(み)生活

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浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

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ep第34話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-04-22 15:54:07 | ガラスの・・・Fiction
ep第33話←                  →ep第35話
********************
「楽しみで楽しみで、しかたありません。」
ロビーで顔を合わせたマヤは早くも興奮を抑えきれないといった様子でいた。
いよいよ亜弓の主演映画上映日である。
亜弓とは、レッドカーペット上で会って以来、マヤの映画を観てくれたかどうかも定かではない。
「どんな映画なんだろう。きっと亜弓さん、素敵なんだろうな」
劇場へと向かうハイヤーの中で、マヤは読めもしない言語で書かれたパンフレットを
食い入るように何度も見返していた。
「そんなに集中して見たら、酔ってしまうよ。」
一足先に境は帰国したため、フランスに残っているのはマヤと是永、
それに途中合流となった真澄だけだった。
マヤのマネージャー大原も、真澄と入れ替わりに日本へ帰っている。
「監督は、フランス語は分かりますか?」
「そうだね、昔留学していたから日常会話くらいは・・・
 あと映画だと英語字幕が付いているからなんとか追えているけどね」
「そうなんですね。この、亜弓さんの映画のタイトルってどういう意味なんですか?」
「ええと、直訳すると”彼女だけが知らない彼女の内面性”って感じかなー、
 多分この彼女ってのが姫川亜弓だと思うけど」
「そうか・・・亜弓さん主役ですもんね。」
久しぶりに見る亜弓の演技、マヤの心は踊り、
その日午前中の映画にはあまり集中できないくらいだった。
そしていよいよその時、
亜弓の映画の始まりを知らせるブザーが響く。

数時間後ーーーー

映画はとっくに終わっていた。
いやむしろ騒音と言ってもおかしくないほどの歓声と熱気が
充満し、じっとしてはいられないほどの興奮に包まれていた。
ただひとり、北島マヤの座席以外は。

"分からない分からないけどとにかく止まらない・・・"

マヤの顔は硬直し、まるで人形のように身じろぎもしない、
ただ流れ落ちる涙の雫が、
これが生身の人間であることを唯一証明するかのように
きらめいていた。

スクリーンの中の亜弓は、今までに見たことがないほど
美しく、そしてはかなかった。
『彼女』の中にある3つの人格といってもいい感情を
表情一つで見事に演じ分け、声色さえも変わる。
台詞の一つひとつが流れる調べのように心地よく、
それが切なさを倍増させる。
"すごい、亜弓さん本当にすごい・・・・"
まさに新境地を切り開いたといってもいい亜弓渾身の演技に
魅了されたマヤは気付けばすぐそばに亜弓が立っている事に
気付かなかった。
「マヤ、どうだった?」
ふいに話しかけられたマヤは、つい先ほどまでスクリーンの中にいた
切ないほど美しい女性と亜弓との境目があいまいになっていた。
「あ、えと・・えーーと、あ、亜弓さん、本当に素晴らしい作品でした・・・
 私、感動というか興奮というか、とにかくどう説明していいか分からないけど・・・・」
顔から汗を吹き出しつつ必死で感想を伝えようとするマヤを
にっこりとほほ笑んで見つめる亜弓は、おもむろにマヤを抱きしめた。
「この作品が、私からあなたへの答えよ。」
耳元で亜弓のささやくような声がこだまする。


「ハイ!マヤ、今日もやってくれるんでしょ?」
「あ、エレンさんこんばんは・・・・。あ、あの・・・・
 ごめんなさい、今日はちょっと難しくて・・・」
「あら、それは残念。あなたの演技とても楽しみにしてたのに」
この滞在ですっかり仲良くなったホテルの女性従業員に、
今日の映画の再現をせがまれた時、マヤはそういって
断ることしかできなかった。
"さっきの亜弓さんの言葉、いったいどういう意味なんだろう"
私からあなたへの答え・・・・確かに亜弓はそう言った。
マヤに対して亜弓が保留にしていることはただ一つ、そう
紅天女を受けるかどうか・・・
今回の映画と紅天女がどう結び付くのか、マヤには見当もつかなかった。
"速水さんなら、知っているかしら・・”
そう思っても真澄は他でもない、亜弓の映画関係者とのミーティングで
今晩は不在だ。
マヤは亜弓の映画を観た興奮もないまぜになって
その夜なかなか寝付く事ができなかった。
目を閉じれば、亜弓の映画のセリフが思い出される。
そしてそのたびに、隣にいて欲しい人を思い出す・・・・。

