高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

2月12日 フラワートラベリングバンド

2006-02-15 | 千駄ヶ谷日記
青山のアンデルセンでアートディレクターの福田さんとランチしたあと時間の隙間があったので、ZUCCAに寄った。
ほとんど無意識状態でお店に入ったとたん、ある世界に引っ張り込まれた。
そこに流れている音楽が店の空気を振動させている。
そこにかかっている洋服たちが音楽に共鳴している。
私はじっと佇んで曲に聴き入った。フラワー・トラべリング・バンドの「サトリ」だ。それも「これがフラワー・トラべリング・バンドの音だったろうか?」と耳を疑うほど、エキゾチックな音に満ちている。この古典的な響きは、当時の録音のままなのだろう。
ジョー山中の”サンシャインエブリデイ”のリフレインが身体にじーんと残る。
店員さんに「この音楽、有線ですか?」と聴いたら「ちがいます。これはデザイナーの小野塚がこのシーズンのテーマにした曲なんです。それで、今シーズンはこれを店で流してます」
道理で洋服たちが共鳴しているはずだ、と思った。
私が動けなくなって曲に聴き入ったのも、そのせいだった。

私はお守り状態で持ち歩いている見本の本を取り出した。
「あの、ジョーってこの人なんです。ここにフラワー・トラべリング・バンドのこと、書いてあります」
それから階段を上がってカフェの脇にある「COW BOOKS」(本屋さん)に立ち寄った。
私はカウ・ブックスでときどき貴重な発見をする。アンアンの創刊号や宇野千代さんの「刺す」の初版本などを見つけている。

ここで、アンデルセンにいたるまでの午前中の行動を告白してしまおう。
午前中、新宿の紀伊国屋本店に行った。読売文学賞を受賞した宮内勝典の「焼身」を買うためだった。
1階で買ってから、2階、3階と売り場を歩いてみた。若い頃からよく来ているこの店。

30数年前、「表参道のアリスより」を出した時は一瞬売り場に私の本が並んだのを目撃して、ドキドキしたものだった。
こんどの「表参道のヤッコさん」はどうかしら、、、
一階に降りてゆき、さっき本を買った店員さんを見つめた。
そしてまた本を見つけて、その店員さんに渡した。町田康の「東京飄然」といしいしんじの「雪屋のロッスさん」。
ふたりとも小三治さんを追いかける落語仲間なんです、、、そして今度私も本を、、って言いたかったけど、言えなかった。
それから「日々の泡」(週間ブックレビュー推薦)と「河岸忘日抄」と合計5冊買って、5冊目にやっとその店員さんに「あのー」と切り出した。
そしたら、その店員さんに「あ、その本、入れることになってますから」と簡単におっしゃった。
1冊目を買ったときは店内はまだすいていた。
5冊目間を買う時は、もう混んできて店員さんは忙しくなってしまった。
私はあわてて「発売前に、これ読んでみてください」となけなしの見本を手渡してきてしまった。

そしてZUCCAのあとは2時から、下北沢の本多劇場で「夫婦犯罪」(片桐はいりさんなど出演)を観た。
そのあと、みんなで劇場の前の台湾料理屋で早い夕ごはんをわいわい食た。
今私は「小さな食卓」というブログをやっているが、みんなで食べる「大きな食卓」も楽しい。
そのこと書こうと気付いたのはさんざんご馳走になってから、帰りの電車のなかで重たい胃袋を意識した時だった。
あ、デジカメで撮っておけばよかったわ、と思ったときは、もう遅かった。

写真・ 70年代のジョー山中と私。原宿レオンでのスナップ。 
あ、この写真を「表参道のヤッコさん」にいれるのわすれた。せっかくジョーさんがOKしてくれたのに。 (撮影・染吾郎)

2月11日 表参道ヒルズ

2006-02-13 | 千駄ヶ谷日記
花粉がちらりと飛び始めたようだ。
そろそろ布団や洗濯物を干すのに用心深くならなければ、と思う。
私は今のところ花粉症じゃないけど、体内に蓄積されてゆくとある時点で症状が出るそうなので気をつけている。
布団が花粉の温床にならないよう、大好きな布団干しも今日ぐらいまでと、必要な布団を朝のうちに干す。

昨日、本の見本が5冊だけ届いた。(またまた、自分の本のことで恐縮です)
うれしくて、仏壇にあげてチンをして、近所の本屋さんに一冊持って行く。商店街の本屋のおじさんとは、今回に限らず、本の出版の話があったりすると報告していた。(たまーにあるのです)
それで、本屋さんに本をプレゼントするというのも、ヘンな話だけど、思わず走ってしまった。月曜日にはお店に行って感想を聞こう。
それから鳩森神社に行って、お賽銭を奮発して本を置いて、パンパンと祈った。
夕方、ある方と35年ぶりぐらいのデイトをした。Tレックス友だちだったその方は、レコード会社の社長さんになっていた。一冊プレゼントした。
そして夜、息子に一冊あげた。
私には多分1000人ぐらいの友だちがいる。今後友だちに会うたびに本をあげたくなるだろう。花咲かじいさんみたいに、ばら撒きたくなるだろう。
ごめんなさい、1000冊は無理だから買ってね。

4、5日前、仲良しの女性プロデューサーと池尻の和食屋さんで「ふたり新年会」をした。(旧正月になっちゃったけど)
そのお店の途中に洋菓子屋さんがあって、彼女がご主人にチョコレートを買うというので、立ち寄った。女の方がひとりでロールケーキを作っていた。
そのひとは紺色のステキなセーターを着ていて、それはマドモアゼルノンノンのものなのは明白だけど、どうみても30年前のものだ。背中にはパリの地図が編みこまれている。
「そのセーター昔のノンノンでしょ」
「そうなの、セントラルアパートにノンノンがあったとき、オーダーで作ってもらったのよ」
それが引き金になって、彼女の話が昔セントラルアパートや原宿にまつわることになり、ロールケーキをつくる手はピタリと止まってしまった。
彼女の話を聴きながら、そのことみんな私の本に書いてあるよ、と言いたくてたまらない。
最終的に名刺に「表参道のヤッコさん」と書いて渡した。
「あ、高橋靖子さんだったのね」と彼女は言ってくれた。
近所の本屋さん10冊、池尻のケーキやさん1冊、衣装合わせをしたタレントさん2冊、プロデューサー3冊、今のところの予約状況なんですけど。

今朝、表参道のアンデルセンで朝ご飯べようか、と思って原宿の裏道から、伊藤病院のところに出た。
ケヤキ並木が思いっきり賑やかで、あ、今日は表参道ヒルズのオープニングだったと気付く。
人がいっぱいなのに、どういうわけか、スーッと入れてしまったのでそのままヒルズに突入し、ぐるっとひとまわりした。昔の同潤会の面影を残した棟では、「うん、こんなだったかも」と感触を確かめた。ささやかに草間弥生さんのバッジを買った。
この人ごみの中にケヤキ会の青木さんがいるんじゃないかとケイタイを鳴らしたら明治神宮にいるという。
そのまま明治神宮の本殿までいって、ここでは少なめにお賽銭をあげて、(メジャーだからいっぱいあげる人がいるだろうと思って)帰りに八竹で茶巾寿司を買って帰ってきた。

恥ずかしいけど、本が出来あがりつつあることで、神頼みしながらもこんなにうれしい日々です。

写真 (撮影・Yacco)