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「島田清次郎 誰にも愛されなかった男」

2018年01月22日 | もう一冊読んでみた
 ■ 島田清次郎 誰にも愛されなかった男/風野春樹  2018.1.22

風野春樹著 『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』 を読みました。

一九一九年(大正八年)、島田清次郎はわずか二十歳の時、 『地上』 で華々しく文壇デビューを飾る。
批評家はこぞって絶賛し、作品は大ベストセラーとなる。初版は三千部。
続く、 『地上 第二部』 は、初版一万部。二日で売り切り、三月までに四万部が発行されるという爆発的な売れ行きとなる。
しかし、自分の天才を鼻に掛ける傲岸不遜な島田の言動は文壇では嫌われる。
海軍少将令嬢を誘拐監禁する事件を起こし、人気は一気に急落した。
晩年を、巣鴨の精神病院「保養院」に入院して過ごす。
享年三十一。
短い島田清次郎の一生でした。

そんな島田清次郎の短い生涯を描いたのが、精神科医の風野春樹氏のこの作品です。

  「俺は小説家の島田清次郎だ」/島田清次郎は本当に狂人だったのか

藤原英比古「狂人となった島田清次郎君を精神病院の一室に訪ふ記」/「主婦の友 1924年12月号」は、ギョロギョロ、目が特徴的な人物像のイラストを描いていますが、普通ではないように感じられます。
「院内で書かれた清次郎の葉書」の写真も奇異な感じを受けます。

島田清次郎の人物像を少し、覗いてみましょう。

 早熟で並外れた才能を発揮するが、奇矯な振る舞いも多く、最後には発狂して悲劇的な末路を遂げる。島田清次郎は確かに世間の期待する「天才」の要素を兼ね備えている。「天才」から「狂人」への転落というスキャンダラスな物語は、私たちの好奇心に大いに訴えかけるものがある。

 君のその余りにも大なる、最初はあり余る稚気から生まれ途中反抗的に増大した君のその自信と傲慢とは、心ある者をして反感や不快よりも寧ろ同情と愛とを抱かしむるが如き性質のものである。(英雄型の作家/橋場忠三郎)

 <自分のうちには恐ろしい暴君がすんでゐる>(『早春』より)
 清次郎はそう書き記している。


 清次郎は、本気で世の中を変えるつもりでいた。

大正時代のベストセラー作家ではあるが、今では、なかなか手に入りにくいし、見る機会もない島田清次郎の作品の特徴を見てみましょう。

 若者たちは『地上』の出現によって初めて、同世代の文学を発見したのである。同世代の感性で、同世代の人物を主人公に、同世代の読書に向けて書かれた小説、つまり現代で言う「ヤングアダルト小説」の祖が島田清次郎の『地上』であるともいえるだろう。

 清次郎の作品では、自分自身をモデルにした主人公を歯の浮くような過剰な褒め言葉で讃えたかと思うと、実存する知人を思わせる登場人物を、醜く悪辣な人物として描く傾向が強まっていく。

 『地上』を第三部で終わらせることができなかった清次郎は、その後も延々と『地上』を書き続けることになる。

清次郎は、どのような人生を送ったのでしょうか。

 清次郎はカリスマ的な人気作家になり、膨大な印税を手にしていた。さらに一般人には夢のまた夢である世界一周旅行まで控えていた。およそ作家として手に入れられるすべてを手に入れたといってもいいだろう。
 しかし、それでも清次郎は母離れできず、母もまた息子離れすることができなかった。


 「島田君はあの事件にも現れているとおり変態的な頭脳の所有者ですから普通道徳の愛で批判することは不可能なのです。道徳上の問題とすること迄もないと思うのです」
 「変態」というのは、当時流行していた言葉で、「異常」という意味である。現在の「変態性欲」の意味ではない。


 清次郎が催眠術をかけられる、と言い出したのは、一九二五年頃からのことらしい。池田隆徳も、「時々誰か催眠術を掛ける、前からそんな事がありました、其時は頭が苦しくなります、隣に居る人の布団が恐ろしく見えた、気味が悪い」という清次郎の発言を記録している。

寂しい晩年でした。

 文藝春秋や新聞を読んだり自分で著した「我れ世に敗れたり」を幾度も幾度もぱらぱらぱらとページを繰って蒼白な淋しい顔をして読んでゐる姿は実に気の毒な涙ぐましいものでした

 一人息子の清次郎を生涯愛し続けた母みつは、一九三二年(昭和七年)一月十五日に亡くなった。享年五十六。

 一九六二年(昭和三十七年)には、石川県出身の小説家杉森久英が、伝奇小説『天才と狂人の間』を刊行。第四十七回直木賞を受賞している。島田清次郎の名は、この作品によって広く知られることになった。

島田清次郎の「生きた人生」そのものが面白いだけに、この作品も大変面白かった。

      『 島田清次郎 誰にも愛されなかった男
                  /風野春樹/本の雑誌社
 』


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