて困難な道を選んでくれた人
速水さん、あなたの32歳としての一年間はどうでしたか?
私は少しでも、あなたのために何かできましたか?
大人になると言ったのに、相変わらず子供っぽい私に
あきれてませんか?

初めてこの星を見た時は、自分の中の速水さんへの思いがまだ不安定で
どうしていいか分からなかった
そこへ唐突に現れたあなたに戸惑った
流れ星に込めた願いは、その次に見た星空に叶えてもらった
私に出来ること、それは演じること
それしか取柄がない、だけどだれよりもその取柄を喜んでくれる人、
速水さん、そして、紫のバラの人
あなたの為に大人になりたい、だけど本当は
あなたの為だけに演じたい気持ちも・・・・
プロ失格って、怒られそうだけど
そう思ったらふと、速水の冷徹な睨み顔が浮かんでひやりとした。
「分かってます!」
一人でいたって一人じゃないってこと、この一年でしっかり分かったから、
会えない時間の方が長いけど、だけどそんなこと気にならないくらい
自分のまわりには真澄の愛情であふれている
自分が相手の事を思うとき、相手も自分の事を思っている
その言葉が当たり前のように自分の心に浸透して、満たしてくれているから、
今年は一人でも大丈夫、だけど・・・

「ほんとにきれいな星だね。」

寝転ぶマヤの頭上からきこえてきた声に、マヤは思わず体を起こした。
「!?」
ふりむいたマヤの目が映した人物は・・・・しかし真澄ではなかった。
「・・・・桜小路君・・?」
正直にも落胆しそうになったマヤは気付かれないように強引に語尾を上げてごまかした。
"そうよ、くるわけないじゃない"
そもそも当初は真澄も出席する予定だったのだ。
それがどうしてものっぴきならない仕事が入ってしまい、断念せざるを得なくなってしまった。
「・・・こんなにたくさんの星見るの、僕初めてだよ。」
マヤの気持ちを知ってか知らずか、桜小路は空を見上げて話しかけてくる。
きっと一人で外に出たマヤを心配して追ってきてくれたのだろう。
その優しさが十分に理解できるだけに、マヤは一瞬でも
真澄と間違えて浮かれ、勝手に落胆したことを申し訳なく思う。
「・・・・マヤちゃん・・・」
座るマヤのそばに桜小路が近づいてきたとき、マヤは思わずとっさに
立ちあがってしまった。
「か、帰ろっか?」
まるで言い訳のように風邪ひいちゃいそうと言いながらマヤは土手を後に、
山寺へと帰途についた。
"ごめんね桜小路君。あの場所は、あの席だけは私たちだけの特等席なの・・・・"
言えない思いを心の中に秘めながら。

なんとなく桜小路に申し訳ないような、そんな思いを引きずりながら
戻ってきたマヤだったが、
寺の前に停まる車を見つけた瞬間、駆け出していた。
「速水さん!!」
来るはずないと思っていた人が目の前にいる不思議
しかし間違いなく速水真澄、その人だ。
「どうして?欠席って聞いて・・・ましたけど。」
ギリギリの所で背後にいる桜小路の存在を思い出したマヤは
かろうじて真澄に飛びつく事をこらえていた。
「1件アポイントがキャンセルになってな。急きょ来ることができた。」
そう言ってにっこり笑う真澄の向こう側に、
"なったんじゃなくて、したんでしょ!"
と呆れる水城の顔が浮かんだ気がして、マヤはプっとふきだした。

「ちょっと寄っただけなんだ。理事長たちと同じ所に宿もとってある。」
一目でいいから会いたかった、という気持ちを、視線だけでマヤに伝える真澄。
「ですけどっ、せっかくだからお茶だけでも!!」
そういって真澄の腕をとるマヤの目は少しうるんでいる。
ここには今マヤと桜小路、そして黒沼しかいない。
黒沼はともかく、桜小路が自分とマヤとの関係を知っているのかどうかは
定かではないが、いずれにしてもマヤがこうして外で露骨に
自分に感情を見せる事はめずらしい、というよりほぼない。
"何かあったのか?”
そんなマヤに引きずられるように真澄は山寺の中に入って行った。
部屋の中で、既に出来上がっている黒沼、そして桜小路と共に
マヤのいれたお茶を飲む。
先ほどのマヤの表情は既に消え、いつもの落ち着いた北島マヤが
にこやかに笑う姿を見て、真澄は少し安心した気持ちで足をくずした。
その時視界の端に、何ごとか口に出そうかどうか迷っている様子の
桜小路の姿が入る。
しかしその声が外に出る寸前、黒沼が桜小路を連れ立って席を離れていった。
"やはり黒沼さん、酔っ払っているようで全部お見通しだな"

「さっきね、星を見てきたの」
二人きりになった安心感からか、マヤがいつもの二人だけの時に
見せる雰囲気を身にまとう。
「さっき?ああ、桜小路と一緒に戻ってきた時か」
真澄に特に他意はなかったが、マヤはその言葉を別の意味に
とらえたようで、
「ちがうよっ!一人で見てたの!そしたら桜小路君が、
 多分心配して探しに来てくれたみたいで・・・」
顔を真っ赤にしながらかけられてもいない嫌疑を必死に釈明しようとする
マヤがとても愛おしくて、真澄は少しいじわるが言いたくなった。
「・・・・座らせてないだろうな」
俺達の特等席・・・・そうマヤの耳元でささやかれたマヤは
「もちろんです!!!」
となぜか得意げに胸を張って答えた。
「ハハハハハハハハ!そうか」
ポンポンとマヤの頭をたたきながら、その手をマヤの髪におろしていく。
「ていうか、とっさにダメって思って帰ってきたんです。
 でも、なんだか関係ないのに桜小路君に悪いことしたようで・・・」
真澄が思っている以上に、マヤがあの星空の思い出を大切にしてくれている
気持ちが痛いほど伝わり、思わず抱きしめたくなる。
しかし、いつ桜小路が帰ってくるか分からない。
衝動を抑えるため、真澄は話題を変えた。
「・・・・ここで君は紅天女の稽古を積んでいたんだよな」
どんな稽古をしたんだ?と問う真澄。
部下から随時報告を受けてはいたが、結局紅天女の一節を
演じる最終エチュード以外、真澄は直接目にすることはなかった。
「風火水土、それぞれの演技を・・・・」
風では演技をしろと言われていたのに風になりきってしまって先生に
指導されたことや、水の演技の亜弓の美しさについてなどを話しながら、
マヤは当時を思い出していた。
真澄の事を思いながら過ごした日々。
演技に集中しようとしても、浮かんでくるのは速水の事ばかり。
そんな中、今となってはではあるが真澄の義父、英介に
教えてもらった千草の火のエチュード・・・・
マヤはその当時の精一杯で燃える恋心を演じた。

「・・・見てくれますか?私の演技。」
いいえ、見てほしいです、速水さん
「見て下さい、私の"火"・・・」

**
しんと静まり返った本堂
数本のローソクの明かりだけが暗い室内にゆらめいている。
広々とした本堂にひとり座る真澄はどこか緊張していた。
その時、おもむろに扉の開く音がする。
"マヤ、いったい君はどんな演技をしようというのだ
一体何を俺に見せようというのだ・・・・"

ささやかな衣擦れの音をさせながらふらふらと
入ってきたマヤは
どこか宙をさまよう視線のまま
明日の祈祷で使用する、紅天女の打掛を
乱雑に身にまとうと、ゆったりと帯を締めた。
そしてーーー

"火つけは死罪・・・・もしみつかれば殺される・・・・"
"火にあぶられて 殺される・・・・"
"ああ・・江戸の町が燃えている"
"赤いよ 吉三さん 江戸の空が赤いよ・・・" 
"吉三さん 会いたい おまえに会いたい"
"この鐘が鳴ればまたおまえの寺へゆける!"
"火事をのがれてまたお前の寺へ・・・"
"以前のようにあの寺でおまえとすごせる"
"吉三さんおまえと・・・"
"たとえ火つけの罪で死罪になろうとも・・・"
"燃える・・・江戸の町が燃える・・・"
"吉さん もうすぐだよ おまえと会えるのももうすぐ・・・"
"ほれ・・あんなに火が・・・"
"ああ・・・熱い、熱いよ吉さん"
"燃える・・・なにもかも燃えていくよ"
"おまえとわたしのなにもかも・・・"


恋しい人に会いたいために江戸市中に火を放った八百屋お七
その狂おしいまでの恋の炎、身を焦がすほどの火の熱が
しんと静まり返った冷たい空気の中に確かに存在し、
真澄の視線は1ミリもマヤから外せない。
"マヤ、いつの間にこんな演技が・・・・こんな狂おしいまでの恋の表情が・・・"
マヤの瞳の中には確かに愛の炎が燃えていて、
止められない思いが狂気の沙汰へと導いていくように
マヤの体を破滅の火の中へ引きずり込む。
そして吉三への恋心と共に業火にまかれたマヤのお七は
床に突っ伏したまま最後のくすぶりを残し終わった


