ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Second Class

2007年07月05日 | インターン@インド ハイデラバード


 スタックしてしまっているプロジェクトの突破口を見出すべく、遠路はるばるブバネシュワールへの22時間の汽車旅を決行した揚句、見事な空振りに終わった僕…

 「ミーティングは来週に延期になっただけなんだから、また来ればいいじゃないか!」と爽やかな笑顔と軽いノリで僕を慰めるブハネシュワール支店のArea Executvieアンヴィカさんですが、来週はもうプロジェクトのプレゼンをしなきゃならないんですよね…

 いよいよ窮地に立たされた感じですが、怒っても暴れても仕方ないので、本来なら終日ミーティングとヒアリングの予定だった火曜日はハイデラバードの本店から1,100キロメートル離れたブバネシュワール支店で、資料の読み込みとデータ分析という本店でやっていたのと全く同じ作業にもんもんと取り組むことに…

 そして水曜日朝8:30初の列車で、また22時間かけてハイデラバードに戻ります。本当に何しに来たんだか…(涙)

 ところが!

  この帰りの汽車で本当に得難い、何ともAmaizingな経験をすることができたのです!

 という訳で今日はプロジェクトのことはしばし忘れて、2等列車(Second Class)体験記をお伝えしようと思います。

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 道路インフラが未整備である一方で、航空運賃は庶民の手の届く遥か彼方にあるインドでは、鉄道が庶民の長距離移動の最も一般的な手段です。そのためインドの鉄道は速度こそ遅いものの、インターネットで軽々予約できるし、主要都市は全て鉄道網で結ばれる等、なかなか整備が進んでいます。

 そんなインドの鉄道の中で庶民にとって最も一般的なのがやはり2等車両(Second Class)。冷房はもちろんなく、固い板敷の粗末な座席が並んでいるだけですが、何より料金はAC付1等車両の半分以下。予約も不要なので、窓口で切符を買えば誰でもどの列車にもすぐに乗り込むことができます。
 これまでの出張では、ありがたくもBasixの重役と同じ扱いで1等車両を使わせてもらってきた僕ですが、今回の帰りの汽車は途中まで一等車両の切符が満席でとれなかったとのこと。

 そこで、ブバネシュワールからオリッサ州とアンドラ・プラディーシュ州の県境にあるSrikakulam(スリカクラム)という駅までの約300キロ、6時間を2等車両で戻ることになったのです。22時間の汽車旅のうち6時間と聞くとそれ程長い感じかしませんが、よく考えてみると、「のぞみ」で東京から博多までいくと約5時間なんですよね・・・

 出発時刻の30分前にブハネシュワールの駅に到着し切符を買うと、値段は85ルピー(240円)。確かに1等車両の三分の一くらいです。しかし、ホームに待っていた汽車の二等車両の座席はすでにいっぱい。6時間立ちっぱなしで移動することになりそうで、ゲンナリ感が漂います(この時点で僕の認識は相当甘いものだったことに後で気づくのですが・・・)

  しかし列車が発車した後、中々良いスポットを発見!二等車両は移動中もドアが開きっぱなしであるため、そこに腰をかければ(うっかりすると線路に落っこちますが・・・)結構快適に列車の旅を楽しむことができそうです!

     

 という訳で、ブバネシュワールを出発して最初の3時間は、この”ベスト・スポット”を確保すべく、駅に着くたびにホーム(あるいは線路)に下り、そして一番最後まで待って、ゆっくりと動き出して列車に乗り込み、このスポットの確保の努めます。

 お尻が少し痛いものの、風に吹かれながら豊かな水と緑に恵まれたオリッサ州の風景を眺めながらの汽車旅はなかなか爽快なものがあります。普通の座席も板敷で座り心地は良くことを考えると結構この場所は本当に2等車両のベスト・スポットかもしれません。

    

 こんな感じで3時間ほど汽車に揺られていると、いつの間にか車内も大分すいてきています。ドアのところに座り続けている見慣れない東洋人を気の毒に思ったのか、一人の若い男性が、「座席に座れるよ。」と親切に声をかけてくれました。

 そろそろお尻もかなり痛くなってきた頃だったので、お言葉に甘えて座席に移動。本来4人がけのところを、詰めあって6人で座ります。この密着感がインドと一体になっているようで素敵です(この時点でも僕の認識は相当甘いものでした・・・)。

 ところが・・・

 汽車がオリッサ州を抜け、アンドラ・プラディーシュ州のとある駅に入ったあたりから、「異変」が起き始めました。

 ゆっくりとホームに入る汽車の車窓からホームを見ると、「え!ひょっとしてこの人たちが全員この車両に乗るの??」と疑いたくなるほど大量の人々(しかも頭に藁だの果物だのを入れた巨大な籠を乗せた人々が)待ち構えています。

