ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランス語なんか話すキザな奴に、国の舵取りは任せられない!?

2012-01-11 21:52:19 | 政治
「フランス語」と「キザ」・・・どうも相性が良いようで、例えば、磯村尚徳氏の名台詞であり、著書のタイトルでもある『ちょっとキザですが』(1975年刊)。NHK「ニュースセンター9時」の初代キャスターを務めた磯村氏は本場仕込みのフランス語使い。ちょっとキザですが、という台詞が妙に似合っていました。

磯村氏がそれだけフランスのエスプリを体現していたということなのでしょうが(過去形で書いてしまいましたが、まだお元気で活躍されていらっしゃるのではないでしょうか、1929年のお生まれですから、82歳ですね)、磯村氏に限らず、フランス語やフランス文化に親しんでいる人はちょっとキザっぽい、というイメージが程度の差こそあれ、日本では浸透しているのではないでしょうか。

気障で、いちいちうるさい、それでいて、いざという時には頼りにならない・・・どうも、フランス、あるいはフランス人のイメージがそのままフランス好きな人々に当てはめられているような気もしますが、実際、その傾向があるような気もしないではなく・・・

磯村氏は、都知事選での敗北後、2005年3月まで「パリ日本文化会館」(Maison de la culture du Japon à Paris)の館長を務められました。パリ15区、メトロの“Bir hakeim”駅のすぐ脇、セーヌに面して建てられているガラス張りのモダンな建物で、すぐ前のスペースは「京都広場」(Place de Kyoto)と名付けられています。パリ滞在中は、よくここの図書室に通ったものです。2005年の夏からですから、磯村氏が館長を退かれた後ですが。

さて、フランスに対するキザというイメージ、持っているのはどうも日本人だけではないようです。テレビ局・France2の10日夜8時のニュースをご覧になりましたでしょうか。アメリカにいる特派員が伝えていた内容は・・・共和党予備選をリードし、本命視されつつあるロムニー(Mitt Romny)前マサチューセッツ州知事がフランス語を話せるというだけの理由で、中傷されている。アメリカの保守層には、「アンチ・フランス」感情が根強い、といった内容だったと思います。

イラク戦争への参加を拒んだフランスは、心の底から盟友と呼べる存在ではない。もともと、キザっぽくて好きになれなかったが・・・そんなアメリカ人感情が見て取れるようなのですが、もう少し詳しく知りたいと文字検索したところ、12月14日の『フィガロ』紙が記事にしていました。どのような背景があるのでしょうか・・・

民主党系のある団体が、共和党の予備選で優勢なミット・ロムニー対策として、彼がフランス語を話している映像をテレビで流して、アメリカの保守派の一部にある「フランス語嫌い」(anti-français)の感情を選挙戦に利用することにした。

イラク戦争にフランスが参戦を拒んで以降、フランス文化に親しんでいることを明かすことは、アメリカの政治家にとって決して利点とはならない。共和党の予備選に立候補しているミット・ロムニー、(12月14日現在での)世論調査ではギングリッチ(Newt Gingrich)元下院議長に次いで2番目の支持を集めているが、彼が「フレンチ・バッシング」(french bashing)の新たな犠牲者となっている。12月13日の夜から、ロムニー候補がフランス語を話しているところを紹介するスポット広告が2つの州で流されている。

この古いビデオでロムニー候補は、ソルト・レイク・シティ(Salt Lake City)の2002年冬季オリンピック開催地への立候補を応援しているのだが、新たに付け加えられた英語のサブ・タイトル(字幕)はまったく関係のない内容になっており、バックにはフランス国歌(Marseillaise)が流されている。「アメリカにおいて、妊娠中絶は合法的なものだと考える」、「温暖化は現実に進行しており、人類の活動がその一因になっている」、「1,200万人の不法移民は、永住ビザかアメリカの市民権を与えられるべきだ」・・・ロムニー候補が語るフランス語とはまったく内容の異なる英語字幕は、その内容ゆえ、モルモン教徒であるミット・ロムニーが超保守派の支持者にとっては我慢のならない存在となる。