**
「お疲れではないですか?」
何となく眠れずにホテルのバーに来ていた是永は、
長身から落とされた低く響く声に振り向いた。
「あ、速水社長。いや、あっという間で疲れる暇もない。
 むしろ緊張感で眠れないくらいですよ。」
こちらいいですか、と是永の横の席に腰掛けた真澄は、
ウェイターにバーボンを頼むと改めて是永の方を見た。
「今日の姫川亜弓の映画には正直参りました。」
是永は笑顔を浮かべつつ頭をかいた。
「もちろん彼女の実力は理解していたつもりですがね、
 想像以上の作品でした。」
「今回の作品に関しては、所属事務所とはいえほとんどノータッチ
 でしたからね。なんとも複雑な心境です。」
今回姫川亜弓は、あくまでフランス映画枠で参加しており、映画製作に関して、
大都芸能とは直接の関係性はない。
映画の出演は、あくまで休業期間中に行っており、
特例という形で本件に関して日本側に一切の事前情報は流されていなかった。
「とはいっても、休業中の姫川亜弓が国際映画祭で華麗にカムバック、
 さすがやり手の大都芸能社長だけあって売り方を分かっていらっしゃる」
通常なら皮肉とも取れる言い回しだが、是永の柔和な物腰がそう思わせない。
「いえ、全ては亜弓君のセルフプロデュース力がなせる技ですよ。」
聞けば、今回のヒロイン役オーディションは無名有名問わず広く一般から
募集されたとのこと。
姫川亜弓も、日本でのキャリアを封印し、一からオーディションを勝ち抜いて
主役の座を射止めたのだという。
所属事務所を介さずに仕事を取ることは芸能界最大のタブー、
出演が決まるや否や真澄のもとに亜弓は父である姫川監督と共に
じきじきに交渉に訪れた。
「速水社長は、女優に対しても厳しく接すると聞いていましたが、
 マヤちゃんや、姫川亜弓への対応を見ていると、必ずしもそうではない気がしてきますね。」
是永の言葉に、真澄も小さく鼻で笑う。
「是永監督、私は女優に厳しいわけではありません。女優を商品としてしか見ていないだけです。」
売れる商品だと思えば、誰でも大事にするでしょう・・・と冷たく放つ真澄の顔は
言葉のきつさとは裏腹の優しさがアンバランスだ。
「そうでしたそうでした、速水社長はそういう方でした」
わざとおどけるように両手を上げ、笑う是永だったが、おもむろにフランス語を口ずさんだ。

"私の体の中から、あなたの痕跡が消えることが耐えられない・・・"
"私はただ、あなたを待つことしかできない、愛してると伝えることもできず・・・"
"あなたの幸せの隣に私が必要でないことは分かっています・・・"

「・・・・・亜弓君の映画のセリフですね」
「ええ。」
口元にわずかな微笑を残したまま、氷の溶ける音に耳を傾ける真澄の横で、
是永は静かに語った。
「マヤちゃんがね、涙を流したシーンです。」
「・・・・・」
「マヤちゃん、フランス語全然わからないのに、このシーンで静かに泣いていました。」
まるで意味を理解しているかのように・・・・
「そうですか・・。」
表情を変えない真澄の心の中は相変わらず見えない。
しかしの見えなさが、逆に真澄の本心を雄弁に語るようで、
是永はそれ以上なにも言わずにグラスを傾けた。

長いようで短かったフランス国際映画祭も終わりを迎え、
いよいよコンペティション部門の発表を残すのみとなった。


**
授賞式はさながらダンスパーティーのような華やかさで、
マヤはいまさらながらの緊張感と戦っていた。
「あら、マヤ!元気?」
「マヤ、今日は本当に楽しみだね!」
「今度僕の作品に出てくれないか、マヤ」
毎日のように劇場に入りびたりありとあらゆる映画を観続け、
全てのシーンを覚えて再現していた小さな黒髪の東洋人女優は、
気が付けば映画祭の誰もが知る有名人となっていた。
次から次へと話しかけられ、しどろもどろで手と足が一緒に出そうになる。
そんなマヤを、今日はずっと隣で真澄がエスコートしていた。
「マヤ、俺のいない間にどんな手段で顔を売ったんだ・・・」
先ほどからひっきりなしにマヤに声をかけてくる人の多さに、
さすがの真澄も驚きを隠せない。
「いえ・・・、私は何も・・・」
赤くなって縮こまるばかりだ。
「とにもかくにもこれが本当に最後の最後だ、せっかくだから楽しみなさい」
そう言って優しく微笑んだ。

授賞式はまずスタッフ部門やショート―ムービー部門から発表が続いていた。
そして徐々に緊張感が高まる中、いよいよ主要部門の発表の時が来た。

最高助演男優賞
最高助演女優賞

マヤの名は呼ばれなかった。
「残念だったな、マヤ」
「いえ、私が個人で受賞できるなんて思っていませんでしたから。」
今回世界各国の映画を観続けたマヤは、自分の実力がまだまだであることを
痛感した。
映画と舞台の違い、分かっていた事だけれどマヤには勉強になる事ばかりで、
もっとこうやれたはずだという思いがどんどん膨らんでいく日々でもあった。
「今回は、だな。」
真澄の言葉に、ぴくりっと反応したマヤだったが、自信ありげに挑発気味の真澄に
「・・・・ええ、今回は、です。」
と返した。
「でも速水さん、私一つ確信があるんです。」
そう言ってマヤは真澄を、そしてその横の是永を順番に見つめ、力強く言った。
「境さん以上の男優さんは、いませんでした。」

その時、場内の照明が落とされ、最高主演男優賞のコールと共に、
NAGISA SAKAIの名が響いた。
「よし、よし、よし!!!」
スポットライトを受けるマヤ達のテーブル。
いつもはおっとりとした是永が、テーブルの下で何度もガッツポーズをしていた。
「いこう、マヤちゃんも。」
日本に帰っている境の代わりに、是永とマヤは受賞トロフィーを受け取った。
「境、見てるか。お前が獲ったんだぞ」
カメラに向かって話す是永、その声はわずかに震えていた。

「まずは1冠目、おめでとうございます」
席に戻った是永とマヤを真澄が祝い、次の部門発表を待つ。
「次は・・・」
プレゼンターが紹介され照明が落とされ、再び会場が独特の緊張感に
包まれる。

そしてーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー

最高主演女優賞・姫川亜弓名が響き渡った。
歓声とどよめきが会場を包み込む。
コールされて壇上に上がる亜弓はいつにも増して輝いていて、
その背中はマヤと同じ年とは思えない自信に満ち溢れていた。
"やっぱり亜弓さん・・・すごいわ"
絶えることなく拍手を送り続けるマヤの顔からも笑顔がはじける。
「やったな」
「・・・はい!やっぱり亜弓さんです。亜弓さんです。」
むしろ受賞した人間以上に喜んでいるようにも見えるマヤが
無邪気に喜ぶ様を見ながら、真澄自身も人知れず長い息を吐いた。
マヤと同じ年の若き女優
幼いころからサラブレッドとしてもてはやされながらも
決しておごることなく、常に自分と戦い続けた孤高の天才
演劇にすべてを捧げてきた彼女を襲った不慮の事故
マヤとの戦いに敗れ失意の底から這いあがって再び今
誰よりも輝く舞台へ戻ってきた彼女のこれまでを思うと、
真澄も言葉にならない思いが湧き上がる。

「この賞を、紅天女に捧げます」
受賞者スピーチを流暢なフランス語でおこなっていた亜弓の
最後の言葉に、一瞬会場がどよめく。
「・・・・・?」

クレナイテンニョ・・・・
恐らくその会場にいる者はほとんど誰も知らないであろうその言葉
そして誰よりも思い入れのある人物はフランス語が理解できない。
「速水さん、亜弓さん今なんて言いました?」
なんか紅天女って聞こえたような・・・というマヤにうまく説明する
言葉が見つからないまま、当の亜弓がスピーチを終えて壇上から降りてきた。
そしておもむろにマヤ達のテーブルに近づくと
「マヤ、これをあなたに」
と、受け取ったトロフィーをマヤに差し出した。
「え・・・?ど、どういうことですか、亜弓さん・・・」
理解できない亜弓の行動に、ただ戸惑うばかりのマヤ
そんなマヤににこやかな微笑を浮かべた亜弓はしっかりとした口調で答えた。
「私、あなたの申し出を受けるわ。そしてもう一度、あなたに追いついてみせる」
それまで、これを預かっていて・・ともう一度マヤにトロフィーを差し出す。
「これは、私が紅天女に再び挑戦するための権利証。
 あなたが認める紅天女を演じることができたら、その時に返して下さる?」



「亜弓くんは俺に一つ条件を出してきた。」
各賞の発表が終わり、残すは作品賞ただ一つとなったタイミングで
会場は小休止がとられていた。
亜弓が最高主演女優賞を獲ったという興奮と、
そのトロフィーをいきなり預けられた戸惑いに
マヤはどう対処していいか分からず固まっていた。
「条件・・・?」
「ああ。」
紅天女を演じる為に、亜弓はこのフランス国際映画祭での
主演女優賞を必須条件としていた。
すなわち、受賞出来なけば紅天女は引き受けないと。
「どうして・・・・そんな・・・」
「真意は俺にも分からない。ただ亜弓くんは、自分が紅天女を演じるに足る
 女優であるかどうかを、この賞に賭けたのだろう」
主演女優賞も獲れないのに、紅天女などもってのほかだ・・・と
「そんな、国際映画祭の主演女優賞ですよ!簡単に取れるはずが」
「だからこそ!彼女はその高い高い条件をあえて自分に課したんだ、それほど・・・」
彼女にとっての紅天女が特別な存在であるということーーーー
「亜弓さん・・・」
先ほど自分に託された亜弓のトロフィーの重みが今更ながら
マヤの胸に響く。

そして、いよいよ最高作品賞が発表される時が来た。
観客がかたずをのんでその作品名を待っている。
世界各地の映画制作者、役者、プロモーターがそれぞれに思いを込めて作った
全ての作品の中で、
今年のフランス国際映画祭 最強作品賞は

『微風のかたち』が受賞した。


**
「疲れたろう?マヤ」
時計の針はとっくに深夜をさし、先ほどまでの喧噪を越え、
ようやく静けさを取り戻しつつあった。
最高賞に日本人及び日本の作品が名を連ねた今回の映画祭、
授賞式後の記者会見や個別インタビューなど
休む暇もなく対応し、マヤは目もまわる忙しさだった。
「いえ、うれしい忙しさは苦になりません」
早くも明日には日本へ戻らなければならない。
ゆっくり感動に浸る暇もないまま、マヤは荷物をまとめていた。
「帰国してからの方が、忙しくなるかもしれないな。」
少なくとも空港には多数のマスコミ関係者が待ち構えているに違いない。
「これ、本当に私が持っていていいんでしょうか・・・・」
私物をほぼトランクに詰め終えたマヤは、机の上に置いていた
亜弓の受賞トロフィーに目をやった。
「あれだけはっきりと、発表したからな。」
授賞式後の記者会見で亜弓は改めて、
自分が次の紅天女を演じること、そのためにはこの賞が必要だったことを
宣言した。
紅天女を知っている日本のマスコミはもちろんのこと、
国際映画祭の受賞をかけてまで挑んだという日本の舞台作品に
フランスの記者たちも興味深々にその作品の事を問い、
記者会見は大幅に予定時間をオーバーした。
質問は当然、紅天女上演権を保有するマヤにも向けられ、
時に厳しい質問も受けながらマヤはとりあえず真澄に言われた通り、
「細かい事は帰国してから改めて報告します」
と繰り返すしかなかった。

