【日曜経済講座】
韓国の雇用・賃金政策、「反日」と同根の大衆迎合は行き詰まる
フジサンケイビジネスアイ編集長 山本秀也 - 産経ニュース
11月4日(日)
戦時中の徴用工問題をめぐる韓国最高裁の判決は、請求権処理など重大な問題ですら妥当性を欠く判断を下すという、韓国投資の司法リスクを改めて認識させた。
その根源は「反日」など非理性的な思潮が大衆に浸透するのみならず、三権すら思潮を共有して歩み寄る韓国におけるポピュリズム(大衆迎合)の根深さにあると筆者はみる。
ここでは、韓国でポピュリズムがより広く政策に反映される状況を考えるため、文在寅(ムンジェイン)政権が進める賃金、雇用政策を検討したい。
政権発足から約1年半を迎えて、文大統領の政策は後述する最低賃金引き上げなどで手詰まりをみせる。
それでも政権は大衆的な人気のつなぎとめを優先させる構えだ。その政権姿勢は冒頭に挙げたポピュリズムの思潮と重なる。
論点を整理するため、まず韓国の失業人口をみたい。文大統領が就任した2017年の失業者数は約102万人。これは統計方法が現在のものとなった00年以降で最多である。
韓国の雇用構造では、若年層を中心とした失業人口の増加と、非正規雇用の増加が問題となる。敬老の伝統にそぐわない高齢者の貧困問題も近接した課題だ。
1997年の通貨危機で、韓国は国際通貨基金(IMF)管理下におかれた。
この危機を大幅な人員削減で乗り切った韓国企業は、輸出の回復後も、万一の雇用調整が簡単な非正規雇用の採用に軸足を置いてきた。
この流れでは、正規、非正規間の所得格差が避け難い。
通貨危機と前後して増加した大卒者は、狭き門となった財閥系など大企業の正規雇用に殺到した。
結果、内定から漏れた若者で失業人口の高止まりが続く。これが失業と格差の連鎖を生む構造である。
韓国統計庁の集計では、2017年の失業率が全体で3・7%だったのに対し、若年層(15~29歳)は9・9%。やはり00年以降で最悪レベルだ。
「朴槿恵政権打倒」を叫ぶ大衆運動「ろうそく集会」を追い風に生まれた文政権は、10大公約の筆頭として「雇用の責任を負う大韓民国」を掲げた。
具体的には、公共セクターを受け皿とした81万人の雇用創出や、20年までの「最低賃金1万ウォン(約千円)」実現などだ。
公約には、財閥規制の強化、中小事業者の保護、警察・情報機関の“民主化”などが並んだ。今更だが「ポピュリズム政権」との批判は避けがたい。
公約の目玉だった「最低賃金1万ウォン」の20年達成という公約は経済の実勢から見送られた。
文大統領は7月、「(達成が)事実上困難になった」と認め、陳謝している。
それでも、労使、公益代表らで作る最低賃金委員会が決めた19年の最低賃金は、前年比10・9%増の8350ウォン。
公約達成には力不足とはいえ、政権発足以来2年続きの2ケタ増である。席上、労組代表は「43・3%」もの引き上げを迫ったという。
文政権が固執する最低賃金の引き上げには、経済専門家から「人件費負担増を嫌う中小業者で雇用削減を招く」との懸念が指摘されていた。
事実、7月の改定発表後、「中小企業中央会」など個人事業主らの団体は「零細企業の支払い能力を考慮していない」と激しく反発している。
中小零細だけではない。これまで韓国の輸出を支えた自動車産業でも、年初に群山(クンサン)工場を閉鎖した韓国GMをはじめ業績不振が続く。
8千社に及ぶ自動車部品メーカーともなると、大半は倒産と背中合わせの中小企業だ。
経済の実勢を度外視した最低賃金引き上げは、間違いなく民間の採用意欲を減退させている。
その一方で、雇用拡大の公約達成のため、文政権が進めるのが、行政サービス部門など公共セクターでの雇用拡大だ。
韓国政府が10月下旬に発表した雇用政策は、短期(2カ月)の期間限定職員として「5万9千人」を新たに公共セクターで吸収するという。
家電や通信機器で中国企業に追い上げられるなか、韓国企業が輸出で稼げる分野は、なお好調な半導体をのぞき様変わりしている。
それでも、企業活動の活性化で雇用改善と賃上げを図る以外に抜本的な出口はない。
韓国社会が直面する格差拡大などの課題は、先進国に追いつくキャッチアップ型の経済発展が終わったことに多く由来する。先行した日本の経験は、本来なら韓国に参考となる点が多いはずだ。未来志向の日韓協力について、韓国自ら可能性を狭めているのが現状である。
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