■このごろはむやみに暑き夏といふ狼藉者がわが部屋に來る
●コナン・ドイルの事件簿(MURDER ROOMS) １-５／2000-01、英、TV／／イアン・リチャードソン、ロビン・レイン、チャールズ・エドワーズ
◎チャンネル銀河の錄畫。「シャーロック・ホームズ」の作者アーサー・コナン・ドイルの若い頃の話。邦題ではドイルが探偵役のやうに受け取れるが、實際にはドイルの大學時代の師でホームズのモデルとされるジョウゼフ・ベル授が探偵役。ドイルはいはゆるワトソン役ながら「本物のワトソン」よりは積極的な存在として描かれてゐる。私の勝手な想像だが、ドラマは最初は１話だけだつたところへ後で４話を追加したやうな感じ。第１話はドイルの學生時代で一應完結してをり、他は卒業して開業醫となつてから。さういふ事情だからかも知れないが、ドイル役の俳優が２話以降で變はつてゐる。ドイルに關しては傳記的事實を基本に置いた上で想像を膨らませてゐるのだらうが、ベル授の方は完全に名前だけの借用だと思ふ。ホームズ物語を逆にそのモデルとされる人物に投影させてゐるのだ。第１話では醫學生ドイルが名物授のベルと出會ひ、大學の講義だけではなく警察醫としても活動する授の助手としてその異樣なまでの才能に心惹かれていく話。ただし仲良くなりさらには愛し合ふやうになつた女性を、娼の一室を血の海にして姿を消した娼婦の事件を追ふうちにその犯人の異常者に目を付けられ殺されてしまふといふ悲劇を體驗する。授と共にその男を追ひ詰めるが結局は手が屆かず捕まへることができなかつた。有名な「切り裂きジャック」事件を聯想させる。ドイルの父親がに變調を來たしてをり入院させねばならない嚴しい先行きが見えて來てゐることも重なつて、このドラマでのドイルの春はとことん暗い。第２話以降は、「美しき自轉車乘り」を思はせる事件や寫眞師と靈媒師の事件、さらにはアイルランド問題やロマの曲藝師たちが絡んだ事件と多彩。どこかにホームズ物語の匂ひを絡ませながら、ホームズより少しだけ前の時代を克明にそして陰鬱に描いていく。最終話はベル授とドイルが、つまりはホームズとワトソンが搜査方法を巡つて對立し別行動を取るといふ大膽な物語展開で、もちろん最後には見事な解決が用意されてをり兩者も和解に至り大團圓。もはや師弟を超えて友情さへ抱くやうになつたふたりがまたの再會を約して別れるところでドラマは終はる。正直言つてドイル役はいまひとつながらベル授役のイアン・リチャードソンが素らしかつた。「ホームズ」だと思ふには高齡で沈著冷靜に過ぎるのだが、「ベル授」として完全に獨立した名探偵の風格だ。ストーリーは詰め込み過ぎでややギクシャクしてゐるところがあるものの、事件の背景となる時代風俗の描き方の重厚さなどドラマとしての見どころは滿載で、イギリスのミステリードラマはやはり凄いとしか言ひやうがない。