「私、身勝手なお願いをしたのでしょうか・・・」
もし自分が亜弓に紅天女のオファーをしなければ、こんなに亜弓を
追い詰めることはなかったのではないか。
失明という不安と戦い、回復したとはいえまだ本調子ではない亜弓に
マヤはあまりに重い責任を負わせ、追い詰めていたのではないかと
今更ながら思う。
「しかし結果亜弓くんは見事にそのハードルを超えたじゃないか」
「でもっ、亜弓さんならわざわざそんな条件を付けなくても十分に素晴らしい
 紅天女が演じられるはず!それなのにそんな風に追い込んでいたのなら・・・」
「彼女が、彼女の中で折り合いをつけるために必要だったんじゃないか?」
たとえどんなに素晴らしい演技をしたとしても、試演でマヤに敗れたという
事実に変わりはない。
それならばせめて、自分が紅天女を演じるに足る女優であるという証を何か一つでも
「それにこれは、君のファインプレーだぞ」
マヤが亜弓に紅天女を頼んだことで、
消えかけていた亜弓の中の女優魂に再び火が灯り、
そしてその結果あれほどの素晴らしい作品を目にすることができたのだから。
「マヤは、亜弓くんのあの映画が好きか?」
真澄のその問いかけに、マヤは即答で「大好きです」と答えた。
「あんなにきれいで悲しくて、心が揺さぶられる作品、めったにないです」
映画の事を思い出しているのだろう、うっとりと憂いを込めた目になるマヤを見ていると、
ふと昨日の是永の言葉を思い出す。

"私の体の中から、あなたの痕跡が消えることが耐えられない・・・"
"私はただ、あなたを待つことしかできない、愛してると伝えることもできず・・・"
"あなたの幸せの隣に私が必要でないことは分かっています・・・"

「あ、それ亜弓さんの映画のセリフですね。」
一体どういう意味なんですか?と聞くマヤに、本当に言葉が分からないまま感じていたのだと
痛感する。
「マヤ、君が一番好きなシーンはどこだ?」
小さなマヤの体をすっぽりと包み込みながら、真澄が尋ねた。
「・・・・えっとですね。」
その情景を思い出している様子のマヤだったが、
ゆっくりと真澄の方に体を向け、うるんだ目で真澄を見つめた。

"あなたがいなくても、私の中にあなたがいる だから
 あなたのなかにも わたしがいるって 分かってる"

