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寒々とした冬の立ち木をオレンジ色に照らしながら、凍てついたチャールズ・リバーに沈んでいく夕日。今日もボストンの気温はマイナス10度。体感気温はマイナス20度にもなる外気に包まれると、長時間の作業で曇った頭も一気に澄み渡ります。
朝から大学にこもって取り組んでいるのは、
「グローバルなレベルでのNPO(民間非営利)セクターの動向の把握と、アメリカ・イギリス・アイルランド・インド・日本の5か国におけるNPOセクターをとりまく制度的・政策的・文化的な背景、及び現状についての調査」
という、修士論文(PAE:Policy Analysis Exercise)のクライアントであるNPO(非営利法人)Common Impactから課された途方もない課題・・・の一部です。
* * *
「政府はとにかくムダが多くて画一的で、融通が利かず、さらに動きも遅い。しかも政府に仕事を任せすぎると、将来世代に負担を先送りする財政赤字の問題や民間の自由な創意工夫を殺いでしまうという副作用まで見られる。」
「だから、政府のサイズは小さければ小さいほどよいのだ。社会の資源配分は政府に任せるのではなく、市場に任せたほうが最適な結果が得られるに違いない。」
こんな「政府の失敗」を声高に叫ぶ声が聞こえる一方で、「市場の失敗」を厳しく指摘する意見が他方から聞こえてきます。
「規制緩和だ民営化だと言って、何でも市場原理・競争原理に晒した結果が、消費者・従業員を軽視した利益追求至上主義の跋扈や、際限なく広がる個人間・地域間の所得・経済格差、さらには取り返しのつかないレベルにまで達しつつある環境問題なのではないか。」
* * *
これまでにないスピードで変化を続け、複雑さを増す社会を前に、先進各国が20世紀に共通して体験したのは、「市場の失敗」と「政府の失敗」との間を行ったり来たりした挙句、政府と市場双方が質的・量的にカバーしきれない「公の問題」が広がりつつあるという事実
から目を背ける事ができなくなった、ということでしょう。
「では、市場にも委ねても政府に委ねても、十分に解決することができない、しかし重要で身近な社会問題の解決は一体誰が担うべきなのか?」
民間非営利セクター、市民セクター、市民社会などなど、呼ばれ方は様々ですが、こうした第三の領域に注目が集まっているのは、分野を問わず世界中の多くの人々が、こうした問いかけに直面しているからと言えると思います。
話を元に戻して、PAEのテーマとして、僕がCommon Impactと取り組んでいる課題の柱の一つが、こうした市民セクターのグローバルなレベルでの動向と、アメリカ・イギリス・アイルランド・インド・日本の5か国における制度的・政策的・文化的な背景、及び現状についての調査であることは冒頭に触れた通りですが、この課題に取り組むに当たって、最初に直面する、そして恐らくもっとも困難な作業が、
「"民間非営利"あるいは"市民セクター"とはそもそも何ぞや?」
というクエスチョン。
例えば日本国内を見渡してみるとどうでしょう。
民間非営利セクターと聞くと、いわゆるNPO(Not-for-profit organization)という言葉が最初に浮かぶ人が多いかも知れません。
日本におけるいわゆるNPOの起源は1995年1月に発生した阪神淡路大震災であると言われています。被災者を助けるため日本中から集まった多数のボランティア。しかし、そこで問題になったのが、特段のスキルもないけれど困っている人を助けたいという気持ちひとつでやってきた彼らを臨機応変にオーガナイズできる、正に僕が昨年の冬にニューオリンズ復興ボランティアに参加した際にお世話になったHands on New Orleansのような、草の根レベルの市民活動グループが圧倒的に不足していた、という事実でした。
草の根レベルの市民活動が簡単に法人格を取ることができるような法的な枠組みがなかったことが、日本でそうした活動が育ってこなかった要因ではないか・・・こうした問題意識にたって1998年に施行されたのが、「特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)」なのです。
この法律が成立したことにより、草の根の市民活動グループは、内閣府あるいは都道府県に必要事項を届け出るだけで、「特定非営利活動法人(NPO法人)」として法人格を取得できるようになり、その法人名で例えばマンションを借りたり、銀行口座を開いたりして、活動をより組織的に展開できるようになりました。
こうした“いわゆるNPO”は2007年末で33,124にも上り、環境問題や雇用問題、文化・芸術の振興等、様々な分野で活動を展開しています(内閣府NPOウェブサイトより)。
しかし、
「日本の民間非営利、あるいは市民セクターとはどのような団体のことを指すのですか?」
と尋ねられたときに、上記のいわゆるNPOだけに限定するのはあまりに狭すぎると言えます。
例えば、経団連(日本経済団体連合会)や経済同友会、そして日本医師会といった業界団体、あるいは全日本高校野球協会や全日本スキー連盟、NHK交響楽団といったスポーツや文化の振興団体、そして日本船舶振興会(通称、日本財団)等の様々な公益活動に経済的支援を提供する団体はどうでしょうか?
こうした団体のウェブサイトを見てみると団体の肩書きに「社団法人(Association)」あるいは「財団法人(Foundation)」という名称が付いてることに気付かされます。これらは民法34条に基づき、団体が実施する活動と関係の深い省庁からの認可を得て設立される「公益法人」と呼ばれる団体であり、2007年末で、それぞれ12,572(社団法人)、12,321(財団法人)もの団体が認可されています(2007年度版公益法人白書(総務省)より)。
さらに視野を広げてみると、例えば病院(医療法人)や老人ホーム(社会福祉法人)、学校(学校法人)、宗教施設(宗教法人)、あるいは政党だって、政府でも私企業でもなく、公益の追求をミッションとするという意味で、「民間非営利/市民セクター」の一翼を担っていると言えるでしょう。
こうしてみて見ると、社会的にも広く知られ、僕たちが日常生活の様々なシーンでお世話になり、相当程度の規模とインパクトを持つ数多くの民間非営利セクターが日本社会を支えていることに気付かされます。
しかし、
「日本はNPO、市民セクターがあまり育っていない!」
という意見をよく耳にするのも事実。この意見が事実なのかどうかを見極めるには、広い意味での日本の民間非営利セクターを、国際的な文脈で比較してみる作業が必要となります。
そう入っても、「民間非営利」の定義は国のよって様々。日本だけ見ても、今日の記事で議論してきたように、確固とした定義がある訳ではありません。また諸外国、特に発展途上国には、官庁に登記はせず法人格も持っていないけれど、規模が大きく影響力もある草の根団体もあることでしょう。
このような「民間非営利セクターの国際比較」という非常にチャレンジングな課題に取り組んみ、おそらく現時点では世界で最も信頼性が高く広範なリサーチ結果を題しているのが、米国はワシントンに拠点をおく、Johns Hopkins(ジョンス・ホプキンス)大学のCenter for Civil Socitey Studies(市民社会研究所)。
という訳で明日は、この研究所が日本を含めた先進国、そして途上国併せて世界35カ国の民間非営利セクターのデーターをまとめ、2003年4月に発表したGlobal Civil Society Overviewを紹介しながら、日本の民間非営利セクターの規模について客観的な現状をお伝えしていこうと思います。
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