35章 ヤコブへの契約
1．ベテルへ移動（35:1-15）
ディナの事件があった後、再び神がヤコブに現れました。神は、べテルに移り住み、祭壇を築くようにと命じられます。1節「住みなさい」は定住せよという意味です。シェケムからベテルまで、約30キロ。当時の男性の足で、約1日の道のりです。ヤコブは、神に言われたとおりに移動しました。ヤコブにとっては、エサウの事件に継いで、再び自分の身を守るために、逃げていく歩みです。先の時は、母のラケルがそのように進めて手はずを整えてくれたのですが、今回は、神ご自身がそうされるのです。神ご自身が行き先を示し、また周りの町々に恐怖を与え、ヤコブの殿（しんがり）を務められるのです。どうでしょう。人は何か大きな失敗をした時に、もうこの先はないと、人は自らを殺めてしまうことがあるものでしょう。政界汚職などの様々な醜聞で、また醜聞ではないとしても会社の倒産などを機に、自らを殺めてしまう人々がマスコミに取り上げられるたびに、私はとても残念な思いがします。しかし、神は、何も死ななくてもよいのではないか、人生、転居し新たにやり直せばよいのではないか、償うべきことがあれば償えばよいし、神が「周りの町々に恐怖を与え」守ってくださることがあれば、その神の配慮に甘んじて、心機一転やり直せばよいのではないか。人間、命ある限り、失敗の重荷を背負いながら生きることはあっても、生きながらえる権利はあるし、再び幸せになる権利はある、と言っているのではないでしょうか。無為に死を考えてはなりません。また他人の圧力に屈せず、ただ「神の祝福のことば」に寄りすがっていきたいところではないでしょうか。9節、神は再びヤコブに現れ、彼を祝福されたと言います。そして神は言うのです。10節「わたしは全能の神である。生めよ。増えよ」神は望みなき者の神です。悔い改める者の神です。恥じ入り、窮地に陥った者に、新しい人生を切り開くお方です。
ヤコブが情けない思いを持ちながら、神の前に身を低くし、神に懸ける人生を生きようとしたことは、3、4節、移動してベテルに祭壇を築こうとしたこと、またすべての偶像を自分の側から一層したことでわかります。いずれも神の存在を認め、まことの神を自分の中心に据えて生きる決意の表明を明らかにしています。
2．ラケルの死（35:16-29）
続いてヤコブが最愛の妻ラケルを失った時のエピソードが続きます。こんな時に、神様は、何もヤコブの心の支えである愛しい妻ラケルを取り去らなくても、と思うところです。なんともわけのわからないことをする、泣きっ面に蜂か、神様は何を考えているのか、と思います。しかし、創世記の著者が、このエピソードを続いて取り上げた意図は、ヤコブの決意表明の堅さ、確かさを語るためであったのではないでしょうか。ヤコブは、この最も暗たんたる思いになる出来事を気丈に、プラスに受け止めるのです。そして、ラケルが生まれた子に「ベン・オニ」、つまり「私の苦しみの子」とネガティブなイメージの名をつけたところ、ヤコブは、「ベニヤミン」「幸いをもたらす子」と言い換え、改名したと語るのです。ヤコブの心にあったのは、ただひたすら神の祝福のことばに寄りすがる思いでした。エサウの時は、頼りにしていた母を失い、今回は、心の支えである妻ラケルを失う。しかし、神は目には見えないけれども、失われることのない支え手としてある。窮状にあってどう生きるか、人は、「こんな可哀そうな私」と自己憐憫に浸り、うつうつとした人生をだらだら生きることもできます。あるいは、「あいつのせいで私は」と苦々しい思いを抱き、恨みつらみで紋々としながらどこまでも生き続けることもできるでしょう。しかし、聖書が私たちの心に訴えてくる人生のあり様は、もう過去は手放せ、あなたは、「神の祝福のことば」に頼る、「これから」の人生を生き、神の祝福を掴めということでしょう。これからあなたが自分の手で変えられることに集中せよ、ということでしょう。
その後のヤコブの人生はしばらく淡々としたものでした。彼は、息子が再び問題を起こしても、それは息子の問題として介入することもなく、さらに、父イサクの老後を助け、兄のエサウとこれを葬り、当たり前の人生を当たり前に生きていくのです。人生失敗した、どこから再開するか、できるところ、開かれているところからスタートすべきでしょう。では今日もよき一日となるように祈ります。
＜クイズコーナー＞
最初に、昨日のクイズです。「シェケムは、後に、イスラエル12部族の誰の相続地になったでしょうか？」答えは、ヨセフ族（ヨシュア24:32）でした。では、今日の聖書クイズを一つ。イスラエルの12部族は、出エジプト後、構成メンバーが変わります。1部族が2部族に分割され、その分、特別枠となり、主として祭儀を扱う部族は、どの部族でしょうか？答えはまた明日。では、今日もよき一日となるように祈ります。
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