劇場公開作品の外国映画を対象に。
但し、「今年初めて観た」ものに限定したいと思います。
ベスト選出におけるこだわりは人それぞれで、
客観指標(公開年的なもの)を重視する人もいれば、
主観記憶(新旧も問わなかったり)こそを大切にする人も。
自分にも他人にも好い顔したい私としてはその中間なわけ。
また、色々と条件(という制約)を設けることで選びやすくしたかったり。
「これ、どうしても入れたいけど条件に合わないから」という理由で悩みを解消。
それに、やっぱり何だかんだで究極の自己満足作業なわけだから、
自分にとっての「しっくり」や「しんみり」で納得したいしね。
まずは対象外となる主要な作品を確認してみたり。(という言い訳)
昨年の未公開ベストで選出した『わたしたちの宣戦布告』と『ニーチェの馬』。
一昨年のラテンビートで観たり、その後も何度かブルーレイで観たりした『テトロ』。
同じように数年前のフランス映画祭で観てブルーレイも購入済みだった『預言者』。
公開決定前に輸入盤で観てしまっていた作品も昨年の印象が強いので外すことに。
『ミラノ、愛に生きる』、『アニマル・キングダム』、『ルート・アイリッシュ』、『俺の笛を聞け』。
アラン・レネの『風にそよぐ草』も一昨年のフランス映画祭関連企画で観たときの印象が
あまりにも強烈なので今年のベストからは外してしまいました。
勿論、未見の作品は対象外(当然)なのですが、
なかでもいまだ観ていないことが口惜しさ悲しさでいっぱいなのが、
『ライク・サムワン・イン・ラブ』、『孤島の王』、『桃さんのしあわせ』、『菖蒲』などなど。
とりわけキアロスタミを見逃してる自分は許せない・・・。
クラウドファンディングでも少額ながら参加し、鑑賞券も公開前に手にしながら・・・。
唯一のメリット(?)は、このベスト選出に一枠空きができたことくらい(慰め)。
ベスト10を考えるにあたり、予備リストをつくってみたところ、
30作品ほどが挙がり、その拮抗具合に呆然としたりもしました。
おまけに、明瞭に爽快に「私のベストワン!」と胸張って言える作品もなく・・・。
いや、それは不作とかでは全然なく、最上の第2位って感覚の作品が数多あった2012年。
それらは決して第3位(次点の次点)だったりはしなかったりもするので、
最も長続きしそうな幸せ成分たっぷりな作品群に埋もれた幸せ2012。
10本から外してしまった悲しみを癒やす言い訳大会は後回しにして、
とりあえず、ベスト10を。
第10位 『盗聴犯 死のインサイダー取引』(2009/フェリックス・チョン、アラン・マック)
今年は本当にアジア映画(とりわけ香港映画)が豊作だった気がする。
というか、「ようやく今年公開された」良作に心躍った一年といった方が正確か。
『ビースト・ストーカー/証人』、『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』、
『捜査官X』などなど。見逃してたり、これから観るものもありますが。
来年には早々に、『奪命金』も公開されるようだし、公開本数増えると好いな。
今年公開の傑作香港映画勢のなかから本作を10に滑り込ませた理由は、
観賞中の血潮の熱さがダントツだったから。あと、他人の強烈な後押しで観たからかも。
今年はツイッターなんかを柄にもなく(笑)細々と始めてみたわけだけど、
