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Living Is Difficult with Eyes Opened

2012 外国映画ベスト10(後篇)

2012-12-31 15:07:42 | 2012 年間ベスト

 

劇場公開作品の外国映画を対象に。

但し、「今年初めて観た」ものに限定したいと思います。

ベスト選出におけるこだわりは人それぞれで、

客観指標(公開年的なもの)を重視する人もいれば、

主観記憶(新旧も問わなかったり)こそを大切にする人も。

自分にも他人にも好い顔したい私としてはその中間なわけ。

また、色々と条件(という制約)を設けることで選びやすくしたかったり。

「これ、どうしても入れたいけど条件に合わないから」という理由で悩みを解消。

それに、やっぱり何だかんだで究極の自己満足作業なわけだから、

自分にとっての「しっくり」や「しんみり」で納得したいしね。

 

まずは対象外となる主要な作品を確認してみたり。(という言い訳)

昨年の未公開ベストで選出した『わたしたちの宣戦布告』と『ニーチェの馬』。

一昨年のラテンビートで観たり、その後も何度かブルーレイで観たりした『テトロ』。

同じように数年前のフランス映画祭で観てブルーレイも購入済みだった『預言者』。

公開決定前に輸入盤で観てしまっていた作品も昨年の印象が強いので外すことに。

『ミラノ、愛に生きる』、『アニマル・キングダム』、『ルート・アイリッシュ』、『俺の笛を聞け』。

アラン・レネの『風にそよぐ草』も一昨年のフランス映画祭関連企画で観たときの印象が

あまりにも強烈なので今年のベストからは外してしまいました。

 

勿論、未見の作品は対象外(当然)なのですが、

なかでもいまだ観ていないことが口惜しさ悲しさでいっぱいなのが、

『ライク・サムワン・イン・ラブ』、『孤島の王』、『桃さんのしあわせ』、『菖蒲』などなど。

とりわけキアロスタミを見逃してる自分は許せない・・・。

クラウドファンディングでも少額ながら参加し、鑑賞券も公開前に手にしながら・・・。

唯一のメリット(?)は、このベスト選出に一枠空きができたことくらい(慰め)。

 

ベスト10を考えるにあたり、予備リストをつくってみたところ、

30作品ほどが挙がり、その拮抗具合に呆然としたりもしました。

おまけに、明瞭に爽快に「私のベストワン!」と胸張って言える作品もなく・・・。

いや、それは不作とかでは全然なく、最上の第2位って感覚の作品が数多あった2012年。

それらは決して第3位(次点の次点)だったりはしなかったりもするので、

最も長続きしそうな幸せ成分たっぷりな作品群に埋もれた幸せ2012。

 

10本から外してしまった悲しみを癒やす言い訳大会は後回しにして、

とりあえず、ベスト10を。

 

 

 

第10位 『盗聴犯 死のインサイダー取引(2009/フェリックス・チョン、アラン・マック)

   今年は本当にアジア映画(とりわけ香港映画)が豊作だった気がする。

   というか、「ようやく今年公開された」良作に心躍った一年といった方が正確か。

   『ビースト・ストーカー/証人』、『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』、

   『捜査官X』などなど。見逃してたり、これから観るものもありますが。

   来年には早々に、『奪命金』も公開されるようだし、公開本数増えると好いな。

   今年公開の傑作香港映画勢のなかから本作を10に滑り込ませた理由は、

   観賞中の血潮の熱さがダントツだったから。あと、他人の強烈な後押しで観たからかも。

   今年はツイッターなんかを柄にもなく(笑)細々と始めてみたわけだけど、

   そんなことの嬉しい影響が、こうして邂逅の好機を堅実につかまえられたこと。

 

 

 

第9位 『裏切りの戦場 葬られた誓い』(2011/マチュー・カソヴィッツ)

   作品の完成度とかいうよりも(別にそれが低いといっているわけではない)、

   何故かどうしても「外せない」感が強すぎるパーソナルな使命感。

   その一因は、私が映画の語りにおいて最も期待する非権力的パワーを感じたから。

   抗権力的パワーを注入された社会派作品は多くとも、誠実さに貫かれた作品は稀少。

   そのうえ、実はこのマチュー・カソヴィッツという人物には格別の思い入れがあったりも。

   私がミニシアターで初めて観た映画が彼の『憎しみ』だったりする事実。

   当時は、映画を観ること自体が極めて稀だった上に、ミニシアターなんて当然未知領域。

   映画好きの友人の付き合いで観たのが『憎しみ』だった。(確か、シャンテの地下)

