この年度末最後の週末(というか最終日)には、映画ファン必見の作品が一挙公開。
(ライアン・ゴズリングの2本一挙もすごいが、
ケン・ローチとダルデンヌ兄弟の作品が同日公開って、盆と正月がいっぺんに・・・だよ)
正直、分散させてくれ(期待値高かったり結果傑作だったりするとハシゴできない!)
という気持半分、武者震い(笑)半分、
これから一週間は心身共に疾風怒濤な一週間になるだろう。
私は今週ずっとオフだったので、封切がもう一週早ければどんなに助かったことか・・・
と恨めしく思いつつ、よりによって昨日今日は出かけることができなくて、
そんなヤサグレ気分で(本来、「やさぐれる」って家出する意なんだと・・・逆じゃん)
普段観られない積観タワーの一角でも崩せればと思いつつ、
未公開外国映画観賞を決意。
しかし、初見は疲れるし(笑)とか思って、
ちょうど一年前くらいに観た『SEBBE』をまず再見。やっぱり大好きな映画だった。
昨年のゴールデン・ビートル賞(スウェーデン版アカデミー賞)で作品賞を受賞したり
(『シンプル・シモン』もノミネートされていた)、
ベルリンでも新人賞を授与されてたりしたものの、日本では全く話題にもならず。
このまま全く陽の目を見ないのは本当もったいない。
母子家庭の息子セバスチャンが主人公なのだが、
彼の背中に「父」という字のタトゥーがあるのだよ。
その切なさは、日本人に観られるべき(無理な力説)。
基本的に本当地味で暗いし、
小さな作品(メイキングみたら、卒業制作レベルの小ぢんまり現場)なので
ヒットとかはしないだろうけど、
ケン・ローチやダルデンヌ兄弟、ガス・ヴァン・サントあたりが好きな人(で、
口うるさくないシネフィル)なら、その荒削りさも十分堪能できそうだし。
来年のトーキョーノーザンライツフェスティバルあたりで是非!
選定用に試し観するならDVD貸しますよ(笑)
で、ダルデンヌ兄弟の最新作も公開されるし、
淡々・薄幸・小品(随分と乱暴なレッテルだ)といった似たタイプの映画がまた観たくなり
選んだのが本作。
『マリリン 7日間の恋』観賞記念としても、
ミシェル・ウィリアムズ成長記のミッシング・ピースを少しでも埋めるタイミングかなと。
改めて彼女のここ数年のフィルモを振り返ってみると、
巨匠から気鋭まで、とにかく多様なディレクターと充実のコラボを重ねてきた
ということがわかる。
ヴェンダース、アン・リー、トッド・ヘインズ、チャーリー・カウフマン、
ルーカス・ムーディソン、デレク・シアンフランス、マーティン・スコセッシなど。
セス・ローゲンと共演サラ・ポーリー監督作の公開も控えている。
2年連続3度目のアカデミー賞ノミネートという輝かしいキャリアを積みながらも、
本作のようなインディペンデント魂あふれる作品に映える魅力を失わずにいて欲しい。
私は、『マリリン~』でのクレヴァー演技より、本作でのラフなのに繊細な演技が好きだ。
本作の監督は、ケリー・ライヒャルト。
彼女はアメリカのインディペンデント映画で最も注目されている監督の一人。
カンヌの「ある視点」部門でも上映された本作は、
主にインディペンデント系の映画賞で数々のノミネート&受賞を果たしたが、
前作の『Old Joy』でもケリーは既に高い評価を得ていた。
また、一昨年のヴェネツィアのコンペに選出された『Meek’s Cutoff 』では
再びミシェル・ウィリアムズを主演に迎え、こちらも賞レースで度々見かける評判の高さ。
(ポール・ダノやエリア・カザンの孫娘なんかも出ている。)
同作は、東海岸からオレゴンに移住した開拓民らの過酷な旅を描いた作品らしいが、
ライヒャルト監督は、イラクやアフガニスタンに駐留する米兵たちの現状と
開拓民の姿を重ねて描いたと語っているらしい。
なかなか骨太な女性監督だ。(ネクスト・キャスリン・ビグロー!?)
前口上ですっかり疲れ果ててしまった(笑)
『SHOTGUN STORIES』の記事でも書いたけど、
アメリカのインディペンデントや小規模・中規模な作品の公開場所・機会が
年々減少傾向にあって、ケリー・ライヒャルトですら劇場公開作が一つもない
という寂しい現状が、余計な説明文を長々と付けさせているわけです。(自己正当化)
オレゴン三部作ってことで、『Old Joy』『Wendy and Lucy』『Meek’s Cutoff』の一挙公開
とかどうですか?(せめて後ろ二つでミシェル二本立てとか…まぁ無理だわな。)
〔作品について〕 公式サイト
主人公のウェンディは仕事を求めてアラスカに向かう。
愛犬のルーシーと車(ホンダ)に乗って。
宿なしケータイなし。そんな彼女の車が故障。
ドッグフードも底を尽き、余計な出費を控えぬウェンディはドッグフードを万引きし、
店員にみつかり警察へ。
店外にルーシーをつないだまま去らねばならず、
釈放して戻ってみるもルーシーは消えていた・・・。
ルーシーはなぜアラスカに行くのか?