「マヤ、大丈夫か!」
気付けば真澄はその体をきつく抱きしめていた。
冷え切ったはずの室内で、真澄は全身に汗をかいている事に気付く。
意識は少しずつ、現実世界へを戻っていく。

「・・・・言われたんです、先生に・・・」
真澄に体を預けていたマヤが少しけだるげに体を起こしながら、
語り始めた。お七の余韻を残したまま・・・
「私の演技、”恋する女の狂気が感じられない"って」
私が本気で恋をした時、もう一度私の演技が見てみたいって
「速水さん、どうでした?私は恋をしてましたか?
 私の火は、本物の恋を表現できていましたか」
そういうマヤの瞳は、今もしっかりと炎のように揺れていた。
そしてその視線はしっかりと真澄を捕らえ離さない。
真澄は再度優しくしかししっかりとマヤを胸に抱く。
「君に、このような思いはさせない。恋の狂気なんて知らなくていいから」
この手の中にある小さな存在が見せた危ういまでの恋の炎
それはまさに本物の恋を経験した演技だった。

俺はいつでも君の側にいる。もう君を手放さない。
君が燃えつくされる時は、俺も一緒だ。
「君は一体、どんな思いでこんな演技を・・・・2年前にしていたんだ」
「全部速水さんが教えてくれました。」
真澄の胸に顔を預けたまま、マヤがゆっくりと言葉を紡ぐ。
私の心に燃える思いも、戸惑いも、嫉妬も、そして
会いたくてたまらなくなる、切なさも
「全部速水さんです。私は全部、速水さんです。」
たとえ演技だとはいえ、マヤの心の中にこのようなつらい思いを
させたくない。
「すまないマヤ・・・っ。
 これまで君にどれほど辛い思いをさせてきたか・・・」
しばらく無言で抱き合っていた二人には、互いの鼓動だけが
共鳴し響いていた。

「・・・・あんなに大きなこといったのに・・・・」
それほど経っていないはずなのに、久々にマヤの声を聞く気がする
「女優の私も、普段の私も、どっちも愛してほしいなんて・・・・」
随分と自信満々な事をいいまして・・・・と恐縮する姿は
いつものチビちゃんの姿に戻っていた。
「私の存在は、普段の速水さんも大都芸能の速水さんも
 どっちの速水さんにとっても・・・その・・・・」
支えになってますか?と濡れた目を真澄に向けた。
「32歳の速水さんに、私はなにかできましたか?」
その言葉を聞いて真澄は、明日が自身の33回目の誕生日であることに
気付いた。
「君がいてくれるだけで、
 君にこうして言葉でこの気持ちを伝えられるだけで、
 俺がどれほど救われているか、君は分かるか?」
しばらく真澄を見ていたマヤはゆっくりとそのやわらかな唇を
真澄のものと重ねあわせた。
「・・・・最初から最後まで、私です。」
速水さんの32歳のはじまりと、32歳のおわりはどっちも私がもらいました。
「それならば・・・・」
おれの33歳の始まりまでもう少し、このままで・・・・・

重なり合う二人の影は、薄明りの中で静かに熱く燃え上がっていた。


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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
マヤの隣の特等席は渡しません!!(笑)
桜小路君、本当に不憫なヤツ・・・

本堂のシーン、途中から桜小路君覗き見してます
いったいどこからどこまでを見ていたのでしょう・・・

交際一周年を無事に迎えたマヤと真澄ですが、
次の一年は一体どんな年になるのでしょうか。
もう少しのんびりとお話を進めてから、
マヤには華やかなザ・女優人生を歩むべく
ステップアップして頂きましょうか。
それともこのまま舞台を降りれば普通の子の
スタンスで行ったほうがいいのか・・・