   高校生でシャンテでフランス映画(しかもモノクロ)観てるって、やるじゃん>俺。

   と、今になれば偶然を勝手に称賛できもするものの、実際は眠りと不可解に煩悶し通し。

   映画好きの友人は観賞後にえらく感銘を受け、そのままHMVでサントラ購入。

   ポカーン、キョトーンな俺。そんな自分が数年後、映画に狂い始めるとは・・・。

   というわけで、カソヴィッツの方のマチューには常に「借り」を感じる存在で、

   そんな彼と互いに成長した後に再会できた喜びを勝手に感じたりできたから。かも。

   (俺が映画を観るようになってからのマチューは微妙な娯楽系に傾いてたからね。)

 

 

 

第8位 『スリープレス・ナイト』(2011/フレデリック・ジャルダン)

   コメディ畑の監督がほぼ10年ぶりに撮ったコリアン・ノワールへのフレンチ・レスポンス。

   脚本はカイエ・デュ・シネマ出身の批評家でもあるニコラス・サーダ、

   撮影はイーストウッド組のトム・スターン。主演は大注目のトメル・シスレー。

   ケミストリーが見事なタペストリー。中途半端という絶妙感が極上の狭間を放出全開!

   ちなみに、原題は「Nuit blanche」。そう、「白夜」!

   今年最高のリバイバル、ブレッソンの『白夜』と見事にシンクロ!?

   (ちなみに、ブレッソンの『白夜』の原題は白夜の意のフランス語ではなく、

    「Quatre nuits d'un rêveur(夢想家の四つの夜)」だったりするのですが。)

 

 

 

第7位 『ミステリーズ 運命のリスボン』(2010/ラウル・ルイス)

   「魅惑」とかいう都合の好い表現でピンポンダッシュしたくなるような惹かれ方。

   今年はラウル・ルイスの作品をたくさん観られた幸せが大きな事件でもあったけど

   (それでもごく一部なんだよね)、そうしたことへの謝意も込みでラッキーセブン。

   彼の作品が放つ異様と異彩と異形のすべてが美しさをまとってフラットに押し込められた、

   そんな印象が終始観るものに心地好いのか悪いのかすら判然としない穏やかな抑圧。

   今年は映画(館)のデジタル化が何かと話題になったけど、彼のデジタル化は実に魅惑。

   芸術家たるもの、現実的な妥協ではない理想における闊達さとして享受して欲しい。

   ところで、興行面での話題がほとんど聞こえてこないから、些か成否の具合が気になるな。

   今年は他にも長尺というかセットもの(?)が多かったけど(『ジョルダーニ家の人々』、

   『カルロス』、『演劇1・2』など)、これは必然の趨勢?偶然の潮流?

 

 

第6位 「きっと全て大丈夫(三部作)」(2006・2008・2012/ドン・ハーツフェルト)

   (作品単体でということであれば、『なんて素敵な日』ということに。)

   爆音映画祭において、映像的にも音響的にも最も恵まれたなかで観られたことに感謝。

   そして、そうして出来上がった体験がもつ唯一無二性は、自己内に拡がる宇宙を

   無限な夢幻にいざないながら、それは着実に外部(現実)と豊かな対話を始めてる。

   過去と現在と未来が交錯し、そこからうまれている奇跡という今が愛おしくなる。

   人類最上の哲学表現たる詩を瞬間的にも凌駕するかのように思える映像表現。

   「映画とは何か」の問いに最も真摯かつ潔い挑発で応えようとした芸術2012の極北。

 

 

 

第5位 『カルロス』(2010/オリヴィエ・アサイヤス)

   先述のセルフ既定(初見以外は対象外)に実は反するという・・・。

   初見はWOWOWで放送された際(昨年の1月)、

   昨年のラテンビートでダイジェスト版も観賞し。

   ただ、そうした条件(環境)で観れば観るほど、

   「いまだ観られていない」感が募るばかり。

   だから、「ようやく会えた!」な今年の体験は、

   「初めて観た」と言えるでしょう!(完全に言い訳)

   今最も説明できない陶酔が説明できないままで大満足な作家、アサイヤス。

   オリヴィエとミアと同時代に生きてその創作を同時代で見守れる幸福。

 

 

第4位 『J・エドガー』(2011/クリント・イーストウッド)

   今年は初見の後、フィルムで観たくてたまらなくて再見した作品がいくつか。

   その先陣をきったのが本作。そして二度目の「飛躍」がとんでもなかったのも本作。

   イーストウッドの聖賢と愚昧との自由な往来は、今後どこに行くのだろう。

   アメリカン・ニュー・メロドラマ。過去と未来のブローカー。ロマンチック・ギャンブラー。

 

 

第3位 『愛の残像』(2008/フィリップ・ガレル)

