弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

胎児と相続2-借金って相続するの?

2015-05-10 05:55:27 | 相続
「胎児と相続1」で触れたとおり、胎児も相続人となります。

したがって、初めての子どもを妊娠中に夫が亡くなった場合、妻と生まれてくる赤ちゃんとが相続割合2分の1ずつということで夫の財産を相続することになります。

ここで注意しなければならないのが、相続とは、相続人が被相続人の財産に属した『一切の権利義務を承継する』ものであって(民法第896条)、現金や預貯金、土地・建物、自動車などといったプラス(+)の財産のみならず、借金等の負債や連帯保証人の責任などのマイナス(-)の財産も引き継ぐということです。

「借金などの負債も相続の対象となる。」

これは相続における基本ですが、意外と認識のない方も多いのではないでしょうか?

借金などの負債を相続することについては、相続人が幼児や赤ちゃん、胎児であったとしても何ら変わりはありません。

したがって、先ほどの例で、例えば、妊娠中に亡くなった夫に200万円の借金が残っているといった場合には、相続によって、妻と生まれてくる赤ちゃんは100万円ずつ借金の返済義務を引き継がなければならないということになります。


では、このような場合に生まれてくる赤ちゃんは、必ず父親の借金を背負って生きていかなければならないのでしょうか?

そんなことはありません。

相続人は、家庭裁判所に『相続放棄』の手続をすることで、被相続人の財産を相続しない(はじめから相続人とならない)ことが出来ます(民法939条)。

この相続放棄の手続きを行うことによって、預貯金等のプラス財産を一切引き継ぐことが出来なくなりますが、借金などのマイナス財産も一切引き継がないですむことが出来るのです。

もちろん、胎児も、生まれてきた後に相続放棄をすることが出来ます(※)。

この相続放棄手続ですが、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行なわなければならないとされており、胎児の場合には、出生の後、法定代理人(先ほどの例では子どもの母親)が子どもに相続が生じていることを知った時から3か月間に行わなければならないと考えられています。

この期間を過ぎてしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性がありますので要注意です。

また、例えば、相続人が亡くなった被相続人の預貯金を引き出して使ってしまうなど財産の処分行為をした場合にも、相続放棄が認められなくなる可能性がありますので、注意が必要です。


子どもの健全な経済状態を守ることは親の大切な役割のひとつですが、誰しもがある日突如としてマイナス(-)の相続を受ける可能性があることを考えると、『相続放棄』という手続きの存在を頭の片隅にもっていても損はないと思います。

そして、この『相続放棄』の手続は、家庭裁判所のHPを参照したりしてご自身で行うことも出来ますが、分かりにくいところがあったり時間的に手続が困難というような場合には、信頼できる弁護士に依頼して処理を任せたほうが安心できると思います。

※夫に借金等がある場合、子どもが生まれるまでに妻自身がすでに相続放棄の手続をしていることが多いと思いますが、この場合には、妻と生まれてくる子どもとは利益が相反しないことから、妻が子どもの法定代理人(親権者)として子どもの相続放棄の手続をとることが出来る(特別代理人の選任は不要)と考えられています。


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胎児と相続1―おなかの中の赤ちゃんは相続人?

2015-04-27 05:05:42 | 相続
1 妊娠中の赤ちゃん(胎児)も相続人の一人

妊娠中の赤ちゃん(胎児)は相続人になりうるのか?

この問題は、基本的に妻が妊娠中に夫が亡くなる場合の問題であって、パパたちにとっては想像すらしたくないことでしょうし、ママたちも(普通は)考えたくないことだと思いますが、子どもに関係した相続を考えるにあたっては最初に知っておくべき事柄ともいえます。


この点、法律は「私権の享有は、出生に始まる。」と規定しており(民法第3条第1項)、原則として、人は生まれて初めて権利義務の主体となります。

しかしながら、相続に関しては、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」との規定が設けられており(民法第886条第1項)、妊娠中の赤ちゃん(胎児)も相続人となることが明確に定められています。

したがって、例えば、妻が初めての子を妊娠中に夫が亡くなった場合、妻と生まれてきた子どもの二人が相続人となります(相続割合は、妻1/2:子ども1/2)。

このケースで、もしも妊娠中の赤ちゃん(胎児)には相続権がないとすると、妻と夫の親(もしくは祖父母)が相続人となり(相続割合は、妻2/3:夫の親〈もしくは祖父母〉1/3)、夫の両親、祖父母がいない場合には妻と夫の兄弟姉妹が相続人となる(相続割合は、妻3/4:夫の兄弟姉妹1/4)ことになることを考えると、法律が妊娠中の赤ちゃん(胎児)の権利を大切に保護していることが分かります。

2 遺産分割の方法

相続が生じると、相続財産は法定相続人の共有財産となりますが(民法898条)、各相続人の権利関係を明確にするためには相続人全員で遺産分割を行う必要があります。

ところが、相続に関して胎児が既に生まれているとみなす先程の規定は、死産であった場合には適用されないとされており(民法第886条第2項)、死産の場合、胎児は相続人でなかったことになります。

このように胎児が相続人となるかどうかは生まれてくるまで確定的でないことから、相続人に胎児がいる場合、遺産分割は胎児が生まれてきた後に行うべきであると一般的に考えられています。

そして、胎児が生まれてきた後の遺産分割の方法についてですが、普通、未成年者の子どもの法律行為は親が法定代理人となって行うことが出来ますが、親と子が同一の相続に関して共に相続人となる場合には、親と子とは利益が相反するものとされ、親は子の法定代理人となり得ないと考えられています。

したがって、母親が生まれてきた子どもと遺産分割をする場合、家庭裁判所に申立を行って、相続に利害関係のない人を子どもの特別代理人に選任してもらうことが必要となります。

母親が生まれてきた赤ちゃんのことを差し置いて自分の利益を図るなんて考えられないことのようにも思うのですが、こういったあたり、法律の世界は実にドライです。。