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国際的に、あるいは一国内ですらはっきりとした定義がないために、横断的な比較が困難であった「民間非営利セクターの国際比較」というチャレンジングな課題に取り組み、現時点で恐らく世界で最も広範で信頼性の高いアプトプットを出しているのが、昨日紹介したJohns Hopkins(ジョンス・ホプキンス)大学のCenter for Civil Socitey Studies(市民社会研究所)。
2003年4月に発表された数年にわたる集中的な調査をとりまとめた「Global Civil Society Overview」は、35カ国の民間非営利セクターを統一された基準で幅広く洗い出し、その規模や財務力、一年間にボランティアに参加した人の数、社会に及ぼしているインパクト等を約60ページのレポートとしてまとめあげたもの。読み進めるていると、単なる調査結果をまとめたレポート以上の、市民社会をより活性化していこうという研究者と編集者の気合がビンビンと伝わってきて鳥肌が立ってしまうような力作です。
--(参考)調査対象国の一覧 -----------------------
☆ アジア:日本・韓国・パキスタン・フィリピン
☆ ヨーロッパ:オーストリア・ベルギー・チェコ・フィンランド・フランス・ドイツ・ハンガリー・イタリア・オランダ・ノルウェー・ポーランド・ルーマニア・スロバキア・スペイン・スウェーデン・イギリス
☆ アフリカ:ケニア・南アフリカ・タンザニア・ウガンダ
☆ 中東:エジプト・イスラエル・モロッコ
☆ 南米:アルゼンチン・ブラジル・コロンビア・メキシコ・ペルー
☆ その他:オーストラリア・アメリカ
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このレポートの信頼性を高めているのが、「民間非営利組織」を拾い上げる際の基準とその拾いかた。
国によって内容が異なる法律の枠組みや、人によってとらえ方が様々な「公益」を基準とするのではなく、客観的に明らかな以下の5つの基準を設定しています。
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① 組織(Organization):法人格の有無を問わず、継続的に業務を実施するに足る組織形態を持っているもの。
② 民間(Private):政府からの人的・金銭的な支援の有無を問わず、政府機構の中に組み込まれていないこと。
③ 利益配分(Not profit distributing):事業から得られた利益を配当や役員報酬という形で株主や経営者に分配せず、事業継続に必要な経費(職員の給与を含む)にのみ充てていること。
④ 自治(Self-governing):組織をそのメンバーの意思で立ち上げ、解散できること。
⑤ 自由意思(Voluntary):参加や活動が法的に義務付けられたものではないこと。
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この基準により、昨日の記事で例示した学校や病院、宗教団体も含む、日本における広い意味での民間非営利団体はすべて含まれる一方で、生活協同組合や農業協同組合、共済組合、労働組合など、会員同士の相互扶助を目的とした組織や民間企業、そして政府が法律によって設立した特殊法人等は除外されることになります。
もちろん、草の根レベルに無数に点在している上記の基準に当てはまる民間非営利組織をできる限りもれなく拾うには、ローカルな情報にアクセスできること必要です。このため、Johns Hoplinsの研究メンバーは、対象35カ国全てに複数名のLocal Associates(地域研究員)を配置し情報をボトムアップで収集する体制をとったそうです。
さらに、外形的に明らかな客観的な基準を設けても、どうしても判断に迷うようなケースについては、Local Associatesの意見と併せ、多国籍かつ様々な分野出身の13名のメンバーで構成されるInternational Advisory Committeeで討議するという多層のチェックシステムを導入し、捉えずらい民間非営利セクター(Civil Society Sector)を過不足なく抽出する体制を採ったそうです。
その結果、グローバルな民間非営利セクターをめぐる極めて興味深い実態が浮かび上がってきています。
* * *
まず対象35カ国の民間非営利セクターの年間支出を合計すると、その金額は1.3兆ドル(143兆円)に上ります。「民間非営利セクター」という国があったと仮定し総支出をGDPと想定すると、イギリス・フランスに次ぐ、イタリアを上回る世界7位の経済大国となるそうです。
次に対象国の民間非営利セクターで働く年間の労働力(有償・ボランティア双方を含む)を総計すると約3,950万人(有償:約22.7万人(57%)、ボランティア:16.8万人(43%))にのぼり、これは上記35カ国の労働力人口の4.4%を占めるとのこと。
約3,950万人、あるいは4.4%という数字だけ見るとあまり大きくないように見えますが、例えば対象35カ国で繊維産業で働く人の合計は約400万人、運輸・通信産業で働く人の合計は約3,300万人という数字と比較してみると、ボランティアを含むとはいえ、民間非営利セクターがグローバルに見て大きな雇用の受け皿になっていることが分かります。
ちなみに上記の人数はフルタイム換算した数字であり、例えば5人の人があるNGOで週に1回無償で働いた場合にはフルタイムのボランティア1人と計算されるため、一年間で民間非営利セクターでボランティアとして働いた人の実人数はこれよりもさらに多くなり、約1億9000万人にも上るそうです。これは上記35カ国の成人1,000人のうち221人はボランティアとして民間非営利セクターに汗を流したことになるというから驚きです。
さらに、こうしたボランティアが民間企業と平均的な給与水準で働いたと想定して、彼らの汗をお金に換算すると年間約3160億ドル(34兆7,600億円)にもなるとのこと。ここでも世界的に見て、民間非営利セクターやボランティアが社会に及ぼしているインパクトの大きさが見て取れます。
次に、こうした民間非営利セクターが資金面から見てどのように支えられているのかを見てみましょう。ここでJohns Hopkins大学の研究チームは以下の3つのカテゴリーを用意しています。
① 手数料(Fee):民間非営利法人が会員から集める会費や事業収入、保有する有価証券からの投資収入
② 政府(Government):国・地方自治体からの補助金・交付金、及び調達や委託契約によって支払われる手数料
③ 寄付(Philanthorpy):政府以外の民間企業や各種基金、個人からの寄付
この3つの収入源が世界の民間非営利セクターに占める割合を見てみると、手数料が53%でトップ、そして政府(35%)、民間からの寄付(12%)と続き、寄付の占める割合が意外に低いことに気付かされます。
このように手数料が主な収入源であるという傾向は、研究チームが設定した12の分野のうち、環境・人権・教育・文化など8分野を担う民間非営利セクターに共通して見られる現象であり、政府からの収入がメインとなっている分野は医療とSocial Service(災害復旧や貧困層のサポート等)の二つのみ、主として寄付に頼っているのは宗教と途上国援助の二分野のみに留まっている、との調査結果が出ています。
以上が、Johns Hopkins(ジョンス・ホプキンス)大学のCenter for Civil Socitey Studies(市民社会研究所)がまとめたグローバルな民間非営利セクターの鳥瞰図です。
明日はいよいよ日本を含む個別国の状況について紹介していきます。日本の民間非営利セクターは本当に国際的に見て規模が小さいのでしょうか??
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