   本当なら第1位!と叫びたいほどの心酔に頭がくらくらするほどだった・・・

   が、その映像の芸術をギザなデジタルでしか観られぬ不幸がそれを妨げる。

   本作のレビューにおいて「映像美」を語るだけ止めてしまった全ての評論屋が信頼できぬ。

   おまえらだってフィルムで観てないくせに・・・。

   日本の映画批評にジャーナリズムはないのかも。

   数年前、コッポラの『テトロ』が無残な状態(DVD上映レベルの画質)で公開された際、

   作品内容への賞賛だけを口にして済ませた明き盲同然の受動型陶酔体質な評者たち。

   今年のデジタル化問題で最も納得いかなかったのが、評論家たちの怠慢というか、

   様子見日和見な体質。作家レベルでも産業レベルでも、談合的評論の巣窟なのだろう。

   閑話休題。気分転換。

   ゴダールがよくわからなかった俺にも(いまでも大してわかりませんが)、

   訳わからず観ては心酔しきったユスターシュやガレルは勝手に朋友なので、

   これからも愛でに愛でまくっていきたい所存。

   あぁ、フィルムで観られたら1回くらいは死んでも好いよ。

 

 

第2位 『裏切りのサーカス』(2011/トーマス・アルフレッドソン)

   難解との前評判に、原作もちゃんと読んでからの参戦。

   しかし、原作読んでからの観賞スタイルでたまにやる、「ラストだけ未読」での観賞。

   そうしたアプローチも最上だったように思え、皆様同様、

   ラストは一年分のカタルシスを数分で一気に消費してしまい・・・。

   正直、再見がおそろしい作品でもあります。

   「あの鳥」さえなければ、胸張ってベストワン!な作品になったかも。

 

 

第1位 『ル・アーヴルの靴みがき』(2011/アキ・カウリスマキ)

   カウリスマキは大好きなはずだけど、「これだ!という作品」が持てていなかった・・・

   ことが奏功したのか、今年のベストワンはこれにしよう!そう素直に思えたり。

   公開直後にユーロスペースで観た際には、カウリスマキの色が殺されまくったDCPで

   上映されており、それはもう今年最大級のガッカリを味わったものの、

   早稲田松竹でのフィルム上映でようやく「会えた」悲願成就の喜びはこの上なく、

   ユーロの裏切りも「このときのためだったのね」なご都合主義上等!な安直展開も最高!

   このベスト10に選んだ作品の多くには、人間の悲哀が見事に刻まれているものの、

   それだってきっと「はじまりは愛おしさ」なんだと私は思う。そしてそれに応える「やさしさ」。

   優しさっていうのは「人」の「憂」って書くんだし。でも、憂う先にある優しさが俺は好き。

   いや、そう在りたい。そう在らねば。いや、在ったら好いね。

   そう素直に思わせて、優しくなれる映画が好きだ。大好きだ。

 

 

順位をつけることはナンセンスな気がしつつも、

ナンセンスほどイノセンスな営みもないわけで、

年の終わりのイノセンス。言い訳たっぷりで並べておきながら何だけど、

それでも、「言い訳たっぷり」ってことは、「それだけ語りたいことがある」というわけで、

語りたい中身も衝動もない生活に比べれば、それはそれは幸福なんだと思う。

ことしにして、一年を締めくくる。

 

1~5位はどれがベストワンでも全く違和感のない5本。

6位もベストワンで申し分ないのだが、ある意味「映画」の範疇を超えてもいるので。

こうやって順位をつけて並べると、個人的な趣向がまるわかりだったりするのが面白い。

(これは、他の人のベスト10を眺める時にも同様で、まるわかりな人は信頼できる。)

芸術指向(への憧れ)が強い自分が上位に顕在化しながらも、

素直に楽しみたい無垢さとエキサイトする男の子と大人の責任を感じる自分、

それらが渾然一体となってうごめく下位打線。

順位を全く逆にしてみても、ある意味「正解」だと思える部分もある。

でも、それでも、2012年の最後の日に確かだと思える「部分」で語って終わりにしたい。

 

以下に、ノミネート的作品を言い訳込みで書き殴り。

 

ドラゴン・タトゥーの女』、『戦火の馬』、『ヒューゴの不思議な発明』、『アルゴ』。

これらは全部2回目をすぐ観に行ったほど大好きな作品だし、

観た直後は当確確信だった。

 

テイク・シェルター』はジェフ・ニコルズの前作の方が、

『ジェーン・エア』はキャリー・ジョージ・フクナガの前作の方が、

SHAME-シェイム-』はスティーヴ・マックィーンの前作の方が、

好きだったり思い入れが強かったりするので、なんとなく10本から外してしまったり。

 

