■見えぬものみな美しく霧の中
■字に書けば弱きさかなのいわし喰ふ骨がりがりと丸ごと喰らふ
■霧を身にまとひてゆくは霧の國
■雨の日の暗き部屋なりわが腦もかくやとあわてて明りをともす
■秋の野にわれをり咲かず裝はず
■闇に手を伸べては何か摑まむとそんな六十數年なりき
■あと少し生きてこの身も鵙の贄
■それ時は崩壞なればわが時計0:00と虛無をうそぶく
■百舌鳴いて空の殺人事件かな
■貝殼を殘すに似たり石に名を彫りてならべる墓原ひろし
■身にしみてわが血の赤し透析の
■二時間のDVDをまた一枚棚にはすでに餘生を超す時間
■龍になりそこねて蛇のまま穴へ
■分身の術を學びて明日よりはそのうち一人を透析がかりに
■長き長きうしろすがたや秋の蛇