ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

哲学とともに、バカロレアが始まる。

2011-06-16 21:11:47 | 社会
日本語では一般的に「大学入学資格試験」と言われる“baccalauréat”(バカロレア、通称“bac”「バック」)が、16日から始まりました。1808年にナポレオン・ボナパルトによって導入された資格試験。このバックに合格すれば、グランゼコールなどを除いて、希望の大学に入学することができます。ただし定員オーバーの場合は、バックの成績や居住地などによって決定されます。

また大学進学を目指さない場合でも、「中等教育修了資格試験」とも言えるバックに合格しておくと、その後の人生が変わってきます。バックには、
・一般バカロレア(baccalauréat général)
・工業バカロレア(baccalauréat technologique)
・職業バカロレア(baccalauréat professionnel)
の3タイプがあり、大学入学を目指すなら一般バカロレアを、就職などを目指すならそれ以外のバカロレアを受験することになります。就職するにしてもバックをもっていないと、「スーパーのレジ打ち以上の仕事にはつけない」と言われているようです。職種に貴賎はないと思うのですが、階級社会・資格社会ではこう言われるようです。因みに自己責任とアメリカン・ドリームの国では、大卒の資格がないと「マクドナルドでハンバーガーを焼き続けるしかない」と子どもの頃から言われるそうです・・・繰り返しますが、個人的には、職業に貴賎はないと思っています。

人生を左右しかねないバカロレア・・・さすがのフランス人も、ナーバスになるようです。それも本人だけではなく、家族まで。受験前から発表までは、父親も母親も、家族そろってそわそわ、ドキドキの日々を送るようです。

しかも、どうしても受かりたいという気持ちから、カンニングに走る受験者も。それも最近では、日本と同じで携帯を使ったカンニングが増えているそうで、携帯の持ち込み禁止などが実施されています。しかし、それでもカンニングをする受験者は後を絶たず、2009年には219人、2010年には272人が現場を取り押さえられ、退席処分になったとか。受験とカンニング、国の違いを問わないようです。

さて、16日に始まった今年のバック、どのような特徴があるのでしょうか・・・16日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

16日午前8時から、理系(S:scientifique)、経済社会系(ES:économique et social)、文系(L:littéraire)の3課程に分かれている一般バカロレアが、全国一斉に、伝統に従ってまず哲学の試験から始まった。今年のバカロレア受験者総数は654,548人。午後からは、工業バカロレアの受験生が哲学の試験に取り組むことになっている。職業バカロレアは来週月曜から筆記試験が始まる。

昨年出題された哲学の問題は次のようなものだった。
―L’art peut-il se passer de règles ? (芸術に規則はいらないのか)
―Dépend-il de nous d’être heureux ? (幸福とは個人によるのか)
―Faut-il oublier le passé pour se donner un avenir ? (将来を手にするには過去を忘れるべきなのか)
―Le rôle de l’historien est-il de juger ? (歴史家の役割は歴史を評価することなのか)
―Une vie heureuse est-elle une vie de plaisirs ? (幸せな人生とは楽しみに満ちた人生なのか)

2011年のバック受験者の内訳は、現役の高校生が628,708人、“candidats libres”と言われる「自主志願者」(高校を卒業していない人など)が25,840人で合計654,548人。この受験者数は前年に比べ6%増えており、特に職業バカロレアの受験者が36.4%増えたことが注目される。総受験者の50%が一般バカロレアに、24%が工業バカロレア、26%が職業バカロレアに出願している。

一般バカロレアでは、理系への出願が50%と多数を占め、経済社会系が32%、文系は17%だが、文系への志願者数の減少傾向に歯止めがかかった。最年少の志願者は12歳、一方、最高齢の受験者は71歳。およそ400万部の答案が採点されることになるが、採点者には1答案につき5ユーロ(約560円)が支払われる。

昨年のバックでは、全体の合格率が85.6%で、過去最高をマークした2009年の86.2%を若干下回った。今年の結果は、7月5日に発表されるが、ネット上でも調べることができる。

・・・ということで、フランスでもこの季節恒例のバック狂騒曲が始まりました。受験勉強の邪魔にならないようにと、家族は音を立てないように気をつけたり、試験結果発表の日には、父親も落ち着きがなく、合格の連絡をもらうや、誰かれ構わず握手をしたり、抱きついたり・・・そんな映像が毎年のように流されます。こうした光景だけをみると、人間、話すコトバは違っても、同じだね、と思えるのですが、さまざまな状況があるだけに、そう簡単には決めつけられない。世界は広く、一筋縄ではいかない、といったところです。

日本では、何となくサラリーマンになろうと思っている受験生は、経済学部や法学部などを受験することが多いですが、フランスでは、理系が多い。文系は、男女を問わず、作家、ジャーナリストなど明確な目標のある人が受けるそうです。女性だから文学部、という考えはないようで、このあたりは、日本とは異なっていますね。

ところで、哲学の試験、いかがですか。いずれか一つを選んで、先人の警句・箴言、現実社会に見られる事象の分析、そして受験までに学んださまざまな分野の知識を総動員して、弁証法でまとめる。与えられる時間は3時間。どのような文章にまとめることができるでしょうか。○✕試験や三択などで育ってしまうと、論述問題に何となく苦手意識を持ってしまいかねませんが、一度バックの哲学に挑戦してみてはいかがですか、もちろん、日本語で、ですが。