まだ焦点定まりません。
~~~~~~~~~~~~~~~~


ep第25話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-07-14 10:29:26 | ガラスの・・・Fiction
ep第24話←                  →ep第26話
********************
10月中旬、都内ホテルで、新生『紅天女』第2回公演の
舞台発表が行われた。
一部のキャストを除いて主要キャスト及び演出は
初回と同じメンバー、
劇場も新年1月2日から大都劇場で公演されることが
発表された。
さらに今回は地方3都市での公演も決定し、
ますますグレードアップする紅天女を強くアピールする。
「久しぶりだね、マヤちゃん」
活躍は耳にしているよ、と笑うのは今回も一真役で
共演する桜小路優、去年の舞台以来久々の再会である。
「桜小路くんも、舞台中心に活躍して、あ、この前は
 せっかく舞台に招待してくれたのに、仕事で行けなくてごめんなさい。」
 桜小路が出演していた舞台に、マヤは招待されていたのだが
 映画の撮影と重なり観に行くことがかなわなかった。
「ううん、気にしないで。仕事忙しそうだけど、
 体壊したりしてない?ごはんちゃんと食べてる?」
久しぶりに会う桜小路は、以前と変わらぬ言葉で
マヤを励ましてくれる。
"やっぱり桜小路君は、優しいな"
マヤは久しぶりに実家に戻ってきたかのような安心感を
感じていた。

「この後の予定は?」
記者発表が終わり、関係者によるミーティングが開催された後、
桜小路はマヤをお茶に誘った。
「今日はこれで終わりだったと思う。ちょっと大原さんに聞いてくるね。」
マヤはマネージャーのもとに駆け寄り確認を取った後、
桜小路の所に戻ってきた。

「久しぶりの梅の谷になるね。」
記者発表のあったホテルの喫茶ルームで、
ひとしきり近況を話した後、桜小路の話題は
来月頭に予定されている、梅の里での『紅天女』成功祈願祭のことに移った。
「吊り橋なくなっちゃったから、谷の方へはいけないみたいだけど。」
かつて梅の谷でみた月影千草最後の紅天女・・・・
目を閉じれば今も、脳裏に焼き付いた鮮烈な舞が蘇る。
「もう誰も踏み入れることのできない永遠の禁足地・・・
 私達の舞台で再現しないとね。」
ここ一年でマヤが随分と女優として成長したことを、
桜小路は感じずにはいられなかった。
「今年頭の紅天女以来、マヤちゃん舞台には立ってないの?」
久しぶりでどう?という桜小路の問いかけに、
「うん。だからすごく楽しみ!また黒沼先生に怒られるのかな~」
言葉とはうらはらにマヤの言葉は余裕すら感じさせる。
桜小路の目に映るマヤがまぶしい。
「ずいぶんと・・・・・大人になったんだね、マヤちゃん。」
「とんでもない!相変わらず演技の事に集中しすぎていろいろ
 失敗ばっかり・・・。大原さん・・、あのマネージャーさんが
 いなかったらどうなってたか。」
そういうマヤの視線の先には、二人から少し離れた席に座っている
大原の姿があった。
二人きりにして、万が一にでも記者に撮られてはかなわない。
大原の絶妙な位置取りは、あくまで二人は次の仕事での
共演者同士であることをさりげなく外野に示していた。
「一人暮らしには慣れた?」
「うん。でも結局撮影とかで空けることが多くて、
 あんまり家にはいないかも。」
桜小路君も一人暮らししてるんだよね、としばらく
一人暮らしにまつわる他愛もない話で盛り上がった。
「でもまたこうやって、紅天女に戻ってこれてよかった・・・」
しみじみとした口調でマヤが話し出す。
「初演は本当に何もかもが初めての事だったし、
 昔の、月影先生が演じられた舞台の名をけがしちゃいけないっていう
 気持ちも大きかったから、本当に夢中で演じてた。
 3ヶ月があっという間の出来事だった。
 でも来年は2回目、去年来て下さった方がまた観て、満足してもらえるような
 そんな舞台にしたいし、まだ観てない人にもたくさんきてもらいたい。」
この一年間の女優としての活動が、すべて紅天女にかえってくる・・・
その信念が、マヤに責任感という名の自我を芽生えさせている事に
桜小路は自分がまた置いていかれたようなどこか物寂しい気持ちを感じた。
「どんどん先をいくんだね、マヤちゃんは。」
「え?」
桜小路の言葉の意味を理解できないマヤが訊き返すが、
あいまいに笑ってその場を取り繕ったあと、
「今も応援してくれているの?紫のバラの人は」
とたずねてきた。
「・・・・え?」
そういえば桜小路君は、知らないんだった。
「紅天女以外はTVドラマとか、CMとかばかりだから、
 楽しみにしているんじゃない?マヤちゃんのファン!」
桜小路の言葉の裏に、なにか勘ぐる様子は微塵も感じられない。
「会ったりしないの?去年1度会ったきり?」
たまに自分のマンションで会っていますとは
口が裂けても言えない・・・・
「ままままま、まあね・・・。」
「そうだ、CMといえば見たよ、マヤちゃんのシャンプーのCM」
すごくよかったと、にっこり笑う桜小路。
「マヤちゃんの大人の部分と子どもの部分が両方見れるっていうか、
 すごくきれいだった。」
そう言ってすこし頬を赤らめる。
「ありがとう桜小路君!あの撮影結構大変だったから
 そう言ってもらえるとうれしい。」
でもまさかあんなに大きなポスターが街中に貼られるなんて・・・・と
マヤはぶつぶついいながら手にしたカップに口をつける。
「・・・・あのさ、マヤちゃん。」
意を決した桜小路が、おもむろに口を開いた。
「ん?」
マヤに聞きたかったのは、真澄とのその後。
令嬢との婚約を解消した真澄が、マヤと交際をしているだろうことは
容易に想像ができる。
しかしそのことをこれまで直接確かめたことはなかった。
「・・・・いや。なんでもない。いい舞台にしようね、マヤちゃん。」
聞いてどうする、自分は既にマヤに振られた身、
マヤの顔を見ればわかる、彼女が今どれだけ充実した日々を送っているか、
そして間違いなくその陰には大都芸能を率いる、速水真澄が存在する。
「大都に入ってよかった?」
そう聞かれたマヤはためらうことなく
「うん!」
と今日一番のはじける笑顔を見せた。
その表情が、声にならなかった桜小路の質問への明確な回答のようで。

**
"意外だな、絶対に来ると思っていたのに"
明日、ここ奈良の梅の里で催される舞台『紅天女』興行成功祈願祭には
主演のマヤ、相手役の一真そして演出の黒沼と
全日本演劇協会理事長を筆頭に理事数名とが立ち会う予定だ。
当然興行主として大都芸能の速水真澄も同席すると思っていた
桜小路は、彼が欠席と聞いていささか驚いた。
"去年の今頃、マヤちゃんと二人で来たって聞いたから、
てっきり今年も一緒に来ると思っていた"
桜小路の脳裏には、今朝方黒沼から聞いた話がよみがえっていた。
なんでも昨年のちょうど今、マヤは速水と一緒にここ、
梅の里で静養する月影千草の元を訪れ正式に紅天女の後継者として
契約を取り交わしたのだという。
正確な日時は分からないが、ちょうどそのころ速水は例の
婚約を正式に解消しているらしい。
それらを考えれば、去年の今頃二人の間にどんなことがあったのか
想像に難くない。
しかし隣にいるマヤに、速水がいなくてさびしいといった雰囲気は
特に感じなかった。
"これは余裕なのか・・・それとももしかして・・・"
可能性などほとんどないということは分かっていても、
ついいいように考えてしまう自分が憎らしい。
ふーーっとため息をつく桜小路に、
「どうした一真?お疲れのようじゃないか。」
と黒沼が声をかけた。
「いえ別に・・・。やっぱり夜が近づくと寒くなってきたなと思って。」
「そりゃそうだろ。もう11月だ。こんな山奥誰が好きこのんで・・・」
お前のせいだからな、と黒沼は小さくぼやいた。
明日の朝行われる祈祷に備え、出席者は前日入りしている。
当初は町に近い宿に全員宿泊することになっていたのだが、
マヤがせっかくだから以前稽古を積んだ寺に泊まりたいと
いいだした。
以前住んでいた月影千草は、現在主な時間を別の療養所で過ごしているという。
やはりこれからどんどん寒さが厳しくなる季節に、山奥にある
吹きさらしの建物での生活は体に厳しい。
マヤ一人では危ないと、桜小路が用心棒役を買ってでると、
マヤと桜小路の二人きりはさすがにまずいだろうと
結局黒沼も一緒に今晩は山寺に宿泊することになった。
今日も、そして明日の祈願祭も月影千草は立ち会わない。
しかし千草の付き人源造が、ある程度準備を整えてくれていて、
山寺は最低限ながら一晩を過ごすには十分なしつらえとなっていた。

「なんだかワガママにつきあわせちゃって・・・ごめんね。」
食事の手伝いに来てくれた源造が千草の元に帰っていった後、
後片付けをしながらマヤが桜小路に謝った。
「とんでもない。仏師一真としてはとても参考になるよ。」
ただでさえ人里離れたこの寺は、陽が沈むと更に静けさが深まる。
俺はもう少し酒を飲むという黒沼を残し風呂に入った桜小路は、
戻ってくるとマヤの姿がない事に気付いた。
「ん?あいつならちょっと出てくるって外に出たぞ。」
「え?夜にマヤちゃん一人で外にだしたんですか?」
つい非難めいた口調になった桜小路に言い訳するように、
「そんなこといったって、まだそんな遅くないし、あいつだってもう
 20歳超えてるんだぞ。そんな無茶はしないよ。」
マヤが無茶する人間だということは、誰よりも分かっているでしょ、黒沼さん・・
ついなじりたくなる気持ちをこらえ、比較的冷静を装って、
「そうですね。でも風邪でもひくと大変だし、
 ちょっと迎えにいってきますよ。」
とジャケットを片手に外に出た。

”どこにいったんだろう。マヤちゃんは”
マヤを探すと出たものの、あてがあるわけでもない桜小路は
なんとなく耳を澄ませながら、マヤが立ち寄りそうな所を探しながら、
以前もこうやってマヤを迎えにいったことを思い出す。
"あれからもう一年以上経つのか・・・"
桜小路の苦い記憶がよみがえる。
あの日、速水の元婚約者鷹宮紫織に会いに行くため豪華客船に
乗り込んだマヤを迎えにバイクにまたがったあの朝。
船から降りるマヤが自分を見つけたらいったいどんな顔をするだろうと
のんきに想像していた。
しかしそこで見た現実は、熱い抱擁を交わすマヤと速水。
その時に受けた心の傷が、交通事故で全身に受けた痛みと共に
よみがえる気がする。
「この手で僕が支えてあげられれば・・・どんなによかったか。」
マヤの事はもう吹っ切れたと思っていた。
しかしこんなキンと澄み切った夜の空気に触れていると、
自然と昔の感情がよみがえってくるのかもしれない。
"いけないいけない。僕は舞台の上での相手役"
乱れた心を冷やそうと、頭を振って何気なく上空を見上げた桜小路は、
いつの間にか広がる素晴らしい夜の星空にくぎづけになった。
「わぁ・・・・すごい星だ。」
こんな星空見たことがない。
ただただ広がる光の粒が、自分の体を突き抜けていく。
それはまさに、宇宙に浮かんでいるような光景だった。
「あ・・・・」
もっともっとと歩いていた桜小路は、土手に寝転ぶマヤの姿を発見した。
マヤもここで星を鑑賞していたようだ。
「・・・・ほんとにきれいな星だね。」
桜小路のかけた声にびくんっと体を起こしてマヤがふりむいた。
「・・・!?・・・・・さ、桜小路君?」
「マヤちゃん星を見に来ていたんだね。」
うん・・とうなずくマヤの顔は暗くてよく見えない。
「こんなにたくさんの星見るの、僕初めてだよ。」
「そう。本当にここで見る星はきれい・・・!」
うっとりと空を見上げるマヤの声はいつもよりずっと艶めかしくて
桜小路はどきりとした。
「・・・・・マヤちゃん・・・・」
座っていたマヤの元に近づこうとしたとき、マヤが
「・・・か、帰ろっか」
と立ちあがった。
「これ以上外にいると・・・、風邪ひいちゃいそうだしね。」
そういいながら体についた草を払い落とすマヤは
なんだか少し寂しげだった。

「寒くない?マヤちゃん」
寺へと戻る道すがら、持ってきたジャケットをマヤに渡す桜小路だったが、
「ううん。桜小路君の方こそ、湯冷めしちゃうよ!」
私は戻ったらお風呂に入るから大丈夫、と笑って答えた。
"さっきみせた、さびしそうな顔はなんだったんだろう・・・・"
マヤの様子が気になるものの、すでにいつもと変わらぬ様子で
マヤは明日の祈願祭についてあれやこれやと話していた。
「黒沼先生、お酒飲んで寝ちゃってるかな・・・風邪ひかないといいけど。」
といいながら戻った山寺の前に、不釣り合いな車が止まっているのに
気づいたのは、二人ほぼ同時だった。
「!?」
「!?」
気づくとマヤは駆けだしている。
その後ろ姿を追うように山寺の門をくぐった桜小路は、
果たして目の前に立つ、スーツ姿の速水の姿をとらえるのだった。
「速水さん!!」
そういって駆け寄るマヤ、
その様子はいやでもあの日のあの光景を呼び起こす。
"マヤちゃん・・・!"
「1件アポイントがキャンセルになってな。急きょ来ることができた。」
しかし今日の二人は、あの日のような熱い抱擁を見せることはなかった。
その代り、当たり前のように視線を交わす二人の雰囲気は、
とても桜小路が入り込める隙間があるものではなかった。
"もしかしたらあの日より・・・・つらいかもしれない"

**
ちょっと寄っただけだから、とすぐに町の宿泊施設に戻ろうとする
速水を無理やり中に引き込み、
うたたねをしていた黒沼を起こした。
「あれ、若旦那、お前さん結局来ちまったのかい?」
やるね~と言いながらすでに出来上がっている黒沼は無理やり速水に
酒を勧める。
「今日は遠慮しておきますよ。」
柔らかな口調と笑顔で断りを入れる速水に、しょうがないな~と
むしろ嬉しそうにその酒を飲む黒沼。
そこへ、温かいお茶を入れたマヤが入ってきた。
「はい、速水さん。」
桜小路君も、冷えたでしょ?といってお茶を渡してくれた。
「ありがとうマヤちゃん。」
「でもほんとにびっくり。まさかこんな時間に速水さんが
 来るなんて。」
「俺もびっくりしたよ。ようやく着いてみれば
 山寺に黒沼さんのいびきだけが響き渡ってたんだからな。」
片膝を立てて笑いながらお茶をすする速水の姿は、
いつもの完成された実業家のイメージとは全く違う。
そんな速水に慣れない桜小路とは裏腹に、マヤは
さも当たり前のように話している。
こうなったら・・・いっそ今・・・
「あ、あの・・・・」
膝に置いた拳を握りしめ、二人の関係を問いただそうと
意気込んだ桜小路に
「う~~~~~~ん、なんだかちょっと飲みすぎたな。
 おい、桜小路。俺を風呂場まで連れてけ。」
と黒沼が声をかけてきた。
「え?」
「いいから早く。じゃ若旦那、
 俺風呂入ってくるから、適当に切り上げて宿屋に戻って
 構わないぞ。挨拶なんていらんからな。」
じゃあなと、片手をあげると、無理やり桜小路の肩に
もたれながら、風呂場に向かっていった。
「・・・と、とりあえず黒沼先生連れて行ってくるから。」
体にかかる黒沼の重さに耐えながら、
桜小路はその場を後にした。

"絶対わざとだよな・・・・黒沼先生・・"
風呂場についた桜小路は、足元のおぼつかない黒沼の
着替えを手伝い、何とか風呂につからせた。
”酔っぱらいだからな・・・万一風呂で溺れたりしたら・・・"
心配でしばらくの間脱衣場に立っていた桜小路に
「ふ~~~、少し酒が抜けてきたからもう大丈夫だぞ、桜小路」
あとは自分でできると声をかけられ、ようやく桜小路は
黒沼から解放された。

"速水さんもう帰ったかな・・・"
万が一にももし、あの日以上の光景を目の当たりしたらどうしよう
という得も言われぬ不安を感じながら部屋に戻った桜小路だったが、
そこには速水も、そしてマヤの姿もなかった。
"どこいったんだろう・・・二人は"
そう思いつつも、自分が探す必要は果たしてあるのか、
今更ながら疑問に思う桜小路は、
しかしふと見た本堂の方から、うっすら光が漏れているのに気づく。
”光・・・あそこにいるのかな・・・"
見ていいものか一瞬ためらったが、
気づくと桜小路の足はそちらに向かい、
ゆっくりと手が、その扉を開いていった。
そこで桜小路が見た光景は・・・。

ep第24話←                  →ep第26話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
なにげに初のまたぎ煽りな終わり方!?
ひっぱるほどのことはございません。
桜小路君のその後に、皆様興味ありますか?(笑)
私は特にありません、が、一応オリジナル主要キャラの
一人という事に敬意を表して、触れました。
そしたらびっくり、そうだった、桜小路君に
紫のバラの人=真澄 という重大な事実を
お伝えしておりませんでした!!
桜小路君が今でもマヤの事を好きかどうかは微妙なんですが、
人間だれしも、昔好きだった人の事は
いつまでも気になるものではないでしょうか。
なんとなくセンチな気分に浸った時は、
そんな昔の気持ちを思い出す・・・
そんなロマンチスト優なのです(笑)

桜小路君に関しては、舞ちゃん問題をどうするか
悩みますね。
一応マヤに絞った時に舞ちゃんはフっているので、
もういいかなという気持ちもありつ、
でも舞ちゃんはぜったい諦めてないだろうなという
確信もありつ。
舞ちゃんどう考えても役者に向いてないので(勝手な意見)
既に劇団は辞めて花嫁修業していると思ってます。
職業:家事手伝いってやつ?
舞ちゃんを追いかけるとギャグになりそうなので
それはやめよう・・・。

もうひとつの、亜弓×ハミルを追求すべきか問題、
こちらはもっとちゃんと真剣に考えないと
いけないですね。
~~~~~~~~~~~~~~~~

