高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

付・Tレックスを追って

2005-04-19 | Weblog
私があるロック・コンサートのチラシを鋤田さんに渡し、カメラマンの鋤田さんに「ヤッコさん、ロック好き?」と声をかけられたのは、喫茶店レオンの前だった。
鋤田さんも私もそのときまでレオンでお茶を飲み、時を過ごしていたのだが、私はガラス張りの道路側、鋤田さんは奥のほうと、何となく席は決まっていた。お互いを認識しながら、遠めで見るというスタイルが2、3年つづいていただろうか。それが声を掛け合った瞬間から、お互いを遠めで見るという関係から、ロック・ミュージシャンを追う仲間となったのだ。
それまでに鋤田さんも、この界隈のニュースとして、私がロンドンでファッション・ショーの仕事をしてきたことを知っていたのだろう。私はロックには詳しくなかったけれど、ロンドンに滞在すると言うことは、ブリテッシュ・ロックの洗礼を受けることでもあったし、そうして聴くともなしに聞こえてくる音の世界は私の志向にぴったりだった。
鋤田さんは「Tレックスって知ってる?僕、T レックス撮りたいんだけど」とつづけた。
そういえば、ロンドンのあるパーティで、「今度T レックスのマネージメントをする」と言ってたひとがいたっけ。たったそれだけの根拠で、私は「はい」と答えてしまった。
そして数日後には、ロンドンに出発した。ちょっとした紆余曲折があったけど、パーソナル・マネージャーのチリタとめぐり合った。彼女とあっというまに仲良くなれたのもその後、女同士のいろんな話ができるようになったのも、全て最初の一瞥によるものだったと思っている。
私自身の経験から、精神世界っぽいことには用心深いところがあるのだけれど、ひとが発するオーラや呼び合う何か、のようなものはあるんじゃないか、と思う。チリタは最初から、彼女の人生の価値観のようなものを、ドンと私に投げかけてきた。「ヤッコ、私のこのイヤリングみて! 何の変哲もないゴールドの塊みたいなものでしょう?」
確かにそのイヤリングはそれほど洗練されているとも思えないゴツイもので鈍いゴールドの光を放っていた。
「このあいだ、これを外のトイレに忘れちゃったのよ。しばらくしてから思い出して取りに行ったんだけど、まだそこに転がっていたわ。だって、誰が見てもそんなたいしたものにはみえないでしょ。でもこれって、このあいだエジプトに旅行したとき買ったものなの。このイヤリングは紀元前に作られたのよ。紀元前て、キリストが生まれるまえよ。素敵だとおもわない?」確かに素敵だ。
私は「すごいストーリーね!」と答えた。
チリタはそのエジプト旅行にミッキー・フィンと行ったと教えてくれた。そしてずっと以前はマーク・ボランのガールフレンドだったとも。 私は優秀なインタビュアーじゃないので、その一言を、しっかりと胸に受け止めつつも、ふーんと聞き流した。「へー、それで、それで、、?」とその人のなかに踏み込んでゆくことが、私って意外と苦手なのだ。
「今はマークの奥さんのジューンと、とても仲良しなの」と彼女は言った。話をイヤリングに戻して、「ニューヨークにザンドラ・ローズと行ったとき、5番街のティファニーに行って、そこにあるダイアモンドをコケにしてふたり笑いあったわ。お店の人たちは私達が出て行くのをじっと待っていたみたい。いたずらが過ぎたかもしれないけど、私にしかわからない、私にとって大切なものが、本当の宝物なのよ」
彼女と街を歩いていた時、ちょっと待ってね、と私に言ってある男性と立ち話をした。
「あのひとと結婚してたことがあるの。今思うと、ほんとに結婚してたのかな、と自分でも思うくらい実感がないけど。彼はいまや、有名な音楽プロデューサーよ。パーセンテージで稼いでいるから、とてもお金持ち」と言った。
業界に疎い私にはその彼が誰なのかは知らなかったし、チリタに聞くこともなかった。そんなふうに、彼女には仕事以外のいくつかの場所やアーティストのアトリエなどに連れて行ってもらった記憶がある。チリタが着ていた服の感触、細い身体から発せられる鋭い声、こういう女同士のおしゃべり、、、みんな鮮やかに覚えている。それなのに、ここに登場する彼らはチリタのジューンもすべてこの世にはいないのが、私にはとても不思議に思える。