そんなことの嬉しい影響が、こうして邂逅の好機を堅実につかまえられたこと。
第9位 『裏切りの戦場 葬られた誓い』(2011/マチュー・カソヴィッツ)
作品の完成度とかいうよりも(別にそれが低いといっているわけではない)、
何故かどうしても「外せない」感が強すぎるパーソナルな使命感。
その一因は、私が映画の語りにおいて最も期待する非権力的パワーを感じたから。
抗権力的パワーを注入された社会派作品は多くとも、誠実さに貫かれた作品は稀少。
そのうえ、実はこのマチュー・カソヴィッツという人物には格別の思い入れがあったりも。
私がミニシアターで初めて観た映画が彼の『憎しみ』だったりする事実。
当時は、映画を観ること自体が極めて稀だった上に、ミニシアターなんて当然未知領域。
映画好きの友人の付き合いで観たのが『憎しみ』だった。(確か、シャンテの地下)
高校生でシャンテでフランス映画(しかもモノクロ)観てるって、やるじゃん>俺。
と、今になれば偶然を勝手に称賛できもするものの、実際は眠りと不可解に煩悶し通し。
映画好きの友人は観賞後にえらく感銘を受け、そのままHMVでサントラ購入。
ポカーン、キョトーンな俺。そんな自分が数年後、映画に狂い始めるとは・・・。
というわけで、カソヴィッツの方のマチューには常に「借り」を感じる存在で、
そんな彼と互いに成長した後に再会できた喜びを勝手に感じたりできたから。かも。
(俺が映画を観るようになってからのマチューは微妙な娯楽系に傾いてたからね。)
第8位 『スリープレス・ナイト』(2011/フレデリック・ジャルダン)
コメディ畑の監督がほぼ10年ぶりに撮ったコリアン・ノワールへのフレンチ・レスポンス。
脚本はカイエ・デュ・シネマ出身の批評家でもあるニコラス・サーダ、
撮影はイーストウッド組のトム・スターン。主演は大注目のトメル・シスレー。
ケミストリーが見事なタペストリー。中途半端という絶妙感が極上の狭間を放出全開!
ちなみに、原題は「Nuit blanche」。そう、「白夜」!
今年最高のリバイバル、ブレッソンの『白夜』と見事にシンクロ!?
(ちなみに、ブレッソンの『白夜』の原題は白夜の意のフランス語ではなく、
「Quatre nuits d'un rêveur(夢想家の四つの夜)」だったりするのですが。)
第7位 『ミステリーズ 運命のリスボン』(2010/ラウル・ルイス)
「魅惑」とかいう都合の好い表現でピンポンダッシュしたくなるような惹かれ方。
今年はラウル・ルイスの作品をたくさん観られた幸せが大きな事件でもあったけど
(それでもごく一部なんだよね)、そうしたことへの謝意も込みでラッキーセブン。
彼の作品が放つ異様と異彩と異形のすべてが美しさをまとってフラットに押し込められた、
そんな印象が終始観るものに心地好いのか悪いのかすら判然としない穏やかな抑圧。
今年は映画(館)のデジタル化が何かと話題になったけど、彼のデジタル化は実に魅惑。
芸術家たるもの、現実的な妥協ではない理想における闊達さとして享受して欲しい。
ところで、興行面での話題がほとんど聞こえてこないから、些か成否の具合が気になるな。
今年は他にも長尺というかセットもの(?)が多かったけど(『ジョルダーニ家の人々』、
『カルロス』、『演劇1・2』など)、これは必然の趨勢?偶然の潮流?