ーーーわたしが別の誰かになっても、わたしのことを見つけだして---

真澄はゆっくりとマヤの頬に手をあて優しくなでると、
マヤはゆっくりとこちらの世界に戻ってきた。
「速水さん、このセリフなんて言ってるんですか・・・??」

マヤの質問に微笑みながら、真澄は無言のまま
優しく、しかししっかりとその体を抱きしめた。
「言葉なんて、関係ないさ・・・」


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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
やっと、やっと、やっと、やっと
フランス編が終わりました。
日本に帰れる~~~~ぅ!
~~~~~~~~~~~~~~~~

ep第33話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-04-13 16:52:02 | ガラスの・・・Fiction
ep第32話←                  →ep第34話
********************
エンドロールが流れ、流麗なピアノの調べが観客の心に最後の響きを
もたらして、映画『微風のかたち』上演は終了した。

上映後、劇場内を震わすスタンディングオベーションは10分にも渡って続き、
その間にマヤはたくさんのよく知らない外国の男性や女性にしきりに握手を
求められ、ハグされつづけていた。
"なに言ってるのか全然わからないけど、でもとりあえず映画のことすごく
 ほめてくれてるみたい・・・"
見知らぬひげ面のおじさんにしきりに肩を叩かれながら、
マヤは少しずつ、現実感と共に映画が多くの人に届いたのだという
実感を感じ始めていた。

「なかなかの好感触でしたね。」
名残を惜しみながら会場を後にする道すがら、
これは期待できるのでは、という境の言葉に、
どうだろうねと冷静に返しながら、実のところ是永自身も
体内にたぎる興奮の余韻を抑えきれずにいた。
「正直思っていた以上の反応だったよ」
できることなら、速水社長にも、この感動を共感してもらいたかったと、
是永は仕事の都合でフライトが間に合わなかった真澄のことを残念がった。

境を主演にと決めてから、ずっと相手役を求めて温め続けてきたこの作品。
早く世に出したいと思っていたが、
もしもっと若い頃の境で撮っていたらどうだったろう。
あの時代に世に出して反応はどうだったろう。
「今更ですが、今、このタイミングでこの役を演れたこと、
 すごく良かったと思います」
はからずとも境が同じことを考えていたことに、是永は驚きと共に
嬉しさを感じた。
「そうだな、このメンバーがそろって、この時代だったからこそ
世界観とバランスが取れたのかもしれないな」
「はい。少なくとも僕はそう思っています。」
「・・・・なあ、なぎ」
異国の地という非日常がそうさせるのか、是永は数十年前の呼び方で
境に声をかけた。
「俺は、お前と出会えて良かったと心から思うよ。」
お前が俺を、監督にしてくれたんだと、深々と頭をさげる是永に、
境はなんの言葉をかけることもできずただ、これ以上鼻の奥がツンとしないように
するのが精一杯だった。
「あ、そうだ、マヤちゃんは?」
「・・・・しまった!てっきり後ろをついてきてるとばかり思って」
会場を出るところまでは確かにいたはずのマヤの姿がどこにもない。
慌てて会場ロビーに戻った2人は、そこで興奮した一般客に囲まれて身動きの取れないマヤを
発見する。
「あわわわわ・・・・え、えと、え?さ、サインってことかな・・・」
差し出されるパンフレットとペンは、どうやらサインを求めているということか。
マヤを助け出したいと思っても、数倍大きな体の外国人の輪の中心にいる
一際小柄な女の子の姿はほとんど見えない。
「困ったな・・・」
「とりあえず、救出を」
「失礼ーーーーー」
マヤの元に向かおうとする境の肩を掴んで制止すると、低く柔らかな声を短く発して
その人はスムーズな動きで人だかりに割って入った。
決して乱雑でなく、紳士的でスマートな立ち振る舞いは決して崩さず、
それでいてあっという間にマヤの腕を掴みまるでダンスをするように
自然な動きでマヤをその人ごみの中から救出すると、
是永と境のいる所に近づき
「とりあえずここは・・・場所を変えましょう」
そう言うと足は止めずにその人ーーー速水真澄は
そのまま外の車止めまでマヤの手を取ったまま
向かっていった。

「・・・・姫を救出する王子現る、か」
「まさに、ですね」
何事か小言の一つ二つ言われているような、マヤの申し訳ないようで
何か反論したいような顔を遠目に見ながら
是永と境はどちらからともなく顔を見合わせてにこやかに笑った。


***

「もう間に合わないのかと思ってました」
「空港から直行で飛ばしたんだがな、上映には間に合わなかった・・・」
すまなかった、といいながらそれ以上に本人が一番残念そうにしている
様子がおかしくて、マヤは思わず笑ってしまった。
「気にしないでください、それに速水さんもう何回も観てるし」
何回見たっていい作品は観たいさ、と言ってマヤに紙袋をどさっと渡した。
「?これは?」
「朝食。今朝早かったからお腹が空いただろう。」
「うわあ、あったかいおいしそう!」
「焼きたてだったか、適当に選んだから好きなものをどうぞ。」
「ありがとうございます、いただきます!」
『微風のかたち』が上映された翌日、マヤは真澄と映画祭の中休憩日を
利用して滞在しているホテルを離れ、高速鉄道に乗っていた。
"うーーーん!このパン美味しい!さすがフランス!"
それにしても・・・とマヤはパンをくわえながら隣に座る真澄の様子を
チラチラと盗み見た。
"こんなにラフな格好の速水さんと外出なんて・・・"
普段外で一緒の時の真澄はほぼ100%スーツ姿、ネクタイもせずラフなシャツに
薄手のジャケットとチノパンの真澄に、マヤはまだ慣れずにいた。
「俺の顔に何かついてるか?」
朝の日差しを避けるためにかけていたサングラスの向こうの目は
いつの間にかマヤの方を見ていたらしい、サングラスを外してマヤを
見る真澄の視線から逃げるように、慌ててパンに視線を戻す
マヤの顔は真っ赤だ。
「い、いえなにも」
"改めて近くで見ると、速水さんってほんと綺麗な顔"
私が女優だなんていうのも恥ずかしいくらい・・・と、
ドキドキする心を隠すようにパンにかぶりつく、マヤの頬を
