■道あればかならず道をよぎる猫いづこへゆくや猫の生きゆく
■蟬のこゑ今年も戰後のまま老いて
■鏡中にとりのこされてわが死後の部屋を見てゐる寂しきをとこ
■放屁蟲ひとりぐらしも長くなり
■補蟲網ふりふり步むあの世まで地獄に落ちても蟲たちがゐる
■網戸して人といふ蟲かごに飼ふ
■野にあまた獸のかばね散らばりて喰ひたらひをり蟲の惑星
■蛾と爺いいづれが先に家捨てむ
■妄想癖いまも消えざるかなしさはもはや晩年死後を夢見る
■虹を探す愚者の仲間にわれもをり
■わらわらと蟲這ひ出でし石の下さぞや棲みよきところなるらむ
■歳重ね生きて理想は丸はだか
■這ふ蟲に翅あることのともしくてわれまた這ひつつ翅探しをり
■冷房に人冷藏庫に死魚が冷え
■未來とは過去の鏡像かがみより向かうはただのまつくらやみと