アメリカンLP協会(l’association American LP)は進歩的考えを持つ候補者を支援し、保守反動的な考えの候補者を打ち負かすことを目指しているのだが、この協会が件のビデオを流した団体で、その理由を、ジョン・ケリー(John Kerry)を中傷するビデオを流し、彼を笑いものにした共和党支持者と保守層に復讐をするためだと説明している。2004年の大統領選において民主党の候補者であったジョン・ケリーは、実際、そのルーツがフランスにあること、フランス風の物腰であること、フランス語を話すこと、そうしたことがスノッブで傲慢、アメリカ人の関心事とあまりにかけ離れた生き方をしている人物として嘲笑の的となった。テレビ局・CBSはニュースのサイトで、ラジオのパーソナリティ、ラッシュ・リンボー(Rush Limbaugh:東日本大震災に際して、日本人を揶揄するかのように聞こえる発言をし、一部で問題視されました)、超保守的政治思想の持ち主であることを隠さない人物なのだが、彼が2004年当時、ジョン・ケリーを“Jean Chéri”と呼んだことを紹介している。

「ミット・ロムニーが完璧なフランス語を話す映像を見ることは、共和党予備選の投票者たちをかなり苛立たせるに違いない」と、アメリカンLP協会のTJウォーカー(TJ Walker:フォーブスやロイターなどで活躍するコラムニスト)は語っているが、彼はアンチ・エリート(anti-élite)の選挙民が自分たちと異なる候補者に直面し、表面的であるとは言え反応を起こすことに期待している。スポット広告は、13日夜からアイオワ、ニュー・ハンプシャーの2州で流されている。しかし、ニュー・ハンプシャーという選択は評論家を驚かせている。ニュー・ハンプシャー州はカナダのケベックと国境を挟んで接しており、住民の四分の一がフランス語を話す州だ。ミット・ロムニーのフランス語力と1960年代に2年半、フランスに滞在した経験は、ニュー・ハンプシャーではかえって彼に追い風となるのではないか。

・・・ということで、フランス語が話せることは、アメリカの政治家にとってはデメリット、公にはしたくないことのようです。France2のニュースでも、フランス人記者にフランス語で質問を投げかけられたロムニー候補が、その質問を完全に無視している場面が紹介されていました。フランス語を本当に流暢にしゃべれるのに。

今日のアメリカにはフランス嫌いが多いようですが、かつては、『巴里のアメリカ人』(“An American in Paris”)といった映画もヒットしました(1951年製作のミュージカル映画。監督:ヴィンセント・ミネリ、主演:ジーン・ケリー、音楽:ジョージ・ガーシュイン)。パリで活躍したアメリカ人芸術家も多く、例えば、ジャズ歌手のジョセフィン・ベーカー。「黒いヴィーナス」と言われ、その歌と踊りが多くのファンを魅了しました。また、パリに一時的にしろ住んだアメリカ人作家も多く、アーネスト・ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルド、エズラ・パウンド、最近では2006年に“Les Bienveillantes”でゴンクール賞(Prix Goncourt)を受賞したジョナサン・リテル、と枚挙にいとまがありません。

これほど芸術家に愛され、憧れの地となっているフランス。今でも多くのアメリカ人学生がフランスに留学しています。ソルボンヌの文明講座でも多くのアメリカ人が学んでいました。それが政治の世界となると、足を引っ張る存在に。多くの有権者がフランス嫌いだから、ということなのかもしれませんが、それほど神経質になる必要があるのか、どうか。

ただし、フランスあるいはフランス人に対するスノッブで傲慢という印象は間違っていないのかもしれません。なにしろ、『フィガロ』も、フランス語を話す政治家を嫌う人々はアンチ・エリートだと言っています。つまり、フランス語が話せる人は、エリート・・・さて、日本では、どうでしょうか。

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