ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

政治家にこそ、ユーモアが必要だ!

2011-06-23 20:42:16 | 政治
ペテン師、詐欺、裏切り者・・・日本の政界では罵詈雑言が飛び交っていますが、荒削りな言葉は、関係や状況を一層悪化させてしまいます。ちょっと肩の力を抜いて、ユーモアのエッセンスを取り入れてみると、政治家同士、そしてそれ以上に政治家と国民の関係が近づくのではないかとも思えます。

フランスに、“le prix Press club humour et politique”という賞があります。言ってみれば、「記者クラブ政治ユーモア賞」といったところでしょうか。ジャーナリストとユーモア作家が審査委員で、現在の審査委員長は通信社・AFPの元会長であるJean Miot(ジャン・ミオ)が務めています。

毎年、政治家が発した言葉の中から、意図した、意図せずを問わず、聞くものをくすっとさせたり、ドキッとさせるユーモア・センスある発言を選んで、賞を授与しています。今年の大賞は・・・20日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

“Mitterrand est aujourd’hui adulé, mais il a été l’homme le plus détesté de France. Ce qui laisse pas mal d’espoir pour beaucoup d’entre nous.”(ミッテラン元大統領は、今日でこそとても愛されているが、権力の座にあった当時はフランスで最も嫌われていた。このことは、我々の多くに悪くない希望をもたらしてくれる。)このフレーズで、ローラン・ファビウス(Laurent Fabius:社会党の政治家。ミッテラン大統領の下、1984年から86年に首相を務めるなど、閣僚、下院議長、党の第一書記など要職を数多く務めてきた)は20日、今年の“le prix Press club humour et politique”の大賞を受賞した。2位はエヴァ・ジョリー(Eva Joly:ヨーロッパ・エコロジー所属の欧州議会議員。ノルウェー人でフランス人男性と結婚後、ノルウェーとフランスの二重国籍を所持。2012年の大統領選へ、エコロジー・グループからの立候補を目指している)の衝撃的な次の台詞だ。“Je connais bien Dominique Strauss-Kahn, je l’ai mis en examen”(私はドミニク・ストロス=カンをよく知っているの。彼を試してみたのだから。)

ローラン・ファビウスが獲得した大賞以外の賞は、次のような結果になった。審査員特別賞は、ダニエル・フィドゥラン(Daniel Fidelin:与党UMP所属、2002年から下院議員)が次の発言で受賞した。“Vu de la Chine, le port du Havre ne travaille pas.”(中国から見れば、ル・アーヴルの港などまったく動いていないようなものだ。)インターネット・ユーザー賞を受賞したのは、ジャン=ルイ・ボルロー(Jean-louis Borloo:中道右派の急進党党首、2002年から2010年まで環境相や経済・財務・雇用相など閣僚を連続して務めてきた。ヴァレンシエンヌの市長も2002年まで長く務める。2012年の大統領選への立候補を模索)の“Nous sommes tous des immigrés, seule notre date d’arrivée change.”(我々は皆、移民なんだ、ただ到着した日が異なるだけで。)というコメントだった。

また、今年は“le prix d’encouragement”(頑張りま賞)が一人に授与された。受賞したのはフレデリック・ルフェーヴル(Frédéric Lefebvre:与党・UMPの政治家で、2010年から貿易・手工業・観光・サービス・自由業・消費担当大臣)で、“Quel est votre livre de chevet ?”(あなたの愛読書は?)という質問に対する“Zadig et Voltaire”(ザディーグとヴォルテール)という答えで受賞した。“Zadig et Voltaire”では、ファッション・ブランドだ(“Zadig de Voltaire”「ヴォルテールのザディーグ」と答えたかったのでしょうが、思わず、「ザディーグ・エ・ヴォルテール」というアパレル・ブランド名を口走ってしまいました。好きなブランドなのでしょうか。因みに、「ザディーグ・エ・ヴォルテール」は、ティエリー・ジリエによって1989年に設立されたブランドで、南青山に1号店をオープンするなど日本マーケットにも進出しています)。

なお、今年、受賞は逃したものの、ノミネートされたのは次のようなフレーズだ。

“Je ne serai peut être pas élue présidente de la République, mais je ne serai pas la seule.”(私が大統領に選ばれることは多分ないだろうが、選ばれない女性は私だけではない)
~Nathalie Artaud(極左・トロツキスト政党・労働者の闘争党Lutte ouvrièreの報道官)

“Qu’on commette des erreurs en politique c’est possible : qu’on les commette toutes, c’est fou !”(政治において間違いを犯すことはあり得る。しかし、すべてが間違いだとしたら、それはバカ者だ)
~Guillaume Bachelay(社会党の産業担当全国書記:セゴレーヌ・ロワイヤルを評しての一言)

“Michèle Alliot-Marie conserve toute légitimité à Saint-Jean-de Luz.”(ミシェル・アリオ=マリはサン・ジャン・ド・リュスでならすべての正当性を保っている)
~François Baroin(予算相:MAMは今年初め、外相を実質上、解任されました。MAMはフランス南西部、バイロンヌに近いピレネー・アトランティック県にあるサン・ジャン・ド・リュス市の市長を1995年から2002年まで務め、その後も筆頭副市長の座にあります。)

“Rassembler les centristes, c’est comme conduire une brouette pleine de grenouilles : elles sautent dans tous les sens.”(中道主義者を集めること、それはカエルをいっぱいに積んだ手押し車を引いて行くようなものだ。あらゆる方向に飛び出してしまう。)
~François Bayrou(中道政党・Modem党首、2007年の大統領選で善戦)

“Dans sa forme historique, le PC est mort ; mais il a encore de l’avenir.”(共産党は、歴史的にはすでに死んでしまっている。しかしそれでも、共産党にはまだ何らかの未来がある。)
~André Chassaigne(共産党所属の下院議員)

“Il y avait tellement de gens à mon enterrement que j’ai décidé de ne pas m’y rendre.”(私の埋葬に立ち会うべくあまりに多くの人が集まっていたので、私は墓地に行くのを止めたんだ。)
~Patrick Devedjian(与党・UMP所属の下院議員で、オー・ド・セーヌ県の県議会議長。県議会議員選挙で勝利した夜のインタビュー、落選を予想した人たちへ皮肉を込めて一言)

・・・ということで、受けを狙ってのユーモアよりも、結果としてくすっとさせるコメントが多いようです。しかし、どれにも程度の差こそあれ、共通してあるのは、皮肉。あるいは、賞の授与自体が皮肉になっているものも。皮肉のスパイスをまぶさないと、フランスではユーモアとは認められないのかもしれません。さすが、皮肉屋のフランス人です。

では、日本では。政治家に限らず、建前に終始しないといけないのでしょうか。あるいは、いい人であることを印象付けないといけない。あるいは、周囲への感謝と前向きな姿勢をしっかりと感じさせなければいけない。皮肉など入れようものなら、嫌みな奴、と嫌われかねません。

日仏、両者には大きな違いがあるようですが、それぞれに差異があるということで、どちらが良い悪いというものでないことは、改めて言うまでもありません。違いの分かる日本人へ! アメリカは日本人、特に日本の政治家と官僚をナイーヴだ、つまり世間知らず、世界知らずだと評価しているようですが、そんなことはないと胸を張って言える日が早く来てほしいものです。まずは、世界にある違いを知って、その違いを認めること、からですね。
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