高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

ミスター・モリタ!

2005-04-26 | Weblog
最初のロンドンが、寛斎さんのショウのプロデュースという夢にも思わなかったことをするはめになってしまったために、旅行では味わえない経験の連続だった。
ところが、モデルのオーディションも終わり、会場もほぼ決まったところで、ロンドンはイースターの休暇に入ってしまった。そうなると、あんなに親切だった人たちが、マイケルをはじめとして私の目前からすっといなくなった。まるっきり日本のお正月と同じで、家族の休日なのだった。
シーンとしたロンドンの街で、ひとり取り残された私は急に日本が(実はある人が)恋しくなってしまった。
せっかく格安のエジプト航空(これは、寛斎さんの会社で出してくれた。ひとのお金を使う訳だから、私自身がなるべく安いチケットを探したのだった)で来たのに、お小遣いの全てをはたいて、ほとんど衝動的に日本航空の切符を買って東京に向かった。
ヒースロー空港で、ミスター・モリタという免税品らしき紙袋をもった非常にハンサムな紳士を見かけたが、その方はすぐに私の視角から消えた。多分ファーストクラスに乗ったのだろう。
トランジットのためにモスクワ空港に降りたとき、再びその紳士を見かけた。
私は迷うことなくその紳士に近づいて、「ソニーの盛田さんでいらっしゃいますか?」と話しかけた。
「そうですよ」という答えを聞くと、「私はロンドンで、ソニーの電話番号を調べたんですけど、電話帳にありませんでした」と言った。
「あなたはロンドン市内で調べましたね。ソニーは郊外のサセックスというところにあるんですよ」と教えてくれた。
それから5分ぐらい話をして、盛田さんは「じゃ、そのショウの音響に協力するよう部下に言っておきますよ」と約束してくれた。

私の恋心の発作がもたらした無駄使いのおかげで、ソニーの社長の盛田さんに 出会うことができた。
もしも私が辛抱強くエジプト航空で、3日間かけて帰ったら、再びカイロでピラミッドを見れたかもしれないが、グッドタイミングで偶然、盛田さんに出会うことはなかっただろう。

東京に帰れば帰ったで、いろんなことが待ち受けていた。
寛斎さんとの打ち合わせ、ショウ用の音楽テープの作成などなど。特に音楽は衣装の展開とのタイミングを計りながら、一秒の狂いも許さないテープを作り上げた。(この音楽テープは名作です)

再びロンドンに取って返し、マイケルと最終準備に励んだ。
盛田さんはきちんと約束を守ってくださり、ショウの3日前から3人の技術者を送り込んでくれた。この3人のギャランティと、会場の音響設備もすべて無償だった。
完璧に作り上げたはずの音楽テープだったが、衣装が増えてどうしてももう一箇所バージョンが増えてしまった。
いちばん若い音響技師が、「これ、ヤッコの好みだと思うけど」ともってきてくれたのが、初めて聴くサンタナだった。
私は即座に気に入って「私が手を叩くところから、次に手を叩くとこまでを、ここのところに、こういう風にいれて」と稚拙な指示を出して、テープは完成した。

この話はビジネスマンにも格好な話題だったのだろう。のちに日本経済新聞にかなり大きく取り上げられた。

写真(撮影・Yacco) 「KANSAI IN LONDON」の会場になったキングスロードのスーベニール・ショップ「THE GREAT GEAR TRADING COMPANY」
営業時間が終了した午後6時過ぎから、すばやく売り場を整理してスペースを作り、ステージにした。 多分ショウは8時とか、9時ぐらいから行われた。

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1 コメント

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ふーっ、 (パーミン)
2005-05-01 20:46:33
とにかくヤッコさんは凄すぎ。発想、着眼点、度胸、

きっとすごい守護霊?が付いているんだろうな。

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