少年と自転車』も『ミッドナイト・イン・パリ』も

『ファウスト』も『ローマ法王の休日』も実に実に素晴らしかったけど、

その隙の無さがどこか余所余所しく(〈私〉の付け入る隙がない)て選外な気分。

 

人生はビギナーズ』はその裏面Ver.(違うだろ)の『J・エドガー』で代替し、

ヤング≒アダルト』はそのオカルトVer.(もっと違う)の『愛の残像』に代替させて、

果てなき路』は『ミステリーズ 運命のリスボン』でもっと壮大に煙に巻いてもらえば好い。

そういったシャドウ・ベスト10というセルフ・エクスキューズな思考。

あ、『キリマンジャロの雪』の今年一番の慈しみは、

『ル・アーヴルの靴みがき』に忍ばせました。

 

『星の旅人たち』や『マリリン 7日間の恋』、

『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』なんかは、

とにかく個人的にグッと来たし、その適度なグッと来方がたまらないんだけど、

それはベスト10とかっていう大袈裟な並びにはそぐわないので、隠す(笑)

 

『幸せへのキセキ』は心底好きで心底じんわりし通しだったけど、

ベスト10に入れなくても許してくれそう(誰に?)だから。

『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』の予想外の面白さは、

今年最大の落差だったわけだけど、それが贔屓目に働いていそうだし。

 

あと、『バトルシップ』とか『アベンジャーズ』とか『SAFE/セイフ』とかは確実に

今年5本の指に入るアドレナリン分泌観賞だたったに違いないのだが、

私はアーティスティックなシネフィルに憧れる自分づくりに精を出してるもので(笑)

 

そして、ひそかに今年のメガトン級感動としては、タイタニック 3D

 

 

今年の当ブログを振り返って思うことは、

上記からも一目瞭然だけど、後半は全然感想記事をアップできなかったという反省。

まぁ、所詮は自己満足なんだけど、それは結構大切な自己完結でもあるように思うので、

観る/思考する/表現する(ちょっと大袈裟)、といった流れはもっていたい。

数を観すぎたりした反省もあるので、一作一作にしっかりと向き合いつつ、

その都度ケリをつけていきながら(笑)、シネマライフを謳歌したい。

 

来年は、仕事の都合もあって(特に春以降)、

映画を観る時間はあまり割けない可能性も高いけど、

その分、他の体験に積極的になれればと思っています。

 

年の瀬という節目でもあるので、改めて謝意を述べたいと思いつつ、

ほんのちっぽけな規模ではあれど、いろいろと受けた感じた厚意は少なくなく、

ただ素直にありがたい。

そして、

こんな片隅の超独善落書ゾーンを覗いてくださるすべての心優しき物数奇に感謝。

 

来年は別のこと、というか新しいかたちも模索していたいなぁ。などとも思案中。

2013年もよろしくお願いします。

では、また。よいお年を。

 


2012 外国映画ベスト10(前篇)

2012-12-31 02:03:38 | 2012 年間ベスト

 

昨年同様、劇場公開された作品とは別にベスト10を選出。

映画祭や特集上映などで観たものから10本を選んでみました。

日本初公開の作品を対象にしています。

 

 

第10位 『エピローグ』(2012/アミール・マノール)

第13回東京フィルメックスにて観賞。(コンペティション部門)

 

 

 

第9位 『影の列車』(1997/ホセ・ルイス・ゲリン)

ホセ・ルイス・ゲリン映画祭にて観賞。

 

 

 

第8位 『大陸』(2011/エマヌエーレ・クリアレーゼ)

イタリア映画祭2012にて観賞。

 

 

 

第7位 『リアリティー』(2012/マッテオ・ガローネ)

第25回東京国際映画祭にて観賞。(ワールドシネマ部門)

 

 

 

第6位 『騎士の名誉』(2006/アルベルト・セラ)

カプリッチ・フィルムズ・ベスト・セレクション(日仏学院)にて観賞。

 

※『鳥の歌』(2008)も気分的には同じ第6位扱いです。

 

 

 

第5位 『3人のアンヌ』(2012/ホン・サンス)

第13回東京フィルメックスにて観賞。(特別招待作品)

 

 

 

第4位 『5月の後』(2012/オリヴィエ・アサイヤス)

第25回東京国際映画祭にて観賞。(ワールドシネマ部門)

 

 

 

第3位 『ピエタ』(2012/キム・ギドク)

第13回東京フィルメックスにて観賞。(特別招待作品)

 

 

 

第2位 『向かいにある夜』(2011/ラウル・ルイス)

ラウル・ルイス特集上映 フィクションの実験室(日仏学院)にて観賞。

 

 

 

