高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

1月22日 「表参道のヤッコさん」

2006-01-22 | 千駄ヶ谷日記
30年ぐらい前、大和書房から「表参道のアリスより」という本を出版したことがありました。
その時は「服装」という雑誌に数回連載された私のエッセイを観て、大石さんという若い編集者が辛抱強く叱咤激励してくれて出来上がった本でした。

今回それに呼応するように「表参道のヤッコさん」という題名で出版されることになったこの本は、まさしくこのブログから生まれました。
このブログを書き始めた頃、「あのヤッコさんじゃないの?」「あの本、まだ持っています」「今でも時々読み返します」というメールが私にとどきました。
あの本が、私の知らないどこかで、ひっそりと生きながらえてくれてたとは ビックリ!でした。

今度の本は「千駄ヶ谷スタイリスト日記」の中の70年代の記述になるとアクセスが増えるので書き続けるように、、というホットワイアードの江坂さんのアドバイスによるものでした。 (といっても、私はアクセス数なんていまだに知らないのですが)

それに半分以上、書き足して、今この本は生まれようとしています。

当時の膨大な写真の中から、アートディレクターの葛西薫さんが選んだ表紙の写真は、なんと、アリスのときと同じ染吾郎さんによるものです。 染吾郎さんというニックネームの由来は、当時、山本寛斎さんのアトリエのバスタブで、タイダイの染物をしていたからで、折々、私をスナップしてくれていたのです。
新宿西口のフーテン第一号で、現在は画家のガリバーさんがとってくれた写真。
私のロック人生の扉をあけてくれた鋤田正義さんの、信じられないぐらい貴重な写真の数々。
10人ぐらいのカメラマンの方の協力で、100枚の写真が入ってます。
当時の表参道、ニューヨーク、ロンドン、若い人たちが見たことがないセントラルアパートやレオンなどは、偶然私が撮っていました。

この本はうまくいけば、2月20ぐらいに出るのですが、どちらかというと縁の下の力持ちの私の本が店頭にどっと並ぶのかどうか心配です。
どこかでみつけたら、手にとってみてね。

PS これから30分後に、大阪、尾道のロケに出発するので、とりあえずこのニュースを大急ぎで、お知らせして、重たいスタイリストバッグを背負って新幹線に乗ります。

写真 「表参道のヤッコさん」(アスペクト社)、アートデレクター・葛西薫 撮影・染吾郎

1月11日 ホームレス

2006-01-13 | 千駄ヶ谷日記
お正月だし、戌年だし、元日のココの写真を公開してしまおう。
元日、鳩森神社でお参りをして、新しい破魔矢と御札を買って大家さんの庭で遊んだ時のもの。
その後、何度もいっしょにお参りしてるからココも「開運招福」のご利益間違いなし!

と、のどかなことを書こうと思ったのだけど、、、

早朝、ココと体育館をひとまわりすると、薄っぺらなビニールのピクニックシートを巻きつけて、しかもそのうえビニールの紐で自らの身体をぐるぐる巻きに包装して夜を明かしたホームレスのかたがいたりする。(多分ピクニックシートが風に飛んでいかないように。初心者のホームレスの方は所持品が少ないからね)
そんな姿をみるたびに、彼に毛布があったら、寝袋があったら、と思う。

実はこれから書くことは、「善行」を披露するようで気が引ける。
それで誰にも言ったことはないんだけど、私は毎年寒さが厳しくなると、家の中を探して、毛布やベッドパッドをデカイ紙袋に入れ、さっとホームレスの場所に置いてきたりしていた。
それが今年はこの極寒。
豪雪も地球の温暖化の振り子現象のひとつだと、聞いたが本当だろう。

去年はこのブログのために大量の70年代の写真を整理したが、その時、何でこんなものが?と我ながら不思議に思うものがぽっこり現れるのだった。
たとえば、イングリッシュ・グリーンの厚手のピクニックシート。裏がビニール系でおもてがグリーンと紺のタータンチェック。起毛した厚手のウールはコンクリートの冷えを和らげるだろう。その上昼間はくるくると巻いて、ショルダーバッグのようにさげられるようになっている。
私はこういうものを、自分の人生の夢とイメージのために買っていた。これもそのひとつだけど、30年間一度も使用したことはない。

寝袋もあった、あった。15年以上前のこと、しし座流星群を見るために、みんなこぞって寝袋を購入して長野県に行った。軽井沢に近い教会の脇のキャベツ畑に寝袋でゴロンと横たわり、芋虫状態で流れ星を見上げたんだった。寝袋を使ったのは、そのとき一回きりだ。
こういう思い込みの産物はこの冬から別の使命を持ってもらおう。
気温がグンとさがった5日の夕方、事務所をシェアしている清美さんに初告白した。
そしたら、「実は私も代々木公園のホームレスの人たちに同じことしてた」とのこと。