すっと、長い指が柔らかくなで、マヤの心拍数がさらに上がる。
「!?は、速水さん!一体なにを」
「塗ってるか?」
「・・・へ?」
「日焼け止め。春先だといっても紫外線は侮れないぞ」
勝手にひとりでドキドキしてる自分がバカみたい・・・と、
いつもと変わらぬ冷静な真澄の態度に、マヤは少し悲しい気持ちになってきた。
「ちゃんと塗ってます!女優ですからね!
 それより・・・いいんですか?外でこんな一緒にいて。
 誰かに見られたら、ま、私と一緒にいてもだーれも怪しまないでしょうけど」
ついつい突っかかるような言い回しをしてしまう自分が
かわいくないのは分かっているが止められない。
「見られたっていいさ。なにかあったらその時はその時」
「・・・え?」
「せっかく2人きりで過ごせる久々の時間に、人の目を気にするな。
 もっとも俺は・・・」
マヤの耳元で真澄に囁かれたマヤは耳まで真っ赤になった。

"・・・ん、なんだか重い・・・"
前を向いて固まっていたマヤの肩に、柔らかな髪の感触と
心地よい重みを感じる。
"速水さん、ずっと仕事に飛行機移動にで、疲れてるよね。"
自分の肩を枕にスースーと寝息を立てて眠る真澄の
無防備な寝顔が愛おしくて、マヤは揺り起こさないように
慎重にパンを置くと、自分のストールを真澄の体にもかけて
一緒くるまった。
"今日はマヤの事しか目に入らないからな"
先ほどの真澄の言葉が頭の中で繰り返されているうちに、
いつしかマヤも眠りに誘われた。



「次はあれ!あれに乗りましょう!」
映画祭の街から高速鉄道に揺られ数時間、
仮眠も取れてスッキリしたマヤと真澄は遊園地にいた。
「フランスにもあるなんて、知りませんでした!」
園内で買ったキャラクターもののカチューシャを頭につけ、
さっきから楽しそうに次から次へとアトラクションを目指す
マヤは本当に楽しそうだ。
"こうしてみると年相応の女の子だな"
先ほど電車の中で朝日を浴びるマヤの抜けるような白い肌があまりにも
美しく、思わず抱き寄せたくなる気持ちを
辛うじて抑え、頬に触れるにとどめた真澄だったが、
こうして無邪気にはしゃぐマヤの姿を見ると、それはそれで
安心感を覚える。
「速水さん!もう疲れちゃったんですか!!」
逃がしませんよーと笑いながら真澄の腕を取りひっぱるマヤの姿は、
心から楽しんでいる様子で、こっちまで笑顔になる。
"日本ではあまりにも窮屈な生活を強いているからな"
見られたって構わない、そういったものの実際日本から遠く離れた
フランスの地で2人に気づく者などいるはずもない。
日本では目立つ真澄のスタイルも、フランスにはそれ以上の人で
あふれている。
普段常に周囲を気にし、抜かりなく過ごしている真澄の心も
少しは解放されるようだ。
"こうやって何も気にせず2人で過ごしたのは、いつぶりだろう"
マヤに腕を持たれ気恥ずかしさと嬉しさを噛み殺しながら、
真澄はいつぞやの縁日のほろ苦い記憶を思い出していた。

「ちょっと休憩しないか、マヤ」
さすがに長距離移動の後の遊園地は体力的にくる、
まだまだ行けるというマヤを説得して、真澄は園内のレストランに
入った。
「どうだ、楽しんでいるか?」
「はい!遊園地なんてほんと久しぶり。」
この前はいつだったろう・・と記憶をたどるマヤが
余計な事を思い出さないように真澄は話を変えた。
「そんな事よりマヤ、映画祭の方はどうだ?」
毎日映画が観れて楽しいだろう、という真澄にはいっ!と
元気に答えたマヤは、矢継ぎ早に良かった映画のシーンを次々と
再現してみせた。
「・・・ふ、なんだか懐かしいな」
これが大原から報告を受けていたマヤの映画祭再現か、と
ふわりとマヤの頭をなでる。
「あれは何年前だったか。月影先生の屋敷で君の『椿姫』を見たのは」
「あれは、私がまだ中学生の時ですよ」
「君と初めて出会った劇場で上演されていて舞台を、
君が完璧にコピーしてみせたんだったな。」
思えばあの頃から君の才能は光っていた。
「あとダンサーの役もしたことがあったか」
「イサドラ!ですよね。あの時は、本当に即興で・・・」
「そうだった。あの後君には随分と酷なことをさせたんだったな。」
「酷だなんて・・・。私の方こそ、思いっきり速水さんに
 ?みついちゃって・・・ごめんなさい。」
「構わんさ、けしかけたのはこっちだ。それに・・・」
狙っていたとはいえマヤを公衆の面前で辱めるような事を
した事実は変わらない。
「あの時は恨んだりもしましたけど、速水さんが
 一体何のためにあんなことをさせたのか、後から思えば
 本当にあの一件で全て変わったんです。」
真澄の心中を知ってかしらずか、マヤが柔らかな笑顔を向けてくる。
「君を再び虹の世界へ引き戻す為には、どんな狭い道でも突き進むしかない、
 その為にできることならどんなことでもすると誓っていた」
それがたとえ、一生君から恨まれることになろうとも・・・
あの頃の俺はそう思っていた。
「今でも信じられない時がある」
今、自分のすぐ側にあるこの笑顔は本当に現実のものなのだろうか。
「私も信じられません」
こうして、速水さんと一緒に堂々と外で過ごせるなんてと恥ずかしそうに
笑うマヤがとても愛おしくて、真澄はマヤの手をぎゅっと
包み込んだ。


「あっという間の1日でした」
つかの間の休息、気付けば朝の明るい日差しは赤い夕暮れへと
姿を変えていた。
「せっかくの休日に、遊びに連れ出して疲れさせたな。」
「そんなことないです。ずっと映画が見られるだけでも幸せなのに、
 今日は1日速水さんと一緒に過ごせて、その・・・」
私なんかより速水さんの方がずっと疲れているだろうに、
こうした私の為に時間を作ってくれて、嬉しいけれど
なんだか申し訳ない気もする・・・そんな思いがマヤの顔を
ほんの少しだけ曇らせた。
「わがままばかりだな」
真澄が放った急な言葉にマヤは驚いて顔をあげた。
「いや、俺がさ。普段女優だからと隠れるようにデートの
 一つにも連れて行けず、そのくせ独り占めしたくて強引に
 一緒に暮らそうとした割にろくに家にも帰れない。」
せめて海外にいる時ぐらいと、貴重な休みを返上させて
連れ出したものの、かえってマヤには負担になったのではないか、
そう思うと真澄は自分の都合でどれほどマヤを我慢させているのだろうと
罪悪感が頭をもたげてくる。
「あのドレス、すごく素敵でした。」
ふと横を見ると、夕日のせいか頬を赤くしたマヤがすこし
照れたように微笑んでいた。
「初めてのレッドカーペット、すごく緊張したけど