ep第24話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-07-09 14:59:22 | ガラスの・・・Fiction
ep第23話←                  →ep第25話
********************
「明日は映画の撮影お休み。今晩一旦東京に戻って、明日はCMの撮影よ。」
山小屋のロケ地に現れたチーフマネージャー大原の言葉に、マヤは
しばらく会っていない真澄の事を思った。
「CMって、この前言っていたシャンプーのですか?」
「そう。しばらくすっぴんメイクで泥だらけだったけど、
 明日は久々にきれいな恰好ができるわよ。」
そう言ってにっこりと笑った大原に、照れ笑いで答える。
「ちゃんとできるかな~、ていうか私なんかで大丈夫ですかね。」
相変わらず自分に自信が持てないマヤに、
明日一日のスケジュールの流れをざっくりと説明すると、
「今日東京に戻れるのは恐らく深夜になってしまうと思うから、
 撮影に備えて車の中でも仮眠をとってね。」
お肌ピチピチで臨まないとね!とマヤのほっぺたを両手で柔らかくつぶして笑った。
「あ、あの大原さん・・・あの・・・・」
「え?ああ・・・大丈夫!社長がこの機会を逃すはずがないわよ。」
マヤの気になる事はお見通しとばかりに大原が軽口を飛ばす。
「随分と久しぶりなんじゃない?社長と会うの。」
最後に会ったのは、二人で伊豆の別荘に行った8月末。
もうかれこれ半月ほど会っていない。
「久しぶりに会ったら社長、びっくりするかもね。」
「え、何でですか?」
マヤちゃんがワイルドになってて・・・という冗談にぷくーっとほほを膨らませるマヤ。
「ごめんごめん、うそうそ。・・・・そうね、せっかく久しぶりに会うんだし、
 ちょっとぐらいビックリさせたいわよね。」
そう言っていたずらっ子のように大原が笑った。
「社長は多分、直接撮影スタジオにいらっしゃると思うから、
 すっごく大人っぽくきれいになって社長を迎えてあげましょう!
 きっとびっくりして挙動不審になるわよ。」
見たい、見たすぎる・・・むしろ大原の方の熱意が強かったが、
マヤは自分がそんなにガラッと変身できるとは疑問だった。

"速水さんに会える、速水さんに会える"
大原の言葉はさておき、マヤは久しぶりに会えるかもしれない
真澄のことを考えて物思いにふけっていた。
現在ロケ場所は山奥のため携帯電話の電波が届きにくく、
電話で話すこともままならない日々だった。
メール一つ送るにも、電波を探して移動する必要があるため、
必然的に回数も少なくなる。
"大人っぽくてびっくり、とはいかないだろうけど、
やっぱり久しぶりだから、なんか緊張するな・・・”
百面相のようにくるくる表情が赤くなったり青くなったりしている
マヤに、是永監督が声をかける。
「マヤちゃん、なにかいいことあったの?」
「え?い、いえ別に・・・」
「今日夜東京に戻るんだったよね、あ~もしかして彼氏とデートとか?」
「ちちちち違います!!仕事です!」
顔を真っ赤に否定するマヤを見て笑いながら、是永はごめんごめんと
マヤの肩をポンポンと叩く。
「監督~、マヤちゃんいじめちゃだめでしょう~!」
そこへ境もやってきた。
「いじめてないよ~。マヤちゃんが、明日は彼氏と会うっていうから・・・・・」
「だだだから、違いますって!!」
「そっか、それでマヤちゃん今日はいつもと違ったんだ。」
ひょうひょうと境が言った言葉に、マヤは質問をする。
「え?私何か違いました?」
「う~ん、なんていうのかな、今日の演技はいつもより感情が出てたっていうか、
 ま、あかね役はほとんどセリフがないからそんな違いは分からないんだけど、
 何を考えているのか分からない少女の、中が少し見え隠れしたというか・・・。」
そんな境の言葉にマヤはどきりとした。
確かに今日は朝から明日の事を考えて浮かれていたように思う。
もちろん撮影の時は役に集中してあかねになりきって演じていたが、
心のどこかで素の北島マヤが出てしまっていたのではないか、
それを境は見抜いていたのではないか・・・。
「か、監督は?監督もそう思われましたか?」
「うん?そうだな・・・、今日撮ったシーンは雄哉メインの所ばかりだったから、
 僕はそんなに気にならなかったけど。」
「そう・・・ですか・・・。」
どちらかというと役者に合わせた撮影をしてくれる是永は、決して否定的なことは
言わない。
しかしマヤには、是永も境と同様の印象を受けていたことが伝わった。
「・・・・すみません。私情を挟んで演技に集中していなくて・・・。
 午後からの撮影は、気持ちを切り替えて臨みます。」
深々と頭を下げると、ぽかんとした二人を後に、マヤは山の方へと駆け出して行った。
「もしかして、ほんとに彼氏と会う予定だったりして・・・・」
残された男二人は目を見合わせた。

