投石日記

日野樹男
つながれて機械をめぐる血の流れ生は死の影死は生の影

くびをきり

2014年03月29日 | 短歌

 *思ひ出に
■頸を切り死ねざりしかど傷痕はときに痛みぬ生きてあるゆゑ
■死ねざりしわがもちかへる那智灣の水はわづかに耳より出でつ
■死ぬる意思なきゆゑ死ねぬと言はれつつわれもうべなふ弱き心を
■必然と思ひいどみし自死なれどつひに遂げざるままに老いむか
■必敗のわが人生なりきみづからを殺す夢さへつひにかなはず
■にんげんは弱しみにくし愚かしと思ひしのみのわが放浪記
■にんげんは強したくまし恐ろしと思ひしのみのわが放浪記


しゆうでんしや

2014年03月27日 | 短歌

 *思ひ出に
■終電車見送りなほも何か待つ無人の驛にしほさゐ聽きて
■寄せる波いくつ數へむためらひてわれは命を惜しみつつあり
■われひとり涙に濡れてあるときに那智海岸は雨降りゐたり
■びしよ濡れのわれに聞こゆる警察のテレビは少年の自殺を報ず
■何もかも捨てたきものを海に來て思ひ出ひとつまた持ち歸る
■空想のうちに建てたる王國の王は斃れきかくて老いむか


ふかくにも

2014年03月25日 | 短歌

 *思ひ出に
■不覺にも人を戀しと思ひつつ夜の林道を急ぐわれかも
■わが急ぐ林道白く月に照り山を下りれば生きねばならぬ
■この山の雲のあたりにわが屍隱さむときてつひに死ねざり
■うぐひすも鳴きてはわれに語りくる生きよと聞くは心のこゑか
■一日を水飮み暮らすとわが言へば那智の山水うましと警官ら


さんちやうを

2014年03月22日 | 短歌

 *思ひ出に
■山頂を目指すならねど山道は高きへ向かふ高きへゆかむ
■登り來て山より高く飛ぶ鳥をわれはともしと思ひ見るかな
■雲取の雲の中にてわれ思ふ雲となるにはこころ硬きを
■さまよへば熊野山中わが仰ぐ星つぶつぶと大きかりけり
■この山にわれひとりかも霧の夜の熊野雲取さまよふままに
■ふと迷ふこころのありて熊野道逸れてそれより道に迷ひぬ


とうかうの

2014年03月20日 | 短歌

 *思ひ出に
■登校の少女とともにバスを待つ死にゆく旅の途上にありて
■小暗きは小暗きままに陽のさせばそれも幸とし熊野道ゆく
■やすらへば舟見峠の霧はれてはるかに見ゆる人の棲む街
■峠より人の棲みなす街といふ小さきものをはるかに見たり
■はるかなる勝浦灣を見下ろして生を語りき山の老人は
■霧らひつつ杉のそびゆる熊野道たどれば時を旅するわれか
■いにしへは蟻のごとしと熊野道いまわれひとりはぐれし蟻か


きのことば

2014年03月18日 | 短歌

 *思ひ出に
■樹の言葉鳥の言葉と聞き分けて人語捨てむか峠を越えて
■森に入り森を拔けてもなほひとりわれを求めて誰にも遇はず
■飛びたつはわが魂の鳩一羽群にはぐれてゆくへはいづこ
■いのちとはものの壞るる一過程壞れこはれてわれはいづこに


ひともまた

2014年03月15日 | 短歌

 *思ひ出に
■人もまた動物なれば破滅へとただひたすらに殖しつつ
■遠く見る菜の花ばたけ黃に燃えてわが發狂をうべなふごとし
■逃亡は傷ましきかな振り向けばタイムマシンのごときゆふやけ
■さやうなら聲にはださぬ訣別は風に木の葉の戰ぐざわめき