第6位 「きっと全て大丈夫(三部作)」(2006・2008・2012/ドン・ハーツフェルト)
(作品単体でということであれば、『なんて素敵な日』ということに。)
爆音映画祭において、映像的にも音響的にも最も恵まれたなかで観られたことに感謝。
そして、そうして出来上がった体験がもつ唯一無二性は、自己内に拡がる宇宙を
無限な夢幻にいざないながら、それは着実に外部(現実)と豊かな対話を始めてる。
過去と現在と未来が交錯し、そこからうまれている奇跡という今が愛おしくなる。
人類最上の哲学表現たる詩を瞬間的にも凌駕するかのように思える映像表現。
「映画とは何か」の問いに最も真摯かつ潔い挑発で応えようとした芸術2012の極北。
第5位 『カルロス』(2010/オリヴィエ・アサイヤス)
先述のセルフ既定(初見以外は対象外)に実は反するという・・・。
初見はWOWOWで放送された際(昨年の1月)、
昨年のラテンビートでダイジェスト版も観賞し。
ただ、そうした条件(環境)で観れば観るほど、
「いまだ観られていない」感が募るばかり。
だから、「ようやく会えた!」な今年の体験は、
「初めて観た」と言えるでしょう!(完全に言い訳)
今最も説明できない陶酔が説明できないままで大満足な作家、アサイヤス。
オリヴィエとミアと同時代に生きてその創作を同時代で見守れる幸福。
第4位 『J・エドガー』(2011/クリント・イーストウッド)
今年は初見の後、フィルムで観たくてたまらなくて再見した作品がいくつか。
その先陣をきったのが本作。そして二度目の「飛躍」がとんでもなかったのも本作。
イーストウッドの聖賢と愚昧との自由な往来は、今後どこに行くのだろう。
アメリカン・ニュー・メロドラマ。過去と未来のブローカー。ロマンチック・ギャンブラー。
第3位 『愛の残像』(2008/フィリップ・ガレル)
本当なら第1位!と叫びたいほどの心酔に頭がくらくらするほどだった・・・
が、その映像の芸術をギザなデジタルでしか観られぬ不幸がそれを妨げる。
本作のレビューにおいて「映像美」を語るだけ止めてしまった全ての評論屋が信頼できぬ。
おまえらだってフィルムで観てないくせに・・・。
日本の映画批評にジャーナリズムはないのかも。
数年前、コッポラの『テトロ』が無残な状態(DVD上映レベルの画質)で公開された際、
作品内容への賞賛だけを口にして済ませた明き盲同然の受動型陶酔体質な評者たち。
今年のデジタル化問題で最も納得いかなかったのが、評論家たちの怠慢というか、
様子見日和見な体質。作家レベルでも産業レベルでも、談合的評論の巣窟なのだろう。
閑話休題。気分転換。
ゴダールがよくわからなかった俺にも(いまでも大してわかりませんが)、
訳わからず観ては心酔しきったユスターシュやガレルは勝手に朋友なので、
これからも愛でに愛でまくっていきたい所存。
あぁ、フィルムで観られたら1回くらいは死んでも好いよ。
第2位 『裏切りのサーカス』(2011/トーマス・アルフレッドソン)
難解との前評判に、原作もちゃんと読んでからの参戦。
しかし、原作読んでからの観賞スタイルでたまにやる、「ラストだけ未読」での観賞。
そうしたアプローチも最上だったように思え、皆様同様、
ラストは一年分のカタルシスを数分で一気に消費してしまい・・・。
正直、再見がおそろしい作品でもあります。
「あの鳥」さえなければ、胸張ってベストワン!な作品になったかも。
第1位 『ル・アーヴルの靴みがき』(2011/アキ・カウリスマキ)
カウリスマキは大好きなはずだけど、「これだ!という作品」が持てていなかった・・・
ことが奏功したのか、今年のベストワンはこれにしよう!そう素直に思えたり。
公開直後にユーロスペースで観た際には、カウリスマキの色が殺されまくったDCPで
上映されており、それはもう今年最大級のガッカリを味わったものの、
早稲田松竹でのフィルム上映でようやく「会えた」悲願成就の喜びはこの上なく、
ユーロの裏切りも「このときのためだったのね」なご都合主義上等!な安直展開も最高!