彼女曰く「アラスカって人少ないから仕事あるでしょ」(要約すると)
ルーシーはどんな家庭環境なの?
一度、姉夫婦に電話かける場面あるけどそれきり。
以前は彼らと同居していたみたいだけど、今は車が自宅がわり。
とにかく、彼女の人となりなどが具に語られることはない。
かといって、その時々の感情があからさまになることもない。
それを行間だらけと捉えるか、説明不足と捉えるか。
ケリー・ライヒャルト監督は、「空白の行間」を披露して喜んだりしない。
かといって主演女優に啓示めいた表情を強いたりなど一切しない。
これは、ミシェル・ウィリアムズの演者としての幅を感じさせ、実に好い。
懸命な逡巡を、目的地を先取りさせぬ落ち着きで、とことん共有させるのだ。
ロードムービーにおける一場面を掘り下げるような語りでありながら、
そこに感じるのは 《停滞》 ではなく 《逗留》 だ。
けっして 《stop》 しない進行形の 《stay》 。
ウェンディ(ミシェル・ウィリアムズ)はとにかく歩く。
そして、とにかく立ち止まる。佇む。見つめる。案ずる。
少年のような無垢さと直向さ。
しかし、口を硬く噤んだ彼女の強さは、自己愛として費やすばかりではない。
唯一の愛を注げる対象(愛を感じられる他者)を守らねばという使命にも向けられる。
旅を続けるため、ルーシーを見つけるため、 奔走するウェンディが垣間見る世界には、
過剰な悪意も不自然な慈善もない。
しかし、そこには各人にとって必要な略奪と贈与があるだけだ。
そこに議論の余地などない。
行き掛かりで交流の始まった警備員(ウォーリー・ダルトン)が
ウェンディに僅かばかりの餞別を渡しながら言う。
Don’t argue. Just don’t argue.
本作の登場人物は言い訳をしない。
それは自らの言動に責任をもっているなどという高級な感覚とも違う。
あくまで苦しみも喜びもそのまま受納することが自然なのだ。
覚悟、などという大袈裟な言葉を持ち出すまでもなく。
しかし、そうした正直は、 自らの本能を解放として作用するばかりではない。
ウェンディの最後の決断は、明らかに根本的な愛が宿っている。
母性にも近い、いや母性そのものな慈愛があふれだす。
それを感涙にも落涙にも処さずにみつめる誠実さ。
ウェンディは母であり、ルーシーは娘。そして、車は家。
サブプライムローン問題が顕在化した2007年頃に撮影されたと思しき本作。
住宅問題や雇用問題と重ねて読むこともできそうな物語。
家の必要性(車への執着)、求職の困難、経済格差の拡大。
底辺となった自分。安定の好機が訪れた娘を、自分はどうすべきか。
奇遇にも決断の結果は、『SEBBE』と一致していてハッとする。
あちらでは息子の視点から眺めた世界だったので、
二作を読み合わせると新たな切実が双方に降りかかる。
また、本作の始めと終わりで登場する列車。
そして、その中間で終始重要視されている自動車。
車を「家」とするなら、彼女が車を捨てて列車に乗るということは、
彼女の「家」が変わったことを意味するだろう。
ワンルームから長屋へ。個人主義の閉塞感から共同体の連帯へ。
本作における「ゆるやかな」顧慮のリレーがそう思わせる。
80分という一息で、人間の懸命を賢明に陥らずに静観する秀作。
フランス映画における女性監督の活躍も確認したばかりだが、
アメリカ映画においても女性監督の新たな才能がインディーズを面白くするだろう。
◇興味深いキャストもちらほら。
序盤、ウェンディの万引きを目撃し、
温情皆無のムカツキマックス「正義漢」アンディを演じる若者。
「どっかで絶対観たことある・・・」とずっと思いつつピックアップできぬ記憶の断片。
後で確認すれば、『エレファント』の少年(金髪)ではないですか。
ジョン・ロビンソンって言うんだね。めっちゃお仕事してるし。
エンドロールで本作のロケ地がポートランド(ガス・ヴァン・サントのホームグラウンド!)
と知って、ポートランド出身の彼が出演してるのも納得。
冒頭に貨物列車が行き交う光景が出てくるのだが、
あれって『パラノイド・パーク』のあのシーンと同じ場所かな?