**
「・・・・で、この惨状というわけか。」

翌朝AM8:00
マヤの東京の自宅マンションには、困り果てた様子のマネージャー大原と
あきれた様子の真澄、そしてブランケットにくるまって落ち込むマヤの姿があった。
「ごめんなさい・・・・・」
所在なさげに謝るマヤの目は赤く、クマまで出来ている。

「確か俺の所に来ていたスケジュールでは、今日は午前中エステで全身を整えた後、
昼に衣裳合わせ、午後からスタジオで撮影だと聞いていたが・・・」
「はい。それで今朝マヤちゃんを迎えに来ましたらこのような有様で・・・・
 なんでも昨晩ほとんど眠れなかったみたいなんです。」
昨日の映画撮影でうまく役に集中できず迷惑をかけたことを気に病んだマヤは、
東京に戻ってきた後もずっとそのことが気になって眠れず、
久々の自宅でもどんどん目が冴えてしまい、結局明け方近くまで
あかねの表情の演技をやってしまっていたのだ。
「とりあえず連れて行こうかとも思ったのですが、あまりにも顔が
 ・・・その・・・・ひどいので・・
 まずは社長にご連絡をと思いまして。お忙しいさなか本当に申し訳ございません。」
謝る大原に、
「いや、むしろ速やかに連絡をしてくれて助かったよ。」
とお礼を言う真澄。
当初の予定では真澄は午後からのスタジオ撮影に立ち会うつもりで、
今日はいつもより早めの出社準備を整えていた所に、
大原からの連絡で慌ててここへとかけつけていた。
「それにしてもなんだって演技に集中できなかったんだ?」
「それは・・・・・ええと。。。。」
久しぶりに速水さんに会えると思うと嬉しくてつい、感情が出すぎてしまい、
それを共演者に指摘されたのだと、か細い声でマヤが答えた。
「・・・・」
「・・・・ごめんなさい。女優失格な事を。」
真澄はいつもの仕事向きの顔を崩すことなく、
大原にそのことについて改めて聞いたが、
大原もマヤが気に病むほどの大きな失敗ではなかったはずだとフォローする。
「・・・・しかし自分で自分が許せないと。そういう訳だな、マヤ。」
コクリとうなずくマヤの目からは今にも涙がこぼれそうだ。
「おまけに失敗を引きずって今日のCM撮影にまで影響が出ちゃうなんて・・・
 ・・・ほんとにごめんなさい」
何度言ったか分からない謝罪の言葉が続く。
これで大泣きもされたら本当にたまらないな・・・
真澄はフッと肩の力を抜くと、
「大原くん、今日のエステのスケジュールを3時間ほど遅らせてくれ。
 どれぐらい回復するか分からないが、とりあえず今からマヤに仮眠を取らせる。
 撮影のスケジュールはあまりずらせないだろうが何とか調整を頼む。
 エステはフェイシャルを中心に切り替えて、デコルテぐらいまでできれば
 なんとかなるだろう。」
エステルームには俺が連れて行くから、という真澄の言葉に
分かりましたとうなずき荷物を抱えた大原は携帯片手に
「じゃ、マヤちゃんは社長にお任せしますっ!」と部屋を後にした。

部屋にはマヤと真澄、そして気まずい沈黙が残る。
「・・・・・」
「・・・・・マヤ・・・」
ビクっと肩を震わせマヤが真澄の顔に視線をよこす。
その姿に、いろいろ言いたい事はあったが、とりあえず、
「まずはベッドに移動だ。」
とブランケットにくるまったままのマヤを抱え上げると、ベッドルームへ運んだ。

「うぁっ!!」
ベッドに運ばれたあとしばらくして、マヤの視界はふいに遮られ
まぶたにじんわりと温かい感触がかかる。
それが蒸しタオルだと気づいた時、マヤの頭を優しくなでる気配がした。
「時間が来たら起こしてあげるから、少し休みなさい。」
カーテンも閉じられ、暗くなった寝室、
目の上のほわっとした温かさが、枯渇したマヤの体にじんわり熱をおくる。
「・・・ごめんなさい。また迷惑かけて」
「いいから、休みなさい」
「でも・・・速水さんだって忙しいのにこんなことで
 ごめんなっ・・・うっ・・・」
暗闇の中、マヤは自分の言葉が柔らかいもので
ふさがれる感触とともに封じられたのを感じた。
「・・・」
「・・・・俺の方こそ、社長失格だ。」
マヤの髪を弄ぶ一定のリズムはそのままに、さっきより
ずっと耳のそばで、真澄の低く柔らかな声が響く。
「え?」
「君が俺に会いたがっていたと聞いた時、
 こんな状況にも関わらず心が喜ぶのを感じたよ。
 所属事務所の社長として、君を叱らなければならない立場でな。」
真澄の声が、蒸しタオルの熱とともにじんわりと
マヤの体に浸透してくる。
「ずっと会えなかったんだ。会いたいと思って心が踊るのは
 人間なら当然のことだ」
"俺だって、どれほど今日を待ちわびていたか"
「今は俺のことだけ考えろ。」
"俺も、君の事だけ考えていたい"
優しくマヤの手を取ると、真澄はゆっくりとその指に
唇を当てた。
「目が覚めるまで、そばにいるから。」
その言葉に安心したのか、じきにマヤの口からスースーと
規則正しい寝息が漏れてきた。
会いたい時に会いたいとも言えず、
会える喜びも時に心に秘めることを強いている
マヤ、俺は君の恋人も失格なのかもしれないな。
それでも君が羽ばたく姿を見るのは、きっと嬉しい。
いつかの辛く長い夜よりはずっと幸せだ。
真澄は飽きることなくマヤの髪を撫で続けていた。

**
真澄に連れられ3時間遅れでエステルームに到着したマヤは
朝のひどい状況とはうって変わってすっきりした表情で、
大原は、いったい真澄はどんな魔法を使ったのだろうと
思うほどだった。
「何をされたんですか、社長・・・」
エステウェアに着替えるため更衣室にマヤが向かった後、
つぶやくように大原が言った。
「特には。ただ寝かしつけただけだ。」
短時間でも質の高い睡眠とすっきりとした目覚めは、
一晩の睡眠にも勝る、そういうと
真澄は一旦社に戻ると言い残し、後にした。

その後フェイシャル中心に施術を受けたマヤは、
いつものハリのあるつややかな表情を取り戻していた。
「ほんと、たった数時間の睡眠でここまで回復するなんて・・・」
これが若さかしら、という言葉を飲み込みながら大原はマヤを
スタジオに連れて行った。
「今日は本当にご迷惑をおかけしました。」
身も心も落ち着いたのか、今朝の濡れ鼠のようなマヤは
もういなかった。
「とんでもない。社長の言うとおり、短時間でも
 ぐっすり眠ると違うのね」
大原の言葉に、何故かマヤの顔がちょっと赤くなった気がした。
「?どうしたのマヤちゃん、暑い?」
いいえ、なんでもないですと口ごもるマヤの様子に、どうやら
真澄の仕掛けた魔法はそれだけではないようだと察した。
「あ、そうだ大原さん、一つお願いが・・・」
スタジオに着いて衣裳合わせをしている時、マヤは大原に
自宅に忘れ物をしたので持ってきてもらえないかとお願いした。
数時間遅れの撮影開始となったが、撮影は順調に進み
なんとか今日中に終えられそうな見込がたっていたその時、
急にスタジオにピリっとした空気が流れた。
「お疲れ様です、速水社長!」
大都芸能社長速水の登場に、スタッフや関係者の背中が伸びる。
「今日は急な時間変更で本当にご迷惑をおかけしました。」
これ、もしよければと、差入れの箱を脇の長机に運び入れる。
ちょうど長時間の撮影で疲労してきた体が喜ぶ甘い差入れに
歓声があがる。
「君の分もあるぞ、チビちゃん」
と、いまや懐かしい昔の呼び名でにこやかに近づいてくる真澄に
マヤはにっこりと笑顔を見せた。
「速水さん!」
「朝の様子からは全く想像もつかないくらい、うまく化けたもんだな。」
またそんなことばっかり、とほっぺたをふくらませるマヤの頭を
軽くぽんぽんと叩きながら、
「ごめんごめん。でも安心したよ、何とか撮影も無事にいきそうで」
と笑った。
「速水さんのおかげです。ありがとうございました。」
「いや、俺の責任もあるからな。気にするな。」
「え?速水さんのせいでは・・・」
「だって・・・」
俺に会いたかったからだろう、とマヤの耳元でささやき、赤面させた。
「ほら、この後最後のシーンだろう。しっかりやりなさい。」
と、スタジオの端に移動していった。