このベスト10に選んだ作品の多くには、人間の悲哀が見事に刻まれているものの、
それだってきっと「はじまりは愛おしさ」なんだと私は思う。そしてそれに応える「やさしさ」。
優しさっていうのは「人」の「憂」って書くんだし。でも、憂う先にある優しさが俺は好き。
いや、そう在りたい。そう在らねば。いや、在ったら好いね。
そう素直に思わせて、優しくなれる映画が好きだ。大好きだ。
順位をつけることはナンセンスな気がしつつも、
ナンセンスほどイノセンスな営みもないわけで、
年の終わりのイノセンス。言い訳たっぷりで並べておきながら何だけど、
それでも、「言い訳たっぷり」ってことは、「それだけ語りたいことがある」というわけで、
語りたい中身も衝動もない生活に比べれば、それはそれは幸福なんだと思う。
ことしにして、一年を締めくくる。
1~5位はどれがベストワンでも全く違和感のない5本。
6位もベストワンで申し分ないのだが、ある意味「映画」の範疇を超えてもいるので。
こうやって順位をつけて並べると、個人的な趣向がまるわかりだったりするのが面白い。
(これは、他の人のベスト10を眺める時にも同様で、まるわかりな人は信頼できる。)
芸術指向(への憧れ)が強い自分が上位に顕在化しながらも、
素直に楽しみたい無垢さとエキサイトする男の子と大人の責任を感じる自分、
それらが渾然一体となってうごめく下位打線。
順位を全く逆にしてみても、ある意味「正解」だと思える部分もある。
でも、それでも、2012年の最後の日に確かだと思える「部分」で語って終わりにしたい。
以下に、ノミネート的作品を言い訳込みで書き殴り。
『ドラゴン・タトゥーの女』、『戦火の馬』、『ヒューゴの不思議な発明』、『アルゴ』。
これらは全部2回目をすぐ観に行ったほど大好きな作品だし、
観た直後は当確確信だった。
『ジェーン・エア』はキャリー・ジョージ・フクナガの前作の方が、
『SHAME-シェイム-』はスティーヴ・マックィーンの前作の方が、
好きだったり思い入れが強かったりするので、なんとなく10本から外してしまったり。
『少年と自転車』も『ミッドナイト・イン・パリ』も
『ファウスト』も『ローマ法王の休日』も実に実に素晴らしかったけど、
その隙の無さがどこか余所余所しく(〈私〉の付け入る隙がない)て選外な気分。
『人生はビギナーズ』はその裏面Ver.(違うだろ)の『J・エドガー』で代替し、
『ヤング≒アダルト』はそのオカルトVer.(もっと違う)の『愛の残像』に代替させて、
『果てなき路』は『ミステリーズ 運命のリスボン』でもっと壮大に煙に巻いてもらえば好い。
そういったシャドウ・ベスト10というセルフ・エクスキューズな思考。
あ、『キリマンジャロの雪』の今年一番の慈しみは、
『ル・アーヴルの靴みがき』に忍ばせました。
『星の旅人たち』や『マリリン 7日間の恋』、
『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』なんかは、
とにかく個人的にグッと来たし、その適度なグッと来方がたまらないんだけど、
それはベスト10とかっていう大袈裟な並びにはそぐわないので、隠す(笑)
『幸せへのキセキ』は心底好きで心底じんわりし通しだったけど、
ベスト10に入れなくても許してくれそう(誰に?)だから。
『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』の予想外の面白さは、
今年最大の落差だったわけだけど、それが贔屓目に働いていそうだし。
あと、『バトルシップ』とか『アベンジャーズ』とか『SAFE/セイフ』とかは確実に
今年5本の指に入るアドレナリン分泌観賞だたったに違いないのだが、
私はアーティスティックなシネフィルに憧れる自分づくりに精を出してるもので(笑)
そして、ひそかに今年のメガトン級感動としては、『タイタニック 3D』。
今年の当ブログを振り返って思うことは、
上記からも一目瞭然だけど、後半は全然感想記事をアップできなかったという反省。
まぁ、所詮は自己満足なんだけど、それは結構大切な自己完結でもあるように思うので、
観る/思考する/表現する(ちょっと大袈裟)、といった流れはもっていたい。
数を観すぎたりした反省もあるので、一作一作にしっかりと向き合いつつ、
その都度ケリをつけていきながら(笑)、シネマライフを謳歌したい。
来年は、仕事の都合もあって(特に春以降)、
映画を観る時間はあまり割けない可能性も高いけど、
その分、他の体験に積極的になれればと思っています。
年の瀬という節目でもあるので、改めて謝意を述べたいと思いつつ、
ほんのちっぽけな規模ではあれど、いろいろと受けた感じた厚意は少なくなく、
ただ素直にありがたい。
そして、
こんな片隅の超独善落書ゾーンを覗いてくださるすべての心優しき物数奇に感謝。
来年は別のこと、というか新しいかたちも模索していたいなぁ。などとも思案中。
2013年もよろしくお願いします。
では、また。よいお年を。