源氏物語と共に

源氏物語関連

思い出 枕草子の音楽

2008-02-07 10:13:37 | その他
2月といえば、枕草子で真っ先に思い出す恩師F本一恵先生の亡くなられた月である。


明治生まれの先生は女性として、とても聡明であり、そのユーモアある語り口で
沢山の生徒を魅了した。


中宮定子がお好きで、ご自宅もその墓所に近い所にあった。


戦争未亡人として、その結婚生活は5年と短いながらも2人のお子さんがおられ、
ご主人とは、女性としてはじめて入学を許された大学で知り合われたそうだ。


その時に「紅一点ならぬ、へちゃ一点」といわれたと、
懐かしそうに語っておられた事が印象深い。


そのご主人が戦死と知らされた時は、
目の前の風景がすべて黒くなったとも言われていた。


時代に翻弄されながらも、明るく気丈に明治・大正・昭和・平成の長い時を過ごされ、
最後はお嬢様達に囲まれて卆寿近くまで生きられ、大往生された。


私は「枕草子」にあまり興味を持てなかった劣等性であったが、
それなりに先生との思い出もあり、とても感慨深い。


後に先生をご存知だったという先生方にも、源氏関係でお会いできた事も大変嬉しかった。


もう亡くなられて5年になるでしょうか。ご冥福をお祈りしたいと思います。


という事で、枕草子の音楽について。
<枕草子の音楽描写>



源氏物語の膨大な音楽描写を見る限りその広大な知識に驚異を感じざるを得ない。
そしてこれを同時代に生きた清少納言の枕草子の音楽的叙述と比較すると、
量においても質においても明らかに両者の差を感じるのである。
枕草子における音楽叙述をあげてみると、次のようになる。


(日本古典大系「枕草子」使用)
                     琴      笛    遊び   その他


23段 清涼殿の丑寅のすみの・・ Oきん  
77  まいて臨時の祭の調楽などは        O笛    O
78  職の御曹司におはします頃                O
81  御仏名のまたの日      O筝・琵琶  O笛
83  かへる年の二月廿日よ日  Oきん
93  無名といふ琵琶の御琴を  O琵琶・御琴 O御笛
94  上の御局の御簾の前にて  O琵琶・こと O笛    O
96  かたはらいたきもの     Oこと
100 職におはします頃、八月十日よ日O琵琶
115 つねよりことにきこゆるもの                        O物の音
123  暑げなるもの         Oきんの袋
142  なほめでたきもの     O御琴(こと) O笛・神楽の笛    O女舞
158  うらやましげなるもの    Oこと    O笛
193  南ならず東の         O琵琶
214  あそびは夜                          O
216  舞は                                      O女舞
217  ひくものは          O琵琶・筝
218  笛は              O琴(こと)  O笛・横笛
                           篳篥・笙
224  いみじう暑き頃       O琵琶     O笛
245  一条の院をば今内裏とぞいふ       O笛
278  関白殿二月廿日に                             O舞・楽
280  歌は    
                                               O歌
291  日のうらうらとある昼つかた        O御笛
 
全体的に音楽論とよべるほどの詳しい叙述はなく、
ほとんどが通りいっぺんのものであり、音楽に重きを置くというより、
その他のことを述べるために必要であったと思われる叙述が多い。
93段の無名という琵琶の話は無名という名を自分が知っていたという一種の自慢話であるし、
245段は単に音楽会が催されたという風景描写にすぐない。
そして琴(こと)よりもむしろ笛の方に清少納言は興味をもっていたようだ


笛は横笛いみじうをかし。遠うより聞ゆるが、やうやう近くなりゆくもいとをかし。
近かりつるがはるかになりて、いとほのかに聞ゆるもいとをかし。
車にても徒歩よりも馬にても、すべてふところにさし入れて持たるも、
なにとも見えず、さばかりをかしき物はなし。
まして聞き知りたる調子などはいみじうめでたし。
暁などに忘れてをかしげなる、枕のもとにありける見つけたるもなほをかし。
人のとりにおこせたるをおし包みてやるも、立文のやうに見えたり (218段 笛は)


枕草子の音楽叙述の中で、もっとも音楽論らしい叙述であり、空間と広がりを感じさせる文である。そしてこれが琴(こと)となると、


弾くものは琵琶。調べは風香調、黄鐘調、蘇合の急。鶯の囀りといふ調べ。
筝の琴(こと)いとめでたし。調べはさうふれん。  (217段 ひくものは)


と、書かれているのみである。


清少納言と紫式部では、音楽に関する感覚が違うように思う。
特に琴(こと)に対しては、かなりの違いがあるようだ。



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