日野樹男句集(9)
■燒鳥の串に殺意もひとりごと
■鮟鱇の切り身やいのちうつくしき
■餠を燒くこころまづしき者として
■おもひでの櫻なりしが冬木かな
■地球いま冬の銀河の中にあり
■病得て懺悔に似たる返り花
■誘はれて小春日和の中にゐる
■湯豆腐や潰えし夢の數いくつ
■かなしみをやどす瞳に冬薔薇
■冬天に何もなきゆゑ見つめゐつ
■天上天下唯我獨尊雪が降る
■火口湖は鮮血たたへゐたり冬
■一指にて石は枯野によみがへる
■君たちはすつくと立つて枯れてゐる
■知人が他人と步いてゐる時雨
■囮めく人ひとりゐる枯野かな
■金銀の火事をめでたる聖者の手
■冬天ゆ天女ついらくしつつあり
■木製の子宮を出でし文月かな
■地下室にひまはり朝の蜜を溜め
■無言歌の無言を歌ふぶたくさや
■首吊るや胡桃くの一九九の果て
■滿月の鐡塔一點を指す疲れ
■市民A薔薇を兇器として愛す
■その蝶やわが蝶葬の泣き女
■死の旗へんぽんと花ふぶき
■肉化史をひもとく蝶の嘔吐かな
■なはとびの少女おびただしき少女
■花明かりして年は目覺めたり
■ジパングも黃泉も黃金や蝶の春
■指切りの幼年にじむ血のにほひ