 あのドレス、まるで速水さんに守られているようで、
 なんだか安心しました。」
たとえ側にいなくても、速水さんはいつも私のことを一番に考えてくれてるって
私分かります。
「それに速水さん、私にいつも素敵なプレゼントをしてくれる。」
『微風のかたち』こんな素敵な作品を選んでくれた、私の為に。
「速水さんが決めたことは、全て私の為を思ってのことだから、
 全部速水さんからのプレゼントだと思ってます」
そういってにっこりと笑うマヤが切ないほど美しくて、真澄は照れを
ごまかすようにサングラスをかけ、そっとマヤの肩を抱き寄せた。


「明後日だな。」
夕食を終え、宿泊ホテルへと戻る途中、川沿いの遊歩道を2人で歩きながら、
真澄はごく自然にマヤの手をとっていた。
「ええ、すごく楽しみです。」
真澄のいう明後日が、亜弓の出演映画の上映日を指していることは
わざわざ言葉にしなくても明白だ。
「速水さんは、知っていたんですか?亜弓さんが映画祭に参加するって」
「ん?まあな。所属事務所に無断で映画にでることはしないだろう」
「ですよね」
その言葉に、去年真澄が急な仕事だと数回フランスに出張していた
ことを思い出す。
「亜弓君は、君との約束を忘れていないぞ」
マヤの手をを柔らかく握りしめながら、真澄は前を向いて語った。
「これからの一週間は、恐らく君の女優人生に取っても重要な
 一週間になるだろう。だからこそ、しっかりとその目で体に刻み込むんだ。」
 それが君に取って何より重要な経験となる」
「・・・はい。速水さん」
寒いくらいの夜風が、少しだけ体に流し込んだアルコールで火照った体に
心地よい。
無意識に真澄の手を自分の頬に当てたマヤは、
「冷たくて気持ちいい。」
と潤んだ目を真澄の方に向けた。
「酔っているのか?マヤ」
「酔うほど飲んでません、いや、もしかしたら酔っているのかも・・・」
明日からまた、非日常という名の日常に戻ってしまうなら、
今だけは、この平凡な"非日常"に酔っていたい・・・。
「マヤ、俺は少し酔ってしまったようだ」
だから、少しだけわがままを許してくれ
そういって真澄はマヤを胸にきつく抱きしめ、その
柔らかくきらめく唇を独り占めした。


ep第32話←                  →ep第34話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
速水真澄、マヤの遊園地記憶の上書きミッション完了(笑)
できれば観覧車も上書きさせてあげたかった・・・。
ついでに一緒にパスタ作りとかも・・・。
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ep第32話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-04-12 16:10:19 | ガラスの・・・Fiction
ep第31話←                  →ep第33話
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フランス国際映画祭
オープニングセレモニー翌日、マヤは終日会場で
上映される映画を見続けていた。

「こんなに映画が見れるなんて・・・・・幸せ!」
手にしたありとあらゆる映画の資料を見返しながら、マヤは
それぞれの映画の余韻に浸っていた。
「マヤちゃんはさすが若いね、朝からこんな時間まで元気で・・・」
僕なんてもう、部屋に帰って寝たいよ、といいながらスタッフと食事を囲む境。
「境さんはいつまでフランスにいらっしゃるんですか?」
「僕たちの映画が上映される週末まで。
 一足先に日本に帰るよ。せっかくだからもっといたかったけど、
 僕の事務所小さいから、油売ってる暇あったら働けって社長がうるさくてうるさくて・・・」
境の軽妙な話は、早く帰って寝たいという言葉とは裏腹に
夕食の雰囲気を盛り上げる。
「もし賞をとったら・・・なんて一切考えないんだあの社長。
 まったく、マヤちゃんの所の速水社長とは大違いだよ。」
日本から遠く離れた海外のせいか、
おれも大都拾ってくれないかな~という際どいジョークも飛び出る。
「あ、そうだマヤちゃん。マヤちゃんは最後までいるんだよね。だったら・・」
僕がもし賞を獲得したら、代わりにトロフィー受取ってよ!と片目をつぶる境。
「あ~、でもマヤちゃんはマヤちゃんでトロフィーもらうかもしれないし、一人じゃ無理か・・・」
「私が賞なんて・・・。作品が評価されれば最高です!」
あ、もちろん境さんには獲ってもらいたいけど・・・と言った言葉がまるで付けたしのようで、
是永と境は顔を見合わせて笑った。
「・・・・そういえば、姫川亜弓の映画はいつだっけ?」
目じりの笑い涙をぬぐいながら是永の口を突いて出た言葉に、一瞬卓を囲む人々が
マヤに視線を集中させた。
「えと・・・・、なんて映画だっけ・・・・」
パンフレットを必死に解読しようとするが、どこにも母国語の載ってないそれに
悪戦苦闘するマヤに、微笑みながら境が助け舟を出した。
「姫川くんの映画は確か、来週だよ。」
僕、帰っちゃうから見れないんだ、残念だなーといいながらにっこりほほ笑む。
「4日後といえば、速水社長もちょうどその頃フランス入りするよね。」
「速水は、一応『微風のかたち』の上映日に合わせて、前日フランス着のフライトを
 予定しています。しかし、日本でのプロジェクトによってはぎりぎりになるかと・・・」
同席するマヤのマネージャー大原が答えた。
「すごいよね、速水社長。あんなに多忙なのに時間作ってフランスなんて、
 ほんとフットワークが軽いというか・・・」
それに比べてうちの社長は、と境のグチが繰り返されるのをみんなで笑う楽しいひと時が
過ぎていく。 
「是永監督は、今日の上映作品はどれが良かったですか?」
境の質問に、イタリアとフランス映画を1つずつ挙げた是永に、
「私も、あのイタリアの映画好きです!特に最後のあのシーン・・・」
と役になりきって再現する。
「・・・・ちょっとまって、マヤちゃん。君いつからイタリア語話せるようになったの?」
「え?全然!日本語だってあやしいのにとんでもない!!!」
とあっけらかんとしているマヤだったが、先ほどの再現は
およそスクリーンからそのまま飛び出してきたかのように完璧なイタリア語だった。
「・・・・天才って、いるんだな。」
「・・・・ですね。」