第1位 『グッバイ・マイ・ファースト・ラヴ』(2011/ミア・ハンセン=ラブ)

 [劇場公開タイトル:グッバイ・ファーストラブ]

フランス女性監督特集(日仏学院)にて観賞。

 

 

作品単体での好みのみならず、

それぞれの映画祭や特集上映に対する個人的感慨の後ろ盾の影響が強いかも。

上位5作品はどれが1位でも差し障りがない(その時の気分で変わりそうな)印象。

ミア&オリヴィエは特別だし、ラウルは格別、キム・ギドクとホン・サンスは自己新に興奮。

今年は映画祭や特集上映などでもデジタル上映の比率が急上昇。

上記10作のうち、フィルム観賞できたのは3本のみ。

『グッバイ~』、『大陸』、『影の列車』。

 

来年の劇場公開が決まってるのは4本。

『グッバイ・ファーストラブ』(シアターイメージフォーラム)、『ピエタ』(ル・シネマ)、

『3人のアンヌ』(シネマート新宿)、『大陸』(岩波ホール)。

(『影の列車』は、来年2・3月のJLG映画祭@下高井戸シネマで上映されます。)

公開されそうな気がするのは、『5月の後』と『リアリティー』くらいかな。

『エピローグ』はフィルメックスでのグランプリを後ろ盾にもしかしたら?

ラウル・ルイスは日本語字幕も入れて大レトロスペクティヴして欲しい・・・。

アルベルト・セラは作風的にも難しいだろうけれど、

何かしらの映画祭あたりに混入してくれないかなぁ・・・。

 

(その他)

昨年の300本弱から400本強へと劇場観賞本数が急増してしまった最たる原因は、

映画祭や特集上映に足繁く通ってしまったからかもしれません。

未知の才能との邂逅求め、未知の才能との純粋な対話に耽る。

そんな魅惑の映画祭や特集上映での観賞体験を貪った一年でした。

勿論、先物買いして「先見の明がある」と思われたい欲求が人一倍強いのもある(笑)

ただ、そのせいで録画したものや海外からとりよせた未公開作品などを観る時間が不足。

来年はそうした自力観賞にも力を入れていけたらな、と思います。

 

上記の作品以外に心に残った作品を振り返ってみると。

まず今年の最大の出会いでもあったラウル・ルイス作品群はどれもが愛おしいものでした。

ベスト10では代表して遺作を挙げましたが、『ファドの調べ』『夢の中の愛の闘い』あたりは

余裕で年間ベスト級。『ミステリーズ~』をベスト10(後篇)でどうしようかなぁ・・・。

 

イタリア映画祭は今年も多くの作品をフィルム上映してくれて、豊かな出会いの場。

『七つの慈しみ』では荒削りだからこそ味わえる気鋭の醍醐味を堪能しましたし、

『錆び』や『至宝』のような堅実ながらも一癖ある尖鋭に魅せられたり。

 

フランス映画祭ではほとんどが公開予定作品の上映になってしまい残念んだったが、

ゲスト登壇による質疑応答などは充実しており、

『わたしたちの宣戦布告』の「最強のふたり」に会えた悦びは一入。

来年はもうすこしチャレンジングなプログラミングに期待。

 

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭では小品が多い印象ながら、

その「佳作ぶり」が妙に愛おしかったりする。そこがあの映画祭の魅力かも。

グランプリの『二番目の妻』は、『ルルドの泉で』や『ミヒャエル』などにも通ずる作風で、

中途半端にウェッティなハネケ風といった大好物群に仲間入り。

イスラエル映画の『レストレーション~修復~』は『エピローグ』とも通ずる透明感。

『真実の恋』(来年のトーキョーノーザンライツフェスティバルで上映)もよく出来てたな。

 

私の秋の映画祭シーズンはラテンビートから始まった。

今年は初めて横浜遠征(というほどでもないだろ)もしたりして、思い出深し。

『Estudiante』『獣たち』『マリアの選択』はベスト10に入れてもおかしくないほど好み。

『獣たち』はカルロス・レイガダスやアルベルト・セラなんかが大好きな自分は終始ツボ、

『マリアの選択』は前述のウィーン・ニューウェーヴ(勝手に命名)といった趣。

なかでも『Estudiante』の独特な語りとテンポは印象深い。再会祈願。

 

東京国際映画祭は、コンペとワールドシネマ部門を中心に多くの作品を観られた。

(今年は仕事のスケジュールが偶然にもTIFF仕様とでも言うほど恵まれていたもので)

