小生が読んだ宇月原作品の中では、もっとも分りやすい、整理されたものではないかと思います。
というのは、ほぼ時代どおりにストーリーが進んでいくことと、作品のナラティヴが、第1部は源実朝の側近の若武者の第一人称、第2部はマルコ・ポーロを中心に描く第三人称と、複雑ではないからでしょう。
従来の作品ですと、『黎明に叛くもの』では、明智光秀の第一人称での語りが挿入される意味を理解するのに、なかなか難しいものがありました。
したがって、以上のようなストーリーやナラティヴが整理されていることにより、全体に前に進むドライヴ感が生まれています。
描かれた世界は、例によって「歴史ファンタジー」とでも言えるものです。
第一部と第二部と通じた存在は、安徳天皇を封じた琥珀のような「玉」です。
ご承知のように、『平家物語』によれば安徳天皇は壇ノ浦で入水して死んでいます。
その存在が、琥珀の「玉」に封じられて、「現在」(=文永・弘安年代)へも影響を与えている、というのが、この小説の基本設定。そして、平家政権が滅亡したように、第二部では南宋の滅亡が、マルコ・ポーロの目を通して語られます。
この小説の特徴の、もう一つは抒情性でしょう。
その叙情性の頂点を形づくっているのは、安徳天皇と南宋最後の少年皇帝との「夢」の中での交情です。この部分の描写には、なかなか美しいものがあります(「第2部第2章 うつろ舟」末尾から「第3章 二天子」にかけて)。
ただし、小生は、一点だけ納得できない部分があります。
この小説は「高岳(高丘とも。たかおか)親王伝説」を踏まえているために、最後の部分で、どうしても高岳親王を登場させなければならなかった。それを導くために「水蛭子(ひるこ)」が出てくる。
この辺に、ちょっと無理があって、最後の開放感(=カタルシス)が今一つとなっています。
第1部と第2部とが、より高いレヴェルで統一される、アッと驚くような結末がほしかった、と思うのですが。
宇月原晴明
『安徳天皇漂海記』
中央公論新社
定価:1,995 円 (税込)
ISBN978-4120037054
というのは、ほぼ時代どおりにストーリーが進んでいくことと、作品のナラティヴが、第1部は源実朝の側近の若武者の第一人称、第2部はマルコ・ポーロを中心に描く第三人称と、複雑ではないからでしょう。
従来の作品ですと、『黎明に叛くもの』では、明智光秀の第一人称での語りが挿入される意味を理解するのに、なかなか難しいものがありました。
したがって、以上のようなストーリーやナラティヴが整理されていることにより、全体に前に進むドライヴ感が生まれています。
描かれた世界は、例によって「歴史ファンタジー」とでも言えるものです。
第一部と第二部と通じた存在は、安徳天皇を封じた琥珀のような「玉」です。
ご承知のように、『平家物語』によれば安徳天皇は壇ノ浦で入水して死んでいます。
その存在が、琥珀の「玉」に封じられて、「現在」(=文永・弘安年代)へも影響を与えている、というのが、この小説の基本設定。そして、平家政権が滅亡したように、第二部では南宋の滅亡が、マルコ・ポーロの目を通して語られます。
この小説の特徴の、もう一つは抒情性でしょう。
その叙情性の頂点を形づくっているのは、安徳天皇と南宋最後の少年皇帝との「夢」の中での交情です。この部分の描写には、なかなか美しいものがあります(「第2部第2章 うつろ舟」末尾から「第3章 二天子」にかけて)。
ただし、小生は、一点だけ納得できない部分があります。
この小説は「高岳(高丘とも。たかおか)親王伝説」を踏まえているために、最後の部分で、どうしても高岳親王を登場させなければならなかった。それを導くために「水蛭子(ひるこ)」が出てくる。
この辺に、ちょっと無理があって、最後の開放感(=カタルシス)が今一つとなっています。
第1部と第2部とが、より高いレヴェルで統一される、アッと驚くような結末がほしかった、と思うのですが。
宇月原晴明
『安徳天皇漂海記』
中央公論新社
定価:1,995 円 (税込)
ISBN978-4120037054