 そして汽車が止まると、いや、止まる直前から始まりました。

 戦争が。

 列を作る、下りる人を先に通す、女性や老人が優先・・・なんていう慣れ親しんだルールの類はそこには一切ありませんでした。

 力のある者、足の速いものがとにかく全力で叫び声をあげながら列車の中に飛び込んできて我先に座席を奪うのです。

 いや、座席は既に満席ですから、“自分の落ち着ける場所”といったほうが正確かもしれません。そして列車の中にこれほど座る場所があるものなのか、と驚かされるような勢いで、彼らはスポットを見つけ、占拠していきます。ある者は網棚の上を、ある者は荷物置き場を、またある者は他人のスーツケースの上を、己が場所として占拠していきます。

    

 しかも、この状況は駅に着くたびに二乗、三乗に悪化していきます。何しろ、これでもかという位の人が着く駅、着く駅に待ち構えているのですから。

 怒鳴り声をあげて服を引っ張り合い、殴り合いのけんかを始めそうな男たち、抱きかかえる赤ん坊を必死になって守ろうとカナキリ声をあげる女性、そして泣きわめく赤ん坊・・・

 阿鼻叫喚とはこのことです。

 しかも老人や赤ん坊を抱えた女性がモミクシャにされているのに誰も席をゆずろうとしない。

 「礼儀正しさ」や「マナー」の尺度は文化によって異なるとは言えど、さすがにこれはヒドイ! 

 しかし、目の前に小さい赤ちゃんを抱き抱えて必死に立っている女性に見かねて席を譲った瞬間、なぜ誰も席を譲ろうとしないのか、その理由が分かりました。

  死にそう・・

 「俺は東京の地下鉄のラッシュアワーで鍛え上げられ、武士道魂を持つ日本人だ。ここで女・子供に席を譲らんでどうする!」

 と格好つけた自分に後悔したことを、ここに正直に告白します・・・

 しかしこれをどう文章で表現したらよいのか、正直わかりません。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 想像してみてください。

 8月の東京の朝のラッシュアワーの埼京線上り電車。人身事故の影響で1時間程遅延した揚句ようやく動き出した時の乗車率を。

 さらに想像してみてください。

 あなたが乗ったその列車には冷房がありません。扇風機も壊れて動きません。

 そしてさらに想像をたくましくして下さい。

 乗客は皆それぞれスーツケース程の大きさ荷物をいくつも抱えています。しかも順番を守ろうとか、他人に気を使おうとか、一切考えていません。

 そして、もうここからは想像不可能かもしれません。

  その地獄のような車両の中を、食べ物がいっぱいつまったカゴを抱えた兄ちゃんが、車内販売のために動きまわるのです!!  

 乗客の手を借りつつ、乗客の頭を踏みつつ、阿鼻叫喚の車両の中を動き回る彼らのその商売魂には脱帽するしかありません。インドにやってきて1か月が過ぎ、そんじょそこらの喧噪では驚かなくなっていた自分ですが、これにはさすがに焦りました。。。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そんな“人の海”で溺れること3時間弱。待ちに待った“Srikakulam(スリカクラム)”の看板が目に飛び込んできました!!ようやく1等車両に移れる時が来た!

 しかしその前に、

   戦わなければなりません。

 降りる乗客に一切構うことなく“突撃”してくるインド人と。。。。

 そして、

 つい数時間前まで、怒鳴り声をあげるインド人に「マナーがなってないなぁ」と眉をひそめていたその日本人は、

 「そのスーツケースは俺のだ!上に座るなよ!ペチャンコになってるじゃないか!」「おい!!俺が下りるんだ!ちょっと待て!待てと言っているだろ!!!」と怒鳴り声を上げていたのでした・・・

 ・・・

 スーツケースとバックパックを必死になって確保しながらようやく車外に脱出。汗だくです。。。

 振り返ると、そこにはさらに激しさを増した戦場が広がっています。

    

 日本人の目から見たら「これは絶対に全員は入らない」と誰しも思うような混雑。しかしこれが何とか収まるのですから不思議で仕方ありません。もっともその中にいると、不思議がっている余裕は一切ないのですが。

 一等車両のトイレで汗だくになったシャツを替え、頭から水をかぶって落ち着いたのち、自分の座席を確保。

    

 あぁ、すいている・・・

  冷房も効いている・・・

   正に地獄から天国に来たようです。

 周りをみまわすと、ラップトップを広げている女性、アイポットで音楽を聴いている男性、奇麗な英語で話す子供たち。。。

 この車両が、先ほどの車両とつながっているとは、まったく想像もつかないほどの違いです。ここでもインド社会に存在する「超巨大格差」の圧倒的な規模に驚愕せざるを得ません。

 それにしても、往復で44時間の汽車の旅。

 肝心のミーティングが延期になって空振り感の強かったこの出張ですが、この強烈な体験ができたのは何よりでした。

 そして何より、

  もう二度と体験したくありません・・・


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