私たちは彼らの寝具になるべきものと温かい飲み物が入ったポットを抱えて、技場付近に出かけた。
ふたりになったおかげで、ちょっと勇気が出て彼らと会話した。

「こんな寒い日、どこかで炊き出しができたらいいね」
「特別寒い日、教会とかが今晩は中にお入りください、って建物の中まで解放することがあってもいい」
そんなことを話していたら、清美さんが毎日新聞を持ってきて、
「ねー、私たちがしたようなこと、もっと大勢でやってるよ」といった。
そこには「山谷夜回りの会、路上生活者を支援、寒い夜、食事や毛布配り」とあった。(毎日新聞1月11日朝刊都内)
こういうことは、転んだ人にちょっと手をさしのべる程度のこと。
いつも思う。人生は紙一重。私だっていつ転ぶかわからない。

12月12日 原宿表参道エコ・パーティ、そして、、、

2006-01-05 | 千駄ヶ谷日記
12月はおもしろいことがいっぱいあって、書くヒマがないくらいだった。
でも、これだけは、ということをさかのぼってひとつ、記しておきます。

表参道欅(けやき)会を訪れたのは、2月に出版する「表参道のヤッコさん」に載せる70年代の原宿のマップの資料を確認するためだった。
ところが訪ねて驚いたのは、欅会の皆さんが懐かしい方たちばかりだったこと。
70年代、原宿のブティック、マンションメーカーがこぞって融資をうけた「国民銀行」、焼肉の八角亭、茶巾寿司の八竹、今井美容室、千疋屋、RCAビクターがあったときはよく通ったピアザビル、、そういうところの皆さんが地元のために活動している。
40年ぶりの再会に私自身が興奮してしまった。
それが縁で、エコ・プロジェクト+忘年会に呼ばれ、パネルディスカッションではパネリストのひとりとして、みなさんとお話をすることになった。
この集いでいちばん感動したのは樹木医の方ふたりが半年かけて表参道の163本のけやきを一本づつ診断した結果が発表されたことだった。
健康な木、やや問題のある木、相当弱っている木とあり、そのために何をしなければならないかが報告された。
その上でけやきを通した全国の町村を交流、たとえば、表参道のけやきの苗木を全国の市町村に配る、、というような提案があった。
私は待ってました、とばかり九州の川辺町の産業廃棄物、ダイオキシンを除去したものでつくったレンガの話をした。そのレンガを表参道のどこかに使って欲しい。
このレンガの存在を知っている区会議員の長谷部健さん、ソトコトの月本さんが会場にいらしたのは心強かった。

会場には神宮前小学校の図工の山田先生がいた。
けやき会主催のキャンドルナイトに、照明デザイナーの面出さんや多摩美の学生たちといっしょに、小学生たちと参加しているのだそうだ。
ちょっと控えめなモヒカン刈り、革のジャケット(本当はバリバリの革ジャンがいいんでしょうけど)、ブーツというスタイル。
とてもシャイで、良い感じの先生だ。
「『トントンギコギコ図工の時間』という映画知ってますか?」
「観てますよ」とのことだった。

やっぱり原宿はいいなー、と思った。

そして、これを書いている12月31日。
大晦日の表参道、アンデルセン2階でボルシチのランチ。
おじいさんを囲んで3世代そろって食べている人たちもいる。もう家族のお正月が始まっているようだ。
私は通りに面した席で、ガラス越しの街の風景を眺めながら、スプーンを運ぶ。
けやきの並木には国旗が並び、初詣の準備は整っている。晴れ渡った空も、既にお正月色の青さだ。

一年前になろうとしている今年のお正月、このブログで70年代の旅をしてみようと思った。
お正月休みだけの旅のつもりだったのに、ホットワイアードの江坂さんからアクセス数が急に増えたのでそのまま続けるように、とのメールをいただいた。
ブログってなにかも知らずに始め、いまだにアクセス数も知らない。
書き始めて10日間のあいだにいくつかの出版のお話があり、直感的にアスペクトにお願いした。
それから自分でも不思議なくらい、リアルタイムのことのように、70年代が浮かび上がり、キーを叩き続けた。

一昨日、アートデレクターの葛西さんから、一冊の本になろうとしている原稿の全レイアウトが届いた。
本の中身って活字が並んでいる静的なものじゃないんだ。
とっても活発な生きてる本になりつつある姿をちらっと見せてもらって、感激してしまった。
これから、どんな表紙になるのか、ワクワクしている。

私自身にも、まだたくさんの宿題がある。
葛西さんより、「せっかく挑戦的なデザインをしているのだから、カワイイ前書きはよして欲しい」とのメッセージ。
そうよね、私って、いくつになっても、可愛く見せたい志向がギンギンですもんね。これから書き直しっていうことだけど、うれしい注文だ。

ブログをはじめて一年ちょっと。このブログにきてくださったり、書き込みをしてくれてるかたがた、仕事の現場や街で「読んでますよ」と声をかけてくれるみなさん、このブログのチャンスをつくってくださったホットワイアードの江坂さん、書籍化に勤しんでくださってるアスペクトの貝瀬さん、

新しい年が楽しみで、私は今、走り出したくて足踏みしています。

写真 (撮影・貝瀬裕一) 神宮前小学校の図工の山田先生と。