ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

マリーヌ・ルペン、二重国籍の廃止を訴える!

2011-06-04 21:49:58 | 社会
先日のペルー戦は、さびしい内容だったザック・ジャパン。3-4-3とか4-3-2-1とか、システム論が喧しい報道になってはいますが、プレーするのは選手。システムに縛られ過ぎず、持っている才能を十分に発揮してほしいものです。次のチェコ戦では、スターティング・メンバーも変わることでしょうが、ぜひ、攻撃的で、見ていて楽しいサッカーを再び見せてほしいと願っています。

ということで、まずはサッカーの話題から。1995年に出された「ボスマン判決」により、EU加盟国の国籍を持つサッカー選手は、契約満了時、EU域内にある他のクラブへ自由に移籍することができること、また外国籍選手扱いを受けないことが保障されるようになりました。外国人枠が決められている多くの国のリーグ加盟チームにとっては、うれしい判決でした。しかし、それでも外国人選手、特に南米出身の選手が外国人枠を超えてしまうチームもあり、なんとかできないものかと知恵を絞った結果、増えたのが二重国籍選手。

何年かその国でプレーし、納税を行えば、二重国籍が取得しやすくなったり、家系を遡って欧州からの移民がいるとEU加盟国の国籍が取りやすくなったりしています。例えば、カカはブラジルとイタリア、ロベルト・カルロスはブラジルとスペインの二重国籍を持っています。二重国籍をとれば、EU出身選手扱いされますから、本人にとってもチームにとっても、大きなメリットとなります。

しかし、そのためには、本国および二つ目の国籍を取得しようと思う国が、ともに多重国籍を認めていなければなりません。多重国籍を認めている国は、次のようになっている。

「アメリカ合衆国、ロシア、カナダ、メキシコ、コロンビア、ブラジル、ペルー、チリ、パラグアイ、ウルグアイ、イギリス、アイルランド、フランス、イタリア、スイス、ポルトガル、フィンランド、イスラエル、トルコ、ナイジェリア、モロッコ、南アフリカ共和国、コートジボワール、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、フィリピンなどであるが、原則としては認めないが例外として認める場合や、条件付の場合など状況は各国において様々である。」(「ウィキペディア」)

フランスもリストに入っています。フランスでは南米出身選手というよりは、アフリカ出身選手の二重国籍が多く、しかもそれが最近問題になりました。せっかく、ジュニアの優秀な選手を集めてトレーニング・センターで育成しても、成長した暁には本人あるいは親の出身国の代表チームに入ってしまう。フランス代表に選ばれるよりは簡単ということですね。それでは何のために特別に育成しているのか分からない。ということで、エリート養成所・クレールフォンテーヌ(l’institut national du football de Clairefontaine:INF)への二重国籍選手の入校に制限を設けようということが話し合われたというすっぱ抜きがあり、これはアフリカやアラブ出身の選手に対する人種差別ではないかと、大問題になりました。

4月末からの騒ぎでしたが、こうした動きにもう一枚、役者が加わりました。極右、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(Marine Le pen)です。もちろん、サッカーに深入りするのではなく、二重国籍に関する極右政党からのメッセージ、つまり二重国籍を廃止しようという提案を、全国会議員に送付しました。どのような内容なのでしょうか・・・1日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

最近の世論調査では、若干支持率が低下しているマリーヌ・ルペンだが、再び極右政党ならではのポジションに立ち返ろうとしている。彼女は、577人の下院議員に書簡を送った。フランス・サッカー連盟の人種枠問題から数週間、二重国籍に終止符を打つために法律を改正すべきだというメッセージを届けるためだ。マリーヌ・ルペンによれば、二重国籍は移民やその家庭出身者のフランス社会への同化を妨げているのだそうだ。

「複数国への帰属は、ひとつの社会という認識の受容を弱めており、今日ますます心配されるような状況になって来ている。しかもそのことにより、国家としての行動の基盤が蝕まれている」と、FN党首は嘆いている。

「フランスがかつてないほどその必要に迫られている共和国としての団結への侵害、つまり移民家庭出身者の同化に強烈なブレーキをかけている主要な要因のひとつが二重国籍問題に含まれているということをどうして見逃すことができようか。二重国籍者の急激な増加にフランス人が次第に気付くようになり、国会ももはや無視できなくなっている」と、続ける。

「もしフランスに、リビア国民と同数のフランス・リビア二重国籍者がいたなら、フランスはリビア問題に介入できただろうか。」

「フランスとアルジェリアの二重国籍を持つフランス市民が引き裂かれるような思いをしているにもかかわらず、NATOの軍事部門に復帰したフランスがアルジェリア領内に介入するという一触即発の状況が起こり得ないとどうして言えようか。国際状況はことほど左様に不安定なものであり、こうした仮定がばかげたことであるとは決めつけられない。」

「アルジェリアでは1991年以来の内戦で10万人の死者があったが、このことを別にしても、チュニジアやエジプト、リビアにあった以上の自由がアルジェリアにあるわけではない。」祖国へのフランスの介入という状況に立ち至った二重国籍者は、いずれかの国への帰属を選ばざるを得ないのだと、マリーヌ・ルペンは述べている。

国籍問題に関する議会チームの報告者である与党UMPの下院議員、クロード・ゴアスゲン(Claude Goasguen)は、二重国籍者数に上限を設けるか、二重国籍者の政治的権利に制限を設けることが必要だと述べ、左翼から強烈に批判された。

・・・ということで、二重国籍者のためを思って、と言いながら、実は二重国籍者を排除しようとしているようです。異質を排除する動き、異質なものへの不寛容が、世界を覆いつつあるような気がします。何となく閉塞感のある、先の見えない状況に、人びとは苛立ってきているのでしょうか。

亡命者なども受け入れ、さまざまに異なる人々が作ってきたフランス、特にパリの魅力。それをフランス人自らが捨て去ろうとしているようで、残念です。

ところで、日本で二重国籍はどのような扱いになっているのでしょうか。

「日本では国籍単一の原則から1984年の国籍法改正で20歳に達する以前に日本国籍とは別の国籍を持つ資格がある多重国籍の状態になった場合は22歳に達するまで、20歳に達した後に多重国籍となった場合は多重国籍となった時から2年以内に国籍の選択をすべき期限とされている。」(「ウィキペディア」)

幸か不幸か、日本では二重国籍は大きな問題にはならないようです。その分、二重国籍ということ自体、理解しにくいものにはなっていますが。
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