写真 (撮影・鋤田正義) Tレックスの事務所で。私にはたった一人で事務所をおそるおそる訪ねた最初の日の印象しかなかったが、この写真をみて、その後も鋤田さんと何度か訪ねているのを思い出した。

※皆さまの書き込みにお答えして少し書き足しました。途中経過など、省略したり、ちょっとダブルところがあるかもしれません。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ティラノザウルス・レックス (M)
2005-04-19 23:09:22
Yaccoさん、付・Tレックスを追って、どうも有難うございます。当時を思い出しながら、懐かしく拝読しました。



Tレックスにゆかりある人々は、なぜか夭逝してしまうのですね。ティラノザウルス・レックスと名乗っていた頃のマークの相棒、スティーヴもしかり…(ミッキーより好みでした)



エスニックなフォーク・デュオて感じで、中東・北アフリカっぽい旋律に、マークの小節というか、ビブラートの利いた妙~な歌声が、聞くほどに癖になってしまいました。本場の文化と音楽に接している今聴くと、旧殖民地に憧れる、かっての宗主国の白人青年たちの、無邪気なお遊びっぽくて、カワイイもんですが、個人的にはメジャーになったTレックス時代の音楽より、こちらが好みですね。



原宿のレオンと言えば、大昔Yaccoさんにコーヒーごちそうになりました。神戸から来た私には「狭くて大衆喫茶という感じで、何であんなに人気あるんだろ」と不思議でしたが、謎はすぐに解けました。そこに集まる当時流行最先端の人、人、人…それぞれ皆がYaccoさんに声を掛けて行く…そこは新しいものが次々生まれるラボでした。



仕事先が原宿にあるので、毎月何度が訪れてますが、新しいお店が乱立してもう満腹です。その一方多くの伝説のお店が消えて行きました。ああ原宿栄枯盛衰!「表参道のアリス」よ今いずこ。Yaccoさんがアリスを封印していた気持ち、とても理解できました。でもこうやって次代にアリスの体験を伝えて下さり、感謝にたえません。
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Unknown (Yacco)
2005-04-20 18:05:18
Mさん、書き込みいただいてレスポンスしたのですが

それが行方不明なので、ダブルかも知れないど、、



Mさんは私が存じあげている方のようですね。

70年代に書いたアリスとは違ってしまうと思うけど、回顧談や自慢話にならないよう、あの時代の風と今の風を織り交ぜつつ、これからも書いてみようと思っています。
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おかしいです (M)
2005-04-23 17:47:34
Yaccoさんへのレス、何度か書き込みを試みましたが、行方不明になったままです。調子おかしいのと違います?
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聞いてみます (Yacco)
2005-04-23 19:29:00
これが入らなかったら、ホットワイアードの方に聞いてみましょう。
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無事のようです (M)
2005-04-23 21:43:35
Yaccoさん今度は大丈夫でした。



>70年代に書いたアリスとは違ってしまうと思うけど、回顧談や自慢話にならないよう、あの時代の風と今の風を織り交ぜつつ、これからも書いてみようと思っています。



そうです、そのとおりです。でもYaccoさんだからこそ出来ることだと思います…となればボウイの登場が待たれます。
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レオンでの、 (ツバメ)
2005-04-23 22:11:30
「ヤッコさん、ロック好き?」という鋤田さんの一言から、ものすごいマジックがいろいろ起きるんですね。もっともっと読ませて頂きたいです!
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