コンペでは『ハンナ・アーレント』(来年、岩波ホールにて公開予定)の底力が静謐ロック、

『NO』には日本社会を相対化する数多のヒントを頂きながら、

『天と地の間のどこか』でトルコ映画の挑戦を厭わぬ気迫を浴びた。

ワールドシネマ部門は今年も充実で、『ヒア・アンド・ゼア』との邂逅は大切にしたいし、

『インポッシブル』(祝公開決定)の覚悟と根性は今年観たどの作品よりも図抜けてた。

『レイモン・ドゥパルドンのフランス日記』は、どの作品にも触れてもらえぬ琴線振動。

『闇の後の光』は絶対にベスト10入れたいレイガダスの新作だし、かなり好きだけど、

消化しきれていないのと、『ハポン』『静かな光』の感動がいまだに強烈過ぎて。

社会に対して能動的ながら芸術で語ろうとするベロッキオの矜持は益々旺盛で、

最も敬愛する監督の一人であるが彼の新作『眠れる美女』も傑作には違いないが、

映画祭での上映は納得のいく環境(というか素材)ではなかった為に、鑑賞は未完成。

 

東京フィルメックスは今年も強力ラインナップで(但し、特別招待作品が・・・ね)、

ホン・サンス、キム・ギドク、ワン・ビン、アピチャッポン・ウィーラセタクン、

バフマン・ゴバディ、モフセン・マフマルバフの新作が一挙に紹介されるという豪華さ。

おまけに、オムニバス映画ではペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、

そしてマノエル・ド・オリヴェイラの最新短篇にまで触れられるという。

アモス・ギタイとの過剰な蜜月には些か疑問だが、イスラエル映画傑作選における

アバンチ・ポポロ』との出会いには感謝したい。

 

今年はアテネフランセ文化センターからやや足が遠退きがちだった・・・。

マルグリット・デュラス特集での場内雰囲気があまりにも苦手に思えてしまって以来、

不健康とペダンチックにまみれまくった空気に少々嫌気が差し始めたのかも。

でも、「権威に承認された」作家の作品には観客が溢れるくせに、

まだ認知されていない作家の特集上映などには人が集まらない不健全。

発見されたものを後追いするばかりじゃ面白くないだろうに。

激減したアテネ通いのなかでも、傑作との出会いはあるもので、

ワンダ』の特別上映やモーリス・エンゲル=ルース・オーキン特集は「事件」級。

今年は本人にも何度か会えたトーマス・アルスラン特集も忘れがたい贅沢。

(それらは2012年という括りにはそぐわない気もしてベスト選出対象外だけどベスト級)

 

そして、今年最も充実していた、最も信頼できるシアターが東京日仏学院。

9月からの名を、アンスティチュ・フランセ東京。

『グッバイ~』をニュープリントで上映してくれたフランス女性監督特集では、

『スカイラブ』(来年3月にイメフォで公開)も『ナナ』も紹介されるべき充実作でした。

また、悲願のミア・ハンセン=ラブ処女作『すべてが許される』の観賞が叶った喜びも。

アルベルト・セラを紹介してくれたカプリッチの特集や、

ラウル・ルイスの作品群を二度に渡って上映してくれたり。

秋の特集「映画とシャンソン」ではクリストフ・オノレの2作に心酔し、

アレックス・ボーパンのライブやジャン=マルク・ラランヌの講演まで企画され、

至れり尽くせり。そして、セルジュ・ボゾンの『フランス』(2006)は本当に傑作!

即日DVDを購入(@海外Amazonマーケットプレイス)したくらい気に入りました。

そして、来年は早々に第16回カイエ・デュ・シネマ週間という必見三昧特集が!

 

番外編としては、森美術館で開催された「アラブ・エクスプレス展」で来日した

ジョアナ・ハッジトマス&ハリール・ジョレイジュの『完全な一日』と『私は見たい』の上映が

印象的だった(東京日仏学院との提携企画)。二人も登壇したトークショーには深い感銘を。

その内容を記事にせねばと思いつつ、結局書き上げられなかった・・・。

しかし、この『私は見たい』(カトリーヌ・ドヌーヴが破壊されたベイルートを見て回る)を

観たことが、「今更ながら」という引け目を乗り越え被災地に足を踏み入れてみる決心に。

そういった意味では、今年最も自分を現実的に動かした映画と言えるだろう。

 


2012年 日本映画ベスト5

2012-12-29 15:22:19 | 2012 年間ベスト

 

昨年のベスト10は外国映画のみで選出したので、

今年は日本映画でもベスト10をやってみようかと。

昨年は日本映画を積極的に観た気がしなかったので止めたものの、

今年は日本映画を我ながらそこそこ積極的に観た気がするので。

でも、実際にカウントしてみると合計73本。そのうち旧作が12本。

新作はそんなものかなとは思うものの、旧作日本映画をもっと観るべき。

とは思いつつも・・・などと述懐し始めるとキリがないので、とりあえず前進。

というわけで、観賞の本数も本数だし、名画座通いも億劫気味な若輩によるリスト。

母数も母数だし、いざ順位つけて並べてみようと思ったら6本以上はキツかったので、

今回はベスト5本を選んでみることに。今回は1位からはじめよう。

 