驚きを隠せない二人を前に、マヤ本人はもう一つのフランス映画の再現も始めていた。
そして映画鑑賞後のマヤの再現という流れが、この後数日間の夜のお楽しみとして定着し、
いつしか噂を聞きつけた他の参加者たちもマヤ達の宿泊するホテルのレストランに
集まるようになり、さながら映画祭の一イベントのようになっていった。

マヤも異国での生活に慣れてきたそんな頃、いよいよ『微風のかたち』上映の日を迎えるーーーー

**
「真澄さま、このままでは・・・」
「分かっている」
大都芸能社長室の空気は殺伐としていた。
積みあがる仕事の山を荒業で処理しても次々へと溜まっていく。
フランスへ出発する日まであと2日、最悪はフランスから指示を出すとしても、
どうしても社長決裁が必要な案件だけは処理しなければならない。
「お言葉ですが、あまり無理なさってもお体に・・・」
「分かっている」
まったく事マヤがらみの事となると喜んで無理をするのだからこの上司は・・・と
鉄壁の能面の奥に悪態を隠しながら、水城は今日何杯目か分からない
ブルーマウンテンを運ぶ。
「俺もいい加減、考え方を変えた方がいいかもしれんな。」
小さくうなずく程度の動きを見せたまま、書類に向かう視線を外さない真澄が、
ようやくひと時の区切りをつけ、タバコに火をつけた。
「と、おっしゃいますと」
「いつまでも俺が全面で業務をこなせる程度では、大都芸能も
 今以上に大きくなりようがないってことだな。」
「つまりは後継者育成、ということでしょうか。」
水城の言葉に、俺はまだバリバリの現役だぞと疲れた笑いを見せた真澄だったが、
「会社は組織だ、トップダウンがいいという時代はとっくに過ぎたろう」
と早くも二本目のタバコに火をつける。
「まさにその通りですわ。少なくとも真澄さまがいつまでも大都芸能の社長のままで
 いらっしゃるという事こそ無理があります」
「おいおい俺をクビにする気か?」
もちろんそんな意味ではないことは重々承知の上で、軽口をたたく。
「少なくとも真澄さまがここ数年必死の思いで大都芸能を立て直そうとされていることは
 部下として承知しております」
もっとも、自業自得、自分の蒔いた種だったわけだけど、とこれも表情には決して出さない
有能な秘書だ。
「ここ近年の懸案事項でした鷹通グループとの関係も、ある程度決着を見せ、
 さらに若手俳優の活躍が、大都芸能を過去最高益へと導いております」
その中心に北島マヤがいるのは間違いない。
「今更ながら、俺は今この仕事の楽しさに気付き始めているよ。」
これまでは速水英介という存在が、真澄の大都芸能でのモチベーションのほとんどだった。
しかしこの業界での経験はいつしか真澄の企業人としての意識を高め、
経済人としての野心を掻き立てるものへと進化していた。
「その大きな第一歩が現在のプロジェクトですね。」
「ああ・・・。そしてその成功の可否を握るのが、現在フランスで開催されている
 映画祭だ。」
疲れすらも美しい鎧として身にまとっているような上司の精悍な横顔を見ながら、
水城はようやくこの男も『紅天女』という呪縛から解き放たれたのかもしれないと
感じていた。

持って生まれた才能と行動力で、多くの不可能を可能にしてきた若き実業家ーー
ここ数年気を抜かれたように機能不全に陥っていた日々を知る者として、
これほどうれしく頼もしいことはない。

「確かに、後継者を考えるには時期尚早ですわね。」
血筋はこだわらないとはいえ・・・・という水城の言葉に含みを感じた真澄は、
「水城くん、コーヒーをもう一杯、休憩はもう終わりだ」
と笑顔で返した。
「このままいけばなんとか予定通りに出発できそうだな」
そんな上司の独り言ともつかぬ言葉を背中で受けていた水城だったが、
その瞬間、緊急時以外はなることのないホットラインが着信を告げる音を上げた。
「・・・・・真澄さま、予定は未定となるかもしれません」
「・・・・・うむ。」

案の定、その知らせはいい知らせではなく、真澄は全ての業務を
後回しに、最優先でその問題に対処する必要を迫られた。

「水城君、大変申し訳ないのだが・・・」
「分かっております。1日遅れのフライトをキープしております。」
ギリギリですが、『微風のかたち』上映当日に着く便です、という有能な秘書の
抜かりない対応に、真澄は苦笑いすら浮かべる余裕もないまま
なんとかタイムリミットまでに事態の収拾を図っていった。

**
『微風のかたち』 上映当日のフランス
いつもと変わらぬ朝、いつもと変わらぬ穏やかな会話を繰り返しつつも、
どこか皆、緊張感を心に隠していた。

"いよいよ決戦の時・・・・か"
構想何年、満を持して制作した作品に、自信がないはずはない。
しかし、あくまで日本人が日本を舞台に作った作品、
海外の人々にどれほど伝わるのだろうか
是永の心中は様々な思いが揺らめいていた。
これ以上のキャストもスタッフもいない。全てのお膳立ては整っている。
これでだめならそれは監督としての俺の力量の限界だ

俺の演技が世界に認められるだなんて思ってもいないけど、
是永の世界観を一番表現できる俳優は俺しかいないと思ってる
だからこそ、この作品であいつに賞をとらせたい。
あいつの、あいつらしい映画を、世界に認めさせたい。
もしそれがかなわないなら、それは主演としての俺の責任だ

やっと作品をみんなに見てもらえるーーー
自分の出演する作品が、外国の人にどう映るのか本当に楽しみ。
言葉も、見た目も全然違う私達の映画、
見る人にはどのように伝わるのだろう。
伝えたいと思っていたことが、言葉も違うのにちゃんと伝わるのだろうか?
ううん、私だって、外国の言葉は全然分からなかったけど
観た映画はどれも心にしっかりと届いてきた。
是永監督の、そして境さんの演技もきっと
多くの人にその思いが届くはず。


そしていよいよ、上映開始のベルが鳴ったーーーーー


ep第31話←                  →ep第33話
~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
定期的に上司を持ち上げる、抜かりない秘書、水城登場。
ジャンジャンバリバリ働く男が大好きな私としては、
ついつい真澄さんをハードワークに陥れてしまいます。
これもすべて、フランスでマヤとまやまやランデブーするためと
諦めて頂きましょう。睡眠は飛行機内で取るべし!!
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