「じゃあマヤちゃん、最後はこのカメラに向かって
 満面の笑顔を見せて。
 そう、最初は妖艶な表情から、
 大好きな人を見つけた時の子どもみたいな弾ける笑顔で!」
妖艶な表情って・・・と思いつつもマヤは何度か挑戦するがなかなか
OKがでない。
「もう少し、はかなげで脆い内面が見え隠れする顔なんだけどな、
後でもう一回撮ろうか」
結局、少し休憩を挟むことになった。

「妖艶な顔って言われても・・・どんな顔なのか・・・」
大原の差し出した水を飲みながら、マヤがぶつぶつ言っている。
「でもマヤちゃん、紅天女ではいつも妖艶な演技してたじゃない。」
そういわれても、マヤにその自覚はない。
「どのシーンですか?阿古夜の時?紅天女の時?」
「え、と・・・それは・・・」
「どっちにしろ、今日の撮影では紅天女の表情は向かないだろうな」
頭上から真澄の声が響く。
現代の若い女性にアピールするのに、時代劇の演技では重厚すぎる。
「もっとシンプルに考えろ。」
「シンプルって・・・、じゃあ速水さんはいったいどんな時に
 私が妖艶な顔をするっていうんですかー!!」
マヤの大きな声がスタジオに響き、一斉にスタッフが振り返る。
「ばか、声が大きい・・・」
慌ててマヤの口を手でふさぐ真澄は、そうだな例えば・・・と
何やらマヤに耳打ちした。
「!?」
「大丈夫、君ならやれるさ」
そう言っていたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「じゃあ速水さん、代わりに・・・」
今度はマヤが真澄に耳打ちする。
「・・・分かった。協力しよう。」
はたからみると恋人同士がじゃれあっているように見える二人だったが、
不思議なことに冷徹鬼社長とまだまだ子どものようなマヤの
掛け合いは、昔も今もそういった雰囲気を一切感じさせないものだった。
"ま、知ってる者にしたら当てられる以外の何物でもないんだけどね"
隣に立つ大原だけが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「そうそうその顔!最高だよ!マヤちゃん !!」
その後の撮影は一発OK、何とか無事CM撮影は終了した。

「お疲れ様でした」
マヤの着替えを待つ間、控室には大原と真澄が残された。
「今日は本当に朝から夜まで大変だったな、大原くん」
「いえ、仕事ですから。それに、無事にすめば何があったって
 いいんです。」
この後のビールが美味しくなるし、という所までは、
さすがに社長に言うのははばかられた。
「この後社長は?」
「社に戻る。仕事が終わってないものでね」
明日までに終わらせておかないと水城くんになんといわれるか、
と首をすくめた真澄の様子に、何だかんだで社長も
マヤのことが心配で仕事が手付かずになっていたのだろうと、
似たものカップルに同情した。
シャワーも浴びてすっきりした顔のマヤが戻ってくると
風邪をひくから早く髪を乾かしなさいと真澄にうながされ
ドライヤーに手を伸ばすマヤ。
そんな二人の邪魔をしてはいけないと、大原は
なにか軽食を買ってくると言い残し部屋を後にした。
「もう帰るだけなのに、大原さんってば」
残されたわずかな時間を二人だけで過ごさせようという
大原の気遣いに真澄は感謝しつつ、マヤのまだ湿った髪をひとすくい
つまんだ。
「本当に今日は朝から大変だったな。」
とつぶやいた。
「速水さんのおかげで、何とか乗り切れました。
 ありがとうございます」
「短い時間だったが、ぐっすり眠れたようだな。」
「はい、あの蒸しタオルが気持ちよかったです。それに」
速水さんの声に、とっても安心しました・・・と顔を赤らめながら
答える。
「でもあれは反則です!」
ふと思い出したように声を上げたマヤ、何が?と問う真澄に
「あんな起こし方・・・ごにょごにょ」
「ははは、でもすっきり目覚めただろ」
顔を赤らめるマヤと対象的にクールな真澄がうらめしい。
「普通に揺すって起こしてくれればちゃんと起きます!」
「そうか、てっきり姫はキスがないと目覚めないのかと思っていたが。」
いつものマヤをからかう時の取り澄ました顔のまま、タバコをくゆらす。
「・・・キスだけじゃなかったじゃない・・・」
ぼそっとつぶやくように言ったマヤの声は届かない。
「ん?何か言ったか?」
「い、いえ、もういいです・・・」
思い出して恥ずかしさMAXのマヤはもうこの話をやめることにした。
「でもそのおかげで今日の撮影もうまくいったじゃないか。」
「速水さん!!」

ーー最初は妖艶な表情から、
 大好きな人を見つけた時の子どもみたいな弾ける笑顔でーー

最後のシーンの撮影前に真澄が言った言葉をマヤは思い出し、また
ひとしきり赤くなった。
"今日の朝、俺に起こされた時の顔、あれはとても妖艶だった。
あの時の気持ちを思い出せばいい"
ほんとこんなセリフ似合っちゃうなんて速水さん、ずるい
「そこはともかく、最後は確かに速水さんのおかげです!
 ありがとうございました」
ぺこりと頭をさげるマヤを見ながら、
今度は真澄がさきほどの事を思い出していた。
"撮影始まったら、カメラの近くに来てくださいね、速水さん"
 速水さんの姿見つけた時の顔すればいいんでしょ!
そう言ったマヤの屈託のない笑顔が真澄をとらえて離さない
かろうじて衆人前で抱きしめることを堪えるのが
精一杯だった真澄は、改めて自分の中にあるマヤへの
熱く燃える想いを再認識せざるを得なかった。
こんな言葉を、当たり前みたいに言うんだからな、
まったく俺の方こそ君に振りまわっされぱなしだ・・・
だから君から目が離せない。
君の事を思ってやまない。
その時ふと、真澄は先日マヤのことをゴリ押しだと批判した
大都の若手の事を思い出した。
マヤの舞台を見て勉強しなおせと言ったら、
すぐにコンテンツ部に資料を取りに行ったらしい。
裏でその報告を受けていた真澄は、
演劇の事も、マヤの事もよく知らない若い世代が、
”本物”に触れた時にどんな感情を抱くのだろうと
興味を馳せていた。

「あそうだ、これ。昨日持ってきたんです。
 まだ形はいびつですけど使ってくださいね」
撮影前に大原にとってきてもらった忘れ物、
新聞紙にくるまれた物を真澄に手渡した。
「これだったら一番速水さんに使ってもらえると思って!」
そばに置いててもらえたらうれしいなーというマヤを、
真澄は今度こそ気兼ねなく抱きしめた。



ep第23話←                  →ep第25話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
前話の裏側(前話が裏側?)にあたる話です。
はてさて一体真澄さんはどうやってマヤを
起こしてあげたのでしょう。
私の予想では、あーやってこうして、
これくらいまではしたんではないかと
思っていますが・・・(笑)
ぐっすり寝てすっきり起きる、これ大事ですね。