第1位 『親密さ(long version)』(濱口竜介)

ベスト選出、ましてや順位をつけるとなると、人それぞれの尺度があり、

その照準アプローチにその人の思考の傾向なんかが顕れたりすると思う。

私の場合、よりパーソナルな自己顕示。差別化されたい欲とポピュラリティのせめぎあい。

というわけで、素直に並べれば今回は第2位が第1位に落ち着くのが自然ながら、

理由というか言い訳を見つけてはそれを回避したがる自我むくむく。

そういう無垢じゃないとこ善くない!と思いながらも愛でる自己がいる。

そういう思考回路もひっくるめて「その時の自分」という想い出。

ベストの選び方や並べ方って、私の場合は未来の自分を意識して決めたりする。

ま、小洒落た言い方してるつもりだけど、要はその時の直感とそれを操作したがる自我、

それらの格闘が後からふり返った時に「微笑ましい」レベルにおさまる程度の気恥ずかしさ、

くらいは許容しながら記してみる。という痛々しさを容認することで得た気の免罪符。

・・・あいかわらず前置き好きという名のエクスキューズ魔だな、俺。

 

本作が他の作品から傑出してる点は色々挙げられど、

今年のベスト1として選ぶ理由はただ一つ。唯一無二の体験、それにつきる。

それは、作品自体がもつ魅力のみならず、それを享受する5W1Hすべてが根拠。

連夜通い続けた真夏のオーディトリウム渋谷。濱口竜介レトロスペクティヴ。

その真ん中で観た本作。オールナイト。

あの時あの場所にしか在り得なかったことを強烈に感じられる時間と空間。

そこに在ったすべてが、スクリーンから迫り、自らに沸き起こり、

観客たちのそれらが埋め尽くす場内の空気、そういったすべてが、

鮮やかに醒め続ける、真夏の夜の夢。忘れがたき、今年の事件。

 

今後、たとえ二度と観ることができなかったとしても、

本作を観た「一度」の価値は何ら影響されることのない絶対性が宿ってる。

 

 

第2位 『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八)

もう何を語ったとしても当たってそうだし外れてそうなので、語るのは難しい。

でも、いつまでも語っていたい物語の萌芽コレクションであったりもする幸福なジレンマ。

『親密さ』が鮮烈な「たった一度」を刻まれた現在碑のようなものであるならば、

『桐島、~』は何度も何度も生まれ変われる過去の鮮やかな反復。

自らの過去は勿論のこと、作品を観た経験が「過去」という新たな価値をもつ。

〈現在〉では気づけぬこと、見えぬもの。それが〈過去〉になることで語れる可能性。

だから、観るたびに更新され、反復は繰り返しではなく、反応であり復活。

これは或る意味、コール・アンド・レスポンス?普遍的な一回性。一回性の普遍性。

原点とは起点であり、起点には原点がある。そして、皆、それをどこかで大切に思う。

重要なのは、それが「何か」ではなくて、それを「どう思うか」なのだと教えてくれる。

そして、そこにある酸いも甘いは色褪せないかわりにいくらでも転がせるのだ。

こんなにも〈感覚〉を容赦なく研磨してくれる作品の存在はやっぱり今年の事件。

 

 

第3位 『やくたたず』『playback』(三宅唱)

同率3位というよりは、セットで3位。ずるい・・・いやいや、正式には『playback』です。

でも、その前作にあたる『やくたたず』を無視できないし、

あれを観たからこその3位でもあるので。

正直、まだうまく語れないので、これは年明けにもう一度観て、

それから語りたい。年越しの宿題ひとつ。

濱口竜介が異様な親密さを感じるならば、

三宅唱には適度な距離感を感じ、

その絶妙なドライとウェットの狭間に漂う心地好さ。

 

 

第4位 『フラッシュバックメモリーズ3D』(松江哲明)

究極の一回性。

以前、私は大好物は反復したがる性向であったのに、

最近の私には、大好物は真空パックで永久保存という選択も。

本作はまさにそうなりそうな気がしています。(『親密さ』にもやや似た感慨が)