(ちなみに、本作は脚本も担当しているジョナサン・レイモンドの短篇小説を元にしていて、
その小説のタイトルが「Train Choir」だからなのかもしれない。)
◇ウェンディと唯一心を通わせる警備員を演じるWally Daltonは、
テレビを主に活躍してきた俳優みたいだが、彼の淡々とした優しさがじわじわ沁みる。
◇ミシェル・ウィリアムズとW主演(のはずだが、実際の出番は僅少・・・)の
ルーシーことLucy(犬)。彼女のIMDbがちょっと面白い。
ケリーの前作『Old Joy』から引き続いての出演のようだが、
本作でいよいよ女優(?)デビューを果たしたということか!?
ちなみに、彼女は本作でカンヌのパルムドッグ賞を獲得しているのだ!
◇本作のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたのは、
トッド・ヘインズ(『ベルベット・ゴールドマイン』『アイム・ノット・ゼア』など)。
脚本のジョナサン・レイモンドは
トッドが監督を務めた『ミルドレッド・ピアース』の脚本(1話~3話)も担当したようだ。
『ミルドレッド・ピアース』は昨年放映されたケイト・ウィンスレット主演の
テレビ・ミニシリーズで、エミー賞やゴールデングローブ賞などでも受賞をしている。
日本でもWOWOWで映画版(1945)と共に早々と放映してくれた・・・
のはありがたいのだが、何故か吹替版のみで、録画するにはしたが未見のまま。
別に字幕原理主義でもないしアンチ吹替でもないが、
さすがにケイト・ウィンスレット(つまり、馴染みのある役者)が日本語喋ってるのは
違和感あるからね。と思ってたら、WOWOWで字幕版の放映があるみたい。
4月9日(月)から五夜連続ならぬ五早朝連続で放映されるみたい。
ガイ・ピアースにエヴァン・レイチェル・ウッド、ブライアン・F・オバーンやホープ・デイヴィス、
メリッサ・レオまで出演しており、大作映画並みの豪華キャスティング。
同じくWOWOWで放送されたテレビ映画とえいえば、
昨年亡くなったジャック・ケヴォーキアンを主人公にしたHBOのドラマ
『死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実(You Don’t Know Jack)』も
バリー・レヴィンソンが監督し、アル・パチーノやジョン・グッドマン、
ブレンダ・ヴァッカロにスーザン・サランドンまで出演。
見応え十二分な力作だった。
WOWOWはオリヴェエ・アサイヤスの『カルロス』も放映してくれたし、
テレビ映画&ミニシリーズの配給(?)に関しては今後も大いに期待したい。
せっかくBS移行でHD化したイマジカのチャンネルも、
さすが「シネフィル」の名がとれただけあって、特長なきワン・オブ・映画チャンネルズ。
4月はアンジェイ・ワイダ監督特集とかありもするけど、
『パンナム』イチオシとか好いから(まぁ、そこそこ面白いけどさ)、
もっとしっかり映画の伝道チャンネルになってくれ・・・。
同じような映画チャンネルが乱立し過ぎ。(多チャンネル化の意味がない)
だってさ、この『ウェンディ&ルーシー』だって
「洋画★シネフィルイマジカ」で放映されたらしいんだよ。
ちなみに、作品紹介文には「トッド・ソロンズ」というケアレスミスも。
でも、俺も気持ちわかるから許す(笑)
他にもシネフィルイマジカは、ヌリ・ビルゲ・ジェイランの作品を放映したり、
アンドレア・アーノルドの『フィッシュタンク』とか、
グザヴィエ・ドランの『I Killed My Mother(マイ・マザー/青春の傷口)』等々、
とにかく国際的高評価を軒並得ながらも劇場未公開に終わった作品群(しかも地味めな)
を放映してくれる貴重なチャンネルだったのに・・・
それがHD化するんで(スカパーHDなんてセレブなシステムはさすがに未導入)
大いに期待してたのに・・・。
『Meek’s Cutoff』とか、以前のシネフィル・イマジカなら絶対放映してくれてたっぽいのに。
◇ 本作は、『HOWL』を観賞した際に、
そのディスクに入っていた予告編で知って興味をもった。
アメリカのDVDやブルーレイは、セルのものでも日本のレンタルビデオみたいに
ディスク挿入後に強制的に予告編を見せられる(飛ばせない場合もある)。
ただ、日本未公開のものも多かったりするので、
日頃は苦手な予告観賞(チラッ観は好いけど、見過ぎると本編妄想暴走しちゃうから)も、
輸入物観るときには大事な資料なんだと再認識。
◇本当は『マリリン 7日間の恋』について書こうと思い、
そのまえに参考的に観ておこうと思った本作。
期せずしてヒロインは「青いパーカー」を着用し、監督は女性。
『マーガレット・サッチャー~』から『マリリン~』への見事な架け橋となりました(笑)
[追記]
本作のDVD発売が決まったようです。
『ウェンディ&ルーシー』(販売元:エプコット)2012年7月27日発売予定