仕事はきっちりこなしつつも、たまにこそこそと
いちゃつくというのがこれまた大好物でして・・・
マヤと真澄にも、ばれない程度に外でいちゃいちゃ
して頂きたい!
~~~~~~~~~~~~~~~~

ep第23話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-07-05 22:21:37 | ガラスの・・・Fiction
ep第22話←                  →ep第24話
********************
「それでは、次の議題に移ります。」
進行を務める業務本部長の声の元、次に会議の議題は
マネージメント事業部へ移っていった。
9月に入り、マヤが映画の撮影のため長期不在になるタイミングで
ここぞとばかりに仕事に精を出す真澄。

「・・・続いて、北島マヤに関してですが、現在撮影中の映画が、
 来年5月公開予定の是永監督作品です。
 この作品はフランス映画祭に出品予定ということで、
 正式出品となれば、来年4月に、映画祭に参加させる段取りを
 組んでおります。
 もしそうなればメディア等の露出も上がりますので、その前後に
 いくつか目を引く作品への出演を検討中です。」
この後いくつかの具体案が提示されたのち、議題は次のタレントへと
移っていった。

これから3年は、マヤを全面的に売り出す
それが今年4月に正式にマヤと契約を結んだ際の、真澄の大都芸能としての
方針だった。
最初の1年目は『紅天女』のイメージをうまく払拭できる作品選び、
そして2年目はより完成された『紅天女』を上演することで、
演技派女優としての地位を確立する。
そして3年目、主役クラスを演じることで
一気に国民的女優の地位を確立したい・・・
マヤの演劇の才能は既に保証されている、あとは自分の
芸能事務所社長としての手腕にかかっている。

去年から住居としている一流ホテルのバーで飲みながら一人、
マヤの今後の売り出し方を考えていた時・・・
「・・・・・ゴリ押しが過ぎるわよ」
という女の声が聞こえてきた。
「ちょっと、あんた大都の人間でしょ。そんな大声で・・」
「自分の会社だからって、言わずには入れないわよ。
 とにかく、何かっていうと北島マヤ北島マヤなんだから・・・・」
「ヨウちゃん、だから声が大きいってば・・・」
声のする方を見てみると、20代中頃だろうか、若い女が二人
カウンターで飲みながら話していた。
そのうちの1名がひどく興奮しており、
それをもう一人が必死になだめているようだ。
「今頃になって、北島マヤでやるなんて。
 そりゃ確かに演技力はすごいみたいだけど、
 世の中にどれぐらい演技力が分かる人がいるってのよ。
 それより、結局は見た目が可愛くて芸能人オーラがあれば、
 演技力なんてそこそこでも人気はでるでしょ?違う?」
随分と極論を大声で・・・・、気づくと真澄は
彼女たちの背後に近づいていた。
「業務時間外だからと言って、所属タレントの陰口とは
 あまり関心せんな。」
「ん?邪魔しないでよ・・・って・・・・・あ・・・ん・・た・・・」
友達からヨウちゃんと呼ばれていたその女性が後ろを振り返り、
そこに立っている真澄の姿を認識する。
「・・・・も、もしかして・・・・速水・・・社長・・・」
「君、名前と所属は?」
「・・・・真田ヨウ・・・・、マネージメント事業部です・・・」
「覚えておこう。」

そういうと真澄はこれ以上言わなくても分かるなといった冷たい目を彼女に向け、
バーを後にした。

**
翌日朝一で社長室へと続くドアの前に立つヨウは憂鬱だった。
久しぶりに専門学校時代の友人と会って騒いだ後、ちょっと落ち着きたくて
あのホテルのバーに行ったことまでは覚えている。
正直その後の記憶があいまいだ。
一緒にいたカナによると、随分と管を巻いて
大声で自分の会社の所属女優批判を繰り広げていたようだ。
よりにもよって、社長の目の前で・・・。
翌朝携帯電話を開くと、カナの心配したメールがたくさんたまっていた。
「速水・・・社長・・・・・。泣く子も黙る、
 冷徹の仕事の鬼・・・・ですか。。。」
そして出社すると、ものすごく慌てた様子の上司が
「朝来たらすぐに社長室に行くんだっ!」
と騒ぎ立てていた。
「真田くん、君一体何をやったんだ。
 速水社長からじきじきに呼び出されるなんて・・・!」
おろおろする上司に、ぺこりと頭をさげ、
思い足を引きずりながらここまでやってきた。
"こりゃ人生詰んだな"
意を決してドアをノックし、秘書課に声をかけた。
「マネージメント事業部の真田です。
 速水社長はいらっしゃいますか?」

「君、入社何年目だ。」
社長室にいた速水は、感情の読み取れない冷たい視線を一瞬ヨウに向けると、
すぐに手元の資料に目を通した。
「・・・4年目です。」
「そうか・・・今の君の担当タレントは?」
ヨウがタレントの名前を告げると、なるほどねと相変わらずの抑揚のない声を発した。
「昨日君が言ったことだが・・・」
「大変申し訳ございません・・・・・!
 酔っていたとはいえ、あんな公衆の面前で
 自分の会社の女優さんの事を悪く言うなんて・・・・・」
こうなれば謝り倒すしかない、それでだめならその時はその時・・・・と
半ば開き直るように頭を下げるヨウに対し、
「なるほど。酔っていて大声で話していたことは謝るが、
 言った内容に関しては曲げるつもりはないと、
 そういうことかな?」
速水の言葉が突き刺さる。
大都芸能で働くものなら、自分の会社の社長、そして会長がこれまでどれほど
『紅天女』に執着してきたのか、知らない者はいない。
二代に渡る積年の思いを果たし、ようやく手にした紅天女=北島マヤ
自分はよりにもよってその女優を、社長の前で批判してしまったのだ。
「い、いえ、そういったわけでは。」
「ゴリ押し、とも言っていたようだが。」
いや、それは、その・・・・と顔を真っ赤にしながら言い訳を考えている時、
君は北島マヤの舞台を見たことがあるのか?と聞かれ、素直にいいえと答えた。
「紅天女もか。」
「ハイ・・・」
「勉強不足だな。」
「・・・申し訳ありません。」
「しかしながら君の意見ももっともだ。」
意外な言葉が速水の口から洩れた。
「へ?」
「確かに今の時代、それほど演技力もない俳優が
 人気先行で売れることはよくある。」
タバコに火をつけ、くゆらせる速水は続けて、
「むしろそんな人間をどうやればうまく売れるかを考えることこそ、
 我々の仕事の一つだ。」
罵倒されて解雇でも言い渡されるのかと覚悟していたヨウだったが、
目の前の速水は今のところ一言も声を荒げることなく、淡々としている。
極度の緊張が和らぎ始めたヨウは、改めて目の前にいる社長の姿を見直した。
自分が入社した頃は、ちょうど北島マヤがスキャンダルの挙句に
大都との契約を解除になった後だった。
入社の頃から鬼社長とは聞いていたが、実際遠目にしか見ることのない速水は
誰にも隙を見せない完璧な立ち振る舞いと、その見た目の美しさが印象的だった。
雲の上のさらに上の存在として、架空の人物かとも思っていた相手が、
今目の前にいる。
そして語りだす。
「だがな、どんなに小手先の技を使ったとしても、最後に残るものは、本物だけだ。
 私は、大都芸能は一流の芸能事務所だと自負している。
 であればなおさら、本物を見る目を養わねばいけないし、それを
 中途半端なやり方でごまかすことはしたくない。」
それが私の、社長としての信念だ、そういって速水はタバコを灰皿に押し付けた。
"やっぱり、完璧だわこの人・・・"
恐らく年齢は30歳を少し超えたぐらい、しかしその落着きと威厳は
既に何十年と社長業をやってきたような安心感すら感じさせる。
「ましてや・・・」
ちょっと気を緩めた途端、速水の鋭い声が再び頭上に落ちてきた。
「思っている事をそのまま大声で外の人間に話すことは論外だ。」
それが正しいことかどうかは問題ではない。

「一度見てみるといい・・・」
「え?」
「北島マヤの舞台だ。」
見ればきっと、世界観が変わるぞ。
表情こそ変化のないものの、その口調にヨウはなぜか
深い慈しみの感情を感じた。
「・・・・・はい。次の舞台は必ず。」

こうして、ヨウは特に大きなお咎めもなく、
むしろなぜ自分が社長室に呼ばれたのかさえ
分からないまま、その場を後にした。
最後に速水見せた唯一といってもいい人間らしい表情だけが
いつまでも頭に残っている。

**
「で、結局特にペナルティもなく、お小言だけですんだわけ。」
速水に社長室に呼ばれた日から一週間後、
前回の反省を踏まえて、今回は絶対に速水が来ることがないであろう、
定額メニューのリーズナブルな居酒屋で飲んでいるヨウとカナ。
「でもさ、私も間近で見たのは初めてだったけど、やっぱりかっこいいわよね~
 あんたの所の社長さん!」
現在フリーでスタイリストをやっているカナは、職業柄ヨウとの接点も多い。
うらやましいな~というカナに
「かっこいいけど、なんか心は冷徹って感じよ。」
と言い放ち、ヨウは更に酒をあおる。
「おまけに勉強不足だな、とかいって北島マヤの舞台を見ろなんて言っちゃって。
 しょうがないから、これ!」
そういうとテーブルに置いたDVDを指でトントンとたたいた。
「なにそれ?」