それは繰り返し観たくないとか、観ることで何か得られそうにないとかでは全然なく。

いわば「ライブ」に近い感覚による享受なのかもしれません。不用意に上書きしたくない。

自分が行ったライブを映像で後から観るような感覚が、再見では生まれそうな予感。

実際のライブと映像の関係ならば、実は別物であるが故の増幅や更新もありそうながら、

映像の場合は(時空は異なるとはいえ)同じものとの再会が矮小化で上書きされる懸念。

それだけ、最初に味わった一回性を永遠として封印しておきたい衝動が続く観後の感。

逆説的というか独善的な解釈かもしれないが、本作はフラッシュバックを謳いながらも、

実はフラッシュバックとの訣別をも謳っているように思う。ならば、プレイバック自主規制。

消え去ろうとする記憶と、より鮮やかに浮かび上がる記憶。作品のもつレイヤーは、

奥行と浮上という記憶の3D化を促しもするだろう。

 

 

と、ここまでの4本はサクサクと挙げられたのに、ラスト1本が迷う。

入れても好いなぁと思える作品はそこそこあれど、決め手に欠ける。

ちなみに、次点なものとして軽く回顧してみると、

『ロボジー』、『鍵泥棒のメソッド』、『黄金を抱いて飛べ』などは好きな監督の新作で、

そこそこ満足はしたものの、そこに何らかの〈更新〉を味わえることのない物足りなさも。

『愛と誠』と『悪の教典』で継続に新味をまぶしもされた相変わらずの三池作品は

やっぱり好きで大好きだけど、職人芸に感服しつつも、改めてランクインな気分でもない。

『I'm Flash!』は豊田監督の復活というか帰還というかブレイクスルーを感じもしたけど、

その先の方に感じる可能性にこそ想いを馳せたくもあり。同様に、

『ひとつの歌』の存在価値が絶対性を確かなものにするのは、今後による気もするので。

『ふがいない僕は空を見た』は個人的予想外な素晴らしさながら、

その「予想外(=個人的趣味では本来ない)」が何となく気分的阻害を。

必見な作品ながら未見のものも結構あり、『この空の花火』や『演劇1・2』は来年必ず。

『アウトレイジ ビヨンド』は前作との対照も興味深く、北野監督の偉大さは健在で、

第5位に埋めて締まりも座りもよくなるのは重々承知だが・・・。

 

もうね、最近ちょっと映画観ることに疲れ始めてて、

(それもあって?)ブログで文章書くのも億劫になりつつあったけど、

久々に熱っぽく色々書き殴りたい衝動に駆り立ててくれた作品を5位に据えるのだ!

 

 

第5位  監督:坂本浩一/脚本:浦沢義雄・中島かずき

仮面ライダー×仮面ライダー ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』

この手の作品について語るリテラシーも技量もなければ、ましてや説ける自信もない。

しかし、その醍醐味を全身で浴びる準備は日本男子の多くに潜在してるはず。

ならば、それを引き継いだ大人向けアクション映画が何故日本で盛り上がらないのか?

いや、狭義なアクションに限らず、本作にあるのは身体以上の心の躍動。

見える部分での動きもバッチリなら、見えない部分も常に牽引してくれる信頼がある。

何より、作り手が自らの使命(子供を楽しませる)を十分に認識し遂行しながらも、

自らの矜持をも遺憾なく発揮してやろうという気迫と享楽が誠実にあふれてる。

94分、全力疾走。映画体験、総動員。どこをきっても、メッセージ。

「仮面ライダー部は宇宙の全員と友達になる部活!」という登場人物の台詞は、

「仮面ライダーの映画は全員と友達になれる映画!」という志の宣言のようで痛快。

ただ、そうした精神はやはり受け手にも必要で、その念喚起させてくれた観客の子供たち。

その歓声には純粋に心から発せられるハラハラドキドキワクワクイェーイ!

日本映画における発信と受信の悪循環というか堕落コラボの一端は、

娯楽志向の観客と芸術志向の観客の分断と、その各々で生じる閉塞性にあると思う。

そして、そうしたウジウジじめじめを無意識にも粉砕してくれた本作の歓喜。

今の日本映画に欠けているものの総てを体感できた、思いがけない冒険。

やっぱり娯楽映画(芸術性や表現に重きを置く映画ではなく)には、

「楽しませる」ことに誠実であることが第一で、その上で感じられる覚悟や意気が最高さ。

映画、それはモーション・ピクチャー。動くことの魅力を伝えられない映画は写真の亜流。

身も心も動け、動け。動け、死ぬな、甦る!

 

 

 

 

 

 

ちなみに、『仮面ライダー~』に関してはテレビ版も映画版も全然観ていません。

ただ、10年以上前、心の師に導かれ劇場観賞をした感動が記憶の隅に・・・。

今回、TOHOシネマズの1ヶ月フリーパスポート取得記念で「らしい」観賞したさで

選んだという不純さながら、そういうところにこそ転がっているものですね、幸せは。