ハリウッドで絶大なる力を手にしている二人のS.Sバーグ。
スティーヴン・スピルバーグが「みんなの」幸福を運んで来てくれるとしたら、
スティーヴン・ソダーバーグは「自分だけの」愉しみを偏執的に味わい尽くす。
本作でもソダーバーグは自身の《支配欲》を遺憾なく発揮。遖!!!
よって、彼の趣味に相容れない人間は本作においても当然相手にされない訳で、
これほど豪華キャストでジャンル的にも間口が広いはずの本作でさえ、
媚びるどころかサービス精神を微塵も見せぬ潔さには、
『ボーン・レガシー』のトニー・ギルロイは羨望必至!
ソダーバーグと書いて唯我独尊と読む。
だから好きになった方が負け。
『ガールフレンド・エクスペリエンス』でAV界の女王を引っ張り出してきたと思ったら、
今度は女子総合格闘技界の女王をしれっとすかさず主役に抜擢。
この「ちょっと興味ある」からの産地直送的鮮度の高さこそが、
心のままに興奮享受で鼻歌まじりの一丁上がり。
思いついたら、やりたくなったら、やる。
それだけ、やる。
そんなん許されるの(この規模で)、ソダーバーグくらいじゃない?
そう考えればもう、或る種の「文化」ともいえる域に達しそうな奇妙な存在。
勿論、カンヌのパルムを史上最年少とかで獲得しちゃった結果の代償として、
計り知れない「肩の荷」を早期に背負い込んでしまったことからきっと、
随分とハイスピードで大人にならなきゃならなかったんだろうなぁ的一足飛びで
随分と歪なフィルモや道程を辿ってきている気もするソダーバーグだが、
そういう懊悩の片鱗を垣間見せることなく「興じて見せる」プロを貫く姿勢に感心。
初期の007シリーズが好きだったというソダーバーグ。
(一番のお気に入りは『ロシアより愛をこめて』らしい。)
そんな可憐な想いを冷静に培養し、研究の結果、原題に「自分印」で甦らせる。
ジーナ・カラーノという飛び道具も存分に弄び、弄ばれて、翻弄イーチアザー。
彼女に関わる男性たちは、ジーナの演技未経験というスリリングと戯れて、
格闘経験豊富にノックアウト。キャスティングのアンバランスによるバランスが、
不要なフェミニズムをあっさり廃し、彼女を中心にしながらもドライに並置。
軽く誘っては移入を拒む焦らしの達人ソダーバーグは本作でも沸点未到達の全力疾走。
ただ、今回はクリフ・マルティネスのような牽引の音楽との駆け引きはない。
もう一人の、新しき盟友デヴィッド・ホルムスによる見事なリバイバルがアライバル。
『ガールフレンド~』では、デヴィッドのソロアルバムの曲まで流しちゃう仲良しだから、
本作でもきっと「よう!デヴィッド!こんな感じでよろしくメカドック!」
『インフォーマント!』では
マーヴィン・ハムリッシュ(合掌)を見事に引っ張り出して来たものの、
後発の育成への配慮もあってか、新たな職人を見事に育てつつあるように思う。
デヴィッド・ホルムスはソロ・アルバムでも多様な曲調にチャレンジしていたが、
本作のサントラもスパイ・テイストに『ダーティーハリー』のラロ・シフリン的ドキワク感を
仕込ませて、全編を包み込む洒脱な不穏をさりげなくアシストしてくれる。
サントラ仕入れて予習していた時は、タイトル曲である「Haywire」が冒頭でバーン!
ってなるかと思いきや、まさしく「とっておき」でぶっ放してくれた爽快感は至極!
(撮影も編集も自分でこなそうとするソダーバーグにとってはやはり、
音楽という要素は極めて重要な「他人任せ」なのだろう、きっと。)
ソダーバーグは、
「物理的に不可能なことは誰にもして欲しくなかったし、
この世にまだ存在しないようなテクノロジーを使うのも嫌だった」と語っている。
更には、「映画なんだから、時にはウソも必要だなんて逃げたくない」とも。
そんな発言にも納得できるのに、どこか見事に「ウソっぽい」。
そのオモテしか見せないからウラばっかが見えてくる感。
「思わせぶり」は観客の自作自演?
◆スタント・コーディネーターのR・A・ロンデルの話。
「僕たちがジーナに教えなければならなかったのは、
相手を実際に殴らない方法だった。(中略)
実際、彼女は当初、何度かノック・ダウンさせたりもしていたよ。」
◆本作に情事そのものは登場しないのに、常時ラヴ・アフェアな空気が充満。
まさに、ジーナが「演じる」格闘シーンが放つエロティシズムは超一流。
女優初挑戦ゆえに、やはりラブシーンそのものではこうもいかなかったろう。
全身全霊、前戯から全力の体当たり。駆け引きなしの真剣勝負。危険な情事。
◆「場所」が変わるたびに画調は転換し、質感も自由にコントロールしてる印象で、
レトロな淡さ(とりわけ本作では「光」のそれが執拗で好い)とエッヂなデジタル質感が、
せめぎ合うようにして相互乗り入れし、それなのにソダーバーグによって掌られる。
それでいて、必要以上の「トリップ」で魅せようとはせずに、あくまでどの地もフラット。
不要な《移動》を描くことなどせず、あくまでどの地にいても現場で仕事場。それだけ。
各地の俯瞰ショットの観光っ気のなさが物語る。オーシャンズなラスベガスと正反対。
◇作品を気に入ってしまうとつい悪い癖で(笑)パンフを購入してしまうのだが、
モンキー・パンチのちょっとした寄稿はちょっと面白く読ませてもらったが
(「決めた!! 『ルパン三世』のハリウッドでの実写版は
スティーヴン・ソダーバーグ監督に撮って貰おっ!!」とのこと!!!)
高橋ターヤンとかいうライターのコラム(?)が見事に単なるInfoに過ぎなかったり、
スタッフ紹介に本作の要たる音楽を担当したデヴィッド・ホルムスすら掲載なし。
キャストに至っては、マチュー・カソヴィッツすら省かれちゃってますからね。
ジーナの見事なアクション場面を収めた写真も皆無・・・
編集:ファントム・フィルム、がんばってください。
◇脚本のレム・ドブスはロンドン生まれ。(18歳でロサンゼルスに)
ソダーバーグとは『イギリスから来た男』(あぁ、懐かしの恵比寿ガーデンシネマ)
以来ぶり3度目のお仕事。こういう長期インターバルはさんで複数回のタッグって
ソダーバーグ結構好きな気がする。意図的意識的にマンネリ回避!?
カリスマ革命家の大河ロマンの後には、AV女優に高級娼婦を演らせてみたり、
ジェイソン・ボーンにオバカな内部告発コメディやらせた後は、
アカデミー賞俳優大集合でパンデミック・フェスティバル!
そして、本作で格闘技の女王に見事な「絡み」を仕付け終わったら、
旬な男優たちを脱がせてストリップ!
究極の自由人のようでいて、かなり巧緻な知能犯。
やっぱりソダーバーグからは目が離せない。