「北島マヤの過去の出演舞台の映像。コンテンツ部にもらってきた。」
「へ~、ヨウがそんなに殊勝なんて意外・・」
そうなのだ、これまで上から押し付けられることが嫌いですぐに反発し、
その割に飽きっぽい性格のヨウだったが、
今回の件で、速水の射抜くような目に、いつもと違う戸惑いを感じていた。
"あの一瞬見せた温かみを感じる目・・・・なんだか気になる・・・"
ちょっと興味がわいたからね~と言いながら、
ヨウはまだまともに見たことのない北島マヤなる女優の事を考えた。
年は確か今年21か22、舞台中心に活動していて去年、紅天女を継承した
天性の女優。
「・・・・確かにあのドラマでも、決して目立ってはいなかったけど、
 なんだか気になる演技をしてた・・・。」
「私はどっちかというと、社長さんの方に興味がわくな~~」
お酒を飲んで笑い上戸になったカナがケタケタケタと声を上げる。
「だって、あんなに若くして社長やってて、高身長であの美しさ、
 女がほっとかないわよね。あれ、でも確か去年まで、
 どこかの令嬢と婚約していたような・・・・」
「ああ、なんだか破談になったっぽいよ。
 それで一時期会社もヤバそうだったもん。」
「そっか、今フリーなのか・・・・」
「フリーかどうか・・・。ただ政略結婚を辞めただけって説もあるし。」
自分との歳の差を計算し、イケるなとむふむふするカナをほったらかしつつも、
ヨウの頭には、間近でみた速水の顔が浮かんでいた。
「・・・・女に興味、なさそ。。」

翌日、朝からずっと担当タレントに付いて各テレビ局を回っていたヨウは、
今日最後の仕事として、都内の某スタジオに入った。
「!?なんだか空気がピリピリしてない?」
いつも人の出入りも多くにぎやかなスタジオだが、今日はいつもより少し緊張感が
漂っているようで、スタッフの顔もどこか固い。
「何かあったの?」
受付でそれとなく尋ねると、
「今、大都芸能の速水社長がいらっしゃってるのよ。」
という言葉に、ヨウの背筋もピンと凍った。
「速水社長?」
今、A1スタジオでの撮影に立ち会っているらしい。
「社長じきじきに・・・なんでまた。」
撮影の様子が気になりつつも、担当タレントを控え室まで案内していく。
今日はこの後、特番の収録だ。
ヨウの担当するタレントは、本業は女優だが頭の回転が速く空気を読む反応が
重宝されて、情報番組やバラエティ番組にも出ることが多い。
今日は改変期の特番の収録とあって、これから深夜まで長くなりそうだ。
"ちょっと覗いてみようかな"
先ほど聞いた、速水立ち合いの撮影というのが気になったヨウは、
こっそりスタジオを抜け出すと、
A1スタジオへと向かったが、既に撮影は終わっているようだ。
「ねえ、A1スタジオの撮影って、もう終わったの?」
受付の子に確認すると、やはりつい先ほど撮影の方は終わったらしい。
"残念・・・って、別に何ってわけじゃないけどさ"
何となく自分に言い訳しながら、速水の姿を見れなかった事を
少し悔やんでいた。

「・・・・だぞ。」
ふと、ヨウの耳に、小さな音だったが男性の声が聞こえた。
「?」
声はどうやら、フロアの奥、このスタジオで一番広い控室の中から
聞こえてくるようだ。
「はい・・・・さん、・・・・ますか?」
男性の声に交じって、若い女の子の声も聞こえる。
"さっきの声はもしかして・・・・"
何とはなしに聞き耳を立ててたその時、控室のドアがばっと開いて、
中から長身の女性が出てきた。
「・・・!?あらあなたは。」
「あ、お、大原さん、オハヨウゴザイマス。お疲れ様です。」
出てきたのはマネージメント部でも有名な辣腕女史、大原明里だった。
大原が出てきたという事は・・・・
「そうか、今日C5で特番収録やってたわね。あなたの担当?」
開いたドアから漏れる楽しそうな笑い声は、
大原によって閉められたドアによって再び遮断された。
「はい。今ちょうどスタートして。」
「どうしてここにいるの?」
「いや・・・それは・・・。」
言い訳しようにも理由がない。
「まいっか。ちょうどいいわ、今もし手がすいているようだったら手伝ってくれない?」
そう言って優しくヨウの肩を抱き、廊下の方へと促した。
「軽食と、ちょっとしたデザートでも買いに行こうと思って。」
大原がいるということは、あの控室の中には恐らく・・・
「北島マヤ・・・さんですか?」
「そう。CM撮影だったの。」
「もしかして・・・、速水社長が立ち会ってたっていう撮影は、その。」
「ええ。大都復帰後初のCMだからね。社長も気になったんじゃない?」
さすが紅天女女優、という気持ちもある一方、たかが一女優のCM撮影に
社長自ら立ち会う事にヨウはまたもや少し違和感を覚えた。
「すごいですね、あのご多忙な社長が立ち会うなんて。」
言葉に交じる微妙な冷たさに気付いているのかいないのか、
大原は淡々とそうねーと答える。
「ま~、大都にとって今、北島マヤは大切な稼ぎ頭なのよ。
 下手なことしてまた潰すことになったら、
 今度こそ目も当てられないでしょ。」
私も仕事失うのやだしね~と、冗談っぽく話す大原。
「この前社長に会いまして・・・・」
突然のヨウの言葉に今度は大原が驚く番だ。
「え?それまたどうして。」
「いろいろ私が失礼しまして・・・その、
 北島マヤ・・さんをよく知らなかったもので、
 ご指導いただくことが・・・」
「それはそれは・・・」
お気の毒様、といった感じで笑う大原に、
ヨウは聞きたかったことを聞いてみる決意をする。
「あの、大原さん。どうして社長は、
 あんなに紅天女にこだわってるんですか?
 それに、あの・・・、私思うんですけど、
 社長が昨年婚約破棄したのってもしかして・・・」
紅天女のせいなんじゃないですか?という言葉に、
「観察力あるじゃん」
と大原はサバサバ答えた。
「社長がなんで紅天女にこだわってるのか、
 それは私もよく分からないけど、
 少なくともあの社長にそうさせるだけの魅力のある舞台ってことは
 まちがいないわよね。」
「大原さんもそう感じましたか?」
「あれ?真田さん見てないの?紅天女?」
「恥ずかしながら・・・・」
じゃあまず観るところからだね、といつかの速水と同じことを言われた。

「あ、お帰りですか社長」
買い出しから戻り、スタジオの入口に差し掛かったところで、
大原とヨウは速水と遭遇した。
「ああ。これから社に戻る。」
せっかくなのでこれを・・・と大原が買ってきたコーヒーを速水に渡す。
「?真田くんもここで仕事か?」
「え?は、はい。」
予想外に自分の名前を憶えられていた事に同様したヨウは、しどろもどろになる。
「勉強熱心なようだな。」
「え?」
「いや・・・。なんでもない。とにかく仕事に励んでくれたまえ。」
では、と社用車へ向かう速水の背中を見ていると、急にヨウが
「あ、あのっ・・・、社長、速水社長」
と大声を上げた。
「?」と振り返った速水にヨウは、
「この前の・・・・、私の暴言なんですけど・・・・あの・・・・私、
 悔しかったんです。
 本当は『ひと夏のままで』の郁子役は、私の担当女優がやるはずだった・・・。
 なのに土壇場で北島マヤになって・・・それで。
 あんなヒットドラマに出られるチャンス、早々ないことだったのに・・・・。
 確かに北島マヤさんは素晴らしい女優だと思います。だけど、彼女なら
 他にいくらだっていい役は来るはず、せっかくつかみかけたチャンスを
 無にしたみたいで、ちょっと悔しくて・・・だから・・・。」
自分でも何を言っているか分からなくなったヨウだったが、
速水は顔色を変えることなく、
「確かにあのドラマは大変評判になった。
 もし出ていればブレイクのきっかけになったかもしれん。」
だがな・・・と速水はヨウに向かって静かに、でも厳しい声で語った。
「マヤでなかったら、ここまでの作品になったかどうか・・・・・。
 そういう風には考えないのか、君は。」
確かに素晴らしい作品に出会うことは運命的なものでもある、
しかしその作品がそれなりの評価にとどまるか、
さらなる境地へと高めるかは、演じる者の力量にも大きく左右される。
「・・・もっと冷静に判断するんだな。」
それだけいうと速水は再び車の方へ踵を返して去って行った。
仕立てのいいスーツには不釣り合いな新聞紙にくるまれたものを
小脇に抱えながら。

「・・・・もしよかったら・・・。マヤちゃんと話す?」
大原のその言葉にいえ、結構です・・・と消え入りそうな声で答えたヨウだった。

ep第22話←                  →ep第24話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
ここまでがっつり新参キャラ視点で書いたの
初めてでしたね。
これまでマヤ側のニューフェイスばっかり登場させていたので、
真澄さん側にも新しい人を、と思って出してみました。

予め申しておきますと、特にこの後三角関係とかに
なるつもりはございません(笑)

いわゆる第三者から見る覗き見的マヤ&真澄
他人に厳しくマヤに甘い真澄が書きたいだけだったりして。
だってマヤは真澄以外の人にもあんな感じだし~~。

あといまいち書けないんですけど、仕事バリバリな真澄さんも
見たいのです。
~~~~~~~~~~~~~~~~