源氏物語と共に

源氏物語関連

浮舟登場(宿木)

2008-11-06 09:15:54 | 登場人物

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亡き大君に声が似てきた中の君に、薫は次第に執着するようになる。
ある日接近して迫るが、
中の君は懐妊した印の岩田帯をしていて、薫は手を出す事が出来なかった。


薫の下心に気づいた中の君は、困惑。
せめて大君の人形(ひとかた)だけでも作りたいという薫に、
大君に似ているという身分の低い母を持つ異母妹の浮舟の話を薫に紹介する。
浮舟は20歳ぐらいであった。


ある日、宇治に浮舟一行がやってくる。偶然宇治にいた薫は障子の穴から様子をのぞく。




「あやしくあらはなるこことこそすれ」という声、ほのかなれど、あてに聞こゆ。
・・略・・
つつましげにおるるを見れば、まず頭つき様体細やかにあてなるほどは、
いとよくもの思ひ出でられぬべし。
扇をつとさし隠したれば、顔は見えぬほど心もとなくて胸うちつぶれつつみ給ふ。
・・・略・・・
いと苦しげにややみて、ひさしく下りていざる入る

濃き桂(うちき)に撫子とおぼしき細長、若苗色の小桂(こうちき)着たり。
・・・略・・
主は音もせでひれふしたり。
腕をさし出でたるがまるやかにをかしげなるほども、
常陸殿などいふべくは見えず、まことにあてなり。

・・略・・
まことにいとよしあるまみのほど、髪ざしのわたり、
かれをもくはしくつくづくしも見たまはざりし御顔なれど、
これを見るにつけ、ただそれと思ひ出でらるるに、例の涙おちぬ。

尼君にいらへうちする声けはひ、宮の御方にもいとよく似たりと聞こゆ。

あはれなりける人かな、かかりけるけるを、今まで尋ねも知らですぐしけることよ。
・・・略・・かぎりなくあはれにうれしく覚え給ふ・・・(宿木)




宇治に浮舟が亡き父八の宮のおまいりにやってくるようになっていた。
偶然宇治にいた薫は、その姿を障子の穴からのぞく。


作者はまず上品な声から、
そして牛車から扇で顔を隠して腰をかがめておりる浮舟の姿を描き、
大君を思い出させる姿だと薫に思わせる。
次に臥した浮舟の腕がふっくらとかわいらしい様子を描写する。
常陸殿の娘とは思えない上品さを強調し、
いよいよ顔の描写へ。


よしある目もと、髪のはえぎわのあたりが
しっかり見たわけではない亡き大君そのものと思わせ、薫は涙を落とす。
弁の尼と話す声も中の君に似ていると。
なんとなつかしい人であろう、大君にこんなによく似た人であると、
今まで知らなかったと、とても嬉しく思うのであった。


この場面で薫は何度も障子に近づいて浮舟を垣間見している。
大君によく使用された、「よしある」という言葉や「あて(上品)」という言葉で
鮮やかに浮舟の登場を演出している。


この演出は読者を薫の視点と同様にドキドキさせる効果がある。
声の聴覚、姿の視覚と、そして遠くから次第に近くへ視点が移り、
最後に顔へと、いわば遠近法の1種ともいえるように浮舟を描いている。
とても心にくい演出であると思う。


しかも、宿木の巻の最後の部分にあたる。
まさしく新しいヒロインの登場であった。


これは中の君が最後に愛嬌つきたりという言葉で語られた椎本の巻と同じ演出と思った。


画像は吉岡幸雄「源氏物語の色辞典」より浮舟の衣装の色。


宇治植物公園展